命と剣(イノチとツルギ)(脚本)
〇幻想空間
俺はついに死んだ幼馴染を生き返らせた。
しかし、彼女は──
〇黒背景
~ 命と剣 ─馬喰の里の真相─ ~
〇古めかしい和室
──幼馴染のミコトが死んだ──。
〇学校の屋上
山奥にあるド田舎の
携帯電話の電波も入らないような集落。
馬喰(ばくろ)の里というところで、
俺達は中学校までは共に育った。
しかし、高校はその場所には存在しなくて。俺は一時的に故郷を離れた。
〇古めかしい和室
そして、高校を卒業し、
大学に通う前に一時、里帰りをした矢先に
その知らせを聞いたのだ。
彼女は高校に行かず里に残った。
手紙をやり取りしていたので、
少しは彼女のことを知っているつもりだったのだけど、
何かの事情があって、
彼女は里の御三家達に管理されて軟禁に近い状態で過ごしていたらしい。
里の噂では、自殺だとも殺されたとも言われている・・・
彼女の身に一体何が起きたのだろう?
俺にはもう家族がいない。
1人しかいない実家の居間で泣いた。
どこからともなく、一羽の鶏が現れた。
ああ何故、一体どこから迷い込んできたのか。
すると信じられない事に鶏がしゃべった。
『彼女を生き返らせたくはないか?』
〇黒
そして俺は──
〇古びた神社
──里の外れにある古びた神社──
俺の名はジン。
彼は名をメフィスだと言った。
彼女を取り戻す為に必要な力を
ここで得ることが出来るらしい。
明らかに怪しくオカシイ状況。
しかし、その時の俺は彼がなんであろうと構わないと思った。
メフィス「この神社に保管されている物は呪われた宝剣だ」
メフィス「その力を手にすると異形の者へと姿が変わる」
メフィス「オマエにその覚悟はあるか?」
ジン「ああ。ミコトを死に追いやった者・・・」
ジン「──仮に自殺だったとしても、 そこまで追い詰めたと考えられる御三家の当主達には制裁を与えねばならない」
建物の中へと忍び込む。
〇祭祀場
室内に入るとこの里の伝説を描いた掛け軸などが目に入った。
この地には夢馬という化け物が言い伝えられている。
なんでもこの地一帯で人間の魂を食らって回っていたとか。
この里は古よりそういった化け物と戦う
討魔師が集まって作られたものだと言われていた。
ジン(この神社に保管されている物もそういった化け物達のいわくつきの物なのだろうな)
不思議とどこに剣があるのかは直ぐにわかった。
剣を手に取り、
俺は異形の者となった。
〇黒
まだ幸い、葬式すらも始まっていないタイミング。
俺は彼女の遺体を盗んで、異能の力で氷漬けにして状態を保存した。
次は御三家の当主達を殺害し、
その魂をこの呪われし剣に吸わせていく・・・
〇畳敷きの大広間
1人目、西紀家の当主
〇広い和室
2人目・東水家の当主
〇屋敷の大広間
3人目・北尾家の当主──。
しかし、北尾は一筋縄ではいかなかった。
御三家・北尾の当主「その姿・・・そうか。 貴様、封印されし物を掘り起こしたのか」
御三家・北尾の当主「しかし・・・今の状況、 その力を使うのは案外妙案だったのかもしれぬな」
ジン「──!?」
御三家・北尾の当主「我は当代の討魔の異形を発現させし者。 他の者と同じように 倒せるとは思わない事だ」
御三家・北尾の当主「──そうか・・・。 貴様ならあるいは──」
〇怪しげな祭祀場
メフィスに聞いた通り、村外れの洞窟の奥に隠された祭壇があった。
指定された時間・・・
深夜午前2時についに儀式を執り行う。
ジン「剣に封じ込められし、 御三家の魂を代償に・・・」
ジン「この者へ・・・もう一度命を・・・!!!!」
〇幻想空間
気が付くとそこは、
先ほどいた洞窟ではない場所・・・。
光に満ちた異空間だった。
────
彼女はゆっくり目をひらいた。
ミコト「──ここは──?」
ミコト「──ジン?」
俺はついに死んだ幼馴染を生き返らせた。
ミコト「──ああ・・・そうか・・・」
ミコト「アナタが私を── ありがとう」
しかし、彼女は──
ミコト「でも、ゴメンナサイ」
ミコト「──────」
ミコト「──今すぐにもう一度私を殺して──!!」
〇幻想空間
────
ジン「一体どういうことなんだ・・・!? 君は誰かに・・・御三家に殺されたんじゃないのか!?」
ミコト「ジン・・・。ありがとう。 でも違うの。私は自ら命を絶ったの」
ジン「なんでそんなことを!?」
ミコト「仕方がない事情があったんだ」
ミコト「これは・・・私達の里の人達でも、 ごく一部の人しか知らない事・・・」
ミコト「里の伝説にある夢馬っているでしょ? あれ本当のことなんだ」
ミコト「大昔に、夢馬はね。 元々強かったのに、精霊の勾玉って霊具を手に入れて。 手が付けられないほど暴れまわっていたの」
ミコト「それをなんとか精霊の勾玉を取り上げて。 私達のご先祖様達が倒したの」
ミコト「でも、夢馬の魂も完全に消滅するには至ってなくて。120年の周期で蘇る」
ミコト「ご先祖様達と夢馬はずっと戦い続けた。 そんな戦いの中で、精霊の勾玉は里の者の魂に溶け込んで・・・」
ミコト「夢馬が現れるのと同じ周期で、魂に精霊の勾玉を宿した者が生まれるようになったの」
ミコト「──今回の周期で 精霊の勾玉を魂に宿し者・・・ それが私だったんだ」
ミコト「ご先祖様達は戦い夢魔を撃退し続けた。 しかし前回の戦いで、里の主力だった法具がいくつも破壊されてしまった」
ミコト「加えて時が立つにつれて、里の討魔の力も衰退して行ってしまっていて・・・。 今回は勝てる見込みがなかったの」
ミコト「私の魂を食べさせて、夢馬が完全体になるのだけは避けなければならない・・・」
ミコト「──だから、私は自ら命を絶った」
ミコト「ジン・・・。 まだギリギリ間に合うと思うの」
ミコト「その剣で私の魂を消滅させて。 そして直ぐに逃げて」
ミコト「この地域一帯はもう無理かも知れないけど。完全体にさえならなければ多分」
ミコト「国が亡びる前には、 私達みたいに隠れたどこかの組織が、 撃退までならこぎつけると思う」
ミコト「だから、それまで逃げ延びて。 ──さぁ、早く──」
メフィス「──ふーっ・・・」
メフィス「どうにか間に合ったみたいだな」
ミコト「────」
ジン「どういうことだ?」
メフィス「オマエは思っていたより 戦闘能力が高かったからな」
メフィス「今、里人の魂を根こそぎ喰らって、 力を蓄えてきた」
メフィス「まだ気付かないのか? この俺がその」
メフィスト「夢馬・メフィスト様だよ!!」
メフィスト「最初からお前を利用するつもりだったのさ」
メフィスト「時間を指定したのはな。 儀式の為というよりは、俺の力が完全に戻るタイミングだったからだ」
メフィスト「お前達が会話している間に 里人全員殺して、魂を食らうほどの作業をこなすには、力が戻っていなければ厳しかったからな」
メフィスト「オマエ最高だったよ!! その手を汚してまでその女を蘇らせてくれて!!」
メフィスト「反面その話を聞いても殺せないでいる程度に、強くて弱くて愚かだった!!」
メフィスト「さて、では最後に、 その女とお前の魂を食らって」
メフィスト「終わりにしようか!!!!」
ジン「──そう簡単にやらせると思うか──?」
メフィスト「やはりオマエ想像以上だ!」
メフィスト「今のはオマエが 反応出来ないくらいのスピードで 女を殺しにかかったつもりだった!!」
メフィスト「しかしこれはどうかな!!!!」
メフィスト「ははははははははっ!!!!!! やはり思うようには死なないな!!!!」
メフィスト「貴様も呪われしアイテムに手を出した者、 既に人も殺している、人の世には戻れまい」
メフィスト「どうだ? 俺と共に力で世界を蹂躙する気はないか?」
メフィスト「命を失う前に、答えを聞かせろ!!」
ジン「アアアアアアアアア!!!!!!」
ミコト「もうやめて!!!! 魂を!!!! 魂を差し出しますから!!!! どうかその人の命だけは────」
〇幻想空間
???『我の力を使え』
???『何を驚いている。貴様は我々の魂をその剣に閉じ込めたであろう』
〇幻想空間
メフィスト「なっ、貴様は討魔の──」
メフィスト「贄になって消滅しているかと思っていたが・・・ まだ完全には消えていやがらねぇのか!!」
メフィスト「だがその程度の力の残りカスが加わったところで、この戦況は覆らんぞ!!」
御三家・北尾の当主「私だけではない」
御三家・北尾の当主「この混沌的な状況の中で 奇跡的なことだが勝算が揃った」
御三家・北尾の当主「ジン・・・ミコト」
御三家・北尾の当主「本来、その剣の力は神の加護のようなものでは無く、邪悪な力じゃ」
御三家・北尾の当主「しかし、ミコト。 オマエの魂に溶け込んでいる 精霊の勾玉の力と、」
御三家・北尾の当主「死者から蘇ることにより手にした。 格段に上がった今のお前の霊力ならば、」
御三家・北尾の当主「邪悪な力を浄化し、一時的に神聖な力として振るわせる事も叶おう」
御三家・北尾の当主「さぁ──力を送れ」
ミコト「や、やってみます!!」
メフィスト「バカな!! 一度の周期に付き1人しか現れなかった討魔の異形が同時に三体だと!!!!」
御三家・北尾の当主「我が里の宿願、貴様の魂の完全消滅、 今がなせる時かもしれぬな!!!!」
メフィスト「バカな・・・。貴様らは・・・ 呪われし宝剣を手にし者に殺させた・・・」
メフィスト「更に他の里人の魂を全て食らったのだぞ!? これほどのまで状況から、なぜ・・・」
メフィスト「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
〇山間の集落
────
御三家・北尾の当主「ジンよ・・・ 貴様は間違いなく咎人じゃ、 その呪われし封印の宝剣を操り、」
御三家・北尾の当主「ワシらを殺して死者まで生き返らせた。 その報いはどこかで必ず来る」
御三家・北尾の当主「しかし、1人の若い娘の、長い時間を奪い。命も守れなかった。 そういう意味ではワシらも咎人じゃ」
御三家・北尾の当主「──お主達2人に、時間がどれくらい許されるのかは分からぬが・・・」
御三家・北尾の当主「ワシ達の奪った・・・ 愛する者同士の束の間の時間を 今は大切に過ごすが良かろう・・・」
御三家・東水の当主「悔しいが・・・あのまま戦っていても、 全滅の結果は免れず」
御三家・東水の当主「ヤツの魂を完全消滅させることなど出来なかったであろう」
御三家・東水の当主「里の判断・・・御三家の判断としては 夢馬を倒した功績と差し引き、」
御三家・東水の当主「オマエの罪は不問とする・・・!!」
御三家・西紀の当主「まだ納得しきれぬ部分はあるが・・・ ワシらもう死んでおるし・・・」
御三家・西紀の当主「この里に警察が入ったら、 お主が全国指名手配になるということも十分に考えられるしの」
御三家・西紀の当主「毎日おびえて暮らすが良いぞ」
御三家・北尾の当主「では、我らはそろそろ逝こう」
御三家・北尾の当主「ジンよ・・・ミコトよ・・・ 我らの里よ・・・さらばじゃ!」
そういって御三家達は消えて行った。
ミコト「フフッ」
ジン「どうしたんだ? 急に笑い出して・・・」
ミコト「だって嬉しいじゃない」
ミコト「あなた達全員、ずっと私を守る側って顔してたし、実際守られる側だったけど・・・」
ミコト「これからはずっと私、 呪いからあなたを守る側でしょ?」
ミコト「一度言ってみたかったんだよね 好きな人に・・・」
ミコト「私がいないとダメなんだからって」
そして甘えるように胸の中に飛び込んで来る・・・
ミコト「またあなたと同じ時を過ごせる・・・ そんな日が来るなんて思わなかった・・・」
俺は彼女の頭をそっと撫でた。
いつまでこの時間が続くのかは分からない。
しかし、このほんのささやかに許された。
かけがえのない時間を大切に過ごして行こうと思う。
〇黒
~ 命と剣 ─馬喰の里の真相─ ~
終
呪いの里と御三家と囚われの幼なじみという横溝正史系民間伝承系の雰囲気と、怪人が入り乱れる壮絶なバトル&人体蘇生といったSFバトル系とが見事に融合したハイブリッドファンタジーに仕上がっていましたね。メフィストが鶏じゃなくてもうちっと悪魔的な風貌の動物だったらなあ。でも馬喰の里だから鶏でケッコーなのか・・・。
好きな子を生き返らせたい、という想いは誰もがもし同じ状況であれば思うことだと思います、
自分が予想していた展開とは違っていて楽しませていただきました!恋っていいですねぇ。
呪いが呼んだ壮大なラブストーリーのように感じて、二人が束の間でもお互いを心から思いあえる時間を過ごしてほしいと思いました。御三家の当主達の存在が、なお一層物語を重厚にしましたね、