悪役の物語(脚本)
〇空
世界を救うために自分を犠牲にするのがヒーローなら、
ひとりを救うために世界を犠牲にするのが悪役だ
〇洞窟の入口(看板無し)
リン「はあ、はあ」
リン(急に雨が降ってくるなんて、最悪)
リン(こんなところに、洞窟・・・?)
リン(とりあえず、雨を凌がなきゃ)
〇暗い洞窟
リン(うわ、暗いな)
リン(しかも結構広い)
リン(ん?)
リン(奥に、何かある)
リン「うわあ!」
リン「なに、これ・・・」
リン(人間?ロボットみたいにも見える)
リン(触ったら爆発するなんてことはないよね・・・)
金属質な体に、そっと手を振れた
???「うわあ!」
リン「うわあああ!?」
リン「しゃ、喋った!!」
???「・・・誰だ、お前は」
???「お前まさか、施設の人間か!?」
リン「はあ!?」
???「・・・そんなわけないか、こんな子供が」
リン「何の話よ?施設って何!?」
リン「っていうか、あんた何者?こんなところで何してるのよ」
???「はあ、まさか眠っている間に人が来るとは」
???「どうしたものか・・・」
リン「ねえ、ちょっと」
???「あ?」
リン「あんたは誰で、ここで何してるのかって聞いてるの」
???「そんなことお前に関係ないだろ。さっさと出てけよ」
???「おい、なんで座る」
リン「だって、外は雨が降っているのよ」
リン「今出ていったら濡れちゃうじゃない」
???「知るかよ、そんなの」
リン「ここにいるのは何か理由があるんでしょう?」
リン「それを話してくれたら、出ていくかもね」
リン「それとも、今から街に降りてあなたの存在を周りに教えた方がいい?」
???「頼むからそれだけはやめてくれ」
???「わかった、わかったよ」
???「話せばいいんだろ」
???「その代わり、俺の話が終わったら出ていくと約束しろ」
リン「いいよ、約束する」
???「はあ・・・」
???「先に言っておくが、良い話じゃないぞ」
リン「わかった。話して」
???「・・・俺が子供のころの話だ」
〇実験ルーム
貧乏だった親は、金と引き換えに俺を売った
俺を引き取ったのは、ある研究施設だった
そこで俺は、人体実験の被験者になった
暗い部屋、そして手術台・・・
毎日、体に細工をされた
施設の人間は、俺を戦争で使うための人間兵器にしようとしてたみたいだった
だがある日、俺は施設の人間を殺して脱出した
奴らは俺に力を与えすぎたんだ
施設から脱出した後、俺は追われる身になった
こんな姿になっちまった俺は、街に出るわけにもいかなかった
そんなときこの洞窟を見つけて、留まることに決めたんだ
幸か不幸か、この体は食事も水も、日の光さえ必要としなかった
ずっとここから出なければ、誰かに見つかることもないだろう
そう、思ってたんだがな
〇暗い洞窟
???「お前さんが現れたってわけだ」
リン「そうなの・・・」
リン「悲しい話ね」
???「別に同情してほしいわけじゃない」
???「俺はこの手で人を殺した。それは事実だ」
???「・・・ある意味、研究所のやつらは実験に成功したと言えるかもな」
リン「・・・・・・」
???「研究所にとって、今の俺は超危険人物だ」
???「もうここに来て何年経ったかわからないが、やつらは今でも俺のことを探してるだろうさ」
???「だから、俺はもう外に出るつもりはない。そっとしておいてくれ」
リン「・・・何年もの間、独りでずっとここに?」
???「・・・まあな」
リン「・・・・・・」
リン「ねえ、名前は?」
???「名前?俺のか?」
リン「うん」
???「何だったか・・・」
???「もう、忘れちまった」
???「研究所にいたときは番号で呼ばれてたがな」
リン「そう・・・」
???「ほら、もういいだろ」
???「俺といると、お前まで危ないんだ」
???「今聞いた話は忘れて、さっさとここから出ていけ。約束しただろ」
リン「じゃあ、怪人さんって呼ぶことにする」
???「は?」
リン「あなたの名前。怪人さん」
リン「私はリン」
リン「あなたのことを教えてくれたお礼に、私のことも教えてあげる」
怪人さん「おい、どういう意味だ」
リン「いいから。きっと驚くよ」
リン「あの石、見てて」
次の瞬間、その石は宙に飛び上がり、
空中でいくつか輪を描いた後、
吸い込まれるようにリンの手に飛んでいった
リン「ほら、気を付けて!!」
リンは石をキャッチすると、怪人に向かって思い切り投げつけた
怪人さん「!」
しかし、石は怪人の体にぶつかることなく、空中で動きを止めて浮遊した
怪人さん「・・・何の真似だ」
リン「えへへ。びっくりした?」
リン「私、超能力者なんだ」
〇暗い洞窟
リン「じゃあそろそろ、私は出ていくよ」
怪人さん「ああ。早くいけ」
リン「最後に一つだけ、質問してもいい?」
怪人さん「なんだ」
リン「どうして最初に私を脅してここから出ていかせなかったの?」
リン「『出ていかなきゃ殺す』とか言って私に武器を向ければいい」
リン「あなたならそれが出来たでしょ?」
怪人さん「・・・俺はもう、奴らから与えられたこの力を他人に向けることはしない」
怪人さん「次にこの力を使うときは、俺が俺じゃなくなるときだ」
リン「・・・そう」
リン「怪人さん、あなたやっぱりいいヒトだ」
リン「約束通り、私は出ていく」
リン「でも私、明日も来るから」
リン「じゃあね!!」
怪人さん「あ、おい!」
怪人さん「はあ・・・」
〇洞窟の入口(看板無し)
リン「あ、」
リン「雨、止んでる」
リン「早く帰らなきゃ」
〇山奥の研究所
リン「はあ、はあ」
職長「リン、おかえり」
リン「・・・ただいま」
職長「何か面白いものは見つかったかい?」
リン「特に、何も」
リン「失礼します」
職長「・・・・・・」
〇暗い洞窟
言葉通り、リンは次の日も洞窟に来た
リン「えへへ。約束通り、来たよ」
怪人さん「俺は約束した覚えがない」
リン「まあまあ。怪人さんも独りで寂しかろう」
リン「それに、さ」
二人の間にあった石が浮かび上がり、空中で星を描いてみせた
リン「超能力の話、気にならない?」
怪人さん「ふん。別に」
リン「ちぇ、つまんないの」
リン「ねえねえじゃあさ、怪人さんについて教えてよ」
怪人さん「・・・何が知りたい」
リン「そうだなあ、例えば・・・」
リン「その腕、どうなってるの?」
怪人さん「ふん。これか」
怪人さん「右腕からは刃が出るようになっている」
リン「へー、かっこいいじゃん」
リン「じゃあじゃあ、左腕は?」
怪人さん「左腕からは、炎が出る」
リン「何それ、すご」
リン「キッチンいらずだね」
怪人さん「ん?」
怪人さん「ああ、そういうことか」
リン「あれ、今、ちょっと笑った?」
怪人さん「笑ってない。これをそんな風に捉えるのが珍しかっただけだ」
リン「えー、絶対笑ってたでしょ」
怪人さん「笑ってない」
リン「なんで認めないのー」
〇暗い洞窟
それからリンは、毎日ではないにしろ、頻繁に洞窟を訪れるようになった
初めの方こそもう来ないようにと言い聞かせていたが、
途中からは何も言わなくなった
リンが洞窟に来ても、大抵は一時間ほど話をするだけだった
リンは自分のことについてはあまり語りがらず、
俺の子供時代の話や体の構造などをよく聞いてきた
〇暗い洞窟
怪人さん「なあ、リン」
リン「何?」
怪人さん「今更だが、こんなところに通ってて大丈夫なのか?」
リン「大丈夫って?」
怪人さん「俺が言えた立場じゃないが、学校に行ったり、友達と遊んだり」
怪人さん「お前くらいの年の子供はそういうもんじゃないのか」
リン「・・・普通の人はね」
怪人さん「どういう意味だ?」
リン「そんなことよりさ、怪人さんは外に出てみたいとは思わないの?」
リン「何年もこんなところにいて、さすがに飽きてきたんじゃない?」
怪人さん「言ったはずだ。外に出ても居場所なんかないと」
リン「私はそんなことないと思う」
リン「きっと、どこかに受け入れてくれる人がいる」
怪人さん「・・・そうかな」
リン「うん」
リン「ね、いつかは外に出てよ。きっとどうにかなるよ」
リン「今すぐじゃなくていい。けど、いつかは」
怪人さん「・・・いつか、な」
リン「うん。約束だよ」
怪人さん「ああ」
リン「じゃあ、今日は帰るよ」
怪人さん「わかった。気を付けて帰れよ」
リン「ありがとう」
リン「じゃあね」
〇山奥の研究所
職長「おかえり、リン」
リン「・・・はい」
職長「不安そうな顔だね」
職長「なに、君が心配するようなことは一つもない」
職長「さあ、中に入ろう」
〇暗い洞窟
それからしばらくの間、リンは洞窟に来なかった
二週間、俺はまた独りで過ごした
〇暗い洞窟
怪人さん「よお」
リン「怪人さん」
怪人さん「ずぶ濡れじゃねえか。どうしたんだ?」
リンは何も言わずに怪人の横に座った
怪人さん「お、おい」
リン「・・・・・・」
リン「ねえ」
リン「私が明日死ぬって言ったら信じる?」
怪人さん「・・・どういうことだ?」
リン「・・・私にもわからないの」
リン「職員の人が言ってた。私の超能力は、世界を滅ぼす力があるんだって」
リン「その力は、日がたつごとに大きくなっていって、いつか制御できなくなっちゃうの」
リン「だから、18歳になる前に殺されるんだって」
リン「それが明日」
怪人さん「・・・・・・」
リン「私ね、10歳になった時から、この近くの建物に移されて監視されてるの」
リン「外の人はこの山に入ってこれないし、私はこの山から出られない」
リン「・・・18歳になったら、したいこといっぱいあったのにな」
怪人さん「リン・・・」
リン「こんなこと急に言われても困るよね、ごめん」
リン「今日は、お礼を言いに来たの」
リン「怪人さんと話すのは楽しかった」
リン「職員の人たちはあまり好きじゃないから」
怪人さん「おい、リ」
リン「ねえ、怪人さん」
リン「約束、覚えてる?」
リン「いつかは外に出る」
リン「外で、居場所を見つけるって」
怪人さん「ああ、覚えてる」
リン「あなたは戦争のために作られた兵器なんかじゃない」
リン「あなたはあなたよ」
リン「それだけは、忘れないで」
リン「・・・私との約束、守ってね」
怪人さん「おい、リン!」
怪人さん「リン・・・」
〇山奥の研究所
職長「リン、待っていたよ」
職長「さあ、中に」
〇魔法陣のある研究室
職長「ベッドに横になるんだ」
リン「・・・はい」
職長「心配することはないよ、リン」
職長「君の勇気が世界を救うんだ」
リン「はい」
職長「注射器の用意を」
職員A「わかりました」
職長「さあ、目を閉じて」
〇黒背景
職長「おやすみ、リン」
ああ、私、死ぬんだ・・・
怪人さん・・・
職員A「おい、何だお前!」
職員B「どうやってここまで入ってきた!」
職員A「な、銃が効かないだと!?」
職長「構うな、撃ち続けろ!」
何・・・?
???「おい、聞こえるか?」
〇魔法陣のある研究室
リン「か、怪人さん・・・?」
怪人さん「ああ。助けに来たぞ」
リン「だめ、離して!」
怪人さん「何だって?」
リン「私が死ななきゃ、世界が危ないの!」
リン「私が犠牲になればいいだけなのよ!」
怪人さん「あのな、俺はお前がどう思うかなんて知らないし、」
怪人さん「世界なんて更にどうでもいい」
怪人さん「俺がお前を助けたいから助けるんだ」
リン「そんなの・・・」
リン「そんなの、勝手すぎるよお・・・」
怪人さん「勝手だと?」
怪人さん「ふっ、笑わせる」
怪人さん「いいか、よく聞け!」
怪人さん「俺は怪人だ!悪役だ!」
怪人さん「世界がそんなに大事なら、俺を倒してみろ!」
怪人さん「世界を敵に回してでも、俺はこいつを助けてみせるぞ!」
職員B「黙れ!お前はすでに包囲されている!」
職員A「おとなしくそいつをこちらに渡せ!」
怪人さん「包囲だと?」
怪人さん「しっかり掴まってろよ、リン」
リン「え?」
職員B「何!?」
〇空
リン「うわああああ!」
怪人さん「まさかあいつらも、空を飛ばれるとは思ってないだろうよ」
リン「・・・すごいね、怪人さんは。もう何でもありじゃん」
怪人さん「見ろよ、リン」
怪人さん「さっきまでお前がいたところだ」
リン「本当に、逃げられちゃった」
〇魔法陣のある研究室
職員B「いてて・・・」
職長「何やってる!今すぐ追跡しろ!」
職長「リン、そしてあのふざけたコスプレ野郎共に、見つけたら即射殺して構わん!急げ!」
職長「リンの力が暴走でもしたら、本当に世界が滅ぶぞ!」
〇空
怪人さん「あの建物が嫌いか、リン」
リン「え?」
怪人さん「ぶっ壊してやる」
リン「まじ・・・?」
怪人さん「これであいつらも、当分は追ってこれないだろう」
リン「・・・巻き込んじゃってごめんなさい」
リン「私たち、一生お尋ね者だね」
怪人さん「はは、そうだな」
怪人さん「でもな、ひとつ教えてやる」
怪人さん「悪役ってのは簡単にはやられないものなのさ」
怪人さん「敵役がすぐにやられちまったらつまらないだろ?」
怪人さん「だから、最後まで抗うんだ」
リン「うん」
怪人さん「ほら、見ろよ」
〇街の全景
〇空
リン「わあ、綺麗・・・」
怪人さん「今の時刻は、0時5分」
怪人さん「18歳を迎えられたな。誕生日おめでとう」
リン「あ、そうだ・・・」
怪人さん「初めて見るこの街の夜景はどうだ?」
リン「うう・・・」
リン「涙でぼやけて良く見えないよお・・・」
怪人さん「ははは」
怪人さん「これからまた何度でも見れるさ、生きていればな」
リン「うん・・・」
怪人さん「俺の体は、この時のためにあったのかもしれない」
怪人さん「俺は、これからお前を守って生きていくよ」
怪人さん「たとえそれが、」
怪人さん「世界を敵に回すことになったとしても」
BGM効果もあるのか、最後のシーン本当に胸が熱くなりました。出会うべくして出会った二人が、これからどんな状況に身を置いても手を取り合って生きていってほしいと思います。
周囲により勝手に能力を付与され、勝手に運命づけされた2人、共感するところは大きいでしょうね。ラストは心がスッとする素敵なシーンですね!