君だけのポラリス(脚本)
〇廃列車
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・!」
俺は走る。
ただ、ひたすらに。
逃げるために。生きるために。
捜索隊員「ヤツはどこだ!? 隈なく探せっ!!」
俺を追ってきた捜索隊の奴らは、この暗闇の中で俺を見失っている。
「今が、チャンス・・・・・・!」
最後まで走り抜け、生きるために!
〇岩穴の出口
あれからどれほど走り続けたのだろう。
ようやく出口にたどり着いた。
光の見える方へと進むと、真っ暗で見えなかった俺の姿も徐々に見えてきた。
怪人「・・・・・・!」
進むしかない。
俺は覚悟を決めて、出口を抜けた。
〇開けた交差点
ハナ「・・・・・・」
今日も、高校で一言も喋れなかった。
私はいつまでこうしているつもりなんだろう。
黙ってたって、友達なんかできるはずないのに。
ハナ「わかってる、けど・・・・・・」
小さく呟いた。
このまま家に帰るのは嫌だった。
どこかへ行きたい。
人のいないどこかへ――。
〇湖のある公園
ハナ「はぁ・・・・・・」
息を吸って、深呼吸。
ハナ「気持ちいい風・・・・・・」
その瞬間、下の方から、ガサッ!! と音が聞こえた。
ハナ「? なんだろう」
〇湖畔の自然公園
ハナ「たしか、ここら辺から、音が──」
怪人「ニン・・・・・・ゲン・・・・・・?」
ハナ「えっ・・・・・・キャァァァァ!!」
草むらの茂みに、『何か』が倒れている!!
怪人「焦んないでくれ・・・・・・俺は・・・・・・敵じゃ・・・・・・」
『それ』の姿はまるで――。
ハナ「か、怪物――!?」
逃げなきゃ!
怪人「待て・・・・・・いかないでくれ・・・・・・」
その声を聞いて、思わず後ろを振り返ってしまった。
ハナ「な・・・・・・なんですか!? 人じゃ、ない・・・・・・?」
止まらなければよかった。もう足が棒のようになってしまって、身動きが取れない。
『それ』がゆっくりと立ち上がる。
ハナ「・・・・・・誰か、助け──!」
怪人「だから、俺は襲わないって!」
ハナ「・・・・・・え?」
怪人「はぁ、はぁ・・・・・・。話聞いてくれよ。まあ、こんな見た目じゃ無理ないけどさ」
ハナ「・・・・・・喋るの上手、ですね」
怪人「あははっ、ありがとう!」
急な笑い声にびっくりする。
怪人「あっそう驚かないで! ごめんごめん、脅かすつもりはなかったんだ」
ハナ「悪い人じゃ・・・・・・ないんですね?」
怪人「悪いもなにも──」
ぐぅぅ、と音が聞こえた。
怪人「・・・・・・あっはは、腹減っちゃって」
ハナ「あっじゃあ、これ」
怪人「くれるのか・・・・・・?」
ハナ「はい、今日のお弁当に作っておいたんですけど、食べきれなくて。よかったら・・・・・・」
怪人「・・・・・・ありがとう!」
私のあげたおにぎりは、彼の胸元の赤いコアのようなところで、一瞬にして吸収された。
ハナ「・・・・・・!」
怪人「あ〜美味しかった。 ありがとう、ホントいつぶりの飯だろう」
ハナ「そんな長い間、ご飯食べられてないんですか?」
怪人「うん、俺脱走したから」
ハナ「だ、脱走・・・・・・!?」
「そうだ、そいつは脱走者だ!」
03「見つけたぞ、07!!」
怪人「お前は03!」
ハナ「えっちょっ、えっ!?」
もう訳わかんないよ!
怪人「逃げるぞ!!」
彼はそう言うと、私を抱き抱えた!
03「クッソ、逃すか――!」
一瞬にして、私ごと彼の周りが光り始めた。そして、気がつくと――。
〇開けた景色の屋上
ハナ「――えっ! ここ、どこですか!?」
怪人「とりあえず、街の方までワープした!」
ハナ「ワープ!?」
怪人「ごめんな、面倒ごとに巻き込んじまって」
ハナ「あ、いや・・・・・・あの人は、何者なんですか?」
怪人「うん。ごめんな、ちゃんと説明するよ」
怪人「・・・・・・あいつは、実験ナンバー03。 で、俺は07」
怪人「俺たちは、軍の改造実験で造られたんだ」
ハナ「改造、実験・・・・・・」
あまりにも聞き慣れない言葉で戸惑ってしまうけど、目の前の彼が現実である以上、納得するしかない。
怪人「俺たちは、対地球外生命体用の”生物兵器”。分かりやすく言うと『怪人』、かな」
ハナ「地球外生命体・・・・・・って、宇宙人のことですか!?」
怪人「ああ。そう遠くない未来、奴らは地球に迫ってくる。 それに対抗するために、俺たちは生まれた」
ハナ「・・・・・・」
怪人「でも俺は、戦いたくなんてないんだ」
ハナ「――!」
怪人「緑あふれる自然に、美しい海。 それに、幸せに暮らす人々の笑顔。 この世界は、素晴らしいもので溢れている」
怪人「俺は、この地球(ほし)にある美しいものを、もっと知りたい。経験してみたい」
怪人「俺は、”自分の人生”を生きてみたいんだ」
ハナ「自分の、人生・・・・・・」
怪人「俺は怪人として生まれたから、それは叶わないかもしれない」
怪人「道端でつまんだ花すら、いまの俺の拳は固く握りつぶしてしまう。だけど、それでも」
怪人「生きてみたい。より良く、自分らしく。 いつか、花を潰さずに掴めるように」
ハナ「――! 素敵ですね」
怪人「すっ、素敵!? あははっ、本当に言ってんの?」
怪人「・・・・・・ありがとう。嬉しいよ」
ハナ「――でも」
ハナ「世界は、美しいものばかりじゃないです」
怪人「えっ?」
ハナ「世界は、美しいばかりじゃない。 相手を平気で傷つける人たちもいるし、悲惨な出来事だってたくさんあります」
怪人「・・・・・・きみも、自分らしく生きられていないのか?」
ハナ「――!」
私は小さくうなずいた。
ハナ「・・・・・・私、人間が怖いんです」
怪人「きみだって、人間だろ?」
ハナ「さっき襲ってきた人だって、怪人じゃないですか」
怪人「・・・・・・そうだな」
ハナ「・・・・・・私、中学生の頃、美術部だったんです」
ハナ「ヘタクソだったけど、それでも絵を描くのが好きだった。楽しかった」
ハナ「そしたら、私の絵がたまたま、市の小さなコンクールで入賞したんです」
ハナ「美術部のみんなは喜んでくれて、私も嬉しかった」
ハナ「でも次の日、部室に行くと――その絵は、ボロボロに破かれていました」
怪人「――!」
ハナ「それ以来、人を信じられなくなりました。 表面では喜んでても、本当は違うかもしれないから」
ハナ「もう誰も信じない」
ハナ「また、傷つけられるかもしれないから――」
怪人「・・・・・・」
怪人「なぁ、やっぱり俺、人間を信じてみるよ!」
ハナ「えっ? なんで──!」
怪人「きみは、誰も信じられないとか言うけどさ」
怪人「でもきみは、こんな見た目の俺に、おにぎりを渡してくれた!」
ハナ「? そんな、たかがおにぎり──」
怪人「違う!今までは誰も、俺を怖がって近づこうとはしなかった」
怪人「でもきみは怖がりながら、それでも俺に近づいてくれた」
怪人「きみのやさしい気持ちが、嬉しかったんだ」
ハナ「――!」
怪人「たしかに、ひどいやつだっていると思う。 研究所のやつらだって、最低なやつらばっかだったしな」
怪人「でも、そんな最低なやつらのために、きみの気持ちまで奪われなくていい」
怪人「きみの気持ちは、きみのものだ。 俺のもそう」
怪人「だから俺たちに必要なのは、きっと──」
03「見つけたぞ! 07!!」
怪人「!? 貴様、03!!」
ハナ「・・・・・・!」
怪人「逃げろっ!!!!」
ハナ「え、あっ、はい!!」
彼の言う通りに私は走った!
03「逃すか――!」
怪人「おっと、お前の目的は俺だろ? あの子は関係ない!」
03「なに言ってる、巻き込んだのはお前だろ?」
03「しょせん俺たちは生まれた時から怪人! あの小娘のように生きられるはずがない」
怪人「――っ!」
03「・・・・・・はじめて研究所以外の人間と話して、どうだった? 07」
怪人「やさしいよ。こんな見た目の俺にも、気を遣ってくれているのがわかる」
怪人「なぁ03、俺と一緒に逃げないか? お前だって、本当は──」
「・・・・・・フッ、どこまでも甘い──」
怪人「消えた!? クソッ、まさか!!!」
〇非常階段
ハナ「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・!」
ハナ「!?」
03「悪いな、お前を巻き込みたくはないが──」
怪人「やめろッ!!」
間に合った! 俺の拳が、03を階段下へ吹っ飛ばす!
03「グハァ!!」
怪人「大丈夫か!? 怪我は!」
ハナ「大丈夫です!」
03「――!」
怪人「なあ03、お前は何が望みなんだ!? 本当に、俺を捕まえることだけが──」
03が一瞬で俺のところまでジャンプ!
そのまま03の飛び蹴りが俺を直撃した!!
怪人「グハァッ!!」
ハナ「キャアッ!」
03「そんなもんじゃねえだろ・・・・・・オラッ!」
03の追撃をなんとか避けるが──
03「喰らえッ!!」
怪人「グハッ!!」
ハナ「あっ・・・・・・ああ・・・・・・!!」
怪人「だ、大丈夫だ・・・・・・心配すんな・・・・・・」
奴の拳を、腹にモロに喰らっちまった・・・・・・。
03「これで沈めッ──」
怪人「――やっと、近づけた」
03「!?」
怪人「ウォォラァァァッッッ!!」
俺の胸のコアから、エネルギーを全放出!!03は思いっきり吹っ飛び、地面へ倒れ込んだ!!
03「グハァッッッ・・・・・・!」
俺は03に駆け寄る。
怪人「大丈夫か03!?」
03「敵の心配なんて──」
怪人「お前の攻撃が本気じゃないことは分かっていた! お前、何のためにこんな・・・・・・!」
03「・・・・・・研究所からの命令だ。お前を捕まえてこい、というな。・・・・・・グハッ!」
怪人「03!!」
03「でも、本当の理由は・・・・・・俺を、倒して欲しかったからだ!」
03は俺の手を無理やり掴み、自分の体に貫かせた!
怪人「なっ、なにしてんだ馬鹿野郎ッ!?」
03「フッ、すまんな07・・・・・・。俺だって、自由に生きたかった。だが、グハァッ!」
03「そんな勇気はなかった。だが、研究所にいるのも嫌だった・・・・・・」
03「これは俺のワガママだ。 付き合わせてすまない、07」
怪人「おい喋るな! 死ぬぞ!!」
03「その小娘のことも、研究所にバレている。・・・・・・07、お前が守ってやれ」
ハナ「えっ・・・・・・!?」
03「このビルには捜索隊の奴らがいる、ワープして逃げろ・・・・・・グハッ!!」
怪人「!? 03──」
03が、静かに俺を見てうなずいた。
怪人「・・・・・・わかった」
03の手を握ると、そのまま03は息絶えた。
怪人「・・・・・・話の、途中だったよな」
ハナ「・・・・・・はい」
怪人「きっと俺たちに必要なのは──」
俺は彼女を抱き抱え、ワープする。
――03を残して。
「――自分を信じて生き抜く『勇気』だ」
〇湖畔の自然公園
怪人「そういえば、名前聞いてなかったよな」
ハナ「あっ、そうでしたね」
ハナ「私、木崎ハナって言います」
怪人「ハナ・・・・・・俺、決めたよ」
怪人「自分らしく生きる。03の分まで、前に進む」
私はうなずいた。
ハナ「私も、頑張ってみます」
ハナ「もう人を疑うのも、自分を信じられないのも嫌だから」
怪人「そっか」
ハナ「そういえば、名前・・・・・・07じゃ、味気ないですね」
怪人「そうだな」
怪人「俺に、名前つけてよ。まだないんだ。俺の名前」
ハナ「・・・・・・じゃあ、『ポラリス』は?」
怪人「ポラリス?」
ハナ「はい。北の空で輝き続ける、道しるべの星です」
ハナ「私の道を照らしてくれたから――なんて。すみません、ダサいですよね」
怪人「いや、気に入ったよ。ありがとう! ポラリス、か・・・・・・」
怪人「ハナ、巻き込んでしまって本当にすまない。そのかわり、これからも君を守り続けるよ」
私はうなずいた。
組織とか怪人とか全然分からないし、この先のことを考えると怖い。
だけど、それでも、彼が居てくれれば。
きっと、大丈夫だと思えた。
怪人「俺は、君だけのポラリスだ」
ハナとポラリスもそれぞれの悩みを抱えていたけれど、善悪の板挟みになっていた03の心の葛藤も相当なものだったと思います。彼もある意味組織の犠牲者ですよね。ポラリスが03の分まで前に進むと宣言したことで、その存在も救われたような気がして少しほっとしました。
人間って信じるの難しいですよね。
私もあまり人を信じないと自分で思います。
でも自分が信じない限り、相手も信じないですよね。
中々色々なことを考えさせていただきました!
最後の言葉『俺は君だけの・・』、心にぐっときました。はなとポラリスはまるで十字に交差したように、お互いに勇気を持つ分岐点にたったようでした。