さ迷って

マンダリン

エピソード1(脚本)

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〇寂れた村
寧々「すいませーん」
  気がつけば、寧々は迷ってしまい、ある集落に辿り着いた
仁科和「見かけない顔ですね。どうかしましたか?」
  そこへ現れたのがこの村に住む仁科和(27)だった
寧々「私、迷ってしまったみたいなんです」
仁科和「迷ったってこんなところで?」
寧々「よく覚えてないというか、何故かここに居て、どうしたらいいか」
  彼女の衣服は泥がついて汚れていた。どうやってここまで来たのか、車も自転車にも乗っていないようだ。
  街へ行くまで車で片道二時間はある。歩いて来ても不可能ではないが、女性一人で不自然だ。
仁科和「どこから来たのか覚えてますか?」
寧々「それも覚えてなくて・・・」
仁科和「名前は?スマホは持ってないですか?」
寧々「名前は──ね、寧々と言います。名字は、名字・・・忘れてしまいました。 それにスマホは持っていません・・・・・・」
寧々「色々と思い出せなくて・・・すみません」
仁科和(記憶喪失なのかな?)
  和は記憶喪失なんてことは、ドラマでしか聞いたことがなかった。
  でも戸惑っている様子から嘘を言っているようにも見えない
仁科和「とにかく、雨も降ってきましたし。うちへ来て休んで下さい」
寧々「はい・・・・・・」

〇実家の居間
  寧々は和に連れられて、古い民家へ来た。
  若い男の一人暮らしにしては広い家だ。
仁科和「ここ、おじいちゃんと二人で暮らしてたんですけど。去年亡くなってから今は一人で住んでるんです」
寧々「そうなんですか、お一人で」
仁科和「今日はもう遅いので。ここに泊まって下さい。部屋も余ってますし」
寧々「そんな、いいのでしょうか? 誰なのかもよく分からない私を」
仁科和「明日になったら、ここから二時間先にある警察署へ行って、あなたの身元を調べて貰いましょう。 きっとご家族も心配しています」
寧々「警察・・・ですか?」
  寧々の表情が曇った
寧々「すみません。やっぱりここには居られません」
仁科和「寧々さん?」

〇寂れた村
寧々「──────」
仁科和「待って!」
寧々「わたし、わたし・・・・・・ どうしたら、どうして、なんで」
  寧々は泣いていた
仁科和「分かりました。警察へは行きませんから、落ち着いて」
寧々「すみません・・・・・・」
仁科和「何か嫌な記憶を思い出したんですか?」
寧々「分かりません、ただ、何だか嫌で」
仁科和「そうですか」
仁科和「戻りましょう。この辺の夜はとても冷えますよ?」
寧々「はい。ありがとうございます」

〇古い畳部屋
仁科和「しばらくここを使って下さい。 狭いですけど」
寧々「十分です。ありがとうございます」
仁科和「記憶が戻るまで居てもいいですからね」
寧々「でも」
仁科和「俺もあなたの立場だったら、混乱します。こういう時はゆっくり休むのが一番ですよ」
寧々「・・・・・・」
仁科和「それじゃ、おやすみなさい」
寧々「あの、どうして親切にしてくれるのですか?」
仁科和「変に思わないで下さいね」
寧々「?」
仁科和「小さい頃、一緒に住んでた母と。 何だか雰囲気が似てるんです」
寧々「私とお母さんが?」
仁科和「あ、いや、忘れて下さい。 それじゃ・・・」
寧々「似てるんだ、わたし・・・」

〇実家の居間
  それから不思議な二人暮らしが始まった。
  和が出掛けている間、寧々は食事や洗濯などをした。
  夕方、和が帰って来ると
  寧々は温かい料理をなるべく出せるようにした
  待っている間、いつ帰ってくるんだろうと和の帰りを待つ、この時間が寧々は好きになっていた
仁科和「おいしい」
寧々「お味噌汁、薄くないですか?」
仁科和「これくらいが丁度いいですよ」
寧々「よかった」
仁科和「そんなに気を使わなくてもいいんですよ、寧々さん」
仁科和「助かってるのは俺の方なんですから 一人暮らしじゃ、毎日同じもの食べてましたし」
寧々「いえ、私、好きでやってるので」
寧々「それに、何か和さんのためになりたいって思うんです」
仁科和「・・・」
仁科和「ありがとう」
寧々「全然です」

〇寂れた村
仁科和「じゃあ、仕事行ってきます」
寧々「はい。 いってらっしゃい」
  和は自転車に乗って去って行った
寧々(森を抜けた向こうの方に仕事場があるって言ってたけど、何してるんだろう)
寧々「あ!」
寧々「お弁当、渡すの忘れてた! 届けなきゃ」

〇村の眺望
寧々「この道で合ってるのかな」
村の人「あなた、和くんのところでお世話してる人じゃない?」
寧々「え」
村の人「聞いたよ。和くんもおじいちゃんが亡くなって一年だものね。独りでいるの寂しくなったんでしょう」
村の人「こんなかわいい子が家の手伝いしてくれるなら、家事代行もいいものだね」
寧々(そっか。村の人に怪しまれないように、私はお手伝いさんって事になってるんだ)
村の人「和くんを頼んだね。 小さい頃から苦労して来た子だから、何だかあなたを見てほっとしちゃった」
寧々「苦労って何があったんですか?」
村の人「聞いてない? 和くん、小さい頃に父親から暴力振られてたのよ」
寧々「!?」
村の人「お母さんは和くんを置いて、何処かへ消えちゃったから、代わりに和くんのおじいちゃんが引き取って育てたのよ」
寧々「そうだったんですか」
村の人「だから、あなたみたいな子と幸せな家庭を持って欲しいわ」
寧々「・・・・・・」
村の人「やだわ。余計なこと言った」
村の人「和くんの仕事場ならこの先真っすぐ、森を抜けたところだよ」
寧々「ありがとうございます」

〇廃工場
  森を抜けると小さな工場があった
寧々「すみません」
  中を窺うと、溶接作業をしている和の姿があった。
  和は寧々に気付いて周りを気にするようにやって来た
仁科和「寧々さん?どうして?」
寧々「お弁当を届けに」
仁科和「あ、忘れてたんだ ありがとうございます」
仁科和「だけどあまり来て欲しくないな。綺麗なところじゃないし、格好いいものじゃないから」
寧々「かっこよかったですよ?」
仁科和「そうかな・・・・・・」
寧々「はい!」
仁科和「でも恥ずかしいから、あんまり来ないで・・・」
寧々「すみません」
村田「おー、和! なにしてんだ?」
仁科和「厄介な人に見つかってしまったね」
寧々「?」
仁科和「職場の人だよ」
村田「お前、彼女いたのか?」
仁科和「そういうんじゃないよ」
村田「ふーん。どこで見つけたか知らねーけどよ。 かわいい子じゃねーか」
寧々「あ、いえ・・・」
村田「今度、村でやる祭りに二人で来ないか?」
寧々「どうしよ・・・」
村田「来い来い、村一番のビックイベントだ。 若い二人で楽しめよ」
仁科和「もう仕事戻った方がいいんじゃないですか?」
村田「はははっ、そーか。 おじゃま虫は去りますよーっと」
寧々「お祭りあるんですね」
仁科和「祭り、行く?」
寧々「はい!!」

〇神社の出店
仁科和「好きなものあったら言って下さい」
  小さい規模だが、村の外からも人が集まって色んな屋台が並んでいた
寧々「ありがとうございます」
村田「よ、お二人さん、来たか」
仁科和「ずいぶん飲んでますね」
村田「和ー!精力つくもん食って、今夜は気合いいれとけよー」
仁科和「彼女はそういう関係じゃないですから」
村田「じゃ、どーゆー関係で一緒に暮らしてんだよ。お手伝いって、お前、どんなお手伝いだよ、こんな胸のでない女と一緒で」
村田「毎晩、腰ふってんだろう?おい、この優男!」
仁科和「もう黙ってよ。寧々さん行こう」
  和は寧々の手を引っ張った
寧々「はい」
村田「おーおー、どこいくんだー」

〇山道
仁科和「すいません、あの人変なこと言って」
寧々「和さんが大丈夫なら、私も大丈夫ですから」
仁科和「そう? ごめん」
寧々「いいです、謝らなくて」
仁科和「優しいんですね、寧々さんって」
寧々「そんなことないです」
  その時、叢で音がした
  
  ガサガサ──
寧々「きゃ!」
仁科和「猪ですよ。この辺よくいるんです 静かにしていれば人を襲ったりしませんよ」
寧々「でも、ちよっと怖いです・・・」
仁科和「じゃあ、怖くないように」
仁科和「手、貸して下さい」
寧々「え・・・」
  和は寧々の手を握った
仁科和「こうしたら怖くないでしょ?」
寧々「はい・・・」
  握られた手がじんわりと熱くなってくる
寧々「私、子供みたいですね。 見た目も幼くて・・・」
仁科和「全然、そんな、」
仁科和「子供だと思ってませんから・・・」
寧々「・・・」
仁科和「一人の女性として、見てますから・・・」

次のエピソード:エピソード2

コメント

  • なんだか深い訳ありのようですが、二人思い合っているならいいんじゃないかな?と思いました。
    二人ともお互いに思いやりを持ってますし、優しい雰囲気が感じられます。

  • 状況設定がとても魅力的で引き込まれました。なにかとんでもない過去がありそうな寧々さんだけど、惹かれ合う二人の関係がとても眩しく感じました。

  • 甘酸っぱいエピソードと、しんみりするエピソードが混ざってとても読んでいて引き込まれました!
    寧々さんの過去…というか正体はなんなのだろう…。
    続きでわかるのかな?!

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