4.煙草を買いに広島へ(脚本)
〇雑貨売り場
〇ゲームセンター
ナツカワ(そろそろ閉店時刻だし、帰るかな・・・)
吉野「ナツカワくん!?」
吉野「光は? 一緒じゃないの?」
ナツカワ「大分前に別れたきりですよ。どうしたんすか」
吉野「帰ってこなくて・・・」
吉野「六時半頃に電話したときには繋がったのに」
吉野「行きそうな所を探してるんだけど、全然見つからないし、警察にも今行ってきた所なの」
ナツカワ「ええっ、吉野が!?」
吉野「私の連絡先はこれだから、何か判ったら」
ナツカワ「了解っす! 友達に知ってる奴がいないか、聞いてみますね」
吉野「夜出歩くような子でもないのに・・・」
吉野「まさかあの女・・・けど、もうないはずなのに・・・?」
ナツカワ「おばさん?」
吉野「何でもないの。 何か判ったらよろしくね!」
ナツカワ「吉野も大変だな」
ナツカワ(ちょっと連絡取れないだけであんなんじゃ、彼女出来たら大変だぞ)
ナツカワ(もういるのかも知れないけど)
〇川に架かる橋
吉野「光ー」
〇電車の中
電車に乗って広島へ、
〇海岸沿いの駅
途中いくつかの駅で乗り継いで、広島へ着いたのは翌日の昼過ぎだ。
〇広い改札
〇お花屋さん
駅前のスーパーで花と線香を買い、煙草の箱を眺めていると、未成年には売れないと言われた。
道理である。
〇路面電車のホーム
光(心配なのは財布の中身くらいで、特に行く宛てもないからなあ)
おじさん「兄ちゃん、宮島口なら乗り場が違うぜ」
おじさん「ここに電車ははしばらく来ねえぞ。さっき出たばっかだから」
光「宮島口って何ですか?」
おじさん「海ん中に鳥居がある写真くらい見たことがあるだろ。あすこに行く船が出んの」
おじさん「俺が用のあるのはボートレース場だけど」
おじさん「そのでかい鞄なら、観光だろう?」
光「いえ、・・・叔母の墓参りで」
ほおん、と男の表情が変わった。
おじさん「叔母さん? 母方の? 律儀なこった。 そりゃあ宮島には行かれないわな」
光「あの、おじさん、煙草って吸われます?」
光「叔母さんの墓前に供えたいと思ったんですけど、売ってくれなくて」
おじさん「最近どこも厳しいからな」
あるにゃああるが、と煙草の入っているらしいポケットを眺めた。
光「売ってくれませんか? いくらなら」
おじさん「こんなシケモク供えられる身にもなってみろよ。第一、銘柄とかなんかないの?」
光「子供の前だからか、僕がいるときは吸わなかったので・・・」
おじさん「その叔母さん、いい女だったか?」
光「ええ?」
おじさん「いい女だったか、って聞いてんの」
光「ええ、まあ」
おじさん「じゃ、ちょっと待ってろ」
男が電停から姿を消す。
おじさん「いい女が吸ってそうな煙草っていうのは、こーゆうンだよ」
おじさん「代はいらねえから、代わりにイケてるおっちゃんからだって墓前に供えといて」
おじさん「じゃーな。そろそろ行かないとレースが始まる」
男を乗せた宮島口行きの路面電車が走り出して、視界から消えていった。
そのうちに、立ち尽くしていた停留所にも路面電車が止まったので、それに乗る。
〇路面電車
〇路面電車
〇路面電車
警察官「君、帰るところないの」
光「・・・いえ」
警察官「近所の人が心配して通報してきてくれてね。交番がすぐそこだから、来なさい」
光「はい・・・」
〇交番の中
警察官2「吉野光君だな。君ね、心配したお母さんから届が出ているから」
警察官2「記録で見たが、君、子供の頃から結構な回数の捜索届が出されているんだって?」
警察官2「迷子の達人だな。親御さんにも連絡しておくから」
警察官「ああ、それで聞きたいことがあるんだけど」
警察官「届人・・・君のお母さんだな。連絡がつかないみたいなんだ」
警察官「家出していた君に聞くのもなんだけど、何か知ってる?」
警察官「こちらは届を出すのにはいたっていないんだけど、どうやら会社にも来ていないらしくてね・・・」
光「母がですか?」
光「いえ、特には・・・」
警察官2「君、電話してあげた方がいいんじゃない?」
警察官2「ああそうか、鞄が場所を取るからからこっちに置いていたのか」
警察官2「早く出てあげなさい」
光「もしもし? ──はい、そうですが・・・」
警察官2「おい、鞄の中のそれって──」
警察官2「これは・・・」
警察官「吉野君、大変だ君のお母さんが──って人骨!?」
警察官2「判らん! 見たとおりだ」
警察官2「そっちは」
警察官「君のお母さんが自殺、いや確定したわけじゃないんだけど、死んでるのが見つかったって、今、連絡が」
警察官「午後八時半過ぎに会社の同僚が見に行ったら、玄関の鍵が開いていて中で首吊って死んで──」
警察官2「おいおい、その時刻は見慣れない若い男が電停にずっといるって近隣住民から連絡が入った後だぞ」
警察官2「現場に首はあったんだろう。ってことは、この首とは別か」
光「今、電話で聞きました。母の同僚から。・・・死んでるって」
警察官2「君、この首は」
光「おばさんの首です」
警察官「おばさん、って」
警察官「君、叔母さんなんていないよね!?」
ええ、と答えて机の上に載せられた頭骨を見下ろす。
光「母が殺して、骨にした」
光「それを見つけられたと思って、自殺を企てたんでしょう」
光「親戚づきあいは特になかったけれど、けれど、おばさんと呼んでいた人はいました。・・・おそらくこの骨の主が」
警察官2「つまりどういうことだ」
光「さっき、何度も捜索願が出されていたとおっしゃってましたよね」
光「あれ、何度もそのおばさんの所へ行った自分を心配した母が出したんだと思います」
随分となついていたようですし、と自嘲混じりに答える。
光「覚えてはいないけど、多分そうだったんじゃないか。大分人見知りだった様なのに妙になついていたって」
そうでなければ母の行動に説明がつかない。
光「母は、それを殺して成り代わろうとした」
光「似ているんですよ、母と、そのおばさん。背の高さとか、年齢も多分同じくらいの筈です」
光「記憶が混乱しているのもありますが・・・多分、母が似せていた」
光「おばさんは自分だ、とも言っていました。そうすることでおばさんの分も僕の愛を得ることが出来ますからね」
警察官2「・・・他にご親族は」
ともかく君には一度帰ってもらわないとならない、と警察官が言った。
警察官「連絡しときます!」
警察官2「ところで、君は一体何をしに広島に?」
警察官2「随分と洒落たタバコも入っていたようだが、まさか煙草を買いに来たわけじゃ無いだろう」
光「煙草を買いに来たんですよ」
光「可愛い子には旅をさせよというから」
光「煙草を買いに広島へ行かせようかって──生前、おばさんが言っていたのを思い出したので」
まさか今時それを聞くとはな、とあきれたように警察官が言った。
警察官2「それはそういう慣用句だよ。調べてみてもいいが・・・君にはあまり勧められないな」
警察官2「君に逮捕状が出ているわけでもないし、送っていくわけにも行かないが、しばらく電車はないからな」
警察官2「駅までの道は教えるから、朝になったら帰りなさい」
光「どこへ?」
警察官2「君の家へだ」
どこに帰るかは君が決めることだが、と言って地図を取り警察官が姿を消した。
エピソードタイトルを見て、まさか光君が!?と思っていたら、本当にタバコを買っていて一安心。と思うのも束の間、母親が。。作中ずっと不安と不審な空気に溢れていますね。