〇葬儀場
京華「・・・」
八千流「・・・」
美琴「八千流ちゃん・・・」
快斗「・・・」
八千流「美琴、快斗」
八千流「来てくれたんだね」
美琴「八千流ちゃん・・・」
八千流「泣かないで、美琴」
美琴「だって、だって・・・」
快斗「八千流」
快斗「何て言って良いかわかんないけど・・・」
八千流「私は大丈夫」
快斗「でも、お父さんが・・・」
八千流「・・・」
　　そう、私の父であり前世の夫、優が死んだ
　　警察からの報告によると・・・

〇水中
　　運転を誤り車ごと川へ転落したらしい
　　死因はくしくも前世の私と同じ、溺死だった
　　私から連絡を受けていた田辺刑事は、司法解剖を提案したらしい

〇葬儀場
　　しかし、初動で事故の可能性が高いと判断された事
　　そして、母が夫の遺体を傷付けたくないと解剖を拒否した事も有り
　　こうして通夜が行われている
京華「アナタ・・・」
　　遺体でも傷つけたくないという気持ちは、何となくわかる
　　だから私は何も言えなかった
京華「うぅ・・・」
八千流「お母さん・・・」
京華「・・・八千流」
京華「ごめん・・・ごめんね・・・」
京華「お母さんが、しっかりしないと行けないのに・・・」
八千流「大丈夫、お母さんは休んでて」
京華「ごめんね・・・」

〇おしゃれな受付
スタッフ「失礼します」
スタッフ「お母様は何方にいらっしゃいますか？」
八千流「あ、何かあれば私が対応します」
八千流「今は、そっとしてあげて下さい」
スタッフ「え・・・でも」
八千流「大丈夫です、親族の葬儀を何度かお手伝いした事があるので」
スタッフ「そ、そうですか・・・」
スタッフ「それでは会葬御礼についてはお分かりですか？」
八千流「はい、そちらは・・・」
八千流「・・・」
　　母は事故の報告を聞いて以来、泣き通しだ

〇おしゃれなリビングダイニング
　　私も訃報を聞かされた直後に気を失ったが
　　目覚めてからは、不思議と冷静だった
　　取り乱す事もなく、涙を流す事もなかった

〇おしゃれな受付
　　今も、まるで赤の他人を送っている気分だった
　　私の優への想いはどうなってるんだろう・・・
スタッフ「わかりました、ではその様に」
八千流「宜しくお願いします」
八千流「・・・」
田辺「葬儀を仕切る小学生か、斬新だね」
八千流「刑事さん」
田辺「どうも、こんな大変な時に失礼」
八千流「かまいませんよ」
八千流「葬儀は殆ど葬儀場のスタッフさんに任せてますから」
田辺「あ、そう」
八千流「捜査ですか？」
田辺「まぁ、そうだね」
八千流「プライベートの？」
田辺「いいや、正式な捜査」
八千流「そうですか」
八千流「・・・」
八千流「父の遺体を運ぶのは、出棺の後にして貰えませんか？」
田辺「相変わらず察しが良いね」
田辺「勿論それは良いんだけど、出来ればこの場で簡単に確認したい事があるんだ」
八千流「令状は？」
田辺「残念ながら」
田辺「でも明日までには、ご遺体を抑える令状は出る予定だよ」
八千流「・・・」
八千流「私一人では決められません」
田辺「そうだろうね」
田辺「お母さん達には会えるかな？」
八千流「少し待っててください」
田辺「あぁ」
　　その後、父方の祖父母に話を伝え、母の説得は祖父母に任せた
　　私まで警察側になったら、母の味方が居なくなると思ったから

〇モヤモヤ
　　不思議な感覚だ
　　母は前世の私から夫を奪った憎い女
　　でも言い換えれば、同じ男を愛した者同士でもある
　　そんな男を失い、悲しみに暮れる母を孤独にしたくはなかった

〇おしゃれな受付
京華「わかりました、調べて頂いて結構です」
田辺「ありがとうございます」
京華「ただ、通夜が終わってからにして下さい」
田辺「勿論です、ご協力感謝します」
　　その後、一通り通夜が終わると、私達は控室で待つように言われた

〇コンサートの控室
八千流「ふぅ・・・」
八千流「もう丑三つ時か・・・」
田辺「八千流君」
八千流「はい？」
　　刑事さんが廊下から手招きしている

〇おしゃれな受付
八千流「何かわかりましたか？」
田辺「あぁ、一つだけね」
八千流「それは、お父さんですか？」
田辺「そう、この部分なんだけど・・・」
田辺「注射の跡があった」
八千流「!?」
八千流「・・・」
八千流「・・・薬物ですか？」
田辺「薬は薬だろうけど、麻薬とかじゃない」
八千流「じゃあ何を・・・」
田辺「因みに、お父さんが病院に通院していたのは知ってる？」
八千流「・・・いいえ、父にも母にも聞いた事ないです」
田辺「優さんは、昔から定期的に精神安定剤を服用しているんだ」
八千流「精神安定剤？」

〇おしゃれなリビングダイニング
　　優が精神安定剤？
　　八千流から見た優は、とても精神安定剤が必要な状態には見えなかったんだけど・・・

〇豪華なリビングダイニング

〇おしゃれな受付
八千流「いたっ!!」
田辺「お、おい、大丈夫かい？」
八千流「だ、大丈夫です・・・」
八千流「それで、注射された薬って・・・」
田辺「精神安定薬だと思われる」
八千流「思われる？」
田辺「定期的に服用していた上に、亡くなってから時間が経っているから」
田辺「注射の中身が安定薬だと証明する事は難しいんだ」
八千流「でも、それが原因で父は・・・」
田辺「あぁ、恐らくは精神安定薬の過剰接種」
田辺「そのせいで意識が混濁し、運転を誤った・・・」
八千流「でも精神安定剤を服用していたなら、別に注射をする必要はない・・・」
八千流「まさか、父は・・・」
田辺「他人に安定薬を射たれた可能性がある」
八千流「・・・殺人」
八千流「でも・・・どうして刑事さんはソレに気付いたんですか？」
田辺「堀田コーポレーションだよ」
田辺「遠野さんとの契約担当者である岡島を調べた」
田辺「そしたら岡島は過去に妻を事故で亡くしてるんだけど、その人も精神安定剤を服用していたんだ」
八千流「岡島が、お父さんを？」
田辺「俺はそう睨んでる」
田辺「遠野さんの火事も含めてね」
八千流「それで、今その岡島は？」
田辺「まだ逮捕状が取れる状態じゃないんで、監視に留まってるよ」
田辺「早急に目途を付けないと、海外に逃げられる恐れも有る」
田辺「だから今日は、少々強引に捜査させて貰ったんだ」
八千流「・・・逮捕出来そうですか？」
田辺「せっかく君達が協力してくれたんだ、何としても証拠を見つけ出してやるさ」
八千流「・・・宜しくお願いします」
田辺「あぁ、任せてくれ」

〇総合病院
　　翌日、優の遺体は霊柩車に乗せられ
　　そのまま警察関係の病院へと送られた
　　ここで司法解剖が行われるのだろう
　　私達遺族は、病院まで付き添ってから帰宅した

〇おしゃれなリビングダイニング
晴香「それじゃあ、後の手続きとかは私達がやっておくから」
晴香「お母さんの事、よろしくね」
賢治「何かあったらスグに連絡するんだぞ」
八千流「うん」
八千流「ありがとう、お祖母ちゃん、お祖父ちゃん」

〇部屋の前
　　母は帰宅早々優の自室にこもり、そのまま出てこない
　　暫く一人にして欲しいと言われたので、祖父母達にも帰って貰った
　　恐らく午後には警察の家宅捜査が入るだろう
　　そうなったら、優の遺品に触れる事も難しくなる
　　それまでは、そっとしておこう

〇おしゃれなリビングダイニング
八千流「あ、そう言えば刑事さんが・・・」

〇おしゃれな受付
田辺「後でお家にお邪魔するから、優さんの私物の有る場所だけ教えて貰えるかな？」
　　っと、言っていた

〇おしゃれなリビングダイニング
八千流「優の私物かぁ」
八千流「自室以外だとワインセラーとか車の中とか・・・」
八千流「あ、釣り竿」
八千流「確か物置にしまってたよね」

〇一軒家の庭
　　物置には、巨大なスチール棚が設置されていた
　　そして棚には釣り道具がビッシリと並んでいる
八千流「でも、思ったより少ないな」
八千流「独身時代からの趣味だから、もっと大量にあるかと思ってたのに」
八千流「っと言うか、よく考えると八千流になってから優が釣りしてるトコ見た事ない」
八千流「ま、泳げない娘を連れていかないか」
八千流「・・・あれ？この釣り竿」
八千流「この竿、ドコかで・・・」

〇湖畔

〇一軒家の庭
八千流「ぐっ!?」
八千流「頭が・・・」
　　痛みでふらついた私は、反射的に目の前の竿を掴んだ
　　しかし、釣り竿は固定されているわけじゃない
　　当然、私を支えてくれるわけもない
八千流「きゃっ!?」
　　私は釣竿をつかんだまま、釣り道具の棚に突っ込んでしまった
八千流「いった～～～」
　　更に、頭上から色々な釣り道具が降り注ぐ
八千流「いててててててて！」
　　小物を纏めたプラスチックケース等が、次々と脳天を直撃して行った
八千流「あ～もう、何やってんだ私」
　　でも助かった
　　もしも、むき出しの釣り針が落ちてきてたら、無事では済まなかっただろう
八千流「しかし、やっちゃったなぁ・・・」
　　散乱する棚を前に茫然とする
八千流「刑事さんが来る前に片付けないと」
八千流「・・・アレ？」
八千流「これは何だろう？」

〇水中

〇一軒家の庭
八千流「うぐっ!?」
八千流「く、薬・・・」
八千流「はぁ・・・はぁ・・・」
八千流「知ってる・・・」
　　私は、コレを知ってる
八千流「ベルト型の救命胴衣だ」
　　私が、瑠衣が溺れた時に使ってた物と同じ
　　釣りに行く前、優が説明してくれた

〇豪華なリビングダイニング
優「最新型なんだ」
優「絶対安全だから一緒に行こう」
　　そう言って・・・

〇一軒家の庭
八千流「まさか・・・コレ、私が使ってた・・・」
八千流「いやいや、そんな訳がない」
八千流「そんな物、残しておくはずがない」
八千流「・・・」
　　私は何気なく、救命胴衣のファスナーを開けた
　　中には詳細不明な機械と、小型のボンベ
　　そして、小さなビニール袋に入った・・・
八千流「メモ？」
八千流「何か書いてある・・・」
　　「S85-86L」
八千流「何だろ？パスワードかな？」
八千流「どっかで見たような・・・」
八千流「う〜ん・・・」
八千流「ひょっとして・・・」
八千流「・・・これは」

〇豪華なリビングダイニング

〇一軒家の庭
八千流「うぁあああ!!!!」
　　過去に無い程の記憶が押し寄せてくる
　　そして思い出した
　　かつて私が愛した、優の素顔を
八千流「・・・」
八千流「・・・そっか」
八千流「そう言う事か・・・」

〇モヤモヤ
　　私は忘れていた
　　いの一番に思い出さなければいけない事を
　　私が、あの決断をした理由を・・・