ユメオイビトノハナ(脚本)
〇けもの道
彼の名は「生田」。
銀河系の彼方にあるリバックの星から来たリバック星人だ。
生田「んん!?」
生田「胞子が! ということは、この辺りに!」
生田「もしもし大田さん?生田です。 ユメオイビトノハナが林にあるようで」
生田「もうすぐ咲くと思います」
生田「え?具体的な場所?」
生田(実際に見たわけじゃないし・・・)
リバック星は、大爆発寸前の星であり、
「生田」たちは、リバック星人たちが
移住できる星を探している・・・
〇役所のオフィス
幸追町(さいおいちょう)観光協会
大田「はぁ!? ちょっと何やってるのよ!」
大田「ちょっと、生田? 聞いてる?」
〇けもの道
生田「聞いてますって。大田さん」
〇役所のオフィス
大田「まったく!」
大田「どうしたの?有坂さん」
有坂「息子が体調が悪くなったようで。 早退させていただきたいんです」
大田「え、でもこれから緊急会議なんだけど・・・」
大田「有坂さんはシングルマザーだし、息子さんのことは心配なのはわかるけど・・・」
有坂「勝手なことを言ってすみません。 でも、やっぱり私・・・! 失礼します」
〇古い施設の廊下
有坂「あ、お疲れ様です、生田さん」
生田「お疲れ様です、有坂さん! こ、これから外出ですか?」
有坂「いえ、うちに帰ります。 息子が体調を崩してしまって」
生田「大変じゃないですか! どうぞお気をつけて!」
生田「ああ、有坂さん。 こんな時でもかわいい・・・!!」
大田「何言ってんだか!」
〇ボロい家の玄関
幸追町観光協会の
マキエ会長の自宅前
坪井「あら!観光協会のID、忘れてきちゃった! 大丈夫かしら?」
柿沼「そんなもん、わざわざ持って来なくとも。 なぁ?」
村山「・・・」
柿沼「なぁ?村山さん?」
村山「・・・え?何か言いました?」
柿沼「いつも人の話、聞いてねぇようだなぁ、 あんた!」
〇魔王城の部屋
大田「では、観光協会の会議を始めます。 マキエ会長、お願いします」
マキエ会長「じゃ、早速、 「ユメオイビトノハナを切る係」を 決めましょう。やりたい人は?」
マキエ会長「ふふっ。 大田さん、誰がいいかしら?」
大田「有坂さんがいいと思います」
生田「有坂さんは、ここに今いないですよ?」
大田「有坂さんが適任だと考えます」
生田「いない人を勝手に係にするのは、 さすがにちょっと・・・」
大田「有坂さんは、意志の強い人です。 きっとうまくやってくれます」
生田「でも有坂さんは、一カ月前にこの町に 移住してきたばかりですし・・・ かわいそうじゃないですか!!」
大田「それに今、彼女は猛烈にツイています!」
大田「ここに来る前はいろいろあった ようですが。 この町に来て、観光協会の職員という 職を得、快適な住まいを得ました」
大田「あ、息子さんはまだ不登校気味 みたいですが・・・ ・・・それでも!」
大田「みんなが彼女たち親子を温かく見守って います!」
大田「この町から受けた恩恵に対して、少しは 恩返ししてもらってもいいんじゃないで しょうか、会長?」
マキエ会長「そうね、いいわ。 有坂さんにお願いしましょう」
マキエ会長「生田くん、有坂さんに説明して明日までに あれを切るように言ってちょうだい」
〇空
〇魔王城の部屋
生田「さっきの件、有坂さんに頼まなきゃ いけませんか、「マキエ会長」?」
マキエ会長「イヤなの?ふふっ、あなた、 有坂さんが好きなのね、「生田くん」?」
マキエ会長「大田さんはあなたが好きみたいね。 面白いわ」
生田「大田さん? ・・・いやいや、ないと思いますよ」
マキエ会長「地球人の心も、私たちリバック星人の心と 似たようなものだわね・・・」
マキエ会長「女心がわからなすぎよ、あなた!」
生田「と、ところで! ほんと、みんな、会長の術によくかかって ますね!」
生田「俺たちがこの星に来て、この町に来たのは ほんの二か月前なのに」
生田「みんな、ずっと俺たちが一緒にいたと 思い込んでる」
生田「ユメオイビトノハナだって みんな、不幸の花だと信じてる」
マキエ会長「そうね。 本当は、彼らには関係のない花だけど」
マキエ会長「あの花が咲いた場所には、結界ができる。 リバック星人の行動を邪魔する結界が!」
マキエ会長「賢い地球人もいたものね! 「リバック星人除け」に、サッと あんな植物を作るなんて!」
マキエ会長「でも・・・、 誰がどうして気付いたのかしら、 私たちがここにいること?」
マキエ会長「誰がユメオイビトノハナの種を まいてるの?」
生田「確かに・・・」
マキエ会長「例えば、私たち二人のほかにも この星にリバック星人がいて、」
マキエ会長「地球人に魂を売り渡した、とか?」
マキエ会長「そうよ! リバック星人全員を見殺しにして 自分だけ助かろうってヤツがいる!」
マキエ会長「なぁんてね。 どう?この筋書き?」
生田「えー!」
マキエ会長「そうだ。 もし、有坂さんが「係」を嫌がったら、 「やらなければ、この町から追い出される」と言いなさいよ」
生田「なんでですか?」
マキエ会長「そういう閉鎖的な田舎町を 演出したほうが面白くない?」
〇けもの道
生田(どこにあるんだろ、ユメオイビトノハナ。 胞子、見えない・・・)
ユメオイビトノハナは、花が咲くまで
リバック星人には見えない。
が、花が咲く少し前ごろから
ユメオイビトノハナの周辺に
奇妙な胞子が飛び回っているのは
見える。
有坂「生田さん!」
生田「あ、有坂さん!」
有坂「今、向こうでユメオイビトノハナを 見ましたよ! 変わった植物ですね! 実物、初めて見ました!」
生田「そうなんですよ! 変わってるでしょう!」
有坂「でも、あれがどうして「不幸の花」 なんですか?」
生田「え?」
有坂「咲くと、この町に悪いことが 起きるんですよね?」
生田「ああ!そうそう!」
生田「どこかの科学者か誰かが開発した 植物みたいなんですが・・・」
生田「こないだ、この近くで咲いた時は、 裏山で大規模な土砂崩れがあって」
有坂「え!そうなんですか!」
生田「はい!なので・・・」
生田「花が咲く前に刈り取って、お寺に持って 行って浄化させよう・・・というのが 観光協会の取り組みで」
有坂「そうなんですね・・・ でも、あの植物の持ち主に聞いたほうが いいのでは・・・?」
生田「え?」
有坂「科学者か誰かが開発した花なんですよね?」
有坂「ということは、その科学者が 試験的にこの辺りに種をまいたのかも 知れないじゃないですか?」
生田(ど、どうしよう・・・!)
生田「あ、でも、聞いたとしても 刈り取っていいなんて、きっと 言わないんじゃないかな、 その科学者・・・」
有坂「そうかも知れないけど・・・ 試しに相談してみては?」
生田(えー! あ、そうだ!)
生田「本来はそうすべきかも知れませんが、 前に会長が、さり気なく科学者に聞いたら」
生田「あの植物は、科学者が「幸福の花」 として開発したと言ったそうなんです」
生田(・・・って、信じてくれるかな? こんな即興の作り話・・・)
有坂「「幸福の花」として開発したと?」
生田「そうです!」
有坂「それなのに、この町の人たちには 真逆の影響が出てる・・・?」
生田「そう!まさにその通り!」
生田「なので、ここは、科学者に 見られないように切るしかないんです!」
有坂「そんなこと、私、出来ません!」
有坂「やっぱり、科学者に事情を説明して 相談しませんか?」
生田(ど、どうしよう・・・! ここは、会長に言われた通りに・・・)
生田「も、もし「ユメオイビトノハナを切る 係」を断れば、この町に居られなくなると 思います」
生田「マ、マキエ会長は力のある方ですから」
〇古いアパートの一室
有坂家
息子・彰の部屋
有坂「あら、起きてたの、彰? 具合はどう?」
彰「ふぅ、ふぅ・・・ 頭が痛いよ、ママ・・・」
有坂「まだ熱が下がってない! お薬は飲んでるのに・・・」
有坂「まさか、ユメオイビトノハナのせい?」
有坂「もし、このままもっと悪くなることが あったとしたら・・・?」
〇狭い畳部屋
生田が借りている古民家
生田「ん? なんと!」
生田「有坂さんからの電話じゃないか!」
〇古風な和室(小物無し)
有坂「あ、生田さん? 遅い時間にごめんなさい、 有坂です!」
〇狭い畳部屋
生田「ああ、有坂さん! 全然大丈夫です! 起きてましたし!!」
〇古風な和室(小物無し)
有坂「なら良かった。 ユメオイビトノハナの刈り方について お聞きしたいことが・・・」
〇狭い畳部屋
生田「ユメオイビトノハナの茎はとても 硬くて、切り落とせるようなものでは ないんですが、」
生田「花が咲く直前になると、軟らかくなって 切り落とせるようになります」
生田「今日、有坂さんが見た ユメオイビトノハナは、花が咲く 直前ではありませんでしたか?」
〇古風な和室(小物無し)
有坂「ええ、蕾がもうだいぶ大きく 膨らんでました」
有坂「じゃあ、今なら切れるんですね?」
〇狭い畳部屋
生田「はい・・・」
〇山道
村山「この辺りだったわね・・・」
村山「もうそろそろ咲く頃よ!」
〇けもの道
・・・どうやら、この画面には
ユメオイビトノハナの植物は
うまく映らないらしいです
なので、代わりに、
ユメオイビトノハナの
精霊を映すことにします・・・
有坂「ユメオイビトノハナ・・・? 昼間より、大きくなってる!」
有坂「大丈夫よ・・・! 私、やれるわ!」
生田「有坂さん!」
有坂「生田さん!?」
生田「俺がやります。 最初からそうすべきだった!」
生田「・・・って、どこにあります? ユメオイビトノハナ?」
村山「ユメオイビトノハナが見えないって?」
生田「え?村山さん?」
村山「どうも。こんばんはぁ。 あなたがリバック星人だったのね、 生田くん!」
生田「え?」
村山「私はねぇ、地球外にいる 宇宙人の声が聞こえるのぉ」
村山「二か月ぐらい前に、二人のリバック星人が」
村山「どこか地球の外で話していたのも 聞かせてもらったわぁ。 この町に来るっていう話」
村山「その内の一人が、生田くんだったのねぇ」
村山「その情報を、ある筋の人たちに売ったの。 高く売れたわよぉ!」
村山「で、その人たちが、この辺りに ユメオイビトノハナの種をまいたのよ」
村山「それでね、私、思ったのぉ。 リバック星人を捕まえて彼らに 引き渡せば、」
村山「もっと高い報酬が得られるんじゃ ないかって!」
村山「リバック星人の生け捕りよぉ!!」
生田「・・・!!」
有坂「・・・!!」
マキエ会長「あら、こんばんは。 村山さん、有坂さん」
「マキエ会長!?」
マキエ会長「そう、あなた、不思議な力を 持っているのね、村山さん。 気付かなかったわ・・・」
〇けもの道
マキエ会長「実は、私もね、不思議な力を 持ってるの」
マキエ会長「例えば、人の記憶を書き換えるとか・・・」
「・・・!!」
マキエ会長「あなた、あなたが持ってる能力のこと すっかり忘れることになるわ・・・」
マキエ会長「リバック星人のことも、その筋の 人たちのことも、何もかもね」
マキエ会長「さあ、これでよし」
マキエ会長「では次は・・・」
マキエ会長「有坂さんに、ユメオイビトノハナを 切ってもらうわ。 私たちには見えないから」
有坂「私たちにとって不幸の花っていうのは、 本当なんですか?」
有坂「切れば、私の息子の体調は 良くなりますか?」
マキエ会長「・・・あなた次第じゃない?」
ユメオイビトノハナの精霊だ!
有坂「わかりました・・・!」
生田「えっ、有坂さん!!」
〇田園風景
〇役所のオフィス
村山「生田くん、おはよう 暑いわね!」
生田「あ、村山さん! そうですね・・・!」
生田(いつも通りの村山さんだ・・・)
有坂「おはようございます!生田さん!」
生田「あ、有坂さん・・・ おはようございます!」
生田(いつも通りの有坂さんだ・・・)
生田「息子さんの体調はいかがですか?」
有坂「すっかり良くなりました。 薬が効いたんだと思います!」
マキエ会長により、リバック星人に関する
有坂、村山の記憶は完全消去された。
また何気ない日常が始まる。
大田(生田・・・、私の前では あんな顔しない・・・!)
〇魔王城の部屋
マキエ会長「ふふっ」
終わり
ユメオイビトノハナというネーミングがなんとも皮肉がきいてていいですね。それが幸追町に咲いてることも。リバック星人には見えないから人間に切らせるという設定も凝っています。摩訶不思議な世界観の大人のための童話という感じで面白かったです。
進展していくストーリーと、進まない男女の関係性…。
なんとももどかしい!
恋の方もなんとか進展してほしいと思ってしまうのは世話焼きでしょうか。
地球への移住を目論む異星人と、田舎の観光協会という取り合わせが生み出す空気感にやられました!後半のまさかのストーリー展開も含め、読み返したくなる魅力がありますね!