第三話 願いの対価(脚本)
〇学校の廊下
江藤拓真「・・・は? なにそれ。誰もいない教室から出てきたからって俺が犯人なわけ?」
比嘉恭一「・・・・・・」
江藤拓真「そんなの、俺以外にもいるんじゃないの? ってゆーか、俺がなにかするとこ見たの?」
比嘉恭一「・・・いや、見てない」
江藤拓真「変なこと言うのやめてくれよ」
まくし立てるように言って、足早にその場を去った。
比嘉はもう引き留めてこなかった。
〇個室のトイレ
思っても見なかった事態に、心臓がバクバクしている。
江藤拓真(誰にもバレないように指令を達成できてたと思ったのに、比嘉に見られてたなんて・・・)
江藤拓真(俺が犯人だって、確信を持ってるわけじゃないとしても、きっと比嘉は俺のことを疑ってる)
江藤拓真(もうこのサイトを使うのはやめた方がいいんじゃないか・・・?)
履歴を消して、このサイトのことは忘れた方がいいのかもしれない。
そう思った時、携帯が震えて、メールの受信を知らせた。
好きなアイドルのライブが決まったというメールだった。
江藤拓真「えっ、ライブ! 絶対、行きたい!」
江藤拓真「あー、でも、チケット取れるかな・・・」
人気アイドルだから、チケットはきっと争奪戦になる。
絶対に行きたい、と思った時に、サイトに願い事を書けばいいんだ、と思った。
江藤拓真(馬鹿正直にチケットの争奪戦する必要なんてないよな・・・)
江藤拓真(今まで以上に気をつけてやればいいんだ・・・)
サイトを開いて、願い事を入力した。
〇黒
『試験で学年トップになりたい』『スポーツ大会で活躍したい』。
サイトは願いを叶えてくれた。
でも、ちょっとした願い事をしていた時と違って、『盗んでください』とか『壊してください』という指令になった。
正直、ヤバいんじゃないかという考えは頭をよぎった。
だけど、こんな簡単なことで願いを叶えてもらえるなら、とも思った。
江藤拓真(誰にもバレないように、うまくやればいいんだから・・・)
〇教室
男子生徒「くそっ、見せつけやがって」
誰かの声が聞こえてきて、顔をあげると、比嘉が可愛い女の子と話していた。
二人の距離は近くて、女の子はずっと比嘉に可愛い笑顔を向けていて、誰が見ても恋人同士だ。
男子生徒「女子から告白されて付き合ったらしいぞ。あんな可愛い女子から告白って! イケメンはいいよな」
江藤拓真(恋人。そうだ、彼女だ。彼女が欲しい。サイトに書けばすぐに叶うのに、なんで今まで思いつかなかったんだ)
江藤拓真(彼女が欲しいって入力するか? いや、そんな願い事でいいのか? 願えばなんだって叶うのに)
もっと、もっとなにか、比嘉に見せつけられるような・・・と考えて、夏海アズのことを思いだした。
江藤拓真(芸能人の夏海アズが彼女になったら・・・、比嘉だってできてないことができれば・・・)
〇屋上の入口
放課後、まわりに人の気配がないことを確認して、サイトを開いた。
『夏海アズから告白してほしい』と入力する。すぐに指令が来た。
江藤拓真「『クラスメイトからひとり選んで、ケガをさせてください』・・・全治二カ月以上!?」
今までの指令みたいに、誰かの物を壊したり、盗んだりするくらいで済むのかと思っていた。
江藤拓真(ケガさせろなんて・・・そんなのできるわけないだろ・・・)
制限時間は三十分以上ある。だけど、時間はどんどん減っていく。
江藤拓真(はやくやらないと間に合わない・・・。いやいや・・・ケガさせたら、さすがに大ごとだろ・・・)
江藤拓真「この願い事は諦めないと・・・」
江藤拓真(でも、この願い事を諦めたら、今までに叶えてもらった願い事もなくなる・・・)
江藤拓真(なくなるだけじゃない・・・悪い結果になる・・・)
江藤拓真(どうする・・・どうすれば・・・)
江藤拓真「だいたい、全治二カ月以上のケガってどのくらいだよ」
江藤拓真(あの階段から足を踏み外したら、そのくらいのケガになるか・・・?)
今いる特別教室棟にある階段には、ちょうど横に、体を隠せるスペースがある。
江藤拓真(もし、偶然クラスメイトが通りかかったら、横から背中を押すだけで、指令が達成できるんじゃないか?)
考えてみる。ちょっと背中を押すだけ。それだけでいいんだ。
それだけで、夏海アズと付き合える。
ここで願い事を叶えてもらわなかったら、もう夏海アズと付き合えることなんて、ないかもしれない。
江藤拓真(もし誰か、クラスメイトが通りかかったら、そいつの運が悪いんだ)
江藤拓真(誰か来たらやろう。誰も来なければ・・・諦めればいいんだ)
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