〇荒廃した教会
　　・・・泣いてる
　　どうして？
　　ディフェル？
　　思い出せない
　　どうして君が泣いているのか分からない
　　ここは・・・？
　　今は・・・

〇黒
　　お兄ちゃん、どうして
　　・・・してくれなかったの？

〇城の会議室
　　おい、聞いてるのか
　　ノエル！
ケイン「おいっ！ちゃんと聞け！」
ノエル「は、はい！」
ノエル「申し訳ありません・・・」
ケイン「ったく、どうせまた妹の事でも考えてたんだろ？」
ノエル「あ、やっぱり分かります？ 最近ノエルってばかり呼ぶのに、たまに間違えてお兄ちゃんって呼んでくれる僕の可愛い妹のこと──」
ケイン「真面目に聞けっ!!」
ノエル「はい・・・」
ケイン「こんなシスコンが、我が帝国軍随一の魔導師だからな・・・」
ノエル「そしてその天才魔導師に引けを取らない天才魔剣士が僕の妹、ディフェルですね」
ノエル「勿論ちゃんと聞いてましたよ。 参謀本部長様」
ノエル「近日中に、11導師（イレブンマスター）が我が国に対して、大規模侵攻を起こす事が想定される」
ノエル「隣国に配備された奴らの魔導兵器を出来るだけ多く破壊し、侵攻を抑える、でしたね？」
ケイン「そうだ。 それを今夜、少数精鋭で実施する」

〇基地の広場（瓦礫あり）
　　──魔導師、ノエル
　　
　　魔導兵器に頼る事なく、あらゆる魔術を使いこなせる天才魔導師。唯一の弱点はフィジカルの弱さだが・・・
　　──魔剣士、ディフェル
　　
　　剣術と魔術を同時に繰り出す事により、予測不可能な攻撃を得意とする。
　　通称、無血のディフェル。
　　──魔剣士、フレイ
　　
　　本来は人類の敵である魔獣とのコンビネーションを活かした索敵と剣術を得意とする、オールラウンダー。

〇城の会議室
ケイン「お前たち３人と、撹乱用の魔導兵器10体」
ケイン「出撃許可が降りているのはそれだけだ」
ノエル「まあいつも通りですね。全面的に信頼されているんだか、厄介払いしたいんだか・・」
ケイン「お前がいなくなって困るのは我が軍だ。そう考えすぎるな」
ケイン「目には目を、怪人には怪人を、だ」
ケイン「連日の濃霧で視界が悪いが、お前達にとっては都合が良い筈だ。頼んだぞ」
ノエル「そうですね・・・」
　　この戦乱の間だけは・・・
　　僕（怪人）も、
　　無血のディフェルも、
　　英雄なのだろう。
ノエル（ま、落ち着いたら、早々に退職金貰って、ディフェルとのんびり田舎暮らしだな！）
ケイン「ん？何か言ったか？」
ノエル「いえ！ では、今夜の準備をしてきますね」

〇荒廃した教会
　　──11導師（イレブンマスター）
　　マスターと呼ばれる謎の男が率いる組織であり、11の怪人とその配下で構成されている。
　　『人類の救済のための導（しるべ）』を掲げ、その導に反する『咎（とが）』をもつ者を、容赦無く殺戮する。
　　『咎をもつ者』とは、人を呪う者、憎悪する者、無知である者、堕落した者、裏切る者、演じる者、傲慢なる者、執着する者・・
　　即ち、殆どの人類が殺戮の対象であった。
　　11導師に導かれてなお生き残った人類にこそ、真に価値があると彼らは主張する。
　　現在、帝国から最も危険視されているテロリスト集団である。
　　11導師こと怪人達に手を焼いた軍部は、自分達の戦力として、怪人を加えるべきだと政府に進言した。

〇黒
　　『魔石』
　　膨大な魔力を蓄えた宝石であり、魔導師も魔導兵器も、そして怪人も、この魔石を利用している。
　　『魔石』を使える人間は限られており、『魔石』が人を選んでいるかのようであった。
　　そして『魔石』は、所有者に人並み外れた肉体と魔力を与える事がある。
　　『まるで怪人』
　　『これは祝福』
　　人類はそれを『怪人』と呼び、
　　11導師はそれを『祝福』と呼んだ。
　　政府も11導師も自らの理想のため、
　　『魔石』に選ばれる人間を手に入れる事に躍起になった。
　　僕はかつて
　　怪人に襲われたディフェルを庇い瀕死になり
　　長い眠りについていた。
　　ディフェルがそんな僕の胸元に
　　母の形見である宝石を置いたらしい。
　　それをきっかけに僕は目覚めた
　　ノエルとして
　　怪人として

〇黒
　　お母さん・・・
　　お兄ちゃんを起こして！

〇ストレートグレー

〇基地の広場（瓦礫あり）
　　──隣国城壁近く
フレイ「もう怪人化してんのかよ、ノエル 目立つじゃねぇか」
ディフェル「いや、普段のノエルはトロいから怪人の方がマシ。 怪人なら機動力が高いから身を隠しやすい」
ノエル「はは！ 優しいな、ディフェルは！」
（・・・違う）
フレイ「お前たち、偵察はどうした？」
魔犬「グゥゥ、ワゥ、ワゥ！」
フレイ「なに!?」
フレイ「ノエル、ディフェル！ まずいぞ！ 魔導兵器も兵士達もいねぇ、既にもぬけの殻だ！」
ノエル「は!? 軍の偵察はどうなってるんだ!?」
ディフェル「・・・第３導師（マスターⅢ） 霧などの幻影術を用いて撹乱するのが得意と聞いた」
フレイ「詳細は分からないが、奇襲をかけられているのは、帝国軍って事だ!! ノエル、ケイン参謀長に連絡してくれ！」
ノエル「ああ！」
ノエル「くそ・・・ 応答がない・・・」
ディフェル「連絡を待っても仕方がない！ 帰還しよう！」
「ああ！」

〇荒廃した街
　　──第３導師（マスターⅢ）
　　幻影術を得意とし、11導師の兵器と配下を濃霧に紛れさせ、帝国近くに配備させた。
第3導師「ふ・・・ 帝国軍で唯一祝福された者、ノエルがいない今宵こそ、我らが待ち望んでいた好機」
　　──第５導師（マスターⅤ）
第5導師「帝国軍とはノエル抜きではこんなにも腑抜けだったとは、嘆かわしい」
　　──第10導師（マスターⅩ）
第10導師「上手くいったようだな」
第3導師「クク、お前が帝国の情報を流してくれるからな」
第10導師「ノエルはもうじき戻る。 私が30分ほど時間を稼ぐから、帝国軍の研究所から魔石と被験体達を回収しろ」
第5導師「ノエルと１体１で30分？大丈夫か？」
第10導師「問題ない 闘うだけが時間稼ぎではないさ」

〇荒廃した国会議事堂の広間
　　──帝国軍参謀本部
ディフェル「ここもか、早いな・・・」
参謀幹部「ディフェル!!」
参謀幹部「お前たち！一体どこへ行っていた!?」
ディフェル「私とノエルとフレイは、ケイン本部長の特命で、隣国へ向かっている所でした」
参謀幹部「ああ、お前たちがいない間を狙っての奇襲だ！どう考えても情報が漏れている！」
ディフェル「情報漏洩の対応については私の専門ではありませんので、失礼しま──」
参謀幹部「待て！お前たち兄弟は、そもそも最初から胡散臭かった！かたや怪人、かたや人間でありながら怪人並みの化物だ！」
ディフェル「私達は軍に入りたいなんて一言も言っていない。半強制的に入隊させたのはそちらです。今更何を・・・」
　　愚者との会話は何も生まない
　　
　　その男を静かにさせて
ディフェル「・・・・・・・・・」
参謀幹部「な、何──」
参謀幹部「あ・・・ぁ」
ディフェル「咎持ちが・・・」
ノエル「ディフェル!!」
ノエル「怪人がいたのか？ 凄い音が・・・」
ディフェル「ええ、怪人が彼を殺した」
ノエル「ディフェル・・・その血は・・・」
ディフェル「言ったでしょ？ 怪人が彼を殺したのよ」
ノエル「うっ・・・」
ノエル「ディフェルが、怪人・・・？」
第10導師「そう 貴方が目覚める前から、私は怪人だった」
第10導師「貴方はノエル、私の敵」
第10導師「そして私は第10導師、貴方の敵よ」

〇荒廃した街
第10導師「私に兄はいない 10年前に、私を怪人から庇って死んだ」
第10導師「さようなら、ノエル」
ノエル「クッ！」
ノエル「君が怪人だとして、なぜ僕と闘う必要がある？」
ノエル「君は、僕が目覚めるのを待っていてくれたじゃないか！」
ノエル「僕は、意識はなかったけど・・・ 君を守れなかったんじゃないかって、ずっと悪夢を見ていたような気がしていた・・」
ノエル「でも目覚めたら君がいたから・・・ 凄く嬉しかったんだ！」
第10導師「・・貴方は私が持つ魔石に祝福され、魔石を持たないまま魔導の力を得た」
第10導師「だから何も分かっていない・・・」

〇荒廃した教会
　　お兄ちゃん！
　　お願い！起きてよ!!
　　お願い!!
　　死なないで!!
　　僕達がまだ幼い頃
　　ディフェルが怪人に襲われていて、
　　僕は咄嗟にディフェルを庇った
　　怪人の爪で身体を引き裂かれたのを覚えている
　　そうだ──
　　ディフェルはどうやって僕を・・・？
ディフェル「お兄ちゃん！ 今、お母さんを呼ぶから！」
　　──母さん？
　　違う、母さんはその時既にいなかった・・・
　　まさか、僕を助けようと・・・
　　母さんの形見の宝石、いや魔石を・・・
　　魔石に選ばれた人間
　　──ディフェルは、あのとき既に
　　そうか
　　僕は君を守れなかったんじゃないか
　　お兄ちゃん・・・
　　あれは悪夢じゃない
　　現実だったんだ
　　僕のせいで、君を魔石の奴隷にしてしまったんだ
　　君をずっと泣かせてばかりだったんだ
　　ずっと・・・
　　ずっとずっと・・・
　　独りで・・・

〇荒廃した街
ノエル「そうか・・・ 君が怪人になったのも、そうやって魔石に囚われたのも、僕のせいだね・・・」
第10導師「全ては『魔石』に導かれたこと、運命よ」
第10導師「『魔石』は、祝福された魔導師の魂の残渣。人を選び、再び同じ魂の元へと還ってくる」
第10導師「だから私にはかつての魂の記憶がある、他の11導師も同じよ」
第10導師「自然淘汰も起きずに愚かな人類ばかりが生き残るこの世界を、みんな憎んでいるの」
第10導師「なのに、貴方だけは何も覚えていない！」
第10導師「魔石に祝福されながら、貴方は無責任にその恩恵だけを受けている！」
ノエル「なあディフェル・・・」
ノエル「それは君が言いたい事なのか・・・？」
ノエル「それとも魔石が言いたい事なのか・・・？」
第10導師「なっ!?」
第10導師「どちらも同じ事！ 共鳴する魂に引き継がれた運命なんだから」
ノエル「ふ・・・ じゃあ運命を引き継がれなかった僕は、それもまた魔石の導きだね？」
第10導師「屁理屈・・・」
ノエル「だって僕の運命だ！ 僕が決めるよ」
ノエル「さっさと軍を引退して、ディフェルと田舎暮らしをするってね！」
第10導師「もういい・・・」
ディフェル「時間は十分稼いだ・・・」
ノエル「ディフェル!!」
ノエル「今度は僕が 君を助けに行くから!!」

〇基地の広場（瓦礫あり）
第5導師「随分時間を稼いでくれたな」
佐助「大丈夫か？」
ディフェル「問題ない・・・」
佐助「こっちは問題大アリだ。 帝国軍の奴ら、随分手ぬるいと思ったら、研究所に兵士を固めてやがった」
佐助「お陰様で肝心の魔石も被験体もまともに回収出来なかった」
佐助「街と民衆より、研究所を守るとはな・・・ やっぱりロクでもねぇ奴らだわ」
ディフェル「ああ・・ 仕切り直しだ。 マスターの元へ向かおう」
佐助「──11導師に告ぐ ノエルが戻ってきている 全員撤退だ」

〇城の会議室
　　──11導師の奇襲により、甚大な損害を受けた帝国軍
　　なりふり構っていられなくなった事から
　　極秘下で実施していた研究をついに明らかにした。
フレイ「後天的魔石適合者、つまり人工怪人を産み出す技術、ね」
フレイ「確かにこっちはお前しか怪人がいない。 だからといってな・・・」
ノエル「怪人化の被験体を募集しているらしいが、その前にも強制的な被験体がいた事は明らかだ」
ケイン「ああ、こんな事を続けさせてはいけない」
ノエル「僕達が11導師を終わらせればいい」
　　そして、ディフェルを──

〇荒廃した教会
　　僕の、途切れた運命は
　　きっとディフェルが創り出してくれたんだ
　　多分何度も失敗したんだ──
　　この魂も君の魂も──
　　自らの魂（呪い）を引き継がせ、怪人化させる
　　そんな傀儡のような運命は終わらせる
　　僕たちが救いたい人達を救うために
　　ディフェルが掴んで、僕に渡してくれた運命

〇朝日
　　行こう
　　この先
　　ディフェルが泣かなくてもいいように
　　この先
　　何も呪いを引き継がない世界へ
　　────Link Error────