a li sa(脚本)
〇病室(椅子無し)
みあの事故から、うつ病が再発して悪化。約2ヶ月入院をしている。
入院して間もない頃には、自殺をしようともした。隔離室にも約二週間入っていた。
入院し始めた頃の記憶は今でも思い出せない。それに今は、服薬している薬の副作用もあって、体はだるく、物事に集中も出来ない
私はただ生きているだけだった
〇病室(椅子無し)
私の大切な人は皆亡くなっていく
ケンさんは大丈夫なのだろうか。私は自分の存在を否定し、全ての事が不安になっていた
そして気がついたら、私から感情が消えていた
〇病室(椅子無し)
ケンさん達は頻繁に面会に来てくれるが、それもいつか、誰も来なくなるようで不安だった
色々な話をしてくれるが、薬の副作用からか、頭の中にはほとんど入っていかない
「みあ」という言葉には反応してしまうが、いい話は一つもなかった
〇橋の上
みあが湖に落ちた後、私は過呼吸になり、その場で倒れてしまったため、そのまま救急車で運ばれていった。
救急車にはケンさんが一緒に乗って、連れ添ってくれた
そして湖ではみあの捜索が始まった。ダイバーも湖の中に入って、懸命に探してくれていた
しかし、みあは見つからなかった。捜索は何日か行われたが、早々に打ち切りとなった
単に見つからなかったからだけではなく、みあは身元が不明だったため、調べようがなかったのだ
〇一軒家
みあは体が見つからないまま亡くなった人となった。身元も分からないみあ。
葬儀も上げられず、カモミールと杉の森学園では葬儀の真似事のような事が行われた
現場にいたミモザも、後からショックが発作として現れたため、数日間入院をしていたらしい
毎晩ミモザにキーボードで演奏をしていたみあ、それに癒されていたスタッフも皆、悲しんでいた
〇レトロ喫茶
「春近し」はいつも混んでいたが、オルガンは再び布を被った
営業時間も短くなった。いつのまにか、みあは2人の子供のようにもなっていたから、マスター達も相当辛いようだった
〇病室(椅子無し)
悲しんでいる皆の話は、いつもケンさんが教えてくれた
私が教えてほしいと言ったから。私と同じように皆がみあを思ってくれている事が、少しだけ自分を救ってくれていたから
ただケンさんには申し訳なかった。優しいケンさんはいつも涙ながらに話してくれていたから
〇病室(椅子無し)
私の退院の目安は3ヶ月と言われていた
。しかし毎日がだるくてしんどかった
そのため、1日のほとんどをベッドの上で過ごしていた
作業療法士というスタッフからは、日中に行っている活動に参加するよう言われていたが、とてもそんな事は出来なかった
〇レトロ喫茶
毎日ベッドの上で過ごす私を元気づけようと、ある時ケンさんが外出手続きをして、「春近し」に連れていってくれた
でも私は行きたくなかった。マスター達に申し訳なかったから
久しぶりに見たマスター達。元気はなく、顔も少しやつれていた
アリサ「パパマスター、マママスター、ごめんなさい。私のせいでみあが・・・みあが・・・」
それまで止まっていた私の感情。今度は悲しみが止まらなくなってしまった
マママスター「違うわアリサさん、連れていったのは私達の方じゃない。私達こそごめんなさい」
マスター達に私にケンさん、そろって涙してしまったものだから、お客さん達は早々に帰ってしまった
〇アパートのダイニング
病院に戻る前に、カモミールにも寄った
ミモザが泣きながら走ってきて、私に抱きついた
ミモザ「アリサ、早く帰って来て。毎日毎日寂しくて。みあさんがいなくなって、アリサもいなくなって・・・」
ミモザ「みあさんが好きだった音楽が、私にはあんまり分からないの。アリサ、早く帰って来て、みあさんの音楽を聴かせて」
雪乃は泣きながら手紙を持ってきた
手紙に書かれていた事。みあは私を守って亡くなったのではなく、私に何かを託したのだと
身元が不明で正体も不明なみあ。最後にアリサを助けて亡くなった事には、きっと何か意味があるのだと
入院している私と違って、遺体のない別れを体験した雪乃やミモザ。私よりももっと悲しかったかもしれない
二人はそれでも、前に進むことを考えようとしていた
アリサ「二人ともありがとう。私、頑張って元気になって、またカモミールに戻ってくるから」
二人と約束して、私はケンさんと病院に戻った
〇病室(椅子無し)
翌日から私は、病院で行われるプログラム活動にも参加をするようになった
体は正直しんどかった。しかしミモザや雪乃の気持ちを受け止めたかったから頑張った
カラダを動かす体操などはしんどく、映画鑑賞などのプログラムでも、集中力が保てなくなっていた
活動は他にも、散歩や創作活動等の余暇や、調理等、独り暮らしに必要なメニューも行った
最初のうちは、体かしんどくて辛かったが、少しずつ気持ちも体も馴れていった
〇病室(椅子無し)
私が元気になることで、ケンさんも笑顔が増えていった
時々来てくれる岡田さんも同じだ。岡田さんはケンさんの気持ちより、雪乃の考えに似ていた
みあが引き寄せた仲間達だが、皆はいつからか、私とみあを姉妹のように見ていたようなのだ
でも私が元気になっても楽器は弾けない。英語の音楽も歌えない。私はどうしたらいいんだろう。誰よりも、みあに相談をしたかった
〇大教室
毎日色々なプログラムで行われる活動。その日は「音楽」で、地域にある作業を行っている施設と合同で行う交流会だった
みあが好きだった「音楽」。でもワクワクはしなかった。どちらかと言えば。少し冷めていた
みあが好きな歌。みあが選んでくれる歌は、いつもどこか特別だった。でも病院等での「音楽」は正直期待出来なかった
〇大教室
年上だけど若い女性が部屋に入ってきた。この日のために来たボランティアさんだ
その人はギターを持ってきていて、事前に病院から貰っていたリクエストの曲を弾いていた。
皆はその曲に合わせて歌いながら、楽しんでいた
しかし入院患者さんからのリクエストは、それほど多くなかったようだ
1時間程して、10分程度の休憩が入った
〇大教室
再開後、その人は自分の話を少しだけしてくれた
その人も少し、精神的に体調を崩していた時期があった事など。そして好きな音楽の事も
実は洋楽が好きなのだが、1曲だけ好きな邦楽の歌があるのだとか
休憩後、最初に弾いてくれたのはその曲。堀下さゆりさんの「さくら」だった
〇水たまり
♪この桜が大きくなりし頃 ここには誰もいないでしょう それでも桜は 遠い遠い春を乞い春に散るのでしょう♪
私はみあの事を思い出した。涙がポロポロとこぼれていった
私の涙にボランティアさんが気がついた。そして「ごめんなさい」と私に謝ってきた
私は首を横に振った。ボランティアさんの歌が心に響いた事、亡くなった大切だった人を、思い出した事を伝えた
ボランティアさん「そうなの・・・少し気分を変えましょうか?時には空気の入れ換えも必要だから」
そう言ってボランティアさんが弾きはじめた音楽は、小野リサさんのボサノバだった
〇幻想空間
「音楽」が終わった後、ボランティアさんが私のところに来て、自身が体調を崩した時の事を話してくれた
ボランティアさんには、妹のように仲の良かった猫がいた。でもある時、車の交通事故に遭遇
ボランティアさんは、猫を傷つけないようにカゴごとお腹に抱き抱えた
体は車とぶつかり、勢いよく数メートル先まで吹き飛ばされた
守るために抱き抱えた猫のカゴ。しかし飛ばされた先でそのカゴはクッションとなり、ボランティアさんの体は守られた
しかしクッションとなった猫は、そのまま命を落としてしまったのだった
〇風
そんなはずはないのに・・・そう考えながらもため息のように言葉が漏れた
アリサ「音感好きの白い猫・・・名前はリサ」
なな「えっ、なんでリサを・・」
静かに動き出す、小さな変化の瞬間を感じた
あ…あ…(語彙力消失)