世界最後の日に、ぼくはきみに恋をした

喜多南

#1 滅亡のカウントダウン(脚本)

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喜多南

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〇荒廃した街
  エイジはその日、久しぶりに街に出てきていた。
  ──瓦礫の山。死体の山。見上げる青空には禍々しい隕石が見える。
エイジ(ずいぶん大きくなったな・・・)
???「──助けて・・・っ!」
エイジ「え?」
少女「あ、あいつらが、追いかけてきて!」
  唐突に腕をつかまれ、エイジが振り返ると、見知らぬ少女が息を荒げていた。
  後方から、男たちが数人迫ってきている。
エイジ「・・・きみの知り合い?」
少女「知らない! いきなり襲ってきて・・・」
暴漢A「おいおい逃げるなよ~?」
暴漢B「俺たちと遊ぼうぜ」
少女「お願い、助けて!」
エイジ(ああもう・・・面倒だけど仕方ないな)
エイジ「すみません、こいつ僕の連れなんで勘弁してもらえます?」
暴漢A「あ? なんだお前」
暴漢B「殺されてえのか」
エイジ「・・・そっちがその気なら、やるしかない」
エイジ「それなりに護衛の手段は持ってるんだ」
暴漢A「ほ、本物か・・・っ?」
暴漢B「へっ、どうせにせもんだろ」
エイジ「試してみる?」
暴漢A「ちっ、行くぞ!」
エイジ「はぁ、びびった・・・でも案外あっさり諦めたな。ただのモデルガンなんだけど」
少女「あの、助けてくれてありがとうございましたっ!」
  向き合った少女が、深く頭を下げてきた。
  背中に大きなクラシックギターを背負っていることに気づき、エイジは顔をしかめた。
少女「私、キョウっていうんだ。 えっと、あなたは──」
エイジ「・・・別にきみと仲良くなるつもりはない」
エイジ「たまたま見かけて、巻き込まれただけだから」
エイジ「死にたくないなら、日中ひとりで出歩かない方がいいよ」
エイジ「取り締まる人間なんてもういないから、みんな犯罪し放題なのわかってるだろ」
キョウ「・・・・・・」
エイジ「・・・あの、話聞いてる?」
エイジ(なんだ? 僕の顔じっと見て・・・嫌な予感がする)
エイジ「じゃあ僕はこれで・・・」
キョウ「・・・あなた、エイジさん!?」
エイジ「なんで僕の名前・・・」
キョウ「やっぱりエイジさんだ! うわぁっ、すごいすごい!」
エイジ「人違いじゃないか?」
キョウ「ううん、絶対そうだよ! だってこれ見て!」
  キョウは提げていたカバンから、古びた雑誌を取り出して見せた。
  雑誌の表紙はエイジその人が飾っている。
キョウ「作曲家のエイジさんですよね!」
キョウ「私、エイジさんが同じ年でプロの作曲家になって活躍してたのを、ずっと追っかけてたの!」
  目を輝かせて、キョウは作曲家エイジの特集ページをペラペラとめくっていく。
  何度も開いたらしく、擦り切れてボロボロになっていた。
キョウ「中学生で再生回数百万越え連発して、打ち込み系の天才としてメジャーデビュー!」
キョウ「デビュー後も若い子たちのカリスマとして、ヒット曲を連発!」
エイジ「読みあげるなよ・・・」
キョウ「ふふっ、読まなくても全部覚えてるよ」
キョウ「私も作曲家になりたくて、エイジさんにずっと憧れてたから」
エイジ「作曲家になりたいって・・・今の世界の状況わかってる?」
キョウ「ん?」
エイジ「ん? じゃなくて。世界はもう滅亡寸前なんだぞ」
エイジ「政府が一年前に発表した情報によると、あと四日で隕石が地球に到達する」
エイジ「何年も前から小さな隕石が大量に降ってきてて、世界を壊し始めてたけど」
エイジ「いま空にあるのは、そんな規模じゃないの見りゃわかるだろ」
エイジ「こんな世界の端っこにあるような田舎町まで、もう絶望に染まってるんだよ」
キョウ「だからこそ、会えて嬉しい!」
エイジ「は・・・?」
キョウ「だって、会えると思ってなかったから! これって運命かな!?」
エイジ(なんなんだこいつ・・・こんな状況なのに目をキラキラさせて・・・)
エイジ「・・・とりあえず騒がないでほしいかな。注目浴びたら、また暴漢に襲われるかもしれない」
エイジ「ところできみ、なんで追いかけられてたんだ?」
キョウ「ちょっとストリートライブをやってて」
エイジ「ストリートライブって・・・」
エイジ「今生き残ってるのは、僕を含めみんなひっそり隠れてるやつらばっかりだ」
エイジ「そんなことしてたら襲われるに決まってる」
キョウ「でも、ギター弾き語りすると、食糧や水をわけてくれたり、優しくしてくれる人たちも多かったよ」
キョウ「私はそれで生き延びてこれたわけだし」
エイジ「そんな生き延び方してるヤツもいたのか・・・」
キョウ「うん。だからね、このギターは私の命綱なんだ」
キョウ「もっともっと良い曲を作って、みんなに聴いてもらいたい!」
エイジ「ああそう、ま、頑張って・・・」
キョウ「エイジさん、私の師匠になってください! お願いしますっ!」
エイジ「あのさ、だから──」
キョウ「私と一緒に曲を作ってください!」
  笑顔のキョウが発した言葉に、エイジは瞬間で頭が真っ白になった。
  動悸が激しくなり、呼吸がうまくできなくなる。
エイジ「・・・っ」
エイジ(息が・・・苦しい!)
キョウ「エイジさん? え、あれ、どこ行くの!?」
  エイジはキョウを振り返らず、その場から逃げ出した。

〇荒れた倉庫
エイジ「はぁ・・・はぁ・・・」
エイジ「うまくまけたか・・・?」
キョウ「エイジさん!」
エイジ「うわぁっ」
キョウ「なんだか具合が悪そうだったけど・・・どうして逃げちゃったの?」
エイジ「・・・お前と関わりたくないから逃げたんだよ!」
キョウ「えっ、どうして・・・?」
エイジ「逆に聞くけど、大騒ぎして嫌がられないと思ったのか?」
キョウ「ご、ごめんなさい私・・・エイジさんに会えて、興奮しちゃって」
エイジ「別に世界が終わるのは構わないけど、暴漢に殺されるのはごめんだ」
エイジ「誰かと関わると、注目を浴びて殺されるリスクが高まるだけだ」
キョウ「じゃあエイジさんは、ずっとここにひとりで・・・?」
エイジ「最初は、ここの店主に世話になってた。 もういなくなったけど」
キョウ「ここって楽器屋さん・・・?」
エイジ「ああ・・・ま、荒らされて焼かれた後だから使える楽器なんて残ってやしないけどな」
キョウ「ほんとだ・・・ひどい・・・」
エイジ「電気もガスも水道ももう機能してないんだ」
エイジ「そんな世界で、楽器を必要としてるやつなんてもういない」
キョウ「いるよ! ここに!」
  胸を張って言い放ったキョウに、エイジは冷たい眼差しを向ける。
キョウ「私のギターはまだちゃんと使えるよ。 チューニングもばっちり!」
エイジ「・・・ともかくさ、出てってくれないか。僕は短かすぎる余生を、なるべく静かに過ごした──」
  エイジは言葉を止める。キョウが提げていたギターを構えていたからだ。
エイジ「ちょ、きみ一体何する気・・・」
キョウ「私の作曲した曲を、エイジさんに聴いてほしい」
エイジ「待──」
  エイジの制止が間に合わず、キョウは右手に持ったピックで弦をかき鳴らし始めてしまう。
エイジ「・・・っ、やめろって言っただろ!」
キョウ「きゃっ」
エイジ「あ・・・っ」
  キョウの肩を強くつかんだことで、ボロボロだったストラップが切れ、ギターが遠くへ吹き飛んだ。
キョウ「ギターが・・・!」
エイジ(嫌な音がしたけど、まさか僕・・・壊しちゃったのか・・・?)
キョウ「・・・・・・」
  壊れたギターの前に屈みこみ、黙り込んでしまったキョウに、エイジはさすがに気まずくなった。
エイジ「あ、あの、悪かった。 まさか吹き飛ぶとは思わなくて」
キョウ「・・・ギター、壊れちゃった」
エイジ「うわ、ごめん・・・」
キョウ「私の命綱だったのにな・・・」
エイジ「責任は取るよ。なんとかする・・・」
キョウ「えっ、本当!? じゃあ、私と一緒に音楽を探しに行こうよ!」
エイジ「そんなこと言っても・・・楽器なんてどこにも・・・」
キョウ「楽器だけじゃないよ、音楽を探すんだよ! ギターを壊した責任、取ってくれるんだよね?」
  キョウは、エイジの方を見て心底嬉しそうな笑顔になった。
  エイジはその笑顔の眩しさに目を細める。
エイジ「ああもう、わかったよ・・・! 行けばいいんだろ!」
エイジ(こんな絶望的な世界に、まだ音楽なんて残ってるのか・・・?)

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