4番目の告白

邪悪なお坊さん

読切(脚本)

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〇綺麗な部屋
啓太「結婚してください」
  照れくさそうな声で男がつぶやいた。
由梨「え?」
  突然の言葉に女は驚いた。
啓太「あ、あ、あの。えっと、結婚しよう」
  ・・・・・・
  ・・・・・・
  ・・・・・・
  テレビから流れる人気の歌だけが聞こえる空間が、30秒だけ生まれた。
由梨「はい。よろしくお願いします」
  戸惑いながらも、女は嬉しそうに返事をした。
啓太「こんなところでプロポーズしちゃってごめんね」
由梨「謝らないでよ。ちょっとビックリしちゃったけど、うれしいよ」
啓太「ホントはいい感じのレストランを予約してたの。再来週の記念日に行こうと思って」
啓太「そこで指輪を渡してプロポーズするつもりだったんだけど、今一緒にお味噌汁を飲んでたら、どうしても我慢できなくて」
啓太「言っちゃった」
由梨「なにそれ。でも、そういうところが好き」
  男と女がいるのは1Rの部屋。女が数年前に借りたマンションだ。
由梨「どうする? このまま私の部屋に住み続ける? それとも引っ越す?」
啓太「うーん。本当は引っ越したいけど、俺さあ、お金ないから。 このまましばらくは居候させてよ」
由梨「うん、わかった。でもいつかはもっと大きな家にお引越ししようね」
啓太「しよう! しよう! そのために働くよ。ちゃんと就職する!」
  今度こそ、今度こそは有言実行してほしい。心の中で、そう願っていた。
  ちゃんと数えたことはないが、男が「就職する」と発言したのは今回でたぶん8回目。
  2人が付き合い始めて、もうすぐ3年。
  なかなか働かない男に若干の嫌気を感じつつも、なんとなく別れることができず、今日まで同棲という名の居候が続いている。
  なんで由梨ちゃんは、こんな男と付き合っているのだろうか。
  あ、由梨ちゃんというのは、この女の名前。世界一かわいい名前だと個人的には思っている。
  ちなみに、男の方の名前は忘れてしまった。
  啓介とか良太とか、100人に1人くらいのペースで出会いそうな名前だった気がする。
  由梨ちゃんには不釣り合いな名前であることは、間違いない。
由梨「え? 何?」
啓太「えっと。結婚するから、ちゃんと言おうと思ったんだけど」
由梨「うん」
  会話が一旦止まった。テレビからは、この空気には不格好な音楽が流れている。
啓太「別に今まで黙ってたわけじゃないんだけど・・・借金があって」
  由梨ちゃんは驚いた声を出すまでもなく、その言葉をしっかり受け止めた。
  実に意外性のない告白であったからだ。
由梨「いくらくらいあるの?」
啓太「いくらだったかなあ」
由梨「借金があるのは別に悪いことじゃないんだから、隠さなくていいよ。 一緒に返せばいいんだから」
啓太「ありがとう。優しいね。由梨ちゃんのことがもっと好きになっちゃった」
由梨「夫婦だもん。当たり前でしょ」
啓太「そうだね。夫婦になったんだもんね」
由梨「で、いくらあるの?」
啓太「ざっくりだけど・・・2000万」
由梨「え!」
  由梨ちゃんの驚く声が部屋中に響いた。
啓太「ごめん。やっぱり多いよね?」
由梨「うん、多い」
由梨「でも、夫婦だよ、私たち。協力すれば何とかなるよ! 節約して返していこうね」
啓太「由梨ちゃん・・・超~好き」
  泣きそうな声で男はつぶやいた。
  そういえば、由梨ちゃんの友達から前に聞いた話だが、昔からダメな男に引っ掛かりやすいんだそうだ。
  持ち前の優しさが仇になっているパターンだ。
由梨「あのね、私も言っておきたいことがあるの」
  由梨ちゃんの重々しい声が聞こえてきた。
啓太「何、由梨ちゃん?」
  男が心配そうな声で返事をした。
由梨「実はね、私、バツイチなの」
啓太「え!!」
  由梨ちゃんが驚いた声の2倍大きな声量で男が驚いた。
由梨「啓太くんと出会う前に1度結婚してて」
啓太「へー、あー、えーっと、そうなんだ」
由梨「DVがひどくて別れることになったんだけど・・・」
啓太「えっ。あ、大丈夫だから、俺が幸せにする。絶対に幸せにするから」
由梨「ありがと。それでね、実は子供もいるの」
啓太「え!!!」
  男がさらに大きな声で驚いた。
由梨「5歳の男の子で」
啓太「5歳・・・」
由梨「名前はトオル」
啓太「トオル・・・くん」
由梨「今は私一人で面倒が見切れないから、普段は実家に預けてて。 たまに会いに帰ってるの」
啓太「なるほど」
由梨「もし、啓太君がOKなら、トオルも一緒に3人で暮らしたいなって思って」
啓太「あ、うん。あー、うん。住もう! 俺たち家族だから、当たり前じゃん。 トオル君のことも幸せにするよ!」
由梨「ありがとう。啓太君なら良いパパになると思うよ」
啓太「良いパパかあ。全然想像したことなかったなあ」
  ほんの数十分の間に、結婚・借金・結婚歴、3つの告白が行われた。
  由梨ちゃんにとってこの男との結婚が果たして幸せへの入り口なのか、不幸への入り口なのかは、まだ誰もわかない。
  結婚歴はともかく、男の借金が重荷になることは間違いない。
  結婚しないほうが絶対にいいんじゃないか。多くの人はそう思うだろう。
  思っているよね?
啓太「それで、どんな人だったの?」
由梨「え? 何が?」
啓太「その、結婚してた人」
由梨「え、知りたいの?」
啓太「まあ、一応ね。知っておいたほうがいいかなと思って」
由梨「うーん。でも、あんまり思い出したくないなあ」

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コメント

  • いんやぁ!!!!良かったです!!!!
    「味噌汁を飲んでたらつい……」でのプロポーズ可愛いなと(思いましたが、徐々に明らかになっていくダメ男感やべぇすね……!😅)
    ナレーションお前かいっ!!!!!😭 怖っ!!!(いやぁ、素晴らしい✨)
    声優さんの演技も良かったですぅ……。

  • 最後は笑顔でも良かったかも

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