最後の戦い(脚本)
〇炎
スルト「シュルルルルル・・・」
スルトは蛙のように地面を這いつくばる。そして――。
スルト「グォォォオオオオオゥゥゥウウ!!」
全身に炎を纏い、洞窟の天上をぶち抜いて地上に飛び出した。
〇炎
頭上から雪崩のように岩が降り注ぐ。
ユーヤ「キャッ!」
タケル「危ないっ!」
俺は落ちてきた岩を両断する。
タケル「このままじゃ生き埋めだ!」
ユーヤ「大丈夫! 私に掴まって!」
タケル「あ、ああ!」
ユーヤ「浮游せよ・・・ラーファ!」
ユーヤが呪文を唱えると、2人の体が宙に浮いた。
ユーヤ「タケル! 手をっ!」
タケル「お、ととと・・・助かる!」
無我夢中でユーヤの手を掴む。すると体が不思議な光に包まれて体が宙に浮く。
ユーヤ「行くよ――!」
〇菜の花畑
ユーヤ「ふぅ・・・怪我はない?」
タケル「ああ、おかげさまで」
タケル「ひでえよな、毎度・・・」
土砂崩れを避けながら外に出ると、周りは火の海だった。
ユーヤ「・・・スルトはあそこだね」
スルト「ォォォオオオオオゥゥ!!」
炎の巨人が俺たちを見下げ咆哮を上げる。
タケル「く・・・っ」
かつて神と崇められたモンスターは俺たちを視界に入れ敵と見なしたのだ。
昨日感じていたものとは段違いの恐怖が俺たちを襲う。
ユーヤ「来るよ!」
〇菜の花畑
スルト「ゥゥゥォオオオオオ!!」
スルトは、腕を振り炎の斬撃を発生させる。
タケル「うわ! こんなのアリかよ!」
ユーヤ「下がって! ・・・盾よ、現れたまえ・・・」
ユーヤ「キューウィー!」
ユーヤは呪文を唱え光の盾を発生させる。
ユーヤ「くぅッ・・・タケル、今のうちよ!」
タケル「分かった!」
俺はスルトに向かって飛ぶように走る。
スルト「オオオオォォ!」
スルトは俺を見るなり、拳を振り上げ襲う。
タケル「遅いッ!」
その拳を、紙一重のところで飛び上がって避ける。
スルト「ゴォウ!?」
タケル「まずは足だっ」
タケル「はぁぁああああ!!」
俺は素早く背後に周り膝裏に一撃を食らわせる。
スルト「ウガッ・・・!!」
タケル(通った! 今度は左だッ!)
俺はそのままもう片方の足を崩そうとするが――。
ユーヤ「だめっ、下がって!」
タケル「!? わ、分かった!」
後に飛び上がり、受け身をとりながらスルトから離れる。その瞬間――。
スルト「ゴォォオオオオオ!!」
スルトの全身から肌を焼くほどの熱風が吹き出した。
タケル「あつっ! 何だこれ!?」
タケル「いった・・・ひでえヤケド」
左手の袖が焦げて、肌が黒くなっている。ひりつくような痛みを感じた。
ユーヤ「診せて、すぐ治す!」
ユーヤ「かのものを癒やしたまえ・・・アマタイ」
タケル「おお・・・痛くなくなってく・・・」
俺の腕は光に包まれ、瞬時に元に戻った。
タケル(一撃でこれか・・・)
これが、真正面から受けていたと思うと、背筋が凍る。あまりの力の差に絶望しそうだ。
ユーヤ「でも・・・今がチャンスかも!」
タケル「そうだな、援護頼む!」
ユーヤ「分かった!」
俺は集中力を研ぎ澄ませ、再び刀を構えた。
タケル「はぁッ!」
スルト「ゴォォオオオオオ!!」
タケル「来た・・・! 2度も通じるかよッ!」
タケル「ユーヤ!」
ユーヤ「任せて! 風よ鎧となれ・・・アマチャイ!」
俺の体に風の盾が出現する。これで熱風は跳ね返せるはずだが――。
タケル「・・・あれ、熱くない?」
流石に多少は熱くなると思ったが・・・全く感じなかった。
代わりに地震のように地面が波打って揺れたのを感じた。土埃があたりに飛散し、視界が悪くなる。
タケル「くそっ、目隠しか・・・」
どうやらアイツは、今までの奴らより頭がキレるらしい。
タケル「まあいい・・・次も貰うぞっ!」
俺はスルト目がけて突進したが──。
タケル「い、いない!?!!」
視界が晴れたときにはスルトはいなかった。
タケル「一体どこに・・・まさかッ!」
タケル「ユーヤ! そっから離れろっ!」
ユーヤ「えっ──?」
唖然とするユーヤ。おそらく、この状況が飲み込めていない。
タケル「今行くっ!」
俺は地面を蹴り、飛ぶようにユーヤの元に向かうが・・・。
スルト「ゴォォォオオオオオウウウウアアアアアア!!」
願いも空しく、スルトが地面から飛び出してきた。
ユーヤ「・・・! キーウィー!!」
咄嗟に盾を展開して、拳を受け止めるユーヤ。だが、スルトの拳にとって薄布同然だった。
タケル(先に切る──!)
それも、強力な魔法を込めて。俺は、呪文を脳裏に思い浮かべた。
タケル「ふっ!」
地面を強く踏んで、俺はスルトの肩めがけて跳躍し――。
タケル「水よ・・・解き放て――カルラッ!」
スルト「オオ゛、オオオオオオ゛ォォォ!!」
俺はスルトの右肩ごと、腕を切り落とした。
ユーヤ「腕が・・・!」
ユーヤ「っ・・・! 怒りの鉄槌を下しなさい・・・イラハッ!」
怯んだスルトに雷を打ち込むユーヤ。雷撃は避けれるはずもなくその巨体に直撃する。
スルト「オオォォォオ゛オ゛ゥゥゥオオ!?」
そのままスルトは勢い余って地面に叩きつけられる。土埃が舞い上がり、地面が大きく揺れた。
タケル「よしっ、このままトドメを・・・」
刀を構え直して俺は再び飛びかかろうとするが──。
タケル「あぁァ゛ッ、ぐぅ・・・がぁ・・・あっ・・・ぐぅっ!」
体中を駆け巡る激痛に耐えられず、俺はその場に崩れ落ちる。
ユーヤ「タケルっ! 大丈夫?」
ユーヤ「足、血まみれ・・・! 手当しないと・・・」
タケル「はぁっ、はあっ・・・これぐらい問題ない!」
ユーヤ「無理しちゃ・・・」
タケル「っ!? マズい後ろ! ――ユーヤ!」
ユーヤ「えっ──?」
ユーヤの体を覆うようにスルトの影が伸びて――。
タケル「はぁッ!」
咄嗟にユーヤの体を押し、俺は前に飛び出した。
タケル「ぐっ・・・ぁああああああ!!」
俺は無防備な状態でスルトに蹴り飛ばされ、体は紙切れのように宙に舞う。
ユーヤ「えっ――タケル?」
タケル「あぐっ、がっ・・・あっ・・・ああああああアアアア!!」
俺は地面に激しく叩きつけられながら転がっていく。
ユーヤ「タケルっ、タケル! しっかり!!」
ユーヤ「死んじゃやだぁー!!」
ユーヤは、スルトのことも構わず俺に駆け寄ってくる。
タケル(くそっ・・・このままじゃ・・・)
ユーヤも俺もくたばっちまう。立たなきゃいけないのに、体が思うように動かない。
タケル「ユ・・・ーヤ・・・」
俺は意識を失った。
〇幻想空間
タケル「くそっ、くそっ! もう少しなのにッ!」
大口を叩いて加勢したのにこの様だ。俺は拳を地面に打ちつける。 白い床を鮮血が汚す。
タケル「あれ、スルトは? ユーヤも・・・いねぇ」
目の前に広がっていたのは、見覚えのある不思議な空間だった。
タケル「っ! 誰だ!」
俺は刀を構えて警戒するが・・・。
タケル「アンタは・・・あのときの」
目の前に現れたのは、腕輪の中にいるという亡霊の女だった。
女性「気が付きましたか・・・どうぞ手を」
あのときの亡霊が、這いつくばる俺に手を差し伸べた。俺は彼女の手を取る。
タケル「俺たちがどうなってるか知ってるだろ? 力、貸してくれ!」
女性「・・・貴方ではスルトに敵わない。だから・・・諦めなさい」
タケル「・・・なっ!?」
予想外の返答に拍子抜ける。そのまま彼女は続ける。
女性「ただ、力及ばなかっただけ。貴方は悪くありません」
タケル「ここで諦められるかよっ!」
タケル「頼む、何とかしてくれ! 俺は――どうなってもいい、から・・・」
このままじゃ俺が来た意味がない。打開策ガ無いか彼女に縋る。
女性「・・・一つだけあります。究極魔法・・・ユーヤの封印魔法と似たものです」
タケル「・・・それ、使ったら死ぬの?」
女性「ええ・・・使えば命は無いと思いなさい・・・覚悟はありますか?」
タケル「ははっ、そんなのとっくに決まってる」
女性「・・・よく笑えますね」
タケル「前向きなのが俺の取り柄でね! ・・・頼む、教えてくれ」
女性「ではお伝えしましょう──」
彼女は俺に近づいて耳打ちをする。
タケル「・・・ありがとな。恩に着る」
女性「・・・馬鹿な人ですね」
タケル「馬鹿でけっこう! さあて、助けに行くかっ!」
そして視界が晴れていった――。