死んで異世界に喚ばれた俺、少女と共に旅に出る

折原那央

これからも、ずっと(脚本)

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折原那央

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〇菜の花畑
ユーヤ「タケルッ、しっかり!」
  頬に涙が落ちる感触。まぶたを開けると、護りたい少女がいた。
タケル(ああ、戻ってきた──)
  手を握りしめ、体の感覚を掴む。ちゃんと動けそうだ。
タケル「危ないぞ? ほら、離れて」
ユーヤ「私はいいよっ! ・・・生きててよかったぁ」
タケル「おかげさまでこの通り! ピンピンしてる!」
タケル(ま、ギリだけどな)
  立って息をするだけでも苦しい。これが精一杯の強がりだった。
ユーヤ「タケルは下がって。やっぱり私が──」
タケル「だいじょーぶ! 俺に任せとけって!」
ユーヤ「でも・・・」
タケル(優しいな、ユーヤ)
  1度死んだ俺を、こんなにも心配してくれた。きっと彼女のためなら何でもできる。
タケル「お前と会えて良かった。旅、めっちゃ楽しかった」
ユーヤ「え? 何で今・・・」
タケル「・・・万が一ってこと、あるだろ?」
タケル「死ぬ気はねぇけど!」
  笑いながらユーヤの頬をそっと撫でる。震えは誤魔化せただろうか。
タケル「いくぞ──」
  息を吸い、俺は神経を研ぎ澄ませる。
タケル「──原初の水流よ」
タケル「その力で邪悪を振り払え・・・クァーペイ!」
  俺の周りに水の柱が現れた。それは持っていた刀に集中する。
タケル「現れよ! 水龍」
タケル「ぐぁっ、あっ──」
  現れた水の柱は、中心に集まり、少しずつ形になっていく。
水龍「ギャォオオオオオオゥゥウウウ!!」
ユーヤ「・・・! これは、禁断魔法──! どうして、タケルが・・・」
  ユーヤは驚き、そして顔を歪ませる。
ユーヤ「ダメ! 体が保たないよっ」
タケル「・・・かまわねえ!」
タケル「いけっ、水龍──」
  刀をスルトに向けて振り払う。
スルト「ゴォォォオオオオ!」
  スルトは拳を叩きつけてくる。
水の龍「ギャゥゥゥウウウ!!」
  炎の鉄槌を水の龍は喰らうように受けとめる。
タケル「うぉぉおおおおおおお!!」
  俺は刀を大きく振り払う。水龍はそれに合わせ、スルトにぶつかる。
タケル(もっとだ・・・! もっと)
  炎と水が激しくぶつかり合い、爆発する。それは水蒸気となって暴風を巻き起こす。
タケル「うぉぉぉぉおおおおおっ!」
水龍「ギャォウウウウウウ!!」
  俺の刀から生まれた水龍の勢いが増し、スルトを粉砕せんとする。
スルト「ォォォオオオオゥゥゥウウウウウァァアアア!!」
  スルトが水龍を真っ二つにし、眼前に拳が迫る。
ユーヤ「避けてッ!」
  悲痛な声で叫ぶユーヤ。けどこれは千載一遇のチャンス。逃すわけにはいかない。
タケル「逃げない──ここで仕留める!」
タケル「はぁぁぁぁあああッ──!!」
タケル「あ、あ゛、が・・・ぐぁああああっ!!」
  スルトの体から業火が燃え移る。それは、一瞬で俺の体を焼く。
タケル「ア゛、ァァァァアアアアアア゛!」
  肉が焦げる音。体の半身が炎に包まれ、黒焦げになった。
  まるで生き地獄、生きているのが不思議なぐらいだった。
  それでも──。
タケル(負けて・・・たまるかっ!)
  俺は、それでも刀を強く握る。もう少しだ。そう言い聞かせて。
タケル「邪悪を打ち払え──レイクァ・チャクチィー!」
タケル「はぁああああああアアアアッッ!!」
スルト「ォォォゥゥウ!?」
  スルトの拳を腕ごと切り落とす。
タケル「いっけぇぇぇぇええええ!!」
  攻撃を振り切り、スルトの脳天から刀を振り下ろした。
スルト「オオ・・・ァ・・・ゥ・・・」
  溶岩のように体が崩れていくスルト。
タケル「はあ・・・はあ・・・やっ、た、ぞ」
タケル「ゆー・・・ヤ」
  俺はその場に倒れ落ちる。
ユーヤ「タケルッ! 今回復するッ!」
ユーヤ「・・・かのものを癒やしたまえ・・・!」
ユーヤ「・・・どうして効かないのッ!」
タケル「ぶ、じ・・・か。ユー・・・」
  ユーヤは生きている。スルトも倒した。もう自由だ。
ユーヤ「そんなことはいいのっ! 傷、塞がらない──!」
タケル「・・・気に、するな──魔法、使った、せい・・・だろ?」
  こうなることは分かっていた。その上で魔法を使った。だから後悔は無い。
タケル「それ、より・・・やく、そく・・・守れ、なくて・・・ごめ・・・」
ユーヤ「しっかり! タケルっ!」
  視界がぼやけ、体が冷たくなっていく。けれど、不思議と怖くなかった。
タケル「あり・・・がと。ユーヤ・・・」
ユーヤ「いやぁぁあああああ!!」

〇幻想空間
タケル「あれ? ここは・・・」
女性「まったく、馬鹿ですね。貴方」
タケル「あのときの──?」
ユーヤ「ここは・・・どこ?」
タケル「ユーヤ! お前も来たのか!」
ユーヤ「タケルっ! ・・・よかったぁ、生きてて」
タケル「そっちも無事か・・・良かった」
ユーヤ「こっちのセリフだよっ! もう、無理しちゃって・・・」
タケル「ははっ、倒せたんだからいーだろ!」
ユーヤ「? タケル、この人は?」
タケル「ああ、この前助けてくれた亡霊さん」
女性「・・・ユーヤ」
ユーヤ「あなたは・・・」
タケル「知ってるのか? コイツ」
ユーヤ「ううん、初めて。でも・・・懐かしい感じ」
  彼女は腕輪に宿り、ずっとユーヤを見守ってきたと言っていた。
  まるで親のように──。
タケル「・・・もしかして、アンタ、ユーヤのお袋か!?」
ユーヤ「!? お、お母さん? あなたが──」
女性「・・・・・・」
  彼女は無言で頷く。
ユーヤ「お母さん、死んじゃったの・・・?」
女性「ええ・・・私もかつて、生贄に選ばれました。同じです。貴方と」
女性「・・・だから、育てられなかった」
女性「・・・今更出てこられても、困るでしょう」
ユーヤ「・・・そんなことない!」
女性「・・・ユーヤ?」
ユーヤ「・・・お母さんだったんだね。いつも助けてくれたの」
ユーヤ「ごめんね・・・気づけなくて」
女性「・・・嬉しいわ。優しい子になったのね」
女性「・・・タケル」
タケル「あ、ああ。何だ?」
女性「・・・ユーヤを頼みます」
タケル「え、どういう──?」
ユーヤ「・・・お母さん?」
女性「・・・私の役目はここで終わり。思い残すことは無いわ」
  ぽうと、優しい光が俺を包み込む。ボロボロになった体が再生していく。
ユーヤ「体が・・・消えて・・・!?」
女性「・・・最後の力をタケル、貴方に使います」
タケル「・・・!? じゃあ、アンタは・・・」
女性「・・・ふふっ、おかしなことを。私は亡霊。在るべきところに還るだけ」
ユーヤ「お母さんッ!」
女性「・・・ユーヤ」
ユーヤ「産んでくれてありがとう!」
女性「・・・!」
女性「私も、私もよ・・・ありがとう、生まれてきてくれて──」
女性「・・・愛してる。幸せになってね」

〇菜の花畑
タケル「俺・・・生きてる?」
ユーヤ「・・・タケル」
タケル「ユーヤ! 怪我は?」
ユーヤ「全然。タケルが守ってくれたから」
タケル「俺、助かって良かったのか? お袋さんが・・・」
ユーヤ「・・・お見通しだったのかな、お母さん」
タケル「? それは──」
ユーヤ「私がタケルのこと──」
イェンティ「ヒヒーンッ!」
タケル「わわっ! お前生きてたのか!」
ユーヤ「無事だったのね! イェンティ!」
タケル「あんがとな。おかげでユーヤ、助けれた」
イェンティ「ブルルッ・・・ヴォフッ!」
タケル「なんだなんだ!? 引っ張って」
ユーヤ「? 何だろう、行ってみる?」
タケル「お、おう」
  イェンティに引っ張られるままに、俺たちはヒミンビョルグの頂上を目指す。

〇朝日
ユーヤ「わあ・・・すごく綺麗!」
タケル「・・・・・・」
  俺も一緒になって言葉を失う。今まで景色なんて全然見れてなかったけど、こんなに綺麗な世界だったなんて。
ユーヤ「・・・私、まだ生きてるんだね」
タケル「実感無いよな。もう──スルトはいない」
タケル「もう自由だ。これからも生きてける」
ユーヤ「タケル・・・ありがとう」
ユーヤ「1人じゃこの景色、見れなかった」
タケル「どーいたしまして! 綺麗だよな、ほんと」
タケル「ユーヤのほうが綺麗だけど!」
ユーヤ「え? 何それ?」
タケル(うわっ、滑った?)
ユーヤ「それ、タケルっぽくない!」
タケル「はは、それもそうだな──うん」
タケル「・・・話、聞いてくれる?」
ユーヤ「・・・いいよ」
タケル「俺、ユーヤのこと好きだ・・・その、付き合って欲しい」
  伝えられないと思っていたこの気持ち。奇跡が重なって、ようやくユーヤに言えた。
ユーヤ「・・・ふふっ」
  ユーヤは小さく笑って──。
ユーヤ「よろこんで! 一緒にいようね、ずっとだよ!」
  ユーヤは満面の笑みで答えてくれたのだった。
  おしまい

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