誰かの所業は怪異に勝る

銀次郎

最初の怪異(脚本)

誰かの所業は怪異に勝る

銀次郎

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〇散らかった職員室
  反町第三小学校 職員室
中島さゆ「そっちは終わった?」
林多恵「終わんないです~ 中島先生は?」
中島さゆ「もうちょっとかな?」
林多恵「いいな~ もう保護者からの電話とかで、いろいろ手間取っちゃって」
中島さゆ「電話?誰から?」
林多恵「三井くんのお母さん」
中島さゆ「あー、あの綺麗な人!」
林多恵「そうです、旦那が医者の」
中島さゆ「いいなぁ~医者かぁ~」
林多恵「あー、もうやりたくなーい!」
中島さゆ「ちょっと休む?」
林多恵「休む!」
中島さゆ「じゃあ冷蔵庫のアイス持って来る 林先生のアイス、なんだっけ?」
林多恵「あずきバー!」
中島さゆ「好きね、あずきバー」
林多恵「おにぎりはお赤飯が好きです」
中島さゆ「うん、聞いてない とにかく持って来るね」

〇散らかった職員室
中島さゆ「何か暗くなって来ちゃったね?」
林多恵「中島先生、何か面白い話無いですか?」
中島さゆ「面白い話?」
林多恵「なんかもう、和みたくって」
中島さゆ「面白い話‥ ねえ?田之上先生って覚えてる?」
林多恵「田之上先生? あっ!不倫がバレて異動になった音楽の先生!」
中島さゆ「その田之上先生とさ、異動の少し前に話すことがあってね」
林多恵「それは‥復讐系のあれですか?」
中島さゆ「復讐?何が?」
林多恵「だって自分は異動なのに、お相手の副校長はお咎め無しじゃないですか?」
中島さゆ「やっぱり知ってるんだ、不倫の相手」
林多恵「知ってます!」
中島さゆ「そうだよね、急に広まったもんね」
林多恵「噂の出どころは校長だって話ですからね」
中島さゆ「校長ね‥」
林多恵「で、どんな話なんです?」
中島さゆ「あのさ『さとり』って妖怪、知ってる?」
林多恵「『さとり』? それって、あの妖怪の? 人の考えが読めるって言う‥」
中島さゆ「田之上先生がさ、仕事の帰りに、その『さとり』に会ったらしいの」
林多恵「そういう話か‥」
中島さゆ「まあまあ、最後まで聞いてよ」
林多恵「はあ‥」

〇商店街
「【中島】田之上先生ね、仕事終わりでスーパーに寄って帰る途中、普段は通らない公園の中を歩こうと思ったんだって」
「【林】公園?」

〇広い公園
「【中島】公園を抜けると近道だけど、夜は暗いし人も少ないから、今までは避けてたらしいの」
「【林】まあ、それはありますね」
「【中島】でも、その日は、例の件で色々あって、やけになって公園に入っちゃったんだって」
「【林】気持ちはわからなくもないですね」
「【中島】で、しばらく歩いていると、向こうから小柄なおじさんらしき人が歩いて来たの」
「【林】ふむふむ」
「【中島】「気味悪いなぁ」って思ったけど、とにかく気にせず歩いてたの」
「【林】「気味悪い」ってちょっと失礼ですけどね」
「【中島】そこは大目に見てあげて でね、近づいてきたその人は、何かぶつぶつ言ってるんだって」
「【林】ぶつぶつ?」
「【中島】よく聞き取れないけど、何か言ってて、そしてすれ違う寸前、そのおじさんは急に足を止めたの」
「【林】こわ!」
「【中島】田之上先生は「えっ?なに?怖い」って思ったら、そのおじさんが「えっ?なに?怖い」って言ったらしい」
「【中島】で、「えっ?なんで」って思ったら、そのおじさんもまた「えっ?なんで?」って言うわけ」
「【中島】その時ね、自分の考えが読まれてる‥これって確か『さとり』って妖怪だと気がついたんだけど」
「【中島】やっぱりその『さとり』にね、気がついた事を言われちゃったらしいの」

〇散らかった職員室
中島さゆ「で、それから田之上先生は、考えてる事を『さとり』にどんどん読まれてしまったの」
林多恵「でも、それって何か問題があるんですか?」
中島さゆ「問題?」
林多恵「だって、心を読まれたって、そんなこと気にせず帰っちゃえばいいじゃないですか?」
中島さゆ「そんな甘くないんだって!さとりに心を読まれ続けると、やがて何も考えられなくなり、最後には魂を食べられてしまうの」
林多恵「あ~、それはちょっと嫌かな」
中島さゆ「ちょっとって言うか、だいぶ嫌だけどね でね、田之上先生もどんどん考えることが 無くなって、いよいよって時に‥」
林多恵「時に?」
中島さゆ「そう言えば、さっきスーパーに行ったなって思ったの」
林多恵「スーパー?」
中島さゆ「で、さとりもその考えを読んで、『さっきスーパーにいったな』って言うわけよ」
林多恵「そうなりますかね」
中島さゆ「でね、スーパーに行ったなって思った後に、あの曲を思い出したの」
林多恵「あの曲?」
中島さゆ「ほら、よくスーパーでかかってる曲があるじゃない?『ポポーポ・ポポポ♪ ポポーポ・ポポポ‥』って」
林多恵「あー、あれか」
中島さゆ「その曲をね、頭の中で考えちゃったの そしたら」
林多恵「そしたら?」
中島さゆ「さとりが歌ったの、その曲を」
林多恵「えっ?『ポポーポ・ポポポ♪ ‥』って?」
中島さゆ「そう、田之上先生の考えた通りに歌ったの」
林多恵「へー‥ えっ?それで?」
中島さゆ「下手だったらしいの」
林多恵「下手?」
中島さゆ「うん、下手だったらしいの」
林多恵「そうなんですね‥ で?」
中島さゆ「田之上先生はスーパーで流れていた曲の通りに思い出したけど、『さとり』はね、うまく歌えなかったらしいのよ」
林多恵「ふーん」
中島さゆ「そしたら田之上先生はとても怒ってね」
林多恵「怒った?『さとり』に?」

〇広い公園
「【中島】『何でこんな簡単な曲が歌えないんだ!』って、すごい剣幕で!それで、また頭の中で曲を考えたの、そしたら」
「【林】そしたら?」
「【中島】やっぱり『さとり』は下手だったの‥きっと音感が無いのね」
「【林】妖怪に音感か‥」
「【中島】田之上先生って小さい頃から厳しく音楽の教育をされて、絶対音感を持ってるんだって」
「【中島】だからこの『さとり』下手さがどうしても許せなかったの」
「【林】あの‥この話はどこに向かうんでしょうか?」
「【中島】でね、『さとり』もその剣幕に圧されて、一生懸命歌うんだけど、やっぱり下手なのよ」
「【林】何だか『さとり』が気の毒に思えてきました」
「【中島】うん、私もそう思った でも田之上先生の厳しさは終わらないわけ」
「【林】終わらないんだー」
「【中島】あまりにも上達しない『さとり』に向かってこう言ったの」
田之上樹里「何なのさっきから!何でレの音もミの音もファの音もソの音も、全部ドなの!? やる気あるの!?」
「【林】怒り方が音楽的‥」
「【林】あのー、これ、誰ですか?」
「【中島】これ?『さとり』」
「【林】あー‥ なんか悲しそう」
「【中島】あまりの厳しさに耐えられなかった『さとり』は、両目から大粒の涙をこぼし、来た道を小走りに引き返したの」
「【林】あーあ、泣かしちゃった」
「【中島】でも田之上先生の叱責は続いたの」
田之上樹里「この現実から逃げても何も変わらないのよ!あんたは一生ドの音しか出せなくて、それでいいの!?」
「【林】なんか辛くなってきますね」
「【中島】『さとり』はね、両手で耳を塞ぎながら、暗闇の中に消えていったんだってさ」

〇散らかった職員室
林多恵「なんか、和める話じゃないんですけど‥」
中島さゆ「いや、まだ続くから でね、田之上先生、その時思い出したらしいの、そう言えば、例の彼を責める時もこんな風だったなって」
林多恵「例の彼って‥副校長ですか?」
中島さゆ「うん さとりが俯いて何も言えなくなった時、もっといじめたい、もっと追い詰めたいって思ったらしいの」
林多恵「それはその‥副校長をそうしたいって事ですか?」
中島さゆ「いやそれがさ、副校長には普段からそうしてたんだって」
林多恵「普段から?」
中島さゆ「だってこの不倫がバレたのも、副校長が田之上先生のあまり厳しさに耐えられず、自分から校長に告白したからだからね」
林多恵「そうなんだ‥ 何か怖いですね」
中島さゆ「怖い? いやいや、もっとあるから」
林多恵「もっと?」

〇学校の廊下
田之上樹里「彼もほら、自分が妻子持ちのくせに私と不倫してる負い目があるから、私には強く言い返せないのよ~ それにさ」
中島さゆ「それに?」
田之上樹里「彼が強く出てこられないのを分かって責めてやるのって、気持ちいいんだよね」
中島さゆ「あー‥」
田之上樹里「言い返せなくて、我慢してる彼の内面がどんどん壊れて行くのがわかってさ‥なんか、快感だったなぁ」

〇散らかった職員室
中島さゆ「だって~ 笑って言ってた」
林多恵「怖いわ!!」
中島さゆ「怖いよね~ 何かこの話を聞いてからさ、たまに考えるんだよね」
林多恵「何をですか?」
中島さゆ「いくら何でも、ちょっとかわいそうだよなって」
林多恵「えっ?副校長がですか?」
中島さゆ「違うよ、『さとり』」
林多恵「そりゃ‥そうでしょうよ」
中島さゆ「ちなみに副校長、異動の噂がちらほらとあるらしいよ」
林多恵「あらー‥」
  プルルルルー📞
中島さゆ「えっ?電話?こんな時間に?」
林多恵「あー‥ たぶん、三井くんのお母さん」
中島さゆ「何か揉めてるの?」
林多恵「もう大変なんですよー、ちょっと聞いてもらえます?」
中島さゆ「まあ、とりあえず電話出たほうがいいよ」
  続く

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