十話 小さな平和(脚本)
〇オフィスの廊下
一週間後──
黒沼 晶「ここ一週間、ギャラジーの襲撃は無い・・・ 頻度が少なくなってきたな」
黒沼 晶「こういう時は、決まって嫌な予感がする・・・ 莉呑がいなくなる直前も、こんな風だった」
渋屋 杏「黒沼、おはよう」
黒沼 晶「渋屋? お、おはよう?」
渋屋 杏「なんで疑問形なのよ」
渋屋 杏「まぁいいわ。 今から食堂に朝ごはんを食べに行こうと思って。 ついてきてくれる?」
黒沼 晶「なんで俺が・・・」
渋屋 杏「いいから早く来なさい!」
黒沼 晶(うわ、痛ッ!? 腕を引っ張る手の力強すぎるだろ!!)
黒沼 晶「おい! 分かったからそんなに力強く引っ張るな・・・!」
渋屋 杏(よし、自然な形で食堂に誘うシチュエーションは作れた!)
渋屋 杏(ふふん、覚悟しなさいよ黒沼。 今までの私を忘れさせるくらい、仲良くなってやるんだから!)
黒沼 晶(ずっとニヤニヤしてやがる!! 何か企んでるのか・・・!?)
黒沼 晶(ギャラジーと対峙している時よりよっぽど怖い!! 雛先生、助けてくれ・・・!!)
中井 雛「・・・」
中井 雛「杏ちゃんから晶くんと仲良くなりたい、って相談されたから気になって来てみたけど・・・」
中井 雛「これは・・・難しいなぁ」
〇警察署の食堂
渋屋 杏「ん〜! やっぱり美味しいわね、ここのパフェ!」
渋屋 杏「黒沼もいる? 一口ならあげるわよ」
黒沼 晶「いや、別に・・・」
黒沼 晶「食事はエージェントには全て無料で提供される。 食いたいなら自分で取ってくるだろ」
渋屋 杏「そんな堅苦しいこと言わない! ほら口を開けなさいよ!」
黒沼 晶「んむぐっ!!」
渋屋 杏「どう、美味しい?」
黒沼 晶「おいひい・・・です・・・」
黒沼 晶(俺は甘党だ、パフェは大好きだ!! だが何考えてるか分からないこいつのせいで、何も味を感じない!)
黒沼 晶(おまけにずっとニヤニヤしてるし、怖えーよ!! まさかこのパフェ、毒とか盛ってないよな!?)
渋屋 杏「いつぶりかしら。 こうして誰かと一緒に、ご飯を食べるなんて」
渋屋 杏「私たち、ずっと一人でここに住んでるんだものね。 黒沼は、私よりずっと長い間一人でここにいたんでしょ」
黒沼 晶「そうだな。 よく考えてみれば、誰かと食堂で話すなんて久しぶりかもしれない」
黒沼 晶「たまに雛先生が一緒に食べてくれたが、あの人も忙しい人だからな。 こういう時間は少なかった」
渋屋 杏「雛先生って、やっぱり優しい人なのね」
黒沼 晶「・・・そうだな」
渋屋 杏「黒沼、私・・・ エージェントになる前に、よく行っていたスイーツのお店があって」
渋屋 杏「この戦いが終わったら、一緒に行かない?」
黒沼 晶「!!」
黒沼 晶「・・・それは、無理だ」
渋屋 杏「ど、どうして?」
黒沼 晶「約束は、嫌いなんだ」
渋屋 杏「・・・そっか」
渋屋 杏「そうね、私たちはいつ死ぬか分からないんだもの。 約束はお互いを苦しめるだけよね」
至急、至急。
エージェントと中井 雛先生は会議室へお集まりください。
渋屋 杏「会議室への呼び出し? こんなこと滅多にないわよね、何かあったのかしら」
黒沼 晶「行くぞ」
渋屋 杏「ええ!」
〇諜報機関
会議室に着くと、そこには既に日谷さんと雛先生がいた。
中井 雛「あ、晶くんと杏ちゃん!」
渋屋 杏「先生、何があったんですか?」
日谷 紗枝「私からお話しします」
黒沼 晶「日谷さん・・・」
日谷 紗枝「ギャラジーによる襲撃の頻度が少なくなってきていることに関しては、お気づきだと思います」
日谷 紗枝「つまり例年通りであるならば、近いうちに強力な大型ギャラジーが出現する可能性があります」
日谷 紗枝「死傷者をできる限り減らし、自分の命をかけても人命を救うようにしてください」
日谷 紗枝「ああ、でも強力なエージェントを失うわけにはいきませんので、渋屋さんは自分の命を最優先に」
黒沼 晶「・・・」
渋屋 杏「ちょ、ちょっと! そんな言い方しなくても・・・!」
黒沼 晶「渋屋、俺のことは大丈夫だ」
渋屋 杏「で、でも・・・!」
日谷 紗枝「莉呑さんを、そして私の姉さんを死なせた責任を取ってくださいね 黒沼さん」
日谷 紗枝「それでは」
渋屋 杏「紗枝さんのお姉さんって、どういうこと・・・?」
黒沼 晶「・・・」
渋屋 杏「ごめんなさい、答えたくないわよね 話さなくてもいいから、気を悪くしないでね」
中井 雛「いいや、紗枝さんのお姉さんに関しては、黒沼くんは全く関係ないよ」
黒沼 晶「先生・・・」
中井 雛「黒沼くん、私が気を遣ってそう言ってると思ってるでしょ。 本当に関係ないんだよ。 だから黒沼くんは自分を責めなくていい」
渋屋 杏「先生、紗枝さんのお姉さんって誰なんですか?」
中井 雛「紗枝さんのお姉さん・・・ 日谷 沙耶(ひたに さや)さんは、私よりずっと偉大で賢い科学者だったの」
中井 雛「黒沼くんの体が、身体能力向上装置に適応できるようにしたのも沙耶さん」
中井 雛「そんな彼女が、ある日突然姿を消したの」
渋屋 杏「そんな、どうして・・・!?」
中井 雛「・・・ごめん、それは秘密」
中井 雛「ただ、紗枝さんは沙耶さんのことをすごく尊敬してた。 紗枝さんが楽しそうに笑っている隣には、いつも沙耶さんがいた」
中井 雛「そんな彼女が消えた責任を、黒沼くんに押し付けているんだよ」
中井 雛「人間は悲しみのどん底にいる時、感情的になってそれらしい人をそれらしく責め立てる」
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