ブラッドエッジ

牛屋鈴子

人か獣か(脚本)

ブラッドエッジ

牛屋鈴子

今すぐ読む

ブラッドエッジ
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

  ──多くの人は知らないが、この世には
  何体もの『怪獣』が存在する。
  偶然にもその存在を知る人間は──
  あるものは恐れ、あるものは抗い、
  あるものは夥しい知的好奇心を刺激された
  そんな時代、とある研究所で12体の怪獣を
  創り出す実験があった
  これは、その『素材』になった子供達の
  物語である
リク「──ねぇ、ここから出たら何がしたい?」
サンキチ「・・・したいこと、か・・・」
サンキチ「なんにも、思いつかねぇや」
サンキチ「お前は・・・何かあるのか したいこと」
リク「僕は、妹に会いたいな」
リク「ミナミって言うんだけど・・・ ここに来るとき離ればなれに なっちゃったからさ」
リク「またミナミと一緒に遊びたいな・・・ かくれんぼとか、ヒーローごっことか」
サンキチ「・・・そうか」
リク「でも、ミナミはこんなお兄ちゃん 嫌かな・・・」
リク「半分、『怪獣』のお兄ちゃんなんて」
サンキチ「・・・・・・・・・・・・」
サンキチ「いいじゃねぇか、『怪獣』」
リク「え?」
サンキチ「いっつも怪獣役でさ、ずっとヒーロー役 ゆずってくれるなんて」
サンキチ「最高のお兄ちゃんだろ?」
リク「・・・そうかな そうだといいな」
サンキチ(いつか、お前を妹に会わせてやるよ)
サンキチ(俺の『したいこと』は・・・ それにしよう)

〇マンションの共用廊下
ナツオ「おーい! 先輩!」
  ドンドン!
  アロハシャツを着た男が、マンションの一室を叩く。
  隣の少女はそれを不安気に見ていた。
カズサ「・・・・・・・・・・・・」
ナツオ「先輩! 先輩先輩!」
  ドンドン!
ナツオ「・・・『おい! 3番!』」
  アロハシャツの男がその『数字』を
  口にすると、扉の向こうから物音がした
  そしてほどなくして扉は開き、一人の男が
  現われた──その顔に苛立ちをたたえて
サンキチ「・・・おいナツオ・・・ その『起こし方』はやめろっつったろうが」
サンキチ「俺には『サンキチ』って『人間』としての 名前があんだよ!!!!」
ナツオ「でもあれ以上ドア叩いたら近所迷惑ですよ」
ナツオ「起きない方が悪いッ!」
サンキチ「チッ・・・」
サンキチ「・・・んで、今回のオキャクサマは そのガキか?」
カズサ「あっ、私っ、カズサって言います!」
カズサ「私っ、怪獣にお姉ちゃんを殺されて・・・ でも、警察はダメで、ナツオさんに・・・」
サンキチ「はいはいなるほど。 それで? ナツオ、そいつ強いのか」
ナツオ「さぁ・・・ さっき相談されたばっかで、まだそいつの 居場所も分かりませんで」
サンキチ「あぁ? いつも言ってんだろ、俺に仕事回すのは どうしようもねぇ時だけにしろってよ」
サンキチ「また木っ端怪獣回しやがったら・・・ 承知しねぇぞ」
カズサ「・・・っ」
ナツオ「それなら多分大丈夫ですよ。 ほら、カズサちゃん」
カズサ「そ、その怪獣・・・ 紫のスカーフを付けてたんです!」
サンキチ「紫・・・!?」
サンキチ「銀の鎧に、紫のスカーフ。 間違いねぇな?」
カズサ「・・・はい」
ナツオ「『6番』の特徴と一致する・・・。 ですよね?」
サンキチ「・・・・・・・・・・・・」
サンキチ「・・・カズサ、つったな?」
カズサ「は、はい!」
サンキチ「つれてけ・・・お前の姉貴が 殺された場所に」

研究者「──おい、『3番』」
サンキチ「──ッッ!」
研究者「おはよう、『3番』・・・ よく眠れたかい?」
サンキチ「・・・ここは・・・?」
サンキチ「いつもの部屋じゃない・・・! どうして俺だけここにいる!? みんなは・・・リクはどこだッ!」
研究者「一度にいくつも聞かないでくれよ。 わかった、順番に答えてあげるから」
研究者「まず、ここは私の自室だ。 少し二人きりで君と話がしたくてね」
研究者「そして君がここに居る理由・・・それはね。 君が『失敗作』だからさ」
サンキチ「俺が・・・ 失敗作だと・・・?」
サンキチ「これを見てもッ! まだ同じことが言えるか!?」
サンキチ「はぁぁ・・・!!」
研究者「『完全変異』・・・か。 確かに、因子への適合は君が一番だったな」
サンキチ「何が目的だったか分からねぇが・・・ 二人きりになったのは間違いだったな」
サンキチ「3つ目の質問の答えは要らねぇ!」
サンキチ「みんなが研究所のどこに閉じ込められていようと・・・ お前らをぶっ殺して、みんなをここから 出してやる!」
研究者「・・・それなら朗報だよ、3番。 ”みんなは既に研究所にはいない。”」
サンキチ「なっ・・・まさか!」
研究者「はは、殺しちゃいないさ。 君とは違って彼らは『成功作』だからね」
サンキチ「何・・・?」
研究者「──時に『3番』! 君はここから出たら・・・ なにか『したいこと』はあるかい?」
サンキチ「俺の『したいこと』・・・それはリクと あいつの妹を会わせてやることだ」
サンキチ「リクだけじゃない。他のみんなの願い だって、俺が・・・」
研究者「・・・それは”君の”じゃないだろう? だから、君は失敗作なんだ」
サンキチ「なんだと・・・?」
研究者「・・・何度も話を変えて悪いが・・・ どうしてこの世には怪獣がいると思う?」
研究者「私はね、怪獣は人間を滅ぼすための・・・ いわゆる装置ではないかと思うんだ 神が創った・・・ね」
研究者「私は、その神のご意志に沿うことにした。 それが君達のコンセプトなのさ」
研究者「そしてそのために、君達一体一体には 『神のご意志』を備え付けた」
サンキチ「神の意志だと・・・?」
研究者「あえて俗な言い方をするなら・・・ 『殺人衝動』だ」
サンキチ「『殺人衝動』だぁ? そんなもの俺にはねぇぞ!」
サンキチ「俺が殺してぇのは・・・お前だけだ!」
研究者「何度も言っているが・・・だから君は 『失敗作』なんだ。君には『ご意志』を 作動させるトリガーが存在しなかった」
サンキチ「トリガー・・・だと? まさか・・・」
研究者「そうだ。自分だけの願いがない君には 存在せず・・・ 希望に満ちた個体だけが持ちうるトリガー」
研究者「それは、『絶望』だ」
サンキチ「・・・!!!!」
研究者「彼らを完成させる上で・・・ 最も簡単で退屈な工程だったよ」
研究者「特に『6番』など・・・ 死体を一つ用意するだけで済んだからね」
サンキチ「う・・・!」
サンキチ「うああああああッッ!!!!」
研究者「がっ・・・ ふっ、ふふふっ、どうかな・・・ 今ので君も、『絶望』したかい?」
サンキチ「うるせぇ! 死ねッ! 死ねぇッ!」
研究者「うぐ・・・ できれば神話の通りにしたかったが・・・ まぁ、いい・・・十一体でも十二分だろう」
研究者「私を殺しても無駄だよ・・・ 既に滅亡の装置は・・・ 放たれたのだから・・・な!!」
サンキチ「させねぇ・・・ みんなにそんなこと、絶対にさせねぇ!」
サンキチ「リク・・・みんな・・・!」
サンキチ「俺が・・・止めてやる!!!!」

〇川沿いの公園
  一陣の潮風が吹く、港外れの公園。
  そこに三人は来ていた──
カズサ「──ここです」
カズサ「ここで、お姉ちゃんは・・・!」
サンキチ「・・・・・・」
ナツオ「・・・どうですか、サンキチさん。 なんか手がかりとかありそうですか?」
サンキチ「・・・ナツオ、ガキつれてどっかいけ」
ナツオ「え?」
サンキチ「──もう、来てる」
ナツオ「うおぉ・・・ッ!?」
  突如として三人を襲ったかまいたちを、
  サンキチは片手で易々と払いのける
  その腕は、黒く、禍々しく変容していた
サンキチ「・・・やっぱりお前か」
サンキチ「──リクゥッ!!!!」
リク「・・・!」
  かまいたちが飛んできた方向──
  サンキチが見据える先には白髪の青年が
  立っていた
リク「くっ・・・ やはり君か、サンキチ・・・!」
リク「君に・・・ないように・・・ ・・・・・・てきたのに・・・・・・」
サンキチ「・・・あ?」
リク「君に見つからないように・・・ 殺す人数は最小限にしてきたのに!!!!」
カズサ「・・・はぁ・・・!?」
サンキチ(・・・そうか)
サンキチ(半分じゃなくて・・・ 全部、怪獣になったんだな)
サンキチ「・・・ナツオ、さっさとしろ」
ナツオ「カズサちゃん・・・ほら、こっちに来て」
カズサ「・・・っ、嫌です! 足手まといにならないようにするから、 ここで・・・」
ナツオ「違うんだ・・・カズサちゃん。 そういうことじゃないんだ」
ナツオ「お願いだから・・・ 見ないでやって欲しいんだ あの人の、あの姿を」
「──『完全変異』!!!!」
サンキチ「おおおおッッ!!!!」
リク「はあああッッ!!!!」
  ──変異した二人が、一直線に激突する
  地面を揺らす衝撃波の中心──
  二人は互いの両腕で組み合っていた
リク「ぐぅ・・・ッ」
サンキチ「見つけた瞬間に殺しにきやがって・・・!」
サンキチ「忘れちまったかよ・・・俺が誰だか!」
リク「忘れたさ・・・人間の頃の思い出なんて!!!!」
サンキチ「へぇ・・・じゃあなんで 俺に”見つからないように”してたんだ?」
サンキチ「覚えてんじゃねぇか・・・ 『実力差』はよぉッ!!!!」
  サンキチはリクを遥か上空に投げ飛ばした
リク「──ッ!」

〇空
リク「くっ・・・」
サンキチ「──場所を変えるぞ」
リク「!!」
リク(防御・・・しきれない・・・!!!!)
  リクの体は、バレーボールのように
  海へと叩き落とされた。

〇海辺
リク「──がぁ・・・ッ」
リク「はぁ・・・はぁ・・・」
リク(サンキチは・・・どこだ。 どこから来る・・・?)
  リクが海から波打ち際へ這い上がろうとする瞬間──
リク「──!!!!」
  既に、赤い刃は紫の首に添えられていた
サンキチ「──ここまでだ」
リク「・・・・・・ こうなるから・・・嫌だったんだ・・・」
リク「君に見つかるのは・・・!!!!」
サンキチ「・・・そうかよ」
サンキチ「だったらどうして、人を殺す・・・?」
リク「・・・君には分からないだろうな。 心の底から、世界に絶望した者の、 気持ちなんて・・・」
リク「僕らは人を殺すように”デザイン”された。 もう自分の意志では止められない・・・ 僕らは死ぬまで殺すんだ」
サンキチ「──だったらどうして!!!! どうしてわざわざ俺の前に現れた・・・ あのガキを生かしたりしたんだ!!!!」
リク「・・・そ・・・れは・・・・・・」

〇黒

〇海辺
リク(そうか・・・僕は・・・)
リク「・・・怪獣役を、やるため・・・かな」
サンキチ「怪獣、役・・・・・・?」
  彼は、波間にかき消されそうな声で
  呟いた
リク「こうなるから、嫌だったんだ・・・ 君に見つかるのは・・・」
リク「ごめんね・・・・・・」
サンキチ「・・・・・・!!」
リク「ヒーロー役を押し付けて、ごめん・・・」
サンキチ「リク・・・・・・!!」
サンキチ「ぐぅ・・・っ」
サンキチ「うああああああああッッ!!!!」
  サンキチが刃を振り抜いた時、
  夕日に染まった真っ赤な涙が波間に落ちた
  彼の瞳と、同じ色だった──
リク「が・・・あ・・・」
リク「う・・・・・・」
サンキチ「・・・リク・・・」
「カズサちゃん! そっちに行っちゃ・・・」
カズサ「サンキチさん!」
リク「・・・あ・・・」
リク(ミ・・・・・・ナ・・・・・・ ・・・ミ・・・・・・)
カズサ「・・・終わったん、ですね・・・」
サンキチ「・・・どっか行ってろって・・・ 言っただろうが」
カズサ「あっ・・・ごめんなさい。怪獣の姿、 見られたくないんですよね・・・・・・ でも私・・・」
サンキチ「『怪獣』じゃねぇ!!!!」
カズサ「ひっ・・・!?」
サンキチ「『怪獣』じゃねぇ・・・『怪人』だ。 そう呼んでくれねぇか。頼むから・・・」
  気圧されているカズサの横を、サンキチは
  リクの亡骸を抱えて通り抜けた
カズサ「──サンキチさん!」
  それからカズサが振り返っても、
  そこにサンキチの姿はなかった──
カズサ「サンキチさん・・・」
「『ありがとう』って・・・ 言えなかった・・・」
  流れた血も、いずれ波にさらわれて
  消えるだろう
  二人の身に起きたことを、
  街はもう覚えていない──

〇黒
  とある研究所で12体の怪獣を創り出す
  実験があった
  これは、その『素材』になった子供達の
  物語である
  残り、11体────

コメント

  • 心のある人間が実験材料にされる物語は読んでいて胸が苦しくなります。最後にカズサとミナミの姿を重ねて死んでいったリクが切なすぎました。

  • リクもサンキチも散々な目にあいながらも、彼らの友情という思い出が、リクを一瞬でも正気に取り戻したところが感動的でした。失敗作のサンキチの存在が、人間を救うことができたらと願います。

  • 切ないストーリーでしたね。しかし彼の戦いはまだ終わらない。悲しい話になりそうですが、続きが気になります。

成分キーワード

ページTOPへ