戦いの始まり(脚本)
〇薄暗い谷底
──SHIBATEN PRESENT'S──
ヴァージン・ウルフ「とうとう、追い詰めたぞ・・・」
ヴァージン・ウルフ「ミーナ!!」
ミーナ・クレイドル「はあ、はあ くっ! しつこい奴・・・」
ミーナ・クレイドル「あんたに、この石は渡さないわ」
ヴァージン・ウルフ「げげげげ・・・それだよそれ」
ヴァージン・ウルフ「それさえ渡してくれれば・・・ お前を追いかけたりはしないのに・・・」
ヴァージン・ウルフ「どうしても、渡さないと?」
ミーナ・クレイドル「ええ、そうよ」
ヴァージン・ウルフ「・・・そうか」
ヴァージン・ウルフ「なら、お望み通り、お前を──」
ヴァージン・ウルフ「あの世へ・・・送ってやる!!」
ミーナ・クレイドル「・・・!!」
〇壁
〇コンビニのレジ
XX年後
清野 廉「・・・はい、ではこちら、 317円になりまーす」
清野 廉「あざしたー」
「廉くん廉くん、ついに明日だね!」
姫路 大河「ミーナちゃんとの二次選考!」
清野 廉「あ、姫路先輩! そうなんですよ、もう楽しみすぎて!」
姫路 大河「ふふっ、そうだよね 俺を連れてく約束、忘れないでくれよ?」
清野 廉「わ、わかってますよ!」
二次選考、それは──
〇ライブハウスのステージ
ミーナ・クレイドル「みんなー!! 今日は私のライブに来てくれて、ありがとー!!」
このとっても可愛い女性は、
今をときめく大人気アイドル・ミーナ。
俺こと廉も、姫路先輩も夢中になっている子だ。
これは、3ヶ月前に行われたライブの動画の終盤だ。
ミーナ・クレイドル「それではここで、突然ですが 重大発表したいと思います!!」
ミーナ・クレイドル「私、ミーナをヒロインとする特撮映画が、 製作されることになりましたが・・・」
ミーナ・クレイドル「その映画のヒーローを、 一般人から募集したいと思います!!」
ミーナ・クレイドル「まず一次選考ですが、ハガキに必要事項を書いて、事務所宛に送ってください!」
ミーナ・クレイドル「そして、そのハガキの中から選ばれた幸運な人には、二次選考として、」
ミーナ・クレイドル「特撮映画の脚本を作ってきてもらいます!」
ミーナ・クレイドル「ぜひ私を唸らせる脚本を考えてねー!!」
俺はこの二次選考に進むことになったのである。
しかし、この時俺は想像していなかった。
まさかこの”偶然”が、
俺の運命を変えることになるなんて──
〇綺麗な会議室
二次選考当日
ミーナ・クレイドル「えーと、あなたが清野 廉くんね?」
清野 廉「はっ、はい! よろしくお願いします!!」
ミーナ・クレイドル「で、隣の男性はどなた?」
姫路 大河「あーっと、 まあ、廉くんのツレというかなんというか」
姫路 大河「寄生虫? みたいなもんです!!」
清野 廉(・・・イヤイヤさすがにその言い訳は無いだろう・・・)
ミーナ・クレイドル「・・・そう まあ、寄生虫なら一緒にいても仕方ないわね」
清野 廉(あ、良いんだ)
ミーナ・クレイドル「ではこれより、二次選考を始めます」
ミーナ・クレイドル「さっそくだけど、 脚本を見せてもらおうかしら」
清野 廉「わかりました!」
〇渋谷のスクランブル交差点
──REN PRESENT'S──
えっ、俺が、今日からヒーロー?
雷光戦士ライラルド・ボーイ
ライラルド・ボーイ「そんな、俺、戦えないよ」
ミーナ・クレイドル「あんたの事情なんて関係ないわ」
ミーナ・クレイドル「戦うしかないの それが、あなたの宿命よ」
昨日までただのフリーターだった俺が
ヒーローとして、世界を救うことに!?
ライラルド・ボーイ「冗談じゃない!」
ライラルド・ボーイ「俺は怪人なんだぞ!」
ライラルド・ボーイ「他のヒーローたちは、 一体何してるんだよ!!」
ミーナ・クレイドル「全滅、したのよ」
ミーナ・クレイドル「『ヤツ』のせいでね」
ドゲルトン「うげげげ・・・」
ライラルド・ボーイ「う、嘘だろ・・・」
ライラルド・ボーイ「あいつを、俺が倒せって言うのか!?」
ミーナ・クレイドル「そうよ」
ミーナ・クレイドル「もう、あなたしか」
ミーナ・クレイドル「頼れる者が、いないのよ」
ミーナ・クレイドル「──だから、お願い──」
ミーナ・クレイドル「私たちを、救って・・・!!」
ライラルド・ボーイ「!!」
ライラルド・ボーイ「わかった」
ライラルド・ボーイ「俺が、救ってみせる」
ライラルド・ボーイ「この地球を・・・!!」
ドゲルトン「うげげげげ・・・」
ライラルド・ボーイ「負けないぞ、絶対に」
ライラルド・ボーイ「お前を、倒す!!」
今夏、公開!!
『相模町の、ケバブ丼』
編集:俺
美術:俺
撮影:俺
配役:俺ほか
音楽:俺
衣装:俺
製作総指揮:俺
脚本:俺
監督:俺
〇綺麗な会議室
清野 廉「・・・と、いう感じなんですが どうでしょう?」
ミーナ・クレイドル「・・・うーん、そうね」
ミーナ・クレイドル「映画のタイトルが意味不明」
ミーナ・クレイドル「あと、ヒーローの名前が ライラルド・ボーイっていうのがダサい」
清野 廉「辛辣なお言葉!」
清野 廉「結構自信あったのに・・・うっ! あ、あの、すみません」
清野 廉「ちょっとトイレに行ってきても良いですか? 急にお腹が・・・」
ミーナ・クレイドル「・・・はあ、良いわよ トイレでもどこにでも行きなさい」
ミーナ・クレイドル「もうあなたの二次選考は終わり 帰って良いわよ」
清野 廉「ええ〜〜 トイレで締めくくりとかダサすぎる・・・」
「・・・あ、あの、ミーナちゃん」
姫路 大河「よ、良かったら、俺の脚本も 見てくれないかな?」
ミーナ・クレイドル「・・・何でよ あなたは一次選考に通ってないでしょ」
姫路 大河「まあまあ! せっかくだし、ついでに、ね!!」
ミーナ・クレイドル「・・・仕方がない 今日はこの後何も予定がないから、良いわよ」
姫路 大河「へへっ! ありがとう、ミーナちゃん!」
姫路 大河「じゃあこれ、どうぞ!」
〇薄暗い谷底
──TAIGA PRESENT'S──
ヴァージン・ウルフ「とうとう、追い詰めたぞ・・・」
ヴァージン・ウルフ「ミーナ!!」
ミーナ・クレイドル「はあ、はあ くっ! しつこい奴・・・」
ミーナ・クレイドル「あんたに、この石は渡さないわ」
ヴァージン・ウルフ「げげげげ・・・それだよそれ」
ヴァージン・ウルフ「それさえ渡してくれれば・・・ お前を追いかけたりはしないのに・・・」
ヴァージン・ウルフ「どうしても、渡さないと?」
ミーナ・クレイドル「ええ、そうよ」
ヴァージン・ウルフ「・・・そうか」
ヴァージン・ウルフ「なら、お望み通り、お前を──」
ヴァージン・ウルフ「あの世へ・・・送ってやる!!」
ミーナ・クレイドル「・・・!!」
ミーナ・クレイドル「・・・・・・」
ミーナ・クレイドル「あ、あれ? 私、何ともない・・・」
ミーナ・クレイドル「!!」
ミーナ・クレイドル「れ、レンッ!!」
レン・セルフィー「うっ・・・」
ミーナ・クレイドル「ちょっ、しっかりしてよ! レン!!」
ミーナ・クレイドル「レェェェェェェン!!」
ヴァージン・ウルフ「・・・ふん 戦う力のない、搾りカスが・・・」
ヴァージン・ウルフ「無駄死に、だな」
ミーナ・クレイドル「・・・何ですって?」
ヴァージン・ウルフ「その女を守る価値なんて、ないだろう」
ヴァージン・ウルフ「石の守り人だかなんだか知らんが」
ヴァージン・ウルフ「さっさと俺に渡せば、 全て穏便に済んだのによ!!」
ミーナ・クレイドル「あなたに、石を渡したら」
ミーナ・クレイドル「悪用されるに、決まってるわ」
ミーナ・クレイドル「レンは、それをわかってて、 私を助けたのよ!!」
ヴァージン・ウルフ「そうかよ」
ヴァージン・ウルフ「でも、こうしてくたばっちまったら」
ヴァージン・ウルフ「もう、意味ないよな」
ヴァージン・ウルフ「お前を守る者も、これで誰一人いなくなった」
ヴァージン・ウルフ「結局お前は!! 何も守っちゃいねえ!!」
ヴァージン・ウルフ「大事な仲間も、石も!! 全部俺に狩られる運命なのさ!!」
ミーナ・クレイドル「嫌よ、そんなの・・・」
ミーナ・クレイドル「私は・・・」
レン・セルフィー「──聖光石よ、解放せよ!! べフライ!!」
ヴァージン・ウルフ「な、何だ!?」
レン・セルフィー「・・・水神様を、召喚したのさ」
レン・セルフィー「これで、全て終わる ヴァージン、お前も、俺もな」
ヴァージン・ウルフ「う、嘘だ そんな、まさか・・・」
ミーナ・クレイドル「レン、待って・・・ そんなことしたら、あなたは・・・!!」
レン・セルフィー「良いんだよ、ミーナ」
レン・セルフィー「その聖光石の、後継者を・・・ どうか、見つけてくれよ・・・」
ミーナ・クレイドル「い、嫌よ・・・」
ヴァージン・ウルフ「嘘だ・・・ 嘘だあああああああ!!」
〇綺麗な会議室
ミーナ・クレイドル「ち、ちょっと待って」
ミーナ・クレイドル「どうしてあなたが、あの日のことを・・・」
「何でって? それはな」
「──モディフィカーレ!!」
ビリアル・マウティス「俺はあの場で全てを見ていた、 ヴァージン様の信者だからな!」
ミーナ・クレイドル「し、信者ですって・・・!?」
ビリアル・マウティス「はじめまして、石の守り人よ」
ビリアル・マウティス「俺はヴァージン様の遺志を受け継ぎ、 その石の力で世界征服を企む者、 ビリアル!」
ビリアル・マウティス「崇高なヴァージン様の信者は 世界中に散らばっている 俺もその一人だ」
ビリアル・マウティス「だが・・・そいつら信者の中でも 石の力を手に入れるのは俺だ!!」
ビリアル・マウティス「あんた、まだ、持ってるよな? あの石・・・」
ミーナ・クレイドル「!!」
ビリアル・マウティス「あげちゃえよ、俺に」
ビリアル・マウティス「さっさと俺に渡してさぁ」
ビリアル・マウティス「もう、楽になれ」
ミーナ・クレイドル「・・・!!」
清野 廉「み、ミーナちゃん! 大丈夫!?」
ミーナ・クレイドル「あ、あんた! 帰ったはずじゃ・・・!」
清野 廉「いやあ、カバン持って行くの 忘れちゃったから、取りに戻ったんだ」
清野 廉「そしたら、ミーナちゃんが こいつに襲われてるのが見えて・・・」
「・・・この・・・ 人間ごときが・・・」
ビリアル・マウティス「この俺に・・・ 歯向かいやがってェッ・・・!!」
ビリアル・マウティス「・・・ふん、まあいい 人間なんてすぐに倒せるからな」
ビリアル・マウティス「それよりもまずは、 聖光石を奪うことが先だ」
ビリアル・マウティス「さあよこせ!!」
ミーナ・クレイドル「くっ・・・こうなったら仕方ない・・・」
ミーナ・クレイドル「清野 廉!! これを受け取りなさい!!」
清野 廉「こ、これは?」
ミーナ・クレイドル「その石を持って、 「ヴァーレン」と唱えるの! 早く!!」
清野 廉「!!」
ビリアル・マウティス「ま、待て! そうはさせん──」
清野 廉「ヴァーレン!!」
清野 廉「う、嘘だろ!? こ、これが、俺・・・?」
ビリアル・マウティス「き・・・ 貴様ぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ビリアル・マウティス「よくも、俺を差し置いて その石を使いやがってェ・・・」
ビリアル・マウティス「こうなったら、貴様を倒して 力づくで石を奪い取ってやる!!」
清野 廉「わわわっ! ちょっ、待って──」
ミーナ・クレイドル「清野 廉、心配ないわ!!」
ミーナ・クレイドル「剣で応戦しなさい!! その石を使ったあなたなら、怪人に対抗できるわ!!」
清野 廉「け、剣って言ったって、俺、 使ったことないけど!?」
清野 廉「ええ〜い、とにかくヤケだ、 いっちまえ〜〜!!」
ビリアル・マウティス「ふん、まだまだだな!!」
清野 廉「ぐぐ、これでもくらえッ!!」
ビリアル・マウティス「ふははは、そんな攻撃、 俺にだってできるわ!」
清野 廉「くそ・・・何かあいつを 追い詰められる攻撃はないのか・・・」
清野 廉「頼む、俺の剣! あいつを倒す力を、俺に与えてくれ!」
ビリアル・マウティス「おいおい、嘘だろ!? 衝撃波とか、そんなの・・・」
ビリアル・マウティス「アリかよおおおっ!!」
清野 廉「・・・た、倒した・・・のか?」
「・・・想像以上だったわ、清野 廉」
ミーナ・クレイドル「あなた、その聖光石の力を行使する者に ふさわしいかもしれないわね」
清野 廉「聖光、石? おい、一体これはどういうことだよ!?」
ミーナ・クレイドル「あなたは聖光戦士として、 怪人たちと戦う宿命を背負ったのよ」
ミーナ・クレイドル「聖光戦士とは、聖光石によって怪人の力を得た者のことよ」
清野 廉「ちょ、ちょっと待ってくれ」
清野 廉「俺は怪人で、俺が戦う相手も怪人なのか?」
清野 廉「何で怪人同士が戦うんだよ どっちも悪者側だろう」
ミーナ・クレイドル「簡単なこと」
ミーナ・クレイドル「ヒーローと呼ばれていた者たちが、 全滅したからよ」
ミーナ・クレイドル「ヴァージンという、かつて世界を掌握した怪人のせいでね」
ミーナ・クレイドル「あなたの作った脚本を聞いた時は、 正直驚いたわ」
ミーナ・クレイドル「ほぼ似てるもの ・・・世界が置かれている状況と」
ミーナ・クレイドル「そして、あなたの脚本どおり──」
ミーナ・クレイドル「あなたは、怪人となった」
ミーナ・クレイドル「怪人だけど、でも、 良い怪人だって居たって良いはずよ」
ミーナ・クレイドル「私はそういう『良い怪人』になってくれそうな人に、聖光石を渡そうと思っていたの」
ミーナ・クレイドル「特撮映画のヒーローを一般人から募集したのも」
ミーナ・クレイドル「全ては、聖光石の力を行使するのにふさわしい人物を見つけるため」
ミーナ・クレイドル「・・・まあ、まさか ヴァージンの信者が来るとは 思わなかったけどね」
清野 廉「信者、か そのヴァージンて奴、今はどうしてるんだ?」
ミーナ・クレイドル「消滅したわ ──先代の聖光戦士と共にね」
ミーナ・クレイドル「だから、あなたはこれから 激しい戦いに巻き込まれることになる」
ミーナ・クレイドル「あなたを巻き込んでしまった私が言うのもなんだけど」
ミーナ・クレイドル「・・・お願い ──これからも、聖光戦士として、戦ってくれる?」
「・・・・・・」
「・・・俺は」
清野 廉「ミーナちゃんを襲おうとしたアイツが、許せなかった」
清野 廉「ミーナちゃんの味方でいたいと思った」
清野 廉「だから、戦うよ」
清野 廉「・・・任せろ 俺が、ミーナちゃんも、この世界も守るから!!」
ミーナ・クレイドル「──!!」
〇荒野
「──任せろ」
レン・セルフィー「俺が、ミーナも、この世界も、 守るから──」
・・・レン・・・?
〇綺麗な会議室
ミーナ・クレイドル「・・・わかったわ」
ミーナ・クレイドル「そういうことなら、これからよろしく頼むわよ・・・清野 廉」
清野 廉「チッチッチ 今の俺は清野 廉じゃないよ」
ミーナ・クレイドル「?」
ライラルド・ボーイ「聖光戦士ライラルド・ボーイさ!!」
ミーナ・クレイドル「・・・その名前 気に入ってるんかい!!」
〇綺麗な会議室
──こうして
清野 廉こと、ライラルド・ボーイは
聖光戦士として、
怪人に立ち向かっていくのであった──
軽口をたたいていた姫路が怪人に変身したときは驚きのあまり声が出ちゃいました。清野と姫路が提案した脚本が二つともミーナを軸として現実とリンクしてて、さらに現実の方が脚本よりも現実離れしているなんて、すごいプロットですね。ところで、ミーナちゃんて年取らないのかな。
ミーナを、石を守りたいと言ったレン。その遺志を受け継ぐものに石を渡そうとしていたミーナ。奇しくも同じ名前レン。
大変な道に進むことになったけど活躍を祈ります。
特撮脚本応募からの…というストーリー展開が新鮮で楽しかったです。憧れのアイドルと直に面談試験とは、ファンにとっては夢のような試験ですね。コンビニバイトから怪人へ…まさに夢のような転身ですね。