第四話(脚本)
〇校長室
道哉「それで、今日は何が聞きたいの?」
八千流「はい」
道哉「コレは?」
八千流「ごめんなさい、勝手に契約書を撮影しました」
道哉「・・・」
道哉「なぜ、こんな事をしたのかな?」
八千流「知りたかったんです、本当の事を」
道哉「本当の事?」
八千流「遠野さんは、堀田コーポレーションと直接契約交渉をしていますか?」
道哉「いいや、担当者同士に任せてるけど」
やっぱり・・・
道哉は人を信用しすぎる
何度も注意したんだけどなぁ・・・
八千流「ハッキリ言います、この金額は有り得ません!!」
道哉「・・・え?」
八千流「失礼ですが、道哉さんは原材料の相場を調べた事は有りますか?」
道哉「い、いや・・・」
八千流「なぜですか?言いなりの金額で決めたんですか?」
道哉「ウチの担当者がこう言った事に詳しくて、任せてたんだけど・・・」
八千流「担当者は誰?」
道哉「桐谷(きりや)君・・・」
八千流「それは誰!!」
道哉「こ、この前、ココに僕を呼びに来た人だけど・・・」
彼女か・・・
八千流「・・・彼女の入社時期は、堀田コーポレーションへ契約を変える少し前では?」
道哉「な、何で知ってるの?」
八千流「・・・」
八千流「道哉さん、良いですか?」
道哉「は、はい・・・」
八千流「私から詳細を話す事は簡単です」
八千流「しかし、私の言う事を鵜呑みにするだけじゃダメです」
八千流「まずは自分で調べて下さい、担当者には話さずに自分の力で」
八千流「勿論、堀田コーポレーションの担当者にも、私の父にも内密に」
道哉「ど、どうして?」
八千流「・・・」
八千流「道哉!!」
道哉「は、はい!!」
八千流「アナタは社長でしょ!!」
道哉「・・・」
八千流「・・・」
八千流「ご、ごめんなさい、突然失礼な事を・・・」
道哉「・・・」
道哉「・・・いや、君の言う通りだ」
道哉「僕は社長だからね、会社に関して知らなかったは通用しない」
道哉「姉さんに何度も怒られてたのにね・・・」
八千流「・・・」
道哉「八千流ちゃんは、僕の姉さんに似てるね」
八千流「!?」
道哉「っと言っても、わからないよね」
八千流「・・・」
道哉「わかった調べてみる」
道哉「同業種の知り合いも居るしね」
八千流「ツテは有効ですが、動きを悟られる危険性も有ります」
八千流「事実が判明するまで、絶対に当事者達には知られないでください」
八千流「出来れば、誰にも知られずにおくのがベストかと」
道哉「そうだね・・・」
八千流「それと・・・」
八千流「いえ、何でもありません」
道哉「・・・」
道哉「・・・わかった、事実が判明したら八千流ちゃんにも報告する」
八千流「!!」
道哉「でも良いの?ひょっとしたら、君のお父さんが・・・」
八千流「私は、真実を知りたいんです」
道哉「・・・必ず連絡するよ」
八千流「お願いします」
道哉「しかし、良く契約書の場所がわかったね」
八千流「捜し物は得意なんです」
道哉「でも、もうこんな事はやっちゃダメだよ」
道哉「直接物を取らなくても、泥棒になる事も有るんだから」
八千流「ごめんなさい」
道哉「うん、気を付けてね」
〇工房の倉庫
八千流「・・・」
〇校長室
道哉「八千流ちゃんは、僕の姉さんに似てるね」
〇工房の倉庫
八千流「道哉・・・」
八千流「もしもし?」
快斗「八千流、どっか出掛けてる?」
八千流「うん、隣町だけど」
快斗「そっか、前に話してた退院後に遊びに行く話なんだけど・・・」
八千流「ゴメン、帰ってから連絡する」
快斗「って、お前は自宅療養中だろ?出歩いて良いのかよ」
八千流「あはは・・・えっと、この事は何卒内密に・・・」
快斗「ジュース一本な」
八千流「了解・・・」
八千流「やれやれ・・・」
八千流「っと、お昼までには帰らないと」
田辺「お嬢さん、ちょっと良いかな?」
八千流「?」
田辺「ちょ、ちょっと待って!」
〇公園通り
田辺「ちょ、止まって」
八千流「それ以上近付いたら、警察呼びますよ」
田辺「まってまって!俺!オジサンが警察だから!」
田辺「ね?」
八千流「本物ですか?」
田辺「本物だって!」
八千流「警察手帳の偽造は罪になるでしょうけど、複製自体は難しくないでしょ」
田辺「疑い深い子だなぁ」
八千流「・・・」
田辺「あのさ、ちょっとオジサンについてきてくれない?」
「・・・」
田辺「後ずさらないで!これ以上近付かないから!大通りしか通らないから!」
八千流「・・・」
八千流「・・・わかりました」
田辺「ふぅ・・・」
〇街中の交番
田辺「よう、お疲れさん」
お巡りさん「田辺(たなべ)さん、お疲れ様です」
お巡りさん「捜査中ですか?」
田辺「そんなトコ」
お巡りさん「アレ?そちらのお子さんは?」
田辺「あぁ、ちょっとこの子に俺の事説明してくんない?」
田辺「変質者だと思われちゃってね」
お巡りさん「あぁ、田辺さん顔が怖いですからね」
田辺「ほっとけ」
お巡りさん「お嬢ちゃん、このオジサン顔が怖いけど間違いなく刑事さんだよ」
お巡りさん「怪しい人じゃないよ」
八千流「刑事さんが犯罪を犯さないとは限りませんよね?」
お巡りさん「・・・」
田辺「・・・なんて捻くれた子供だ」
八千流「それじゃあ、私はこの辺で・・・」
田辺「ま、待って待って!じゃあそこ!そこのオープンカフェ!」
田辺「そこなら安全でしょ?交番からも良く見えるし!」
田辺「遠野さんトコの話を聞きたいだけだから!」
八千流「!!」
田辺「ねっ?」
八千流「・・・わかりました」
〇商店街の飲食店
田辺「好きな物頼んで良いよ」
八千流「いえ、お婆ちゃんがお昼を作ってくれる予定なので」
八千流「だからお昼前には帰らせて頂きます」
田辺「あ、そう」
八千流「それで、何のお話ですか?」
田辺「あぁ・・・因みにだけど、お嬢ちゃんは遠野さんトコの子?」
八千流「いいえ、違います」
田辺「じゃあ、何しに来たの?」
八千流「学校の宿題をする為、遠野さんのお話を聞きに来ただけです」
田辺「ふ~ん、因みにどんな話?」
八千流「昨今の物価高等による経営不振の対策と展望・・・です」
田辺「随分難しい宿題だねぇ」
八千流「それは学校に言ってください」
田辺「因みにお名前は?学校は何処かな?」
八千流「黙秘します」
田辺「オイオイ・・・」
八千流「遠野さんの話を聞きたいだけなら、必要ないと思うので」
田辺「さいですか・・・」
田辺「因みにその話で・・・」
八千流「「因みに」が多いですね」
田辺「語彙力が無くてごめんね」
田辺「遠野さんは工場の経営・・・会社の調子について、何て話してた?」
八千流「ギリギリだって言ってました」
田辺「そう、そうだよねぇ」
八千流「・・・あの、先ほど言ったようにお昼には帰りたいんです」
八千流「もう少し端的にお願いします」
田辺「んとね、その経営不振に関して遠野さんはどんな感じだった?」
八千流「社員さんに申し訳ないって言ってました」
田辺「それだけ?」
八千流「・・・何が言いたいんですか?」
田辺「いやいや、遠野さんのトコは昔から製品の評価が高くてね」
田辺「幾ら物価高と言っても、他の同業社に比べて下落幅が大き過ぎる気がするんだよねぇ」
この人・・・
八千流「意味は分かりませんけど、私みたいな小学生に聞かなくても良いんじゃないですか?」
田辺「まったくもってごもっとも」
田辺「何せ正式な捜索じゃなくてね、大っぴらに話も聞けないんだよ」
田辺「上司が煩くてね」
田辺「だから藁にも縋りたいってヤツ?」
八千流「私は藁ですか?」
田辺「いやいや、そういう訳じゃないんだけど・・・」
八千流「期待に添えなくて申し訳ないんですけど、今の私に言える事は無いですね」
八千流「それじゃあ時間なので、私は帰ります」
田辺「あ、あぁ、お家まで送ってくよ」
八千流「いえ、電車で充分間に合うので」
田辺「あ、そう」
八千流「尾行とかしないで下さいね?」
田辺「はいはい」
八千流「・・・」
八千流「刑事さん」
田辺「ん?」
八千流「堀田コーポレーションってどんな会社ですか?」
田辺「テレビでもネットでもガンガンCM出してる、業界最大手だよ」
八千流「それは知ってます」
八千流「刑事さんが知っている堀田コーポレーションの評価です」
田辺「・・・それは、どういう意味かな?」
八千流「特に意味はありません」
八千流「それじゃあ、さようなら」
田辺「・・・」
〇飾りの多い玄関
八千流「ただいまっと」
晴香「八千流ちゃん、何所へ行ってたの?」
八千流「は、はるかお祖母ちゃん!」
八千流「今日は早いね」
晴香「さっき来たばっかりだよ」
晴香「っで、何所へ行ってたの?」
八千流「ちょっとコンビニに・・・」
晴香「もう、心配するでしょ」
晴香「勝手に出かけちゃダメ」
八千流「ごめんなさい・・・」
晴香「まぁ、八千流くらいの子に家でジッとしてろと言うのも酷な話だと思うけど」
八千流「あの~・・・この事はお父さん達には・・・」
晴香「・・・」
晴香「今後は自宅療養が終わるまで、勝手に出掛けないって約束する?」
八千流「はい、約束します」
晴香「わかった」
晴香「じゃあ今回だけは、お婆ちゃんの胸にしまっておく」
八千流「ありがとう、お婆ちゃん!」
晴香「はいはい、じゃあ手を洗ってらっしゃい」
八千流「は~い」
〇白いバスルーム
八千流「お祖母ちゃんが孫に甘くて助かった」
八千流「しかし、これでうかつに動けなくなったなぁ」
八千流「アッチは道哉に任せっきりになっちゃうな・・・」
〇おしゃれなリビングダイニング
八千流「ごちそうさまでした」
晴香「お粗末様でした」
八千流「そう言えば、お婆ちゃん」
晴香「なんだい?」
八千流「お父さんって、仕事できる人?」
晴香「唐突だねぇ」
晴香「それなりに出世はしてると思うよ」
晴香「それも彼女のお陰だけどね」
八千流「彼女?」
晴香「息子は京華さんと結婚する前に、好きな人が居てね」
晴香「その人のお陰で大きな契約が取れたって喜んでた」
実家との契約か
晴香「その人に、凄く感謝してるって言ってた」
晴香「きっと今でも・・・」
八千流「そうなんだ・・・」
〇女の子の一人部屋
八千流「感謝してた・・・か」
八千流「感謝した見返りが、アレなの?」
〇水中
〇女の子の一人部屋
八千流「・・・もう、わかんないよ」
八千流「アナタの素顔が、わかんないよ」
ねぇ?・・・優