名探偵になりたい。

ゆう羅

エピソード3(脚本)

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〇部屋の前
  奇しくも僕らの推理は一致した。
  その結論に至るまでの道筋は違うのかもしれない。
  犯人と断定された鈴木さんは、一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに諦めたのか、落ち着いた表情をしている。
  どういうことだろうか。
  それに同じ答えを出した美崎も御堂も少し戸惑っているようだ。
  落ち着いて整理してみよう。
  僕が鈴木さんを犯人だと断じたのは・・・。
  (矢城の推理・解説編)
  まず僕が彼女を犯人だと思った理由はいくつかある。
  最初に遺体の状況から、佐藤は床に寝そべった状態で垂直に包丁を刺されたと考えるのが自然だ。
  では、どうやって寝そべってもらったか?
  犯人が頼んだのだ。不自然ではないように。
  このダイニングルームの造りから、床に落ちたものを拾うシチュエーションを想定する。
  この場合、自然に頼むとしたら同学年の異性の可能性が高い。
  仮に佐藤より年下ならば先輩に床に落ちたものを拾ってもらうのは不自然だ。
  逆で佐藤より年上の者ならば可能性はある。しかし佐藤より先輩なのは、一晩中起きていた田中先輩か、
  お酒に弱くてすぐに寝たと証言した塩野先輩になる。
  しかし田中先輩ではない。
  田中先輩が嘘を吐いていたとしたら、予定外の行動で田中先輩を尋ねてきた人物まで共犯になる。
  そう、頭痛から先輩に薬をもらいに行った山田だ。
  本人も時間を憶えていない夜中(時間の証言をしたのは田中先輩だ)にいきなり尋ねていたのだから、
  ふたりが共犯でない限りその行動は危険が伴う。
  では塩野先輩か、こちらは完全に否定はできない。
  しかし塩野先輩では不都合な点がある。
  ひとつ、塩野先輩は部屋から出づらい状況にあった。
  よほどのことがないと、女性がパジャマ姿を男性に晒すことはしないはずだ。
  昨日、塩野先輩は会の終わりに佐藤(ま)が偶然ぶつかってまだ中身のあるグラスを倒し、服をしこたま濡らしてしまった。
  その時から塩野先輩は体力の限界らしく、部屋に戻ってパジャマに着替えて寝るからと、謝り倒す佐藤(ま)を慰めていた。
  (ちなみにこの山荘に来るまでに一着目はかなり濡れてしまい、今着ている以外はパジャマしか着替えがないようだ)
  そうなると真夜中にパジャマ姿で、後輩とはいえ男子の佐藤に何か頼み事をするシチュエーションは考えづらい。
  残る人物は鈴木だ――。
  彼女なら、同学年の気軽さから佐藤に頼みごとができるだろう。
  ダイニングルームの造りと佐藤の倒れていた場所を考えると、食器棚の下に隙間がある。
  そこに何かを落とした、自分では手が届かないから取ってくれないか・・・そんなところだろう。
  そうなるとさらに塩野先輩は条件から外れる。
  塩野先輩は女性にしては背が高く、亡くなった佐藤と同じぐらいだ。
  だから「手が届かない」という理由は使えないだろう。
  こうなると状況から佐藤をうつ伏せ状態にさせ、そして背中を刺せる可能性が最も高いのは〃彼女〃だと判断した。
  「鈴木さん、いががですか?」
  (美崎の推理・解説編)
  
  私の導きだした答えはとてもシンプルよ。
  きっと一番、納得してもらえると思うわ。
  被害者は特殊な状況ではない限り、最も犯人を知る人物。だから被害者が犯人を指摘したものが答えだから。
  ダイイング・メッセージは「さとう」。
  しかも「左手」で書かれている。
  この言葉の意味は、亡くなった佐藤を知らなければ推測できないものだろう。
  佐藤は江戸文化や落語を愛好する青年だったと聞いて、私はピンときたのだ。
  江戸時代の言葉で「さとう」には別の意味があった。
  それはさとうを「左党」と書いた場合だ。
  ちなみに「左利き」とも言う。
  江戸時代、大工や工夫が右手に槌、左手に鑿(のみ)を持つことから、右手を「槌手」、左手を「鑿(のみ)手」と言った。
  そこから「のみて」→「呑み手」で酒飲みを表す言葉となった。
  また、江戸時代の酒飲みを表す言葉は他にも「食べ印」という、
  一見すると酒飲みとは反対に思える言葉がある。
  ・・・話が逸れてしまった。
  ええ、そう結論は簡単なこと。
  このサークル内で最も「酒飲み」な人は誰が見ても一目瞭然。
  
  
  「鈴木さん、いかがですか?」
  (御堂の推理・解説編)
  
  階下へ被害者と共に降りて行き、犯行を行った・・・そして階下から上がってくる際に、犯人が
  階段のランプが点かないようにしていた。
  これが俺の推理だ。
  何故そんなことをしたか、答えは簡単だ。
  犯人は佐藤がひとりで階下に降り、誰かに刺された状態で死亡している、という状況を作りたかったのだろう。
  おそらく外部からの侵入者があって刺されたという状況にしたかったか、あるいは何かの「見立て」をしたかったのかもしれない。
  その意図はまだわからないが、前者の「外部からの侵入者」というのは、夜中過ぎからの猛吹雪で無理な状況になってしまった。
  ともあれ二階部屋の造りから佐藤と同時に階下へ行き、上がってくる時には階段のランプが点かないように細工をする
  という条件を満たす人物はひとりしかいなかった。
  まず、各部屋のドアは開閉すれば音がする。これは閉める時に音がするのだから、あらかじめドアに何か挟んでおけば、
  開く音を防ぐことができるだろう。
  次に被害者が階下に行くと「確定」させる準備だ。
  例えば吞み会で酒と共に塩辛いつまみを食べさせておけば、のどの渇きから階下のキッチンに向かう可能性は高い。
  犯人は夜中に起きて動いてくれることを願って、その準備を不自然にならないよう行ったのだろう。
  そして意図したとおり、夜中に佐藤は階下へと向かった。
  ここが一番のポイントだ。
  近くの部屋の者でも、中央が吹き抜けで四角形に部屋が並んでいると、どこのドアが開いた音かというのはわかりにくい。
  しかし確実にドアを開けたかどうか不自然ではなく、見張れるポイントがある。
  吹き抜けを挟んだ対面にある部屋からだ。
  ドアを大きく開けることなく、隙間から正面に見えるドアが開かれるのを見張っていればいい。そして自分も偶然を装って、
  夜中だから静かにというジェスチャーをすれば、階下に行くまで言葉を交わすこともしないだろう。
  ましてや全員、先輩である田中氏が夜中に執筆していることを知っているのだから、邪魔にならないように気をつかうはずだ。
  被害者の佐藤の部屋がある東側と、階段のある吹き抜けを挟んで対面の西側にある部屋は〃彼女〃の部屋だ。
  さらにその〃彼女〃は西側の部屋、つまり階段の電灯に一番近い場所にいる。
  階段の灯りは点灯後、約15秒明るさを保ち、自動的に消える。
  例えば階段の途中でずっと立ち止まっていたとしたら、15秒後に一度消えかけて、その後にもう一度明るさを取り戻す。
  つまり、階段を下りる時にセンサー部分を何かでおおってしまえば、自然に消えた後に階段を上っても電気は点かない。
  そして昇った後、二階の手すりから覆っているものを回収してしまえばいい。
  この時に誰か起きていたらドアのすりガラスから人影を目撃されてしまう。
  行えるなら、最も危険が少ない。
  そう、この条件に当てはまるのはあなたしかいない。
  「鈴木さん、いかがですか?」
  根拠を違えながらも、一致した犯人。
  だが次の瞬間、ミス研だけでなくその場にいた全員が予想だにしない事態が起きるのだった。

コメント

  • 緻密で丁寧な考察により導かれた犯人ですが、これは真実なのかと疑うヒネくれた読み手なもので、次話の完結編が楽しみになります!

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