ハニーブレッド

入江恵衣

5話. 崩落(脚本)

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入江恵衣

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〇オフィスのフロア
鏑木芹那(つみきせりな)「おはようございます」
花園チカ「鏑木、おはよ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「あ、チカさん!」
鏑木芹那(つみきせりな)「私の仕事が遅れてるせいで、チカさんがスケジュールを調整してくれたって訊きました」
鏑木芹那(つみきせりな)「本当に、ご迷惑をお掛けしました。そしてありがとうございました」
花園チカ「いいよいいよ! それが仕事だし!」
花園チカ「で、どう? デザインは進みそう??」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい! 大丈夫です!」
花園チカ「良かった。頑張れ、鏑木!」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい!」

〇小さい会議室
鏑木芹那(つみきせりな)「ーーそれでね、この部分はエンドユーザーへ向けたメッセージなの」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・どうかな?」
沢田亨「鏑木さん! さすがっすよ!」
沢田亨「やっぱ戸塚広告賞獲った人はすごいわ! 俺、感動しました!」
鏑木芹那(つみきせりな)「ほ、ほんと!?」
沢田亨「これ、絶対クライアント喜びますって! 俺、さっそく連絡入れます!」
鏑木芹那(つみきせりな)「ありがとう!」

〇オフィスの廊下
  カッカッカッ
鏑木芹那(つみきせりな)(やった! やった! やったー!)
鏑木芹那(つみきせりな)(嬉しい! 久しぶりに満足のいくものが作れた!!)

〇女子トイレ
鏑木芹那(つみきせりな)(よしっ! この勢いで次の仕事にとりかかろう!)
近藤りん(こんどうりん)「あ、芹那」
鏑木芹那(つみきせりな)「りんちゃん!」
近藤りん(こんどうりん)「・・・」
近藤りん(こんどうりん)「なんか嬉しそうだね。良いことでもあった?」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん! 久しぶりに手ごたえのあるデザインを提案できてね。テンション上がってるの」
近藤りん(こんどうりん)「・・・そっか」
近藤りん(こんどうりん)「やったじゃん!」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん! じゃあ仕事溜まってるから先行くね!」
近藤りん(こんどうりん)「はいよっ」
近藤りん(こんどうりん)「・・・」
近藤りん(こんどうりん)「・・・あの子、自分で気づいてるのかな?」

〇オフィスのフロア
  カチャカチャカチャ
鏑木芹那(つみきせりな)「フーッ」
鏑木芹那(つみきせりな)「わっ! もうこんな時間!?」

〇ビルの屋上
鏑木芹那(つみきせりな)「んー! 風が気持ちいい~!」
  プシッ
鏑木芹那(つみきせりな)「一仕事終えた後の缶コーヒーほど美味しいものはないよね~」

〇東京全景
「綺麗・・・」

〇ビルの屋上
鏑木芹那(つみきせりな)「こんなにも穏やかな気持ちで夜景を見たのはいつぐらいぶりだろう」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「私」
鏑木芹那(つみきせりな)「なんであんなに不安だったのかな」
鏑木芹那(つみきせりな)「なにが不安だったんだろう・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「ま、いっか! とりあえず切りの良いところまで進めたし、今日は帰ろう」

〇オフィスのフロア
  数週間後──

〇オフィスのフロア
部長「おーい、みんな! 聞いてくれ!」
部長「日本総合CM協会のコンペで、なんとわが社の企画が採用されたぞ!」
「コンペのチームでプロジェクトを進めるんですか? それとも再編成するんですか?」
部長「それについてはこの企画を立ち上げた金原と相談しているところなんだ」
部長「このまま行くかそれとも再編成か。どちらにしろメンバーには個別にメールを入れるから。そのつもりでいてくれ」
「はい!」

〇オフィスの廊下
  カッカッカッ
  金原すげーな。
  日本総合CM協会の
  コンペっつったら
  テレビCMも含めた
  各メディア媒体の広告を
  一手に任されるんだろ
  かなりの金が動くぞ。
  うちの会社、
  あと数年間は安泰決定だな
  プロジェクトメンバー、
  誰が選ばれると思う?
  ディレクターのチカさんに
  ライターの近藤。マーケティングの榊。
  マネージャーの黒木。
  あと、デザイナーの鏑木だな
  だよなー。
  俺が選ばれる可能性0だわ
  そりゃお前には無理だろ。
  なんてったって鏑木は
  戸塚広告賞獲ってるんだぜ
  だよなー。
  あーあ、
  俺もメンバーに入りてー

〇オフィスのフロア
  数週間後──

〇オフィスのフロア
鏑木芹那(つみきせりな)「プロジェクトメンバーの連絡、ぜんぜん来ないなー」
金原康太「よっ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「金原さん!」
金原康太「最近調子いいらしいじゃん」
鏑木芹那(つみきせりな)「そうかな?」
金原康太「ちょっと屋上のコーヒータイムに付き合ってよ」
鏑木芹那(つみきせりな)(もしかして、メンバー入りの話かな?)
鏑木芹那(つみきせりな)「はい!」

〇ビルの屋上
金原康太「おぉ、寒っ! そろそろ屋上が辛くなる時期だな」
鏑木芹那(つみきせりな)「だね。私はこのぐらいの寒さが一番好きだけど」
金原康太「はい」
鏑木芹那(つみきせりな)「ありがとう」

〇ビルの屋上
金原康太「AB商事はもう校了なんだっけ」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん。どうにかね」
鏑木芹那(つみきせりな)「あとは各種媒体の印刷と配信が残ってるぐらいかな」
鏑木芹那(つみきせりな)「沢田君との息も合ってきて、最近はやりやすかったよ」
金原康太「そっか。安心したよ」
金原康太「あそこは単発案件だから納品まであと少しだし、沢田と最後まで頑張れよ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん!」
金原康太「あのさ」
金原康太「例のプロジェクトメンバーのことなんだけど」
鏑木芹那(つみきせりな)(来た!)
金原康太「デザイナーには藤森を入れることにしたんだ」
鏑木芹那(つみきせりな)「え!?」

〇ビルの屋上
鏑木芹那(つみきせりな)「な、なんで藤森君?」
金原康太「あいつ、最近すごい勢いで成長しててさ」
金原康太「まだ若いから飲み込みも早いし、ここでデカい仕事を任せたらもっと伸びるんじゃないかって」
金原康太「将来性も考えてプロジェクトメンバーに入れることにしたんだよ」
金原康太「時代に合った発想力もあるし度胸もある」
金原康太「あいつ、もしかしたら将来とんでもないデザイナーに化けるかもしれないぞ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「そ、そうなんだ。確かに藤森君のデザインは斬新で魅力的だよね」
金原康太「だからさ、鏑木には藤森のフォローに入ってもらいたいんだよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「あ、うん。私なんかでよければ・・・」
金原康太「悪いな。まあ、藤森のことだからフォローとか断りそうだけどさ」
鏑木芹那(つみきせりな)「あははっ」
鏑木芹那(つみきせりな)「あ、もしかして話ってこのことだったの?」
鏑木芹那(つみきせりな)「良い話だし、わざわざ屋上まで来ることないのに」
金原康太「いや、実はさ・・・」
金原康太「鏑木に報告があってね」
鏑木芹那(つみきせりな)「報告?」
金原康太「実は、夕日が妊娠したんだ」
鏑木芹那(つみきせりな)「え・・・?」

〇黄色(ダーク)
「俺さ、鏑木には本当に感謝してるんだ」
「一緒に組むようになって、立て続けに大きな案件で結果出せたし」
「ディレクターとしての立場とか振る舞いとか、そういうのもすごく学ばせてもらった」
「俺が鏑木をビジネスパートナーとして最高の相手だと思ってたことに嘘はないんだ」
「ただ、この前のことも含めて、鏑木と体の関係を持ったことは本当に軽率だったと思っている」
「まさか鏑木があんな風に悩んでたなんて思わなかったんだよ・・・」
「ずっと一緒に組んでいたのに、結婚の報告も事後になったし」
「俺、鏑木に対して不誠実だったことに今さら気づいたんだ」
「だから妊娠のことは、誰よりも一番に報告したくて──」
「・・・」
「鏑木?」

〇ビルの屋上
「鏑木、どうした?」
金原康太「鏑木!」
鏑木芹那(つみきせりな)「あっ!」
金原康太「どうした? 具合でも悪いのか?」
鏑木芹那(つみきせりな)「ううん! 大丈夫!」
鏑木芹那(つみきせりな)「そっか。夕日さん妊娠したんだね。 おめでとう!」
鏑木芹那(つみきせりな)「赤ちゃんかー。夕日さんと康太の子どもならきっと可愛い子が産まれるね!」
金原康太「あ、ありがとう・・・」
金原康太「あ、あのさ・・・。それで・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「あ、もう大丈夫だよ! ホテルへ行こうなんて言わないから安心して!」
金原康太「ほ、ほんとか!」
金原康太「これからはさ、プロデューサー一本でいくから前みたいにフォローには入れないけど、鏑木なら大丈夫だから!」
金原康太「俺も頑張るから鏑木も頑張れよ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「もちろん!」

〇オフィスの廊下
(あ、藤森君だ・・・)
鏑木芹那(つみきせりな)「藤森君」
藤森流伽「あ、鏑木さん。お疲れ様です」
鏑木芹那(つみきせりな)「日本総合CM協会のチームに選ばれたこと聞いたよ。おめでとう!」
藤森流伽「ありがとうございます!」
藤森流伽「せっかくの機会だからここで経験を積めって金原さんに声をかけてもらったんですよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「そ、そう・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「またいつでも相談に乗るから、頑張ってね!」
藤森流伽「戸塚広告賞を獲った鏑木さんにそう言ってもらえたら心強いです。ありがとうございます」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」

〇ビルの屋上
鏑木芹那(つみきせりな)「寒っ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」

〇ビルの屋上
鏑木芹那(つみきせりな)「まさかメンバーから外れるなんて」
鏑木芹那(つみきせりな)「想像もしてなかった・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「なんで・・・?」

〇タワーマンション

〇女子トイレ
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
「う、うぅ、」
「おえ、うぅ・・・」
  コンコンッ
鏑木芹那(つみきせりな)「あの、大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます。 大丈夫です」
  ジャーッ
鏑木芹那(つみきせりな)「あ!」
夕日奈江「鏑木さん・・・」
夕日奈江「ごめんなさい。変なところ見られちゃったわね」
夕日奈江「大丈夫だから、気にしないでね」
鏑木芹那(つみきせりな)「あ、あの・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「それ、もしかして悪阻ですか?」
夕日奈江「え?」
夕日奈江「もしかして、金原から聞いた?」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい。妊娠したって・・・」
夕日奈江「まだ安定期に入ってないから会社の人には内緒にしてるの」
鏑木芹那(つみきせりな)「でも、悪阻があるなら会社へ報告して休みを貰った方がいいんじゃないですか?」
夕日奈江「悪阻はほとんどないんだけど、今日の来客の香水がどうも合わなかったみたいでね」
夕日奈江「まさか初めての悪阻が会社でだなんて思いもしなかったわ」
鏑木芹那(つみきせりな)「そうなんですね。大丈夫なら安心しました」
夕日奈江「見苦しいところを見せちゃってごめんなさい。声をかけてくれてありがとう」
鏑木芹那(つみきせりな)「いえ・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「あっ! 妊娠おめでとうございます」
夕日奈江「ありがとう」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」

〇女子トイレ
鏑木芹那(つみきせりな)「私はプロジェクトメンバーから外れてこんなに落ち込んでいるのに」
鏑木芹那(つみきせりな)「夕日さんは妊娠であんなに喜んでいるなんて・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「なんで私ばかりこんな目に遭わなきゃいけないの?」
鏑木芹那(つみきせりな)「そもそも、あの二人が結婚できたのは戸塚広告賞を獲ったからでしょう?」
鏑木芹那(つみきせりな)「じゃあ私のおかげじゃん」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・あっ」
鏑木芹那(つみきせりな)「もしかしたら、夕日さんが妊娠したから私のことプロジェクトメンバーから外したんじゃ・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「賞を獲ったら私は邪魔者扱い・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「許さない・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「あの2人、絶対に許さない・・・!」

次のエピソード:6話. 窮追

コメント

  • 気分や感情が仕事の成果に直結する人は一定数いますが(私含むw)芹那さんはその典型ですよね!本人すら気付かず、理解しているのはりんさんのみ。康太さん、早く気付いてあげてー!!

  • んー…。芹那の気持ちも分からなくはないかも…。でも人の道だけは外れないで欲しいな…

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