〇土手
　　この広い世界に、自分しかいない
　　そう感じるくらい世界が寂しくみえる
　　私の気持ちに寄り添えるのは誰もいない
　　誰もいらない
　　自分の中にいる母を思い出しながら
　　夜空を見上げる。

〇黒
　　あーっ!!またこぼして！
　　拭くの大変なんだからぁ
　　りっちゃん！すごーい!!!
　　１か月でこんなにできたね！
　　りっちゃん、りっちゃん
　　だーいすき！
　　りっちゃんは、お母さんの１番の宝物。
　　18年前・・・ーー。
　　８月20日16：46 ずっと長く続く陣痛を母は耐え抜き、私　佐山律（リツ）が産まれた。
　　なぜか、分からないけれど私は産まれてから物心つくまでの記憶がしっかりと残っている。
　　母は、私が産まれた時から一人で
　　父の顔は一度も見たことがなく、
　　家のアルバムにもそのような男性は
　　写っていなかった。
　　母は私が産まれてまもなくすると、
　　仕事をし始め、私を懸命に育てた。
　　そして、私が２歳になった時。
　　事は起こった。

〇アパートのダイニング
　　コンコンと狭いアパートのドアを叩く音がして、母はのぞき穴を確認した時
　　血の気が引いたような顔をして、
　　私を抱きしめながら何かを叫んでいた。
　　それと同時にドアが開き、私は初めて見た。
　　"怪人"を。

〇土手
　　それからは私も記憶がない。
　　ただ、覚えているのはこの今付けているネックレスはその頃からあるということ。
　　そして、ネックレスを外した時、
　　そして外さなくとも月がない時は
　　姿が人間ではなく"怪人"になっている
　　ということだ。

〇アパートのダイニング
　　あの日から、怪人の姿になった私を
　　母は変わらず愛してくれていたが
　　今までとは違う何かをしていた。
　　そして、３か月ほど経った頃、
　　母は事情を知る祖母に私を預けて
　　行方不明になる。

〇古い本

〇実家の居間
　　あの日のことはよく覚えている、
　　私の娘　由加（ユカ）がいなくなる日。
由加(ユカ)母「お母さん、私　今から行ってきます」
祖母「・・・・・・・・・」
由加(ユカ)母「うん。私には律。この子しかいないの」
由加(ユカ)母「この子には同じ思いをさせたくない」
由加(ユカ)母「こうするしか、この子を守る術はない」
　　あの子の目。
　　何かを決心し、覚悟を決めた顔を見たら
　　止められなかった。
　　娘をいかせてしまった私にも責任がある。
　　けれど、だからこそ
　　この子を絶対に守り抜く。

〇田園風景
　　それが、この世界の為なのだから。

〇古い本

〇渋谷のスクランブル交差点
　　ずっとずっと何のために生きてきたのか
　　分からなかった。

〇モヤモヤ
　　私は最初から抜け殻で、
　　取り柄も何もなかった。
　　こんな私を誰か、愛してほしい

〇黒
　　出会い。
　　それから悩んでした出産。
　　こんな私が母を名乗っていいんだろうか。
　　私は何のために生きてる？
　　誰が私を必要としてる？
　　ずっと考えていた。

〇幻想空間
　　でも、この子に会って、
　　笑顔を見たり一緒に泣いたり、驚いたり、
　　私でもまだこんなに感情があったのだと
　　びっくりしている。
　　今まで思っていたこと
　　全てがどうでも良くなってきた。
　　そうだ、私は。
　　この子の為に生きている。
　　それだけで、今は必死で生きる理由になる。
　　今はその理由だけで充分すぎる。

〇アパートのダイニング
　　１ヶ月
　　律が泣いてる、どうしよう
　　泣き止まない。私は母失格？
　　でも、私が育てないと死んでしまう。
　　つらい。
　　でも時々笑いかけてくれるような気がする。
　　２か月
　　律がキョロキョロ周りを見てる。
　　まだ、産まれてから２か月。
　　何もかもが新鮮だよね。
　　これから綺麗な景色、美味しい食べ物、
　　一緒にやりたいことがありすぎて、、、
　　寝れない。
　　１歳
　　立ち上がることができるようになって
　　少し歩けるようになってきた。
　　私の行く所に全てついてくる愛おしい子。
　　１番側でずっと成長を見守れることが幸せ。
　　愛情をあげてるよりも
　　この子にもらってばっかり。
　　２歳
　　チビ怪人、律。
　　本人は気に入ってる様子。
　　幼いから、まだ良かったのかな。
　　ただ、いつもより怪人な分、
　　怪力すぎて今日は机が割れた・・・。
　　どんだけ力あるんだろう。
　　これから少しずつ、
　　あの子の中の一部が
　　侵食されていくはず。
　　何とかしなければ。
　　少しでもあの子が人間らしくいられるように。
　　今、中身は何も変わらない。いつもの律。
　　私の宝物。
　　いつかそのチカラで世界を変えてくれるかな。
　　優しい子になってほしい。

〇幻想空間
　　ずっと来るかもと思っていた。
　　ついに来てしまった。
　　この子の運命を少しでも幸せなものに変えてあげたい。
　　その為なら私は喜んで命を捧げよう。
　　律、愛してる。

〇古い本

〇宇宙空間
　　いつも真っ暗な夜が怖い私の為に、
　　母は段ボールやアルミホイルで
　　手作りプラネタリウムを作ってくれた。
　　そして、一緒に寝転びながら話してくれた。
由加(ユカ)母「律、月がでてなくても星はこーんなにあってまだ見つかってない星もあるんだよ」
由加(ユカ)母「律もいつか夜の暗さに心が埋め尽くされちゃったら、空を見上げてみてね」
由加(ユカ)母「見えてなくても、必ず向こうの空には星が輝いてるの」
由加(ユカ)母「お母さんも星になりたいな〜、」
由加(ユカ)母「そしたら世界を手にした感覚になるのかな。 私からはみんなのことが見えてるの。 面白そうじゃない？」

〇土手
　　その言葉の意味を考えながら
　　夜空を見上げて手で
　　星を掴もうとした。
律「お母さん。もう手にしたの？」
　　私に残されたのはこれだけ。
篤子(アツコ)「律〜、用意できたよ〜」
律「ありがとう、篤子（アツコ）」
篤子(アツコ)「さぁ、皆さん　いよいよ、行きますよ〜」
　　篤子が振り返った先には他に５人ほど
　　怪人の仲間がいる。
篤子(アツコ)「律、これから敵陣に行くってのに 随分あっけらかんとしてんね」
篤子(アツコ)「怖くないの？」
律「全く」
篤子(アツコ)「すごいね・・・」
律「１人じゃないし、もう手にしてる人が 私のそばにはいるから」
篤子(アツコ)「手にしてる??」
律「そっ」
　　お母さん、じゃあ　行ってきます。
　　私の手で、世界を。

〇宇宙空間