bilincat−バイリンキャット−

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2話【可哀想な山都さん】 (脚本)

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〇アパートのダイニング
  ──翌日──
山都大輝「ホラ!じっとしてろって!」
黒猫「う・・・」
山都大輝「よし!これでOKだな!」
黒猫「何だか首が変な感じだ・・・」
黒猫「モゾモゾする・・・」
黒猫「これはなんだ?」
山都大輝「これは首輪だ!首輪!」
黒猫「クビワ?なんだソレは?」
山都大輝「まぁ、一応でもお前を飼う事になった訳だからな!」
山都大輝「首輪を着けたんだ!」
黒猫「ん?答えになってないぞ?」
黒猫「俺はこれは何かと聞いたんだ」
山都大輝「いちいちうるせぇなぁ!」
黒猫「何をそんなに怒っているんだ?人間という生き物はつくづく分からないなぁ」
山都大輝「飼い猫には首輪を着けるんだよ!」
黒猫「何故だ?」
山都大輝「まぁ、アレだよ!家族の証的なヤツだ!」
黒猫「家族の証か・・・」
黒猫「悪く無い響きだな!」

〇アパートのダイニング
山都大輝「ところで、お前の名前は何て言うんだ?」
黒猫「名前?そんなものは無い!」
山都大輝「ねぇのかよ!」
黒猫「名前など考えた事も無い!俺には必要がないからな!」
山都大輝「じゃあ、まず名前をつけねぇとな!」
黒猫「そんなものはいらん!」
山都大輝「いやいや、ずっと『お前』じゃマズイだろ?」
黒猫「俺はお前の名前は知らないが、お前のままでマズイとは思わないがな!」
山都大輝「あ!そっか!まだ名乗ってなかったな!」
山都大輝「俺の名前は山都大輝だ!」
黒猫「ヤマト・・・ダイキ・・・」
山都大輝「ヤマトだろうがダイキだろうが、好きな呼び方で呼べばいい!」
黒猫「ではヤマトと呼ばせてもらおう!」
山都大輝「うーん・・・何か・・・」
山都大輝「黒猫にヤマトって呼ばれるのも、なんか不思議な感じだな」
黒猫「何故だ?」
山都大輝「いや何か・・ヤマトはお前だろ!的な・・・」
黒猫「ん?」
山都大輝「いや、なんでもない・・・」

〇アパートのダイニング
山都大輝「うー・・・ん」
山都大輝「名前ねぇ・・・」
山都大輝「いざ名前をつけるとなると悩むなぁ」
黒猫「・・・・・・」
山都大輝「お前はオスだから・・・」
黒猫「ちょっと待て!」
山都大輝「うるせぇな!ちょっと黙ってろ!」
山都大輝「今超絶スーパーに良い名前考えてんだから」
黒猫「だから待てと言っているだろ!」
山都大輝「だー!もう!何なんだよ!」
山都大輝「こっちは真剣に考えてんのに!」
黒猫「俺はオスじゃない!メスだ!」
山都大輝「え?まじで?」
山都大輝「どれどれ・・・」
  大輝は黒猫を抱き抱えて確認する。
山都大輝「タ・・・タタ・・・タ」
山都大輝「タマがねぇ・・・!!」
山都大輝「チ・・・チンも・・・」
黒猫「だから言っただろ?メスだと!」
山都大輝「いや・・・一人称に俺だから・・・てっきり」
黒猫「というかいつまで抱えているつもりだ?」
黒猫「早く降ろしてくれ!」
山都大輝「あ、悪い・・・」

〇アパートのダイニング
黒猫「ところで俺の名前は決まったのか?」
山都大輝「あぁ・・・」
山都大輝「タマナシのタマでいいんじゃね?」
山都大輝「あぁあぁあぁ!いってぇ!」
山都大輝「引っ掻いてんじゃねーよ!クソ猫!」
黒猫「真面目に考えないからだろ!」
山都大輝「ならサオナシのサオってのは?」
山都大輝「爪を研ぐな!爪を!」
黒猫「だから真面目に考えろ!」
山都大輝「ならクロでいいんじゃね?黒猫だし!」
黒猫「単純で安易な名前だな・・・」
山都大輝「嫌ならタマ・・・」
黒猫「クロ!実に素晴らしい名前じゃないか!」
黒猫「俺は気に入ったぞ!うん!」
山都大輝「まぁ、いいっか・・・」
山都大輝「じゃあ今日からお前はクロだな!」

〇アパートのダイニング
山都大輝「じゃあ俺は行くからな?大人しくしてろよ!」
クロ「どこに行くんだ?」
山都大輝「仕事だよ!仕事!」
クロ「それは行く必要はあるのか?」
山都大輝「いいのか?行かねーとカリカリ買えねーぞ?」
クロ「なんと!ソレは死活問題だ!」
クロ「よし!仕事に行って来い!」
山都大輝「だから何でそんな命令口調なんだよ」
山都大輝「まぁ、いいか!」
山都大輝「大人しくしてろよ?」
クロ「ああ!わかった!」
山都大輝(本当に分かってんのか?)
山都大輝「あ!あと、ウンコすんなよ?」
クロ「それは出来ない約束だぞ・・・」
クロ「出したくなくても出てしまうのが排泄物という物だからな!」
山都大輝「帰りにトイレと砂買ってくるから!それまで我慢しとけって話だ!」
クロ「まぁ、なるだけ我慢してみよう!」
山都大輝「じゃあな!行ってくるわ!」
クロ「・・・・・・」

〇白いアパート
山都大輝「あ!そう言えば・・・」

〇アパートのダイニング
山都大輝「じゃあな!行ってくるわ!」

〇白いアパート
山都大輝「誰かに行って来ます!的なこと言ったの・・」
山都大輝「いつ以来だろうな・・・」
山都大輝「・・・・・・」
山都大輝「猫が居る暮らしってのも、案外悪くないのかもな・・・」

〇アパートのダイニング
クロ「・・・・・・」
クロ「・・・・・・」
クロ「・・・・・・」
クロ「・・・・・・」
クロ「暇だな・・・」
クロ「・・・・・・」
クロ「・・・・・・」
クロ「暇すぎて頭がおかしくなるぞ・・・」
クロ「あ!そうだ!」
クロ「ヤマトに付いていこう!」
クロ「うん!それがいい!」
クロ「コレはアレだ!お迎えというヤツだ!」
クロ「ヤマトも喜ぶ筈だ!」

〇スーパーマーケット
  ──スーパーこざくら──

〇スーパーの店内
山都大輝「いらっしゃいませー!」
風間小夏「山都さん!!!お疲れ様です!」
山都大輝「おお!小夏ちゃんか!おつかれ!」
  彼女の名前は風間小夏。23歳。
  大輝と同じスーパーで働いているフリーターで、大輝の後輩。
  実は密かに大輝が好意を抱いている女性だったりする。
風間小夏「何か今日明るいですね!」
山都大輝「そ・・・そうかなぁ?」
風間小夏「何かいい事でもありました?」
山都大輝「いや・・・特には・・・」
山都大輝(何で俺はクロの事を思い出してんだ?)
店長「やぁ!二人とも!おつかれ!」
山都大輝「ああ!店長!お疲れ様です!」
風間小夏「お疲れ様です!」
山都大輝「あの・・・店長」
店長「ん?どうした?」
山都大輝「今日って客、えらく少なくないっスか?」
風間小夏「ホントそれです!めちゃ少ないですよ!」
店長「そうなんだよ・・・」
店長「客足がいつもの半分なんだ・・・」
山都大輝「は、半分?」
山都大輝「やっぱ駅前に最近できた、百貨店の影響っスかね?」
店長「たぶんそうだと思うよ・・・」
風間小夏「あちゃー!かなりの打撃ですね・・・」
店長「そこで君ら二人に相談なんだが・・・」
山都大輝「相談?」

〇電器街
  結局、大輝と小夏の二人は、店長からの要望により、定時前に退社させられてしまった。
山都大輝「はぁ・・・」
風間小夏「店長ももう少し考えてほしいですよね」
山都大輝「確かになぁ・・・」
山都大輝「百貨店の影響で客足が遠のいてるから、人件費を削減したいって店長の気持ちはわかるけど」
山都大輝「雇われてる立場からすると、勘弁してくれって感じだよな・・・」
風間小夏「でも、店長のあの困った顔見ると・・・」
山都大輝「無下にする事もできねぇよな・・・」
風間小夏「はぁ・・・暇になっちゃったなぁ」
山都大輝(え?今暇になったって言った?今確かにそう言ったよね?)
山都大輝(仕事が早く終わってブルー入ってたけど)
山都大輝(コレはある意味チャンスなんじゃね?)
山都大輝(ちょっと勇気振り絞って、飯にでも誘ってみるか!)
山都大輝「あの・・・小夏ちゃん?」
風間小夏「なんですか?」
山都大輝「よかったらさぁ、これから飯にでも行かない?」
風間小夏「ごはん?」
山都大輝「ホラ・・・互いに労働時間少なくて休憩なかったし・・・」
山都大輝「飯でもどうかな・・・なんて」
風間小夏「・・・・・・」
山都大輝(やべ・・・引かれたかな?)
山都大輝(あー!飯行こうなんて言うんじゃなかった)
風間小夏「いいですね!ごはん!行きましょうよ!」
山都大輝「え?まじで?」
風間小夏「私、お腹減ってたんですよ!」
山都大輝(よし!よし!よし!よぉーし!)
山都大輝(まさかのOKとか予想外!)
山都大輝(このまま二人で飯に行って・・・)
山都大輝(夜は二人で・・・)
山都大輝(なんつって!がはははは!)
「なんか、よこしまな事考えてないか?」
山都大輝「は?そんな事考えてねーし?何言ってんのか意味分かんねーよ!あはは・・・」
「明らかにそのメスと変な事をしたいと思っている顔をしていたぞ?」
山都大輝「つーか誰なんだよ!そんな失礼な事言うヤツは!」
「ここだ!ここ!」
山都大輝「どこだ!」
「だからここだと言っているだろ!ヤマト!」
山都大輝「はぁ?何で俺の名前・・・」
  大輝は足元を見る。
山都大輝「はぁ?何でこんなトコに居んだよ!クロ!」
クロ「やっと気づいたか!」
クロ「人間とは視野が狭い生き物だな!」
山都大輝「どうやって家から出たんだよ!」
山都大輝「つーかそれ以前に、さっそく約束破ってんじゃねーよ!」
クロ「約束?はて・・・何の事だ?」
山都大輝「家から出るな!って言っといただろーが!」
クロ「はっ!そうだった!すっかり忘れていた!」
山都大輝「お前なぁ・・・」
クロ「いいじゃないか!俺は家族だろ?」
クロ「ホラ!家族の証だ!」
  クロは大輝に首輪を見せつける
山都大輝「あ、いや・・・それは・・・」
風間小夏「あの・・・山都さん?」
山都大輝「あ、小夏ちゃん・・・」
風間小夏「さっきから誰と喋ってるんですか?」
山都大輝「あ・・・いや・・・それは」
クロ「・・・・・・」
風間小夏「きゃー!猫ちゃん!カワイー!」
風間小夏「ナデナデ・・・」
風間小夏「山都さんが飼ってる猫ちゃんなんですか?」
山都大輝「あ、まぁ、飼ってるというか、飼わされてるっていうか、住み着いてるっていうか」
クロ「何だかヤケに明るいメスだな!」
風間小夏「もしかしてお迎えに来てくれたんですか?きゃー!カワイー!」
山都大輝「あれ?なんで小夏ちゃんは普通に接してるの?」
山都大輝「喋る猫だよ?」
風間小夏「え?喋るってなんですか?」
風間小夏「きゃー!カワイー!」
山都大輝「あれ?どうなってんだ?」
クロ「はっ!しまった!」
クロ「ヤマト以外の人間に俺の言葉は聞こえない設定だったんだった!」
山都大輝「ここに来て何?その新設定!」
クロ「しょうがないだろ?」
クロ「ヤマト以外の登場人物が出てくるのは、この2話が初めてなんだから」
山都大輝「そのメタ発言やめろ!」
風間小夏「ん?」

〇モヤモヤ
風間小夏(え?山都さん・・・)
風間小夏(猫ちゃんと会話してる?)
風間小夏(いやいや!そんな事ありえない!)
風間小夏(でもコレ・・・明らかに会話が成立してる雰囲気だよね?)
風間小夏(ど、どういう事?)
風間小夏(山都さんって・・・)
風間小夏(ちょっと危ない薬とかやってたりするのかな?)
風間小夏(だとしたら、ちょっと怖いかも・・・)
風間小夏(なら・・・二人でごはん行くのって・・・)
風間小夏(私・・・なんか危ない事しようとしてた?)

〇電器街
山都大輝「クロ!お前!そういう大事な話は──」
風間小夏「あ、あ・・・あ、山都さん!」
山都大輝「あ!ちょっと待っててね!」
山都大輝「今コイツと──」
風間小夏「私・・・予定があったの、すっかり忘れてました・・・あはは・・・」
山都大輝「え・・・」
風間小夏「すいません・・・」
風間小夏「せっかく誘ってもらったのに・・・」
風間小夏「ごめんなさい!」
  小夏は逃げるようにその場から立ち去る。
山都大輝「あ!ちょっと待って!小夏ちゃん!」
  大輝の呼びかけ虚しく──
  小夏は疾風迅雷が如き駆け足で消えて行く
山都大輝「・・・・・・」
クロ「・・・・・・」
山都大輝「てめぇ・・・クロ!」
山都大輝「お前のせいだからな!」
クロ「・・・・・・」
クロ「なんか・・・すまん」

〇通学路
山都大輝「はぁ・・・」
山都大輝「二人で飯に行った帰りに、あわよくばヤッちゃおう大作戦が失敗に終わった・・・」
クロ「そうか!そうか!今日はヤマトの発情期だったわけか!」
クロ「それは悪い事をしたな!」
山都大輝「その言い方やめてくんね?物凄く卑猥に聞こえるから!」
クロ「しかし欲情していたのは事実だろ?」
クロ「あのメスに種付けしたかったんだろ?」
山都大輝「だから──」
山都大輝「はぁ・・・もういいわ・・・」
山都大輝「どうせ俺なんか、飯食った後に何もできずに解散!ってのが関の山だったんだ・・・」
クロ「そう悲観的になるな!ヤマト!」
クロ「メスなら腐るほど居る!心配するな!」
山都大輝「猫と一緒にすんな!」
山都大輝「まぁ・・・いいか」
山都大輝「トイレと砂買って帰んぞ!」

〇ファンシーな部屋
風間小夏「私・・・勢いで帰っちゃったけど」
風間小夏「山都さん怒ってるかな?」
風間小夏「でも山都さん・・・何で猫ちゃんと会話なんか・・・」
風間小夏「あ!もしかして・・・」
風間小夏「山都さん・・・猫ちゃんを人に見立てて会話するくらい寂しいんじゃ・・・」
風間小夏「うん!絶対にそうだ!そうだよ!」
風間小夏「彼女さん居ないらしいし・・・」
風間小夏「寂しいんだ・・・」
風間小夏「山都さん・・・可哀想・・・」
風間小夏「あ!そうだ!」
風間小夏「私が救ってあげればいいんじゃん!」
風間小夏「でもどうやって・・・」
風間小夏「・・・・・・」
風間小夏「やだもう!私ったら何想像してるの?」
風間小夏「バカ!バカ!バカ!私のバカ!」
風間小夏「・・・・・・」
風間小夏「とりあえず・・・私がらごはんに誘ってみようかな?」
風間小夏「うん!それがいい!」

次のエピソード:3話【何だか今日いけそうな気がする】

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