⑪最終ステージ・出典紹介(イ)(脚本)
〇おしゃれな教室
(イ)
やってもいないのに、無理って言うな
島津「(イ)のフレーズは、『ふたご』って本の後書きで見つけました」
島津「作者の名前は藤崎彩織。 この名前でピンときた人いるかな?」
島津「そう、SEKAI NO OWARIのピアニスト、Saoriさんです! 僕がファンだってこと、知ってる人は知ってますよね」
「知ってる人は知ってる」どころではない。
このクラスの者なら誰だって知っている話だった。
島津くんは日頃からセカオワファンを公言している。
彼らの曲をよく聞いているだけじゃなく、ライブに行ったりもするらしい。
筆記具やファイルなどはライブの物販コーナーで買ったものだったし、制服の下にセカオワTシャツを着ていることも多かった。
島津「そして、このフレーズのセリフを言ったのは、ボーカルのFukaseさん。メジャーデビューして1年後の話だそうです」
島津「「彩織ちゃん、小説書いてみなよ」ってすすめて、「そんなの無理だよ」って言われた後の言葉だったそうです」
島津「で、「やってもいないのに、無理って言うな」って言われたSaoriさんは、一理あると思って、小説を書いてみることにしました」
島津「それで生まれたのが、『ふたご』って小説です。一応フィクションなんだけど、読んでるとやっぱりセカオワの実話としか思えない!」
島津「もちろんそのへんが面白いわけだし、どこまでが実話でどのから創作なのかなって考えながら読むのも面白い物語です」
島津「そして、そんな物語の始まりになったのが、この「やってもいないのに、無理って言うな」ってフレーズだったんです」
島津「それで僕は今回、宿題のフレーズ選びでこのセリフを出してみました。えーと──何か、質問ありますか?」
森「セカオワの実話って言ってたけど・・・具体的にはどんな話なんですか? で、島津的に創作かなって思ったのはどんなとこ?」
島津「えーと・・・物語の語り手の、なっちゃんって女の子の中学時代から始まって・・・」
島津「生きるのがつらく感じてた彼女の前に、月島って男の子が現れて、彼の影響でぱーって世界が開けてくんだけど・・・」
島津「その月島も生きづらさを抱えてて、心を病んで事件とか起こしちゃうんだ。パニクって、2人ともどん底、みたいになって・・・」
島津「でも、なんとかそこから立ち直った月島は、仲間とバンドを組んで、ライブハウスを作って・・・そこになっちゃんも加入します」
島津「そのライブハウス作りとかバンド活動とか頑張って、やがてデビューに向けて光が見えて・・・みたいなお話、って感じかな」
島津「創作かなって思った場面は・・・刃物沙汰になって緊迫するとことか、ライブハウス作りの中で出てくる小悪魔キャラ、とか・・・」
島津「でもこれは、創作であってほしい、ってファンの勝手な願望かも。読んでてつらいとこだつたから!」
島津「・・・って感じで、質問の答えになってたかな?」
森「なってたなってた! ていうか、初めて見たよ。君がこんなに熱く語ってるの!」
山田「しつもーん! その、月島ってキャラのモデルが、セカオワのFukaseなの?」
島津「あ、そうそう。 ボーカルでセカオワの初代リーダーのFukaseさんです。読んでると自然に分かってくるんだよね」
山田「でも、今の話を聞いても・・・いまいちどこが魅力か伝わってこなかったんだよね。 たとえば、このクラスでいったら誰タイプ?」
島津「うーん、誰だろ・・・ やっぱり、戸橋かなあ?」
森「また戸橋! なんか、すごいね。来てないくせにw」
島津「なんていうか、カリスマキャラなんだよね。 みんなを巻き込んだり、振り回したり、引っ張っていったり」
島津「来てないくせにみんなの話題になってる、っていうのと、ちょっと似てるかなと思ってさ。 歌がうまい、って話もあったし!」
森「あ、それって、言ったのあたしか!」
どっと笑い声が上がった。
一緒に笑いながら、めぐるは図書室でのことを思い出していた。
たしかに「みんなを巻き込んだり、振り回したり、引っ張っていったり」というのは、戸橋くんにも当てはまる。
めぐるだって、彼の選んだフレーズに巻き込まれて、『少女詩集』を読んだり紹介役を引き受けたりしているのだ。
めぐる「あの・・・『ふたご』っていうタイトルがよく分からないんですけど、どういう意味があるんですか?」
島津「あ、この『ふたご』っていうのは、いわゆる双子、双生児って意味だと思います。 でもちょっと独特で、冒頭の場面なんだけど、」
島津「月島がなっちゃんのことを「ふたごのようだと思っている」って言うんだ。 言われた彼女は、その言葉を生々しい響きって感じる」
島津「ほら、双子って一緒に生まれて、初めて聞く音や見る景色も一緒でしょ? そういう感じだと思う」
島津「恋人じゃないけど心が通じ合ってて、一緒に生きていく、みたいな微妙な感覚が作品全体に流れてるから、このタイトルなのかなぁ」
島津「すぐ後に「私は全然そんな風に思わない」って文も出てくるけど、それでなんとなく、2人の微妙な関係が伝わってくるのが面白いよ」
めぐる「うん、今度読んでみる!」
山里先生「おっ、さすが崎本、理想的なリアクションだね! 切りのいいところで、(ウ)の出典紹介に進もうか。 小板橋、お願いします!」