今助けに行く!(脚本)
〇幻想空間
タケル「俺は・・・あの後」
スルトを1人で封印すると言って飛び出したユーヤを止められなかった。
タケル「早くユーヤを追いかけないと・・・」
体を動かそうにも、真っ暗で体すら起き上がることすらできない。
女性の声「タケルさん・・・」
タケル「・・・うん?」
俺の名前を言う女性。はっきりと姿が見えないが、どことなく暖かくて、優しい雰囲気を感じた。
タケル「お前は・・・?」
女性「私は、この腕輪に取り憑いた亡霊、といったらいいでしょうか」
タケル「まじか・・・まあこの世界ならあり得るか・・・」
女性「大した力は持ちませんがね・・・私は腕輪を通して彼女の側にいました」
女性「ふふっ、タケル。貴方のことも、ユーヤと共に見守っていましたよ」
タケル「そ、そうなのか・・・全然気が付かなかったぞ」
女性「ええ、今まで貴方と語り合う術を持ちませんでしたから」
タケル「その亡霊さんが、どうして俺に?」
女性「貴方の行動が気になったからです」
女性「どうして、そこまでして目覚めようとするのですか?」
タケル「そりゃ、このままじゃユーヤが危ないから・・・」
女性「・・・ユーヤは危険を承知で向かいました」
女性「・・・貴方に死んで欲しくなかったから、敢えてそうしたのでしょう」
タケル「ッ・・・やっぱり俺は眠らされたんだな・・・」
女性「ええ、貴方が自分に付いてこないように、眠りの呪文をかけたのでしょう」
女性「それが彼女の気持ちです」
タケル「そうなんだな・・・ユーヤは俺のために1人で・・・」
女性「・・・分かりましたか? ではもう抵抗など止めて──」
タケル「嫌だ・・・!」
タケル「俺のワガママだったとしても・・・アイツを死なせたくない」
女性「・・・それは貴方のエゴになりますよね。彼女の気持ちを──」
タケル「ユーヤを失ってまで、俺は生きていたくない!」
女性「・・・!」
タケル「なあ、あんた魔法使えるのか? 俺を動けるようにしてくれよ・・・」
女性「何故そうしたいのですか? 次は死ぬかもしれないのに」
女性「貴方はユーヤの想いを無駄にするのですか?」
タケル「ああ、分かってる。それでも・・・」
タケル「・・・どうしても、ユーヤに伝えたいことがある。このまま眠っていられないんだ」
女性「本当に後悔はしませんか? みすみす命を投げ捨てるようなものですよ?」
タケル「ああ、それも覚悟の上だ」
女性「貴方の覚悟、しかと受け止めました。もうすぐ目覚めるでしょう」
タケル「サンキュな、腕輪のお姉さん。助かったよ」
女性「・・・共にあの子を護りましょう」
〇白
不思議な世界から一転、徐々に覚醒に近づいていく。
〇可愛らしいホテルの一室
タケル「っ!」
俺は飛び上がって起きる。 もう外は暗闇に包まれていた。
タケル「この腕輪の中に・・・人が居たんだな」
あの人がずっとユーヤを護ってくれていた。その人は俺にここに残れと言ったけど。
タケル(俺はユーヤを助けたい。アイツが望んでいなくても。俺がそうしたいんだ──)
この気持ちは我儘だ。だけど、絶対に諦めたくなかった。
俺は腕輪を身につけて、刀を腰に刺す。
タケル「待ってろよ! ユーヤ!」
〇児童養護施設
イェンティ「ヒヒーンッ!」
屋敷から出てすぐに、俺はイェンティと出会った。待っていたのかもしれない。
タケル「イェンティ迎えにきてくれたんだな!」
タケル「・・・ユーヤが行った場所、分かるか?」
イェンティ「るルルゥ!」
タケル「ユーヤのところに連れて行ってくれ!」
イェンティ「ブォウフッ!」
イェンティ屈んで乗れと合図をする。
タケル「サンキュっ! ・・・行くぞ、ユーヤのところに!」
俺は鞍に足をかけ、素早く乗った。
イェンティ「ヒヒッーン!」
手綱を握った途端、後ろに大きく反り、イェンティは駆けだした。
〇草原の道
風のように早く、一気に村を駆け抜けていく。
タケル「頼む間に合ってくれ──」
天に祈りながら俺はユーヤの元へ急いだ。
〇炎
ユーヤ「あ・・・つ・・・」
肌を焼くような灼熱の洞窟。草すら生えない地獄のような場所。これがスルトの棲家だった。
ユーヤ(スルトは――あそこだ)
目の前にいるのは、昨日倒し損ねたスルト。警戒心もなく眠りについている。
ユーヤ(大丈夫、私ならきっと上手くできる)
私は杖を構える。実際に声に出したことは無いけれど、何度も確認した封印の呪文。
スルト「・・・・・・」
アイツは深く眠っていた。己の力を過信しているのか、それとも正しく理解してるからなのか。
ユーヤ(今がチャンスだ──)
私は杖にそうっと魔力を流していく。
ユーヤ(きっと――他の巫女の子も、同じだったんだろうな・・・)
この山の人々は幾人もの少女を生贄にして、スルトの活動を止めてきた。私もその中の1人でしかない。
ユーヤ(みんな、どんな気持ちだったんだろ・・・)
この選択に後悔は無い。私はここで死ぬ運命だったというだけ。
ユーヤ(・・・タケルと一緒に旅、できて良かった)
一緒にモンスターと戦って。いろんな話して。助け合って旅をした。
ユーヤ(誰かと一緒だなんて、初めてだったんだよ?)
人生の中じゃ短い間だったけれど、タケルとの旅が1番の思い出だった。
ユーヤ(私のために戦うなんて・・・言ってくれたのタケルだけだったなあ)
村の人は誰一人手を差し伸べてくれなかったから――誰かに優しくされたのは初めてだった。
ユーヤ(タケル・・・好きだよ)
こころの中でそっと呟いた。もしかしたら・・・彼に伝わるんじゃないかと期待して。
初めて人を好きになった。だからこそ、彼には生きて欲しかった。
ユーヤ「じゃあ、始めよう」
大きく深呼吸。私は覚悟を決めて――封印の呪文を唱える。
ユーヤ「・・・かつて地を裂き現世を創りたもうた神の末裔よ」
ユーヤ「人々に疎まれ、荒ぶるその御身。其の力は厄災を振りまき我らを侵す」
持っている杖から激しい光が放たれる。
流石にスルトが起きないはずはなく――。
スルト「・・・・・・ォォオオオ」
ユーヤ「!? 早くしなきゃ──」
杖を握りしめて、私は何とか平静を保つ。
ユーヤ(大丈夫。もう呪文は終わる・・・!)
ユーヤ「差し出すのは我が身、我が魂をもって、その怒りを鎮め──」
タケル「止めろッ――ユーヤッ!!」
ユーヤ「えッ――!? た、タケル・・・!?」
イェンティの背中に乗って刀を構えていたのは・・・ここにいるはずのない少年だった。
ユーヤ「だめっ、これじゃ封印失敗す――!」
スルト「おぉぉぉォォ・・・オオオオオオッッ!!」
叫ぶだけで地響きのように地面が揺れる。
そして完全に覚醒したスルトは、私に向かって拳を振るってきた。
ユーヤ「だめ、タケル逃げて――!」
私は衝撃を覚悟したけれど・・・。
タケル「水の鼓動よ、剣に宿れ・・・カルラ!」
彼は堂々と呪文を唱える。すると剣から水が噴き出した。
タケル「はぁああああああ!!」
目にも止まらぬ一閃。タケルは剣を振るい、炎の拳を水の刃で弾き返した。
ユーヤ「す・・・すごい!」
タケル「間に合って良かった! 怪我はない?」
ユーヤ「ない・・・けど、どうしてタケルはここに?」
ユーヤ「眠っていたはずじゃ・・・」
タケル「ああ、腕輪の亡霊さんに起こしてもらった!」
ユーヤ「えっ、そんな人いたかなあ・・・?」
護ってくれたことはあったけれど、人がいたなんて初耳だった。
ユーヤ「はあ・・・前の魔法も解いちゃうし、ほんとタケルってば・・・」
この人は、いつも私の細工をいとも簡単に破ってしまう。
タケル「ごめんな。お前は俺を想って、1人で来たのに・・・邪魔しちまって」
ユーヤ「・・・ッ 私だって勝手なことしてごめん・・・」
ユーヤ「でもどうして・・・私を助けに──」
タケル「ははっ、俺はな。お前のために来たんじゃない。俺が――そうしたいからここにいる!」
すうと息を吸うタケル。何かを決心したように言う。
タケル「俺は死なない! ――だけどお前も死なせない! 俺が護る!」
ユーヤ「えっ――!」
タケル「アイツを倒して一緒に帰るぞ! ユーヤ!」
タケルは私の手を取りそう言ってくれた。