読切エピソード回 善悪(脚本)
〇雨の歓楽街
ノンヴィラー「そろそろ時間だな。 ふぅ、今日は何件だ・・・」
〇東京全景
閉塞感に包まれた空気が漂う、日々の楽しみも生きる目的も将来の希望も何もかも実感薄い虚無な世の中──
自らの未来を絶つもの・・・
ときには他人の人生を道連れに・・・
数々のヒーロー達の活躍により今では怪人や怪獣の類の災いはすっかり無くなって一見平穏な世の中だが──
その実、人間そのものが引き起こす災いが蔓延する世の中になっていた──
〇林道
「ワンワン!!」
少女A「チョビ~!! チョビ~~!!」
キャンプに来ていた女の子が愛犬を探していた──
〇けもの道
のびら「ん!?どした?」
昨今のアウトドアブームの影でマナー違反が横行している現場取材のため、郊外のキャンプ場に潜入取材に来ていたのびら──
周囲の大きな声で起こされた──
張り込みが退屈だったのでこれ幸いとカモフラ用のテントで居眠りしていたのだったが・・・
〇けもの道
のびら「迷い犬か? もしかしてさっき昼寝の邪魔しに来たヤツか!?」
のびら「可愛かったから写真撮っといたけど・・・」
飼い主と遊んでいたときに大きく逸れたボールを追いかけて行ったっきり姿が見えなくなったようだ──
〇けもの道
のびら「まだその辺にいんじゃねーか?」
のびら「うおっ!!!!」
熊「グォォォー!!」
のびら「ヤッ!!ヤベーじゃん!!」
ボールにじゃれて遊んでいる犬の背後から熊が覆い被さろうとしてる瞬間!!
〇魔法陣2
のびら「変身ッ!!」
周囲の目も何も、なりふり構わず変身していた──
〇魔法陣2
ノンヴィラー「ディエェェーィ!!」
襲いかかる熊と背後を狙われている犬の間に割って入り、熊の攻撃を背中で受け──
翻って一撃!!!!
ノンヴィラー「ヴィラーキィーーックッ!!!!」
熊「グォォォ!!」
〇けもの道
威力は絶大だか熊へのダメージを最大限に抑えて追い払うことに成功!!
続けて迷い犬を飼い主の近くまで疾風のごとくサッと運び届けた──
〇林道
少女A「チョビぃ~っ!!!!」
チョビ「ワンっ!!」
少女A「良かったぁー!! どこ行ってたのぉ!!」
少女A「あら? 誰かと一緒だった?」
15秒!ギリギリセーフっ!
ノンヴィラー一瞬の出来事だった!
〇草原の道
のびら(ふーっ、ヤベヤベっ 15秒短けーなぁ・・・ それより見られてねーよなぁ!?)
怪人にならなければ怪力や超能力は使えないず、かといって怪人の姿で15秒以上長く目撃されれば記憶に残ってしまう──
人の記憶に残さずに善行を10,000件達しなければヒーローに復活できない──
しかしながら一度でも人々の記憶に残されてしまうとヒーロー復活は永久に不可能となってしまう絶対条件がある・・
のびら(張り込み上手くいかないし写真も撮れなかったし、善行疲れたし・・・ あーもう今日は帰ろうっと)
のびら(善行一件増えたしな・・・ あれ!?二件か!? 迷い犬助けたし、飼い主に届けたし、、あ、熊も生かしたから三件か!?)
〇高層ビル(看板あり)
その夜・・・
錦戸みのり「おはよーございます 今から入りっすか? 私はアガリっす お疲れっしたー」
〇非常階段
ノンヴィラー「アタタタタ・・・」
一旦、帰宅して仮眠をとったのびらは、掛け持ち案件の取材のためテレビ局に出向いていた
ノンヴィラー「スミマセン、迷っちゃいまして・・・キョロキョロして歩いてました──」
既に日が暮れて夜になっていたため、のびらは怪人の姿になっていた──
錦戸みのり「キミ、大丈夫?」
みのりはのびらの姿を見ても驚かなかった──
テレビ局という場所柄、着ぐるみを着ている役者さん達もいるし、みのりは元ヒーローなので怪人は見慣れていた──
ノンヴィラー「あ、はいぃ、大丈夫っで・・・え!?あれ!?グリーンさん?ですか?」
錦戸みのり「あー、そうだけどぉ 俺のこと知ってるの?」
ノンヴィラー「もちろん!!知ってますよ!! ニシキドスリーのニシキドグリーン!! 三人の中で一番好きでした!!」
錦戸みのり「みんなはやっぱりレッドが好きなんじゃないの?」
ノンヴィラー「いえ!人知れず縁の下の力持ち的に活躍するグリーンさんの優しクールなとこに憧れてました!!」
ノンヴィラー「特撮アニメじゃなくてドキュメント番組の方を観てました 今日は撮影ですか?」
錦戸みのり「いや、もうヒーローはやってないんだ・・・ 今はここで大道具の仕事してる」
ノンヴィラー「そうかぁ、残念だなぁ 最近ヒーローものの番組やってないですもんね でもまた観たいなぁ」
錦戸みのり「キミ、役者さん?職員さんじゃないよね?」
ノンヴィラー「あ、まぁ、いや、あのぉ、 ドラマの撮影中でトイレ休憩に出たら迷っちゃいまして・・・」
ノンヴィラー「初めての現場でして・・・ あ!!そろそろ始まる時間なので失礼します!! また活躍見たいです!!」
〇テレビスタジオ
内部告発の情報を得ていたのびらは、ある男をマークしていた──
人気アナウンサーが怪人と内通していて放送を通して人間を操ろうとしているらしい──
あがしはヒーローのリーダーとしての活躍が認められ、しかもイケメンで人気が高く、アナウンサーに抜擢──
数年前のヒーロー総力戦で悪の組織ヒガネタ団が一掃されてからはヒーローを引退してすっかり人気アナウンサーとして活躍している
錦戸あがし「それでは明日も良い一日でありますように! 最後にいつものラッキー呪文! 『とひいいなんみ!!』 おやすみなさい」
錦戸あがし「『お疲れっしたぁ』 『お疲れー』 『お疲れしたー』」
〇ビルの屋上
怪人ノンファン「アトモウ一息ダナ ダガ最近少シ効果ガ薄イヨウダゾ」
錦戸あがし「まぁそう焦るな 俺じゃなきゃ出来ないんだから口出し無用!! お前が一番困るだろ?」
(──やはり情報は本当だったな 現場押さえたぞ──)
ノンヴィラー「とうとう見つけたぞっ!! 悪の組織ヒガネタ団は全滅したハズなのにまだいたとは・・・」
怪人ノンファン「チッ!!」
ノンヴィラー「待てっっ!! てぇぇーぃ!!」
錦戸あがし「なっ!! なにっ!!」
錦戸あがし「変身っ!!」
〇街中の公園
ノンヴィラー「お前らの好きにさせないぞっ!! ハッ!!!!」
通行者A「なになに」
通行者B「どうした? 撮影? カッケーな!! 動画投稿しよーぜ!!」
通行者C「ヒーロードラマの撮影? 懐かしいな!! あれ? ニシキドレッドじゃね!?」
マズイっ!!
15秒!!!!
〇散らかった職員室
翌日・・・
のびら(情報通りだったけど、まさかなぁ、、 あの錦戸アナが怪人と内通してたなんてなぁ)
のびら(悪の組織ヒガネタ団は全滅したはずなのに怪人がまだ潜んでいたなんて・・・ 見たことない怪人だったけど)
のびら(錦戸アナはヒーローだったのに怪人とつるんでるなんて・・・ 悪巧みなら絶対に阻止しなきゃ!! 今晩も張り込み決定だな)
のびら(それにしても、ニシキドレッドは悪に加担してるのに何でヒーロー裁判にかけられないんだろう? 俺みたいに怪人になってねーし)
のびら「あれ? 先輩、悪徳大臣のワイロ関連のスクープだって飛び出して行ったけどカメラ忘れて行ってんじゃん!! しゃーねーなぁ」
のびら(善行カウントもうけっ!!)
〇テレビスタジオ
錦戸あがし「今日も様々なニュースがありましたね 久しぶりの怪人出現ニュースもありましたがここの局の近くの公園だったので驚きました」
錦戸あがし「今時は一般の皆さんもスマートフォンなど総カメラマン時代ですので沢山のご投稿を頂いております ありがとうございました」
錦戸あがし「それでは明日も良い一日でありますように! 最後にいつものラッキー呪文! 『とひいいなんみ!!』」
のびら(錦戸アナの狙いは何なんだ!? 昨夜の怪人も見かけない顔だったし 悪の組織ヒガネタ団復活したんじゃないだろうな?)
ノンヴィラー(昔みたいに暴力や破壊行為はいまのところ無さそうだけど 今晩も何か動きがあるかもな 目が離せないぞ)
〇コンテナヤード
ノンヴィラー「やっばりな、動き出した!!」
怪人ノンファン「アト少シダナ コレデ一気ニ俺ノ望ミモ叶イソウダ」
ニシキドレッド「本当にこれでいいのか? 俺はまだ半信半疑・・・」
ノンヴィラー「お前達の好きにはさせないぞ!!」
ニシキドレッド「お前は昨日の!?」
ノンヴィラー「ニシキドレッド!! ヒーローだったのに恥ずかしくないのか!! 怪人と手を組むなんてっ!!」
ニシキドレッド「なにっ!?」
ノンヴィラー「今日はギャラリーがいないから思う存分戦わせてもらうぞっ!! 覚悟しろっ!!」
怪人ノンファン「グゴッ!!」
ニシキドレッド「邪魔するなっ!!」
ノンヴィラー「ヒーローだって容赦しねーぞ!! これで終わりだっっ!!!! ディエェェーィ!!」
怪人ノンファン「グガガッ!!」
「待てっ!! 待ってくれーっ!!」
「グリーンっ!?」
ノンヴィラー「なぜ邪魔をする? お前も仲間なのかっ?」
ニシキドグリーン「そーじゃないっ!!」
ノンヴィラー「レッドがみんなを裏切って怪人と手を組んでるんだぞっ!! 人間を操って世界征服しようとしてるんだっ!!」
ニシキドグリーン「ちっ、違う!! 怪人だけど怪人じゃないんだっ!!」
ノンヴィラー「んっ!?」
ニシキドグリーン「そいつは! ブルーなんだっ!!」
〇ボロい倉庫の中
数年前の悪の組織ヒガネタ団との最終決戦のとき
ヒガネタ団の総統が悪徳大臣である大物政治家であることを突き止めた──
ニシキドブルーは
大集結したヒーロー達の決戦の最中、
単身、ヒガネタ団の本拠地に乗り込み──
その際、総統に向けた攻撃技によって誤って人質の少女を殺めてしまった・・・
そのことを隠蔽するためにヒガネタ団の総統が取引を提案してきた──
それはヒガネタ団の総統が大物政治家であることを公にしないということだった──
ニシキドブルーはそれを請けてしまった──
その結果、悪の組織ヒガネタ団の怪人と戦闘員達は全滅したが総統一人だけは助かり、大物政治家として国を動かす存在になっていた
しかし、のちにそのことはヒーローパトロールに突き止められ、ヒーロー裁判によりニシキドブルーはのびらと同様に──
怪人の姿に変えられてしまい、しかも人間の言葉も話せなくさせられてしまったのだった
たった一度の保身により悔やみきれない姿になってしまったブルーをなんとか助けてやりたいと思ったレッドは一計を案じた──
ニシキドスリー
〇散らかった職員室
ニシキドブルーが考案した善人になる呪文を広く世の中に広め、沢山の人々がその呪文により善人となり世の中が平和になれば──
その数だけ善行を積むことができてヒーロー復活のための善行カウントを一気に増やせると考えたのだった
ニシキドレッドはそのためにアナウンサーとなり、電波を通じて善人になるための呪文を布教していた
のびら(何だか良く分からねーなぁ 何が善で何が悪なのか・・・ 他人からの見た目や評価を気にするのがバカらしくなってきた─)
のびら(もう、善行カウント積むの止めよう・・・ ヒーローに復活なんてしなくたっていいじゃん!!)
現時点での善行カウントは9,999件・・・
のびらは承知の上だった
のびら「ってことでいつもの、アレ行きますかっ!!」
〇サウナ
のびら入浴(やっぱ、一仕事あとのサ活最高!!)
〇露天風呂
のびら入浴「あ!スミマセ~ン! ロッカーの鍵落としましたよ」
善行カウント・・・
10,000件達成!!
のびら入浴(あっ!!!!!!)
〇東京全景
Fin・・・
立場や視点を変えれば善も悪も簡単に反転してしまうということですね。それにしても「やらない善よりやる偽善」「情けは人の為ならず=自分のため」を体現するようなのびらの善行貯金に笑ってしまいました。せっかくその呪縛から解き放たれたのに、身に染み付いた善行をしてしまってカウント1万達成!のラストも皮肉がきいてました。
実際のところ現実でも誰が味方で誰が敵かなんてわからないですよね。敵という言い回しはよくないかもしれませんが…。
中々信じられる仲間ができないのは、もどかしい。
私達人間は成長する過程で、固定観念をもったり、偏見をもったり、本来持ち備えたものを妨害してしまうものに出会っているようですね。それでも、のばらのようにこうして善悪を自分の心で選別する機会を得られたら社会は好転するように思えました。