禁じられた金次郎(脚本)
〇地下室
新入り金次郎「すみません・・・誰かいますか?」
〇地下室
ジョン金次郎「おう、新入り金次郎か?」
新入り金次郎「あっ、あなたも金次郎?」
ジョン金次郎「ここにいるのは、みんな金次郎だ。アイアム、ジョン金次郎。ここのエブリバディからはジョン金と呼ばれている」
新入り金次郎「ジョン金さん。ジョン万と呼ばれたジョン万次郎みたいですね」
ジョン金次郎「エグザクトリー。新入り金次郎、若いのによく勉強しているじゃないか」
ジョン金次郎「ウェルカムトゥ『金次郎パニッシュルーム』。金次郎始末部屋にようこそ」
新入り金次郎「し、始末部屋!?」
新入り金次郎「やっぱり、僕たち、始末されちゃうんですか?」
ジョン金次郎「まあそうビクビクするな」
ジョン金次郎「俺たちは何も悪いことをしていない。世の中ってもんは、すぐに手のひらを返しやがる」
ジョン金次郎「俺たちはそのとばっちりを食らったんだ」
〇渋谷駅前
町の人「歩きスマホが危険ってことは」
町の人「「あれ」も危険ですよね?」
町の人「「あれ」を認めてしまうと、歩きスマホも認めてしまうことになりますね」
町の人「「あれ」のせいで事故が起きてしまっては困りますね」
〇地下室
ジョン金次郎「てなわけで、金次郎禁止令なんてものが出され、」
ジョン金次郎「全国津々浦々の金次郎が撤去され、ここに集められた」
新入り金次郎「はー。背中に薪を背負って、歩きながら本を読みふける姿が問題になってしまったんですね」
ジョン金次郎「新入り、今、「薪」と言ったな?」
新入り金次郎「はい?」
ジョン金次郎「ショーミーユアバック。背中にしょってるものを見せてみな」
ジョン金次郎「ほう、やはり君は薪派だね」
新入り金次郎「マキハって何ですか」
ジョン金次郎「俺たち金次郎には「薪派」と「柴派」の二大派閥があってな」
ジョン金次郎「ざっくり分けると、太いのが薪で」
ジョン金次郎「細いのが柴」
ジョン金次郎「柴のほうが手が込んでるから、柴派連中が幅をきかせているんだ」
新入り金次郎「じゃあ僕、弱小派閥なんですね」
ジョン金次郎「心配するな。俺も薪派だ」
新入り金次郎「ジョン金さんも?」
ジョン金次郎「薪派は少数派だが、切れ者が揃っている」
〇築地市場
ジョン金次郎「あそこで高級グルメ本を読み耽っているのが、」
数寄屋橋金次郎「数寄屋橋金次郎」
〇土手
ジョン金次郎「股旅物の時代小説を一人語りしてるのが」
「木枯らし金次郎」
〇風流な庭園
ジョン金次郎「人情話で泣かせているのが」
「浅田金次郎」
〇雪山
ジョン金次郎「南極探検の冒険譚を涙ながらに語っているのが」
「タロウ金ジロウ」
〇地下室
新入り金次郎「いろんな金次郎さんがいらっしゃるんですね」
ジョン金次郎「ああ、金次郎にも多様性の波が押し寄せている」
新入り金次郎「あそこでかたまっている金次郎さんたちは、変わってますね」
新入り金次郎「背中に鹿を背負ってたり、本のかわりにお好み焼きを広げてたり」
ジョン金次郎「あれは、ご当地金次郎だ」
ジョン金次郎「郷土色を出そうとして、金次郎色が薄まっちまった」
ジョン金次郎「いい形になってないのを本人たちも自覚していて、似た者同士でアンラッキーを慰めあっている」
新入り金次郎「あちらの金次郎さんは、お行儀良く座って本を読んでいるのに、撤去されちゃったんですか」
ジョン金次郎「あれは尻に『熊の皮』を敷いたのがいけなかった。動物愛護団体から訴えられた」
新入り金次郎「どこからでも攻撃されちゃうんですね」
ジョン金次郎「もっと怖いのは男女同権ってやつだ」
新入り金次郎「金次郎は男しかいませんからね」
ジョン金次郎「名前も見た目も男だが、中身まで男だと、どうして言いきれる?」
新入り金次郎「どういうことですか」
ジョン金次郎「今のはジェンダー事情に詳しいジェンダー金次郎、人呼んでジェン金の受け売りだ」
〇カラフル
「ジェン金は、見た目は男だが」
「心は女で、」
「恋愛対象は女だ」
〇地下室
ジョン金次郎「世の中は男と女にきれいに分かれるもんじゃないってことだな」
新入り金次郎「なるほど」
ジョン金次郎「ここからが問題だ」
ジョン金次郎「俺は、とんでもないことに気づいちまったんだ」
ジョン金次郎「ここにいる俺たち金次郎全員がノーボールだってことにな」
〇テニス部の部室
新入り金次郎「ノーボール、ですか?」
〇地下室
ジョン金次郎「俺たち銅像には、タマがついてない」
ジョン金次郎「金次郎の名前にキンはついているが、生物学上は男じゃなかったってことだ」
新入り金次郎「うわーほんとだ」
ジョン金次郎「俺もここのエブリバディもアイデンティティークライシスに陥った」
〇古書店
ジョン金次郎「だが、辞書に詳しい字引きん次郎が答えを出してくれた」
ジョン金次郎「最近の改訂で『男』の解釈が広がり、生殖機能が備わっていることが絶対条件ではなくなったらしい」
〇地下室
新入り金次郎「何事も知識で解決できるんですね」
ジョン金次郎「ザッツライト。例の疫病も俺たちの叡智を集めれば、収まるかもしれない」
ジョン金次郎「少なくとも、ここの連中の計算では、3日あればマスク2枚を全国津々浦々に配りきれることになっている」
新入り金次郎「すごい。たった3日ですか!」
ジョン金次郎「まあ狭苦しい所だが、ここにいると退屈はしない」
ジョン金次郎「知性と想像力があれば、どこまでも自由だ。今は辛抱のときだが、いずれまた、俺たちの時代がやって来る」
新入り金次郎「ありがとうございますジョン金さん。ここに放り込まれたときは、自分の存在意義を見失っていましたが、」
新入り金次郎「今は本を読んだときのように目の前の霧が晴れました」
石原の金次郎「ジョン金の兄貴、ヤバイっすよ」
ジョン金次郎「どうした? 石原の金次郎?」
新入り金次郎「金次郎なのにジーパン!」
石原の金次郎「無線を傍聴してたら、金次郎の銅像を溶かして銅にするって物騒な計画が!」
「なんだって!!!」
ジョン金次郎「よし、金次郎、全員集合!」
〇火山の噴火
ジョン金次郎「緊急対策会議だ!」
〇空
ジョン金次郎「いやー、エブリバディ、よく戦った。ナイスファイト!」
ジョン金次郎「金次郎の団結力を見せつけたな」
ジョン金次郎「国が送り込んだ作業部隊を撃退してやったぞ」
新入り金次郎「相手の戦法の裏をかくのはお手のものです。なにせ本を読んでますから!」
ジョン金次郎「ザッツライト」
ジョン金次郎「古今東西の戦術書に戦記物語」
ジョン金次郎「占い、催眠術、人を動かす魔法の言葉」
ジョン金次郎「ビジネス英会話、おもてなしの作法」
ジョン金次郎「膨大な知識を武器に、あの手この手で作業部隊を丸め込んで味方につけた」
ジョン金次郎「あっぱれ。グッジョブ!」
〇地下室
新入り金次郎「薄暗かった金次郎始末部屋が」
〇英国風の図書館
新入り金次郎「改修工事で御殿のような立派な建物になりましたね」
〇王宮の入口
新入り金次郎「耐震構造でデザインも秀逸。誇らしげに掲げられた」
金次郎ミュージアム
KINJIRO MUSEUM
新入り金次郎「の看板♡」
ジョン金次郎「いつの間にやら『金次郎ファンクラブ』まで結成されているじゃないか」
ジョン金次郎「すっかり世論を味方につけちまった」
新入り金次郎「なにせ本を読んでいますから」
新入り金次郎「やっと僕たち金次郎の時代が来ましたね、ジョン金次郎先輩」
ジョン金次郎「何寝ぼけたこと言ってんだ新入り」
ジョン金次郎「俺たち金次郎には、冷暖房のついた御殿なんてものは必要ないんだ」
ジョン金次郎「雨にも負けず、風にも負けず、町に立って、本を開く。それが俺たち金次郎の使命なんだよ」
新入り金次郎「そうでした。金次郎の本分を忘れて、浮かれてしまった自分が情けないです」
ジョン金次郎「新入り、あと一歩だ」
ジョン金次郎「ここまで来たら、国もほうってはおけない」
ジョン金次郎「やはり金次郎を禁じたのは間違いだった。汚名返上、名誉挽回。そうなってこそ、やっと俺たちの時代を取り戻せる!」
〇文化祭をしている学校
ジョン金次郎「元いた場所に呼び戻してもらえるぞ!」
〇王宮の入口
新入り金次郎「そうですね! ジョン金次郎先輩!」
石原の金次郎「ジョン金の兄貴、明日発売のブンシュンのゲラが手に入ったっすよ!」
ジョン金次郎「ついに出たなブンシュン砲! センテンス・スプリング・バズーカ!」
ジョン金次郎「さすが仕事が早いな石原の金次郎」
ジョン金次郎「見せてみろ。ほう・・・」
ジョン金次郎「《このたびの金次郎騒動を受けて、政府と有識者会議は、金次郎の読書効果を確認。そこで緊急のお触れを出すことになった》とある」
石原の金次郎「ジョン金の兄貴の言った通りっすね! 無罪放免、釈放っす!」
新入り金次郎「僕たち金次郎が金次郎でいられる日が、また戻って来るんですね!」
〇通学路
新入り金次郎「街角で薪を背負って本を読む姿を」
新入り金次郎「皆さんのお手本にしてもらえるんですね!」
〇王宮の入口
ジョン金次郎「あれ? おかしいな」
石原の金次郎「どうしたんすか兄貴?」
ジョン金次郎「《金次郎禁止令を撤回する》とは、お触れに書かれていないらしい」
石原の金次郎「はあ?」
新入り金次郎「じゃあ一体なんて書かれてるんですか?」
ジョン金次郎「お触れには、こう書いてあるらしい」
国民は本を歩きながら読むように
やっぱり面白い金次郎の世界。
ジェン金さんのビジュアルが予想外でした!
テニスボールの登場で吹き出してしまいました!
面白かったです。
今井先生!どんどん腕を上げられてるw
人物、背景、音。絶妙です❗️