強盗さんがやってきた(脚本)
〇シックな玄関
チャイムが鳴る。
お坊ちゃん「はーい、どなたですか?」
そんな風に尋ねつつも、どうせ宅配か何かだろうと僕は無警戒に扉を開けてしまった。
そして固まる。
強盗さん「強盗だ!金を出せ!!」
お坊ちゃん「ご、後藤さん・・・ですか?」
強盗さん「違う、強盗だ! 強引な盗人と書く犯罪者だ!」
お坊ちゃん「なるほど、名は体を表すってことですね・・・」
お坊ちゃん「って、ご、ごご強盗!? う、うちは銀行じゃありませんけど!?」
強盗さん「見れば分かるわ!! 強盗が襲うのが銀行だけだと思うな!!」
お坊ちゃん「え、そうなんですか? ドラマだと、てっきり・・・」
強盗さん「銀行を襲うのは強盗の中でも選ばれたエリートだけだ!」
強盗さん「普通の強盗はちょっと裕福そうな一軒家を襲うんだよ!」
お坊ちゃん「なるほど・・・つまりあなたは、非エリートのごくごく一般的な強盗さんというわけですね!」
強盗さん「ば、馬鹿にしてるのか! 失礼な奴だな!」
お坊ちゃん「どっちが失礼なんですか! 他人の家に土足で上がり込んでおいて!」
強盗さん「わ、悪い、そんなつもりじゃ・・・」
強盗さん「って俺は強盗だぞ! 土足で上がり込むに決まってるだろ!」
お坊ちゃん「え、そうなんですか? ごめんなさい、僕、そういうの疎くて」
強盗さん「まあ、お金持ちの坊ちゃんが強盗業界に詳しいわきゃないか」
〇豪華なリビングダイニング
強盗さんは言いながら、土足でリビングまで来てしまった。
お坊ちゃん「帰り際にお掃除とか、きっとしてくれないんだろうな・・・困ったな・・・」
強盗さん「よし、坊ちゃん。 早速だが「金目の物」を出せ!」
強盗さんは僕をナイフで脅しながら『金目の物』を要求してくる。
お坊ちゃん「か、金目の物・・・ですか?」
お坊ちゃん「あっ!」
僕は慌てて用具入れに向かった。
お坊ちゃん「こ、これです、よね・・・?」
強盗さん「それ金物な!?」
強盗さん「違うから! 俺が欲しいのもっと光り輝くやつだから!」
強盗さん「ていうか、びっくりしたわ。突然、黒い鈍器がぬって出てくるんだもん。ぬって」
強盗さん「いや、照れ笑いしてる状況じゃないから。え、君、真面目にやってる?」
お坊ちゃん「い、一応・・・」
強盗さん「嘘つけ!これのどこが金目のものなんだよ!?怪我したくなきゃ、さっさと金目のもん、もってこい!」
脅された僕は慌ててキッチンに向かった。
お坊ちゃん「えっと、金目、光り輝く・・・あ、これなら!」
強盗さん「ほほう、これはいい仕事してますねぇ。よく手入れもされていて、なんなら俺のナイフよりも立派だ」
強盗さん「って、違うから!ただの包丁だから!」
お坊ちゃん「えへへ、実は、お料理が趣味でして・・・自慢の刺身包丁なんです」
強盗さん「お前の趣味とか、どーでもいいわ!」
お坊ちゃん「ご、ごめんなさい」
強盗さん「あのな、そもそもキッチンに金目の物はねえよ。ほらあれだ、金持ちん家にゃ隠し持ってるお宝の一つや二つあんだろ?」
お坊ちゃん「・・・あ、じゃあ、こっちです」
僕は手を叩くと、書庫へと向かった。
〇洋館の一室
お坊ちゃん「あった、これだ!」
僕は革張りの書物を取り出すと、包丁で指を切って血を垂らす。
お坊ちゃん「エロイッサム、エロイッサム・・・」
強盗さん「ちょっ、なにやってんの!?」
お坊ちゃん「いや、金の目の者を呼び出そうと・・・」
強盗さん「それは魔物! モンスター!」
強盗さん「え、ていうか君、魔法とか使えるの!?」
お坊ちゃん「いえ、生まれてこの方、一度も呼び出せた試しはありません!」
強盗さん「じゃあなんでこの状況で召喚魔法を始めたの!?」
お坊ちゃん「ほ、ほら、窮地に陥った時に目覚める力もあるかと思って・・・」
強盗さん「現実を見て!ほら、俺、ナイフ持ってるの!」
強盗さん「とーっても危険なの!?分かる?対応にしくじればバラされちゃうわけ!!」
お坊ちゃん「そ、それだけは!お願いです、恥ずかしいからお父さんたちには内緒にしておいてもらえませんか!?」
強盗さん「そうじゃねえよ!?」
お坊ちゃん「そ、そんな・・・」
強盗さん「いや、言わないよ、だって俺、強盗だもん!!金目の物さえ手に入れられたら二度と姿見せないから安心して!!」
強盗さん「はぁ、もういいや。 とりあえず、金目の物を出せ!」
お坊ちゃん「・・・・・・えっと、えーっと、あっ!」
お坊ちゃん「あっ!」
強盗さん「いや、お前はもう動くな! とりあえず、財布出せ!」
お坊ちゃん「なんだ、お財布が欲しかったんですね? はい、どうぞ!」
強盗さん「ありがとよ・・・」
強盗さん「って、おい!なんで金持ちなのに小銭しか入ってないんだよ!!」
お坊ちゃん「現金はあまり持ち歩かない主義でして」
強盗さん「その割にクレカはおろか通帳カードもないじゃねえか!」
お坊ちゃん「す、すいません。うち、インターネットバンキングで・・・支払いも基本PayPayですし」
強盗さん「情報化社会の波!!」
そう言って、強盗さんは財布を床に叩きつけた。
お坊ちゃん「ごめんなさい、ポイントバックとか結構あるから・・・」
強盗さん「そこじゃねえよ!怒ってるのそこじゃねえんだ!!」
お坊ちゃん「あ、すいません、今、お茶出しますね」
強盗さん「だからそこじゃねえんだ!」
お坊ちゃん「いったい、どうしたら・・・」
強盗さん「さっきから言ってるじゃん! 頼むから金目の物を出してくれよ!!」
お坊ちゃん「あ、そういえば昨日、冷蔵庫に・・・」
強盗さん「それは違えんだ! それは多分、金目鯛なんだよ!!」
強盗さんが声を荒げる。
僕は恐ろしくて、冷蔵庫にあるのが「実は金芽米なんです」とは、とても言い出せなかった。
強盗さん「くそ、やってられるか! 俺はもう帰る!!」
強盗さんはそう言うと、玄関へ向かった。
〇シックな玄関
お坊ちゃん「ご、ごめんなさい、強盗さん・・・その、怒ってます、よね・・・?」
強盗さん「怒る気も失せたわ!」
強盗さんは目を怒らせて、肩を怒らせながら、怒声を上げた。
お坊ちゃん「全然、失せてないじゃん。むしろ、カンカンに怒ってるじゃん・・・」
お坊ちゃん「あ、あの、タクシーとか、呼びます?」
強盗さん「呼ばねえよ!変な気回すんじゃねえ!」
お坊ちゃん「た、タクシーだけに・・・?」
強盗さん「俺がボケた風にすな!!」
強盗さん「ったく、普通にしてくれよ、普通に・・・」
お坊ちゃん「あ、はい、すいません」
強盗さん「まったく、今日はツイてねえぜ・・・じゃあな坊ちゃん、達者でな」
強盗さんはそう言って、踵を返した。
お坊ちゃん「じゃあ、普通に警察だけ呼んでおきますね・・・」
僕はそう言って強盗さんを見送り、ドアに鍵をかける。
強盗さん「てめえ、ふざけやがって! おい、ドア、開けろ!」
お坊ちゃん「ご、強盗なら間に合ってます!」
強盗さん「強盗が不足しているお宅は普通ねえんだ!いいから開けやがれ!」
強盗さんはしばらく激しくドアを叩いていたが、僕が警察に通報すると諦めて去っていった。
お坊ちゃん「はぁ、怖かった」
僕は安堵のため息をつき、つぶやいた。
お坊ちゃん「これからはドアを開ける前にきちんと強盗さんかどうか、確認することにしようっと」
だからそうじゃねえんだ!!
そんな鋭いツッコミが、どこかから聞こえてくるような気がした。
いいですねー、愉快な漫才と化した強盗さんとのやり取り、テンポが小気味よくて笑ってしまいました。途中の強盗さんのノリツッコミも秀逸です!