読切(脚本)
〇SNSの画面
「ねぇ、知ってる? 連続殺人事件の真相について」
「連続殺人事件? ニュースやってたっけ?」
「どうせデマだろ(笑) 自作自演乙(笑)」
「それがさぁ、警察が公表できない殺され方してるらしくて、酷いらしいよ」
「酷いって、遺体が? 殺し方が?」
「何か両方らしいよ? 腕を千切られたとか、足をバラバラにされたとか・・・etc.」
「俺んところは、病気でもないのに、急に内臓がボロボロになって死んだって──」
「えっ、私は何かに取り憑かれて、飛び降りたって聞いたけど?」
〇オフィスのフロア
高橋刑事(・・・ほとんどまともな情報はないか。 まぁ、ネット掲示板から有力なソースが出てくるなんて、当てにしてなかったが・・・)
中村刑事「高橋、お前まだ残ってたのか。 最近徹夜続きで、家に帰れてないんだろ? 今日はいいから、もう帰れ」
高橋刑事「いえ、先輩達を置いて、帰るわけには──」
中村刑事「いいから聞け。 休める時に休まないと、いざという時にスタミナ切れでお荷物なんだよ。 ──今日くらい帰って、明日に備えろ」
高橋刑事「・・・分かりました。 今日は、これで失礼します」
中村刑事(・・・まったく。 アイツも真面目すぎるというか、頑固というか・・・まだ新婚なんだぞ。 しかもカミさん、妊娠中だったはずだ)
中村刑事(刑事としては立派なんだろうが── 家庭で揉めないといいがな・・・)
中村刑事(こんなのまで調べて・・・ なになに、「連続殺人事件は、『赤紙』による犯行か」って・・・ アイツ、本当に大丈夫か?)
〇街中の道路
高橋刑事「はぁ・・・ 家に帰るの、気が重いな・・・ 中村先輩にも、気付かれたかな・・・」
最近警察を悩ませている、連続殺人事件。
世間には報道官制を敷いて公表していないが、この分だと時間の問題だろう。
高橋刑事「・・・とは言え、関連性が全く不明の、『連続』殺人事件。言っても信じられないだろうな・・・」
この事件の最大の特徴であり、立件を難航させる要因。
それは、「被害者の関連、犯人に関する情報がない」ということだ。
〇殺人現場
接点も殺害方法も、死因さえもバラバラ。
唯一の共通点は、『現場に血で染められた、赤い紙が置かれていた』ということ。
最初模倣犯の仕業かと疑われたが、規則性がない、被害者ではない血液で紙が染められている、犯行声明文が無く、報道されていない
以上のことから、何かの事件に触発された複数犯ではなく、単独ないし複数での、同一犯による犯行である──とされた。
高橋刑事(でもその中に、普通じゃ考えられない死に方してるのもあるんだよなぁ・・・ そりゃ呪いのせいって方が、納得できるよなぁ・・・)
〇街中の道路
高橋さん、ちょっといいかしら?
高橋刑事「! 何で俺の名前を──」
ヒトエ「・・・話は、奥さんから聞いているわ」
高橋刑事「・・・君は妻の知り合い、なのか? 話って──」
ヒトエ「・・・その様子だと、本当に何も分かってないのね」
ヒトエ「──高橋さん。 これは私からの忠告よ」
ヒトエ「事件に構っている暇があるなら、ご家族とちゃんと向き合って」
高橋刑事「!それはどう言う──」
〇街中の道路
〇街中の道路
高橋刑事「・・・いない。 何なんだ、一体・・・」
高橋刑事「・・・疲れてるのかな、俺。 早く帰ろう・・・」
〇血まみれの部屋
高橋刑事「・・・何だよ、これ・・・ うちの中が、殺人現場みたいに・・・」
高橋の妻「あらあなた、今日は思ったより、早く帰ってきたのね」
高橋刑事「無事か! 一体何が──ひっ!?」
〇血しぶき
かっ、母さん!?
しっ、しっかり、しっかりしてくれ!
母さん、母さ──
〇血まみれの部屋
高橋の妻「今日一日かかって、ようやく義母さんがおとなしくなったのよ。 本当に疲れたわぁ〜」
高橋刑事「おとなしくって・・・ ・・・お前、何言ってんだよ? どう見ても、母さんの命が危ないのに・・・」
高橋の妻「・・・やっぱり、見えてないのね。 いえ──見ようとしてないのね」
高橋の妻「・・・私のお腹、変だって思わないの?」
高橋刑事「変って・・・え?」
高橋の妻「・・・ようやく気付いたのね。 そうよ、赤ちゃんがいなくなったの。 ──流産で」
高橋刑事「──そんな! 何で俺にその話を──」
高橋の妻「話を聞こうともしなかったのは、あなたじゃない!」
高橋の妻「いつもいつも「忙しい」って、私の話どころか、存在すら忘れてたじゃない!」
高橋の妻「それなのに、今更主人ヅラ!? いい加減にして!!」
高橋刑事「忘れてた・・・って・・・ そんなわけないだろ!? 俺はお前のために──」
高橋の妻「そんなの頼んでない! 私はただ──話を聞いて欲しかった! つわりでお義母さんの介護は苦しいって、分かって欲しかっただけ!」
高橋の妻「だけど、あなたは逃げた!」
高橋の妻「私と向き合うことも! お義母さんの面倒を見ることも! そうやって、逃げていることも!」
高橋の妻「・・・だけど、もういい。 もう全ておしまい。 ──ううん、終わらせるの、全部」
高橋刑事「な、何を、何を終わらせるんだ? 全部って──」
〇血しぶき
──か、はっ
〇血まみれの部屋
高橋刑事「──何、だ・・・ 何か、身体が・・・」
高橋の妻「・・・ようやく効き始めたようね。 あの子の血だと効きが遅いって、ヒトエさんの予想通りだった」
高橋刑事「血・・・? 『あの子』・・・? 何のことだ・・・?」
高橋刑事「・・・何だ、この紙? 何で俺の名前が・・・」
高橋の妻「──これは『赤紙』と言って、憎しみを持つ人がこの紙を血で染めると、その苦しみを憎い相手に伝えられる。 そういう『呪い』」
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かつては戦争への召集令状だった赤紙が、現代社会で地獄への招待状として蘇ったみたい。人間の業の深さを感じさせるおどろおどろしく禍々しい雰囲気や、読者がヒトエの静かな狂気に引きずり込まれていくような感覚が良かったです。
愛憎の果ての呪い、何とも悲しく苦しいものですね。そして、警察が複数の事件の関連性を疑って捜査するほど、呪いに溢れた作品世界が恐ろしいです。
灯台下暗しといえばそうですが、主人公の妻はひとえに感化されかなり強烈になってしまいましたね。今まできいた中でもかなり強烈な呪いの仕方にぞっとしました。