阿鼻獄の女

高山殘照

2.柔らかな毒(脚本)

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高山殘照

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〇個人の仕事部屋
北 部長「退院おめでとう」
岳尾 雄「ありがとうございます 部長」
北 部長「それでパソコンが 異常動作起こした件だがね」
岳尾 雄「はい」
北 部長「情報管理部門に原因と責任がある、 ということになった」
北 部長「まあ、要はセキュリティソフトが 更新されていなかったんだよ」
岳尾 雄「それはまた、初歩的ですね」
北 部長「しかも更新を申請しても 上司に却下されたそうでね」
北 部長「理由はなんだと思う? 『経費節減』だそうだ」
北 部長「だから本人の給料を たっぷり減らすことにしたよ」
岳尾 雄「部長、お言葉ですが あの異常動作は、私にも原因が」
北 部長「確かに、USBメモリから ウイルスが侵入した、かもしれんな」
北 部長「だが 『それがどうしたというんだ』」
北 部長「私個人の意見ではないぞ 社としての、総意だ」
岳尾 雄「それでは、あまりにも・・・・・・」
北 部長「岳尾くん。君は真面目で誠実で 人に不快感を与えない」
北 部長「なによりも 会社のために体を張ってくれた」
岳尾 雄「・・・・・・」
北 部長「そんな優秀な社員を 見捨てるわけないじゃないか」
岳尾 雄「恐れ入ります」
北 部長「これからも 期待しているよ」

〇応接室
岳尾 貴美子「雄さん本人は お咎めなしだって」
調 達也「それはなにより」
岳尾 貴美子「これでよかったの? 今日も元気に出社してるけど」
調 達也「ええ。一撃で仕留めようって 話じゃないんです」
調 達也「なんとなく感じる不安 ぼんやりとした不信感」
調 達也「それが効いてくるんです」
岳尾 貴美子「ならいいんだけど」
調 達也「今は『2本目の足』を 折ることに専念しましょう」
調 達也「そこからは スピード勝負ですよ」
岳尾 貴美子「わかってる」

〇マンションのエントランス
岳尾 貴美子「ダメ、か・・・・・・」

〇豪華なリビングダイニング
岳尾 雄「ただいま」
岳尾 貴美子「おかえりなさい 疲れたでしょ」
岳尾 雄「なんかまだ 本調子じゃないみたいだ」
岳尾 貴美子「無理しないでね お風呂、沸かしておいたから」
岳尾 雄「うん、ありがとう」
岳尾 貴美子「その前に水分補給 はい、これ飲んで」
岳尾 雄「またこのお茶? 美味しくないんだよなあ」
岳尾 貴美子「良薬口に苦しっていうでしょ」
岳尾 雄「最近の健康茶って 味は二の次なんだなあ」
岳尾 貴美子「効いてる気、するでしょ」

〇ダブルベッドの部屋
岳尾 貴美子「雄さん もう朝よ、大丈夫?」
岳尾 雄「うーん」
岳尾 貴美子「顔色悪いけど・・・・・・」
岳尾 雄「だからって 休むわけにはいかないよ」
岳尾 雄「うっ」
岳尾 貴美子「起き上がるのも辛そうよ 病院行きましょう」
岳尾 貴美子「いえ、救急車呼びましょう 待ってて」
岳尾 雄「いや! いい 病院、行くよ」
岳尾 雄「今から行けばきっと、 半休で済むだろうし」

〇病院の診察室
医師「入院です」
岳尾 雄「ええ!?」
医師「検査結果見てください ほら、以前より悪化してます」
岳尾 雄「最近、安定してたんですけどねえ」
医師「まあ、あなたの病気は 気長に付き合うものですから」
医師「あまり、気を落とさず」
岳尾 雄「はあ」
医師「ところで、 なにか変わったことされました?」
医師「外食が多くなったとか 変わったものを口にしたとか」
岳尾 雄「・・・・・・いえ」
医師「そうですか」
医師「まあ、入院といっても 1週間程度で済むでしょう」

〇綺麗な病室
佐東 法子「雄さん また入院するの?」
岳尾 貴美子「ええ、今度もこの病院 西病棟だけど」
佐東 法子「たいへんね・・・・・・」
佐東 法子「貴美子、こんなときこそ あなたがしっかりするのよ」
岳尾 貴美子「うん」
佐東 法子「雄さんと うまくいってないんでしょ」
岳尾 貴美子「えっ? なんで、そんな」
佐東 法子「見れば、わかるの 様子がおかしいことくらい」
佐東 法子「でも 別れたいわけじゃなさそうね」
佐東 法子「『まだ大好き』って 顔に書いてある」
岳尾 貴美子「かなわないなあ」
佐東 法子「毎日、面会には行くんでしょ」
岳尾 貴美子「もちろん」
佐東 法子「じゃあ しっかり甘やかしてきなさい」
佐東 法子「きっと今、不安なはずよ」
佐東 法子「自分の体のことも、辛い 仕事を休むことだって、苦しい」
佐東 法子「雄さんみたいな人なら なおさら、ね」
岳尾 貴美子「ええ」
佐東 法子「だから、あなたが」
佐東 法子「いえ、あなただけでも 味方になってあげなくちゃ」
岳尾 貴美子「母さん」
佐東 法子「なに?」
岳尾 貴美子「いや、なんでもない」

〇病院の待合室
調 達也「なにかありました?」
岳尾 貴美子「あの人、 入院することになったわ」
岳尾 貴美子「探偵さんの 見立てどおりね」
調 達也「ね、健康ってのは 結構簡単に崩れるんですよ」
岳尾 貴美子「漢方薬入りのお茶 飲ませただけで?」
調 達也「雄さんの疾患には ある漢方薬が禁忌なんです」
調 達也「検査を受ければ、 露骨なくらい数値に表れますね」
岳尾 貴美子「生薬って 体に優しいイメージあるのにね」
調 達也「薬は薬ですしね」
岳尾 貴美子「でも大丈夫なの? このまま回復しないなんてことは?」
調 達也「ありません 服用を止めれば体調も戻りますから」
岳尾 貴美子「そう、ならいいけど」
調 達也「これで仕事・健康という 2本の足に大きなヒビが入りました」
調 達也「あと1本で、 椅子が壊れて転びますよ」
調 達也「あなたのほうに」
岳尾 貴美子「そうね、そうよね これで、終わり」
調 達也「準備はできていますか」
岳尾 貴美子「大丈夫よ 今からこれで」
岳尾 貴美子「雄さんのお金を、残らず引き出す それだけだから」

次のエピソード:3.凍てつく口

コメント

  • 恐怖の、がぶり寄り、ですね。あぁ、色んな愛の形があるんだなぁ。番外編の、「だってフィクションだもの」でも笑わせてもらいました。

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