ラストワン・オンリーワン

配線がらり

ラストワン・オンリーワン(脚本)

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〇地球
  西暦20××年
  人類は今、ワドルー星人によって
  滅亡しようとしていた──

〇荒廃したショッピングモール
男「はあっ、はあっ・・・」
ヴィム「おし、これでラスト!・・・っと」
男「ぐあっ・・・」
モル「さっすがヴィムの兄貴、急所一撃ぃ!容赦ねぇすね〜!」
ヴィム「バカオメェ、こういうのは一思いに殺ってやるのが優しさってモンよ」
ヴィム「弱者を過度に苦しめるっつうのは、俺ぁ好かねぇよ」
モル「へへ、そういうモンすかね」
ヴィム「ともかく、地球人は1匹残らず排除した。これでここはもうワドルー星のモンだ」
ヴィム「モル、早速ボスに報告しろ!」
モル「っす!」
モル「いや〜しかし地球人ってなんでしょ」
モル「一人一人は大したことなかったすけど、数だけはホンットに多くてヤんなっちまいましたね」
モル「来る前に『1匹見たら100匹はいると思え』って教わりましたけど、あれホントっすね!まさしく・・・」
ヴィム「ゴキブリと一緒、だろ」
モル「っす!」
ヴィム「つーかモル、知ってっか?地球にもいんだぜ?ゴキブリ」
モル「は、マジすか!?あいつらココでも生きてけんすか!?どんだけ適応能力高いんだよ!」
  ーー・・・アーン
モル「そいやゴキブリといや、先週──」
ヴィム「シッ、モル。何か聴こえる」
モル「えっ」
  ーーアーン、ワーン
モル「泣き声・・・っすか?」
ヴィム「かもな。あっちからだ」

〇街外れの荒地
ヴィム「・・・赤ん坊か」
モル「まだ生きてたんすね。てっきりさっきの男で最後かと・・・」
ミナミ「ック、ヒック」
モル「おーよちよち、泣くな泣くな。もうお前のパパもママもとっくにいましぇんよ〜」
ヴィム「・・・」
モル「かわいちょだね〜。このままひとり残っても、どっちみちお前は死んじゃうね〜」
ミナミ「あう・・・」
モル「ならせめて今、このモル様が一思いに殺っちゃうね〜。それが優しさってモンだからね」
ミナミ「うう」
ヴィム「おいモル、油断すんな」
モル「じゃ〜あねっ・・・!!」
ミナミ「ひっ、ひっ、」
ミナミ「ウワーーーーーーーーン!!」
ヴィム「っ!?」
モル「ぐあっ・・・!」
ヴィム「なん、だこの力はっ・・・!?」
ミナミ「ワーーーン、アーーーーーン!!!!」
モル「マジすか、ビルが・・・!?」
ミナミ「アーーーーーン!!」
ヴィム「超音波か!?」
モル「クソッ、黙れ・・・!」
モル「うわああっ!!」
ヴィム「モルッ!!」
モル「兄貴っ、こいつただものじゃねえっ!」
ヴィム「わーってる!」
ヴィム「おいテメェ、いい加減にしろっ!」
ミナミ「ウワーーーーーン!!」
ヴィム「うおっ・・・!」

〇街外れの荒地
ヴィム「わ、わかった!お前の要求はなんだ!?言ってみろ!」
ミナミ「っく、ひっく」
ヴィム「泣いてちゃわかんねーよ!」
ヴィム「おいモル、なんか赤ん坊が喜ぶモン出せ!」
モル「んなの持ってねーっすよ!」
ヴィム「だーら探してこいっつー意味だよ!」
モル「ああもう・・・!」
ミナミ「あう、あうう・・・」
ヴィム「待て待て待て、泣くな泣くな!」
ヴィム「ほら、あれだ、えーと、なんだ!」
ヴィム「あ、そう!高い高いしてやる!」
ヴィム「おら、よいしょっ・・・と」
ヴィム「あ、なんだこれ?」
ヴィム「『ミナミ・キリサワ』 ・・・これが、お前の名か?」
ヴィム「おい、ミナミ」
ミナミ「う?」
ヴィム「ミーナミ」
ミナミ「たい!」
ヴィム「おお笑った!そうか、お前ミナミっつーのか」
ミナミ「あうー!」
ヴィム「よーしよしよし、いい子だな。 それじゃお望み通りやってやっからな」
ヴィム「行くぜ、たかいたか〜〜〜〜〜い!!」

〇空

〇街外れの荒地
モル「兄貴〜〜!」
モル「ありやしたおもちゃ!これできっと・・・」
モル「・・・てあれ、赤ちゃんは?」
ヴィム「上だ」
モル「え?」
ヴィム「俺が全力でぶん投げたからな。今頃は大気圏かそこらで燃え尽きてるよ」
モル「えええ!?なんでそんなことするんすか!?赤ちゃん死んじまいますよ!」
ヴィム「バカおめえ、地球に何しにきたのか忘れたのか!?」
ヴィム「地球人滅亡!世界征服!」
モル「あそっか」
ヴィム「ったくよぉ〜」
ヴィム「ま、これで無事全員始末したことだし、今度こそボスに報告を──」

〇空

〇街外れの荒地
ミナミ「きゃっ、きゃっ!」
モル「・・・」
ヴィム「・・・」
モル「・・・ピンピンしてますね」
ヴィム「・・・だな」

〇荒廃した街
  5ヶ月後──
ヴィム「ハアァァァ・・・」
ヴィム「フンッ!!」
ミナミ「う?」
ヴィム「ちっくしょ、キレイに割られちまった。今日もダメかよ・・・」
ミナミ「きゃっ、きゃっ」
ヴィム「笑ってんじゃねーよ!こちとら遊びでやってんじゃねーんだぞ!?」
ミナミ「あーう?」
ヴィム「だー、もう勘弁してくれよ〜」
モル「兄貴〜!アッニキー!ただいまっす!」
ヴィム「遅えぞモル!」
モル「すいやせん。でも、ちょっとすげえの見つけちまいまして」
ヴィム「その前に、目当てのモンは?」
モル「へい!そらもちろん。じゃーん」
モル「ほい、ミナミちゃんお待たせ。ミルクでちゅよ〜」
ミナミ「あーう」
モル「うんうん、ごめんね〜。パパがミルク切らしてるの忘れててね、オジサン超特急で探してきたんだよ〜」
モル「ミルクなかったらミナミちゃん泣いちゃうのに、パパったらうっかりさんでちゅね〜」
モル「あたっ」
ヴィム「パパじゃねえよ!」
モル「も〜、暴力的なパ・・・」
モル「・・・じゃなくて、怪人さんでちゅね〜」
ヴィム「・・・んで、なんだよ。すげえモンって」
モル「あ、そうっすそうっす!ほら、これ!」
ヴィム「・・・んだよそりゃ」
モル「新聞?とかナントカで、ニュース載っけてる紙みたいっすね」
モル「んで、ほらここ!載ってるのミナミちゃんじゃないっすか!?」
ヴィム「あん?」
  ギフテッド ミナミ・キリサワに電流実験
  研究施設一棟破壊

〇研究装置
  8月30日、世界医療研究開発機構は、特殊能力者ミナミ・キリサワに電気ショックを与える実験をした。
  結果、ミナミ・キリサワは100mAまでの電流に耐えられることが判明した。
  これは、通常人間が耐えうる電圧の5倍相当となる。
  尚、この実験により啼泣したミナミ・キリサワの声により、研究施設は全損。勤務中の研究員8名が死亡した。

〇SNSの画面
  ミナミ・キリサワに対する実験が行われたのは、育成過程で負傷した両親から研究機構に引き渡されてから今回で3回目。
  SNSでは彼女の人間離れした能力を”不死身”だと恐れる声が多く上がる一方で
  人権保護団体からは過度な実験に対する反対デモも行われている。
  ミナミ・キリサワの存在に世界は依然として混乱中である。

〇荒廃した街
モル「・・・ですって」
モル「ミナミちゃん、地球人に嫌われてたんすかね」
ヴィム「・・・」
モル「この強さ、俺らの星に生まれてたら歓迎されてたんすけどね〜」
モル「産まれた星が悪ぃと苦労しますね」
ミナミ「あう」
ヴィム「・・・」
モル「んで、どうします?」
ヴィム「どうするって?」
モル「いやだって、もう5ヶ月っすよ?なのにミナミちゃんに傷ひとつつけられてないじゃないすか」
モル「これもう地球人滅亡ムリっすよ」
モル「そろそろ正直にボスに言って故郷(ホシ)に帰りません?」
ヴィム「なっ、まだ5ヶ月だろーが!」
ヴィム「前回のマッツェ星制圧ん時なんて俺ぁ10年くらい戦ってたよ!この程度で諦めてんじゃねー!」
モル「でも〜あん時とは状況違うじゃないすか」
モル「兄貴だって、もう殺す気ないっすよね?ミナミちゃん」
ヴィム「あん?んなわけねーだろ。俺はさっきだって全力で・・・」
モル「全力で殺そうって奴が対象が腹減ってるかどうかなんて気にしませんって!」
ヴィム「はあああああ?それはお前が泣いたらどうしようってビビってたからだろうが!!」
ミナミ「あう・・・」
???「ならばその子、我々に渡しませんか?」
モル「なんすかお前ら、いつの間に!?」
ヴィム「クウォル星の奴ら、か?」
クウォル星人1「いかにも」
クウォル星人2「お困りのようだな、ワドルー星人」
クウォル星人2「力貸してやってもいいぜえ?殺したいんだろ、その赤ん坊」
モル「ケッ、俺らに殺せねえのにオメエらにできるかってんだ」
クウォル星人1「まあ見ていてください」
ヴィム「地球人・・・?」
クウォル星人1「この子の両親よ」
クウォル星人1「ほら、おいで、ミナミ」
クウォル星人2「一緒に帰ろう」
ミナミ「う?」
ミナミ「きゃっ、きゃっ」
モル「・・・嬉しそうっすね」
ヴィム「・・・」
クウォル星人1「ふふ、いい子いい子」
クウォル星人1「えいっ」
ミナミ「あっ」
ミナミ「う・・・あ・・・」
クウォル星人2「効果抜群だな。じゃ、帰るか」
モル「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!その子、どうするんすか!?」
クウォル星人1「心配せずともきちんと始末します。このまま我が星に持ち帰り、解剖した後にですが」
クウォル星人2「地球人の生態は以前から気になったからな、いいマウスが手に入ったぜ」
ヴィム「そいつ、不死身らしいが?」
クウォル星人1「なら死ぬまで実験に付き合ってもらうのみ。では」
モル「・・・行っちまいましたね」
モル「ま、まあでも!これで地球人全員死にますね!無事ミッション完了〜ってことで!」
ヴィム「・・・」

〇廃列車
ミナミ「っく、ひっく・・・」
ミナミ「ギャーーーン、ウワーーーーン!!」
ヴィム「だーー!もううるっせえな!!」
ヴィム「明日の朝まで一時休戦だっつったろうが!?」
ヴィム「夜中に攻撃仕掛けてきてんじゃねーよ!この卑怯モンが!!」
ミナミ「ううっ、ふえ・・・」
ヴィム「・・・んだよ。お前、もしかして眠れねーのか?」
ミナミ「あう、あうう・・・」
ヴィム「ったく、しょーがねーな・・・」
ヴィム「おら、眠るまで隣で見ててやっからよ」
ミナミ「う?」
ヴィム「俺様の気が変わらねえうちにとっとと寝ろ」
ミナミ「あう・・・」
ヴィム「んだよ、寝首かいたりなんざしねーよ。俺様は卑怯な戦い方が大嫌ぇだからな」
ミナミ「ふふ」
ヴィム「テメ、笑ってねーでとっとと寝やがれ!」

〇荒廃した街
モル「おし、じゃ早速ボスに連絡して・・・」
ヴィム「・・・てよ」
モル「え?」
ヴィム「待てよ!!!!」

〇荒野
クウォル星人2「なんだぁ?もう用は済んだはずだぜ」
ヴィム「そいつは俺の獲物だ。返してもらう」
クウォル星人2「あぁん?何を今さ──」
クウォル星人2「ぐえっ・・・!」
クウォル星人1「・・・どういうつもりです?」
クウォル星人1「貴方の目的は地球人を殲滅することでしょう。利害は一致しているはずですが」
ヴィム「そうだ!地球人を殲滅させんのは”俺の”仕事だ!!」
ヴィム「テメェらに横取りさせてたまるか・・・」
ヴィム「よっ!」
クウォル星人1「ぐっ・・・」
クウォル星人1「ちっ、バカ力が・・・」
ヴィム「もいっちょ・・・」
ヴィム「はっ!!」
クウォル星人1「喰らうかっ!」

〇雲の上
クウォル星人1「フン、ここまで来ればもう追ってこれま・・・」
ヴィム「ミナミ!!」

〇雲の上

〇雲の上
クウォル星人1「なっ、あいつ!爆風で飛んだ石塊を登ってここまで・・・!?」

〇雲の上
ヴィム「ウオオオオオオオオオオ!!」
ヴィム「これで・・・」
ヴィム「終わりだぁぁぁーーー!!!!」

〇雲の上
クウォル星人1「ぐ、あっ・・・」
クウォル星人1「グアアアアアアアッッッ!!!!」

〇雲の上
ヴィム「へっ、ざまあみやがれってんだ!」
ヴィム「・・・って、ミナミは!?」
ヴィム「おいやべぇぞ、このままじゃミナミも地面に叩きつけられちまう!」
ヴィム「ミナミ!てめっ、待ちやがれー!」

〇雲の上

〇荒野
ヴィム「ミナミ!!」
ヴィム「ってて・・・なんとかキャッチ成功・・・」
モル「兄貴、ヴィムの兄貴ー!」
モル「大丈夫っすか!?」
ヴィム「ああ、俺はな。だが、ミナミが・・・」
モル「ちょっと失礼するっす」
モル「・・・」
モル「ああ、兄貴。これはもう・・・」
モル「ミナミちゃん、脈、止まってるっす」
ヴィム「・・・」
ヴィム「・・・んだよ」
ヴィム「おいミナミ、起きろ!!」
ヴィム「テメェ、不死身なんだろ!?それで世間にも親にも疎ましがられてたんじゃねえのかよ!?」
ヴィム「バルタンのヤクになんかやられてんじゃねえよ!」
モル「ちょ、乱暴はダメっすよ・・・」
ヴィム「うるせぇ!おいミナミ起きろ!起きろって!」
ヴィム「お前を殺すのは俺だろうが!俺以外の奴に殺られんな!!」
モル「っく、ミナミちゃ・・・ぐすっ」
ヴィム「なあっ、っく、オイ・・・」

〇荒野
ミナミ「・・・う」
ミナミ「・・・う、あ」
ヴィム「ミナミ!」
モル「ミナミちゃん!」
ミナミ「・・・・・・うー、あうー」
ミナミ「きゃっ、きゃっ!」
ヴィム「・・・」
モル「・・・」
ヴィム「・・・ハハ」
モル「・・・ハハハ」
ヴィム「ハハハハ」
ヴィム「ハアッーハッハッハッハッハッ!!!!」
ヴィム「てめっ、この、心配かけさせやがって」
ミナミ「う?」
モル「うっ、ぐずっ、よがっだっず」
ヴィム「泣くなよモル。言っとくけどな。こいつ殺すんだからな?」
モル「はい」
ヴィム「俺がよ、近いうちにこう、ガツーンと最強の必殺技でよ」
モル「はい、はいっ・・・」
ヴィム「もう跡形も残らねえくらいの一撃食らわせてやっからよ」
ヴィム「お前、お前その日まで死ぬんじゃねえぞ?な?」
ミナミ「あう!」
モル「へへっ、その日が、楽しみ、っく、っすね!」

〇地球
  地球人の滅亡は、そこから約95年かかったという──

コメント

  • 昔から「泣く子と地頭には勝てない」と言いますが、いろんな意味で誰も勝てない宇宙最強のミナミちゃんでしたね。後書きを読むと執筆にはずいぶん苦労なさったようですが、そのおかげで斬新な設定&鬼の目にも涙的なハートフルな読み応えのある物語を堪能させていただきました。

  • 地球から人類を滅亡させたきっかけは、実はミナミちゃん説...?こういうディストピアなお話、大好きです🤗

  • ミナミちゃん強い😆赤ちゃんパワーにはどんな怪人も敵いません。そしてパパとオジサンは優しいですね✨

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