エピソード1(脚本)
〇SHIBUYA109
めぐみ「キャラが被るのよ!! その髪型を変えなさいよ・・・」
私は呆気に取られていた・・・見ず知らずの女の子の第一声目にそんなことを言われたのは初めてだった・・・
彼女は病んでいるのだろうか・・・?
私は関わらないように何も聞こえていないふりをした・・・
しかも人通りの激しい天下の往来である・・・知り合いだと誤解されるのはまっぴらごめんだった・・・
めぐみ「大体・・・服もピンクって何よ!!まる被りじゃない!!」
彼女は全くめげることなく私に言い寄ってくる・・・周りの注目がチラホラとこちらに集まりだした・・・
ゆうこ「あなた何を言ってるの?私あなたの事、全然知らないわよ・・・」
めぐみ「私も知らないわよ・・・!! 知らないから注意しているの!?」
この子は本当に触ってはいけない痛い子だ・・・そうでなければ常識の分からない頭の弱い子だ・・・
私は逃げるようにその場を駆けだした・・・
めぐみ「ちょ、ちょと待ちなさいよ・・・」
〇渋谷のスクランブル交差点
一心不乱で逃げているのに彼女は追いかけてきた・・・その執着心にはホラーを感じた
めぐみ「待ちなさーい!待ちなさーい!」
そもそも私は陸上部である・・・追い付く事など出来る筈がない・・・血相を変えた彼女の姿は次第に小さくなっていた・・・
めぐみ「待って~・・・待って~・・・」
段々と苦しそうに追いかけてくる彼女の姿に可哀そうだ感じていた・・・ちょっと可愛いなぁと思った・・・
めぐみ「ひぃひぃ・・・はぁはぁ・・・」
どうしたらここまでの執着心が持てるのだろうか?私は彼女の本心が何処にあるのか知りたかった・・・
ゆうこ「どこまで追いかけてくるのよ・・・」
めぐみ「あ、あなたが・・・逃げるからよ・・・はぁはぁ・・・」
ゆうこ「私たち今日あそこで一瞬あった赤の他人よね・・・?なのにどうして、そこまで付き纏うの?」
めぐみ「付き纏ってなんかないわ!!」
付き纏うが地雷だったのか彼女は怒って何処かへ行ってしまった・・・私はポカーンとその場に立ち尽くしていた・・・
〇電車の中
めぐみ「あっ・・・」
帰りの電車で彼女にばったり出会ってしまった・・・向こうは少しばつの悪そうな態度だった・・・
しかし、お互いに車両を変える訳でもなく乗り合わせていた・・・
電車の中で彼女の様子を観察していたが初対面でのお嬢様風の強気な様子はなくちょっぴり可愛らしかった・・・
しかし私が様子を観察している事を察知すると途端に態度を一変した・・・
めぐみ「ちょっと・・・何見てるのよ・・・キャラが被ったのを嘲笑ってるの?」
この子にとってキャラ被りはどんだけ重い枷なんだろうか・・・?
ゆうこ「別に・・・さっきと違う様子だったからどんな人なんだろうと思って・・・」
めぐみ「えっ・・・何言ってるの・・・」
やっぱりこの子なんか可愛い・・・どうしていつも怒った風なお嬢様キャラを演じているのだろう?
私はこの子が同じ駅で降りる事を知りカフェに誘った・・・
〇レトロ喫茶
彼女の名前はめぐみと言った・・・驚くことに年齢も同じ18歳だった・・・
めぐみ「ここのチーズケーキは美味しいわよ・・・」
少し話をしていてわかった事がある・・・めぐみの怒った様な面持ちは普段の顔だった・・・
通常は何をするにも仮面の様に崩さないでいる・・・しかし突発的な対応などによって素の部分がふいに顔に現れる・・・
本来のめぐみはそちらが本物だろう・・・めぐみは損をしてる生き方に気付いていないのだろうか?
ゆうこ「じゃあ・・・めぐみのお勧めを頂くわ・・・」
めぐみ「め、めぐみって・・・馴れ馴れしいですわよ・・・良いけどぉ・・・」
私は鉄仮面の様な顔から、不意に覗かせる素の顔とのギャップが可愛くて堪らなかった・・・
ゆうこ「ねぇ・・・連絡先交換しましょう・・・」
めぐみ「えっ・・・れ、連絡先・・・」
ゆうこ「お友達になりましょうよ・・・」
めぐみ「お、お友達・・・う、うん・・・」
めぐみは少しためらっていたがお互いに連絡先を交換した・・・その日は少し他愛のない話をしてお開きとなった・・・
〇公園通り
めぐみと私は同じ学校では無かったが同じ地域の近くの学校だった・・・めぐみの学校は私とはレベル違いのお嬢様学校だった・・・
同じ地域ということもあり意識をすると、めぐみの姿を探し出すことができた・・・
見かけためぐみは同じ学校の生徒ともめているようだった・・・
めぐみ「私が悪いとでもいうのかしら!?」
「そうは言ってないわ・・・少しは協調性を持ちなさいと言っているの・・・」
二人の言い争いはとてもエキサイトしていた・・・私はめぐみに声を掛けるのを戸惑っていた・・・
めぐみ「協調性ですって・・・!?私には無いとでも?」
あかね「無いじゃない・・・いつも一人だし・・・」
ゆうこ「め、めぐみ・・・」
めぐみ「ゆ、ゆうこ・・・?どうしたのその恰好・・・?」
ゆうこ「私、陸上部でね・・・この制服のまま無茶したらこんな事に・・・」
めぐみ「無茶したじゃないわよ・・・」
ゆうこ「お二人のお邪魔だったかしら・・・?」
あかね「いいえ・・・私は失礼するわ・・・」
めぐみ「もう、しょうがないなぁ~ジャージに着替えなさい・・・」
めぐみがいつも仮面を被っている理由がなんとなく理解できた・・・しかしそれは悪循環の様な気がした・・・
〇公園通り
ゆうこ「お待たせ!着替えてきたわよ・・・」
めぐみ「ありがとう・・・良いところに来てくれたわ・・・」
めぐみ顔からいつもの鉄仮面は消えていた・・・しかし少し寂しそうだった・・・
ゆうこ「何か怖い人だったね・・・」
めぐみ「同級生よ・・・滅多に話さないんだけどね・・・」
ゆうこ「これから時間ある?付き合ってよ・・・!」
めぐみ「えっ!?ええ・・・」
〇映画館の座席
私は気分転換にめぐみを映画館へ連れてきた・・・
めぐみ「あっ・・・」
めぐみは思った通りたくさんの表情を見せた・・・
めぐみ「アハハハハ・・・」
鉄仮面はめぐみを守る最高のアイテムなのだろう・・・
めぐみ「うぐっ・・・うぐっ・・・」
しかし同時に人を遠ざけ敵も作っているのでは?と私は考えていた・・・
めぐみ「うわぁー」
めぐみがどうして鉄仮面に頼るようになったのかはわからない・・・
めぐみ「ふぅ~」
私は日頃めぐみが抱えてる負担を少しでも軽くしてあげたかった・・・
めぐみ「楽しかったわ・・・」
ゆうこ「良かった~」
めぐみ「ありがとう・・・」
〇公園通り
あの日以来めぐみの事を見かけるのは中々できなかった・・・電話しようかとも思ったがそれも気が乗らなかった・・・
あかね「あら・・・あなた・・・」
ゆうこ「あっ・・・こんにちは・・・」
あかね「めぐみさんを探しているの?」
ゆうこ「え、ええ・・・」
あかね「めぐみさんならずっと学校を休んでらっしゃるわよ・・・」
ゆうこ「えっ!何かありましたか?」
あかね「私には詳しい事はわからないですわ・・・ でも・・・」
あかね「協調性の無いめぐみさんにあなたの様な友達がいらっしゃいましたのね・・・」
めぐみの事を少し馬鹿にされた気がした・・・めちゃくちゃ腹が立った・・・
ゆうこ「めぐみはあなたが思っているような子じゃありません・・・!」
あかね「まあ・・・そうでしたのね・・・それではこれで・・・」
私が怒った様子に少し驚いていた・・・しかし冷静を装いその場から去った・・・
私は直ぐにめぐみに連絡を入れた・・・住んでいる場所を聞き出し急いで向かった・・・
〇高級マンションの一室
めぐみ「いらっしゃい・・・こんな格好で失礼するわ・・・」
ゆうこ「病気なら連絡入れなさい!! 心配したんだからね!!」
めぐみ「ううっ・・・ごめんなさい・・・」
めぐみは病気でありながら何故か1人で過ごしていた・・・お母さんは仕事に出ているのだろうか?
ゆうこ「看病してくれる人は家に残っていないの?」
めぐみ「私は1人暮らしでしてよ・・・」
ゆうこ「何そんなことで啖呵を切ってるの・・・? それなら尚更、早く連絡よこしなさいよね!?」
めぐみ「ううっ・・・」
ゆうこ「まず、食べたいものを言いなさい!? 足りないものと一緒に買ってくるから!!」
めぐみ「り、リンゴ・・・」
ゆうこ「リンゴね? 水枕も無いみたいだからそれも買ってくるわ・・・待ってなさい!?」
めぐみ「は、はい・・・」
〇高級マンションの一室
ゆうこ「買ってきたわよ・・・」
ゆうこ「今からごはん作るからめぐみはこの枕で寝ててね・・・」
めぐみ「う、うん・・・」
ゆうこ「台所、借りるからね・・・」
めぐみ「は、はい・・・」
めぐみはいつも以上に素直だった・・・
しかし、めぐみがこんな所で1人暮らしをしていたとは想像つかなかった・・
女の子の一人暮らしなんて親は心配ではないのだろうか・・・?
鉄仮面の秘密は生い立ちに関係しているのかも知れない・・・
ゆうこ「出来たわよ~ お粥にしたから食べやすいわよ・・・リンゴも剥いておいたからね・・・」
めぐみ「あ、ありがとう・・・うぐっ・・・うぐっ・・・」
ゆうこ「こらこら・・・何をないてるの?余計悪くなるじゃん・・・」
めぐみ「だって・・・こんなにやさしく・・・うぐっ・・・うぐっ・・・」
ゆうこ「だって・・・友達だよ・・・!!」
めぐみ「う、うん・・・ありがとう・・・うぐっ・・・うぐっ・・・」
ゆうこ「よし、よ~し・・・」
私はそっとめぐみを抱きしめた・・・
〇遊園地の広場
今日は2人で遊園地に来ていた・・・
出会いを思い出しめぐみをからかっている・・・
ゆうこ「追いかけてきて~!!」
めぐみ「待って~・・・待って~・・・」
ゆうこ「アハハ・・・こっち、こっち・・・」
めぐみ「ま、待ってよ~・・・」
ゆうこ「アハハ・・・こっちよ~」
めぐみ「ま、待って~・・・はぁはぁ・・・ひぃひぃ・・・」
ゆうこ「ぎゅ~っ!!」
めぐみ「やったな~!!ぎゅ~っ!!」
出会いは最悪だった・・・
お互いの事を良く知らずに虚勢を張っていた・・・
しかし、僅かばかりの好きだという感情が知りたいという興味を膨らませる・・・
私はまだまだめぐみの事か知りたい・・・この温もりはいつまでも掛け替えのない宝物だ・・・END
一目で相手を気に入ることが「一目惚れ」なら、めぐみはゆうこに「一目嫌い」したんでしょうね。でも「嫌いは好きの裏返し」で、嫌いという感情も気になっている対象にしか生じないから、めぐみは無意識に一瞬で運命の相棒=ゆうこを見抜いたのかも。人間の感情って本人も気づかない天邪鬼なところがあって面白いですね。
思いもよらない出会い方で、最悪な出会いでしたが、その後の展開も含めて、ふたりの間に運命の絆のようなものを感じました。彼女との出会いでめぐみの人生は大きくかわりましたね。読んでいて心が優しくなります。
人が相手に好意をもつ動機づけがこういうシチュエーションということもあるんだと勉強になりました。何か癇に障るという人って、本当は近寄ってみるべき存在なのかもしれませんね。