唖然、必然(脚本)
〇女性の部屋
私とアリサは休日になると、一緒に出かける事が増えた
私のための中古CD屋巡りと、アリサの恋を探すため。お互いが給料を得られるようになった事で出かける範囲が広がったのだ
可哀想なのはミモザさん。外出目的が合わないのと、私達と一緒にいるとお金を使い過ぎてしまうから
なので、カモミールにいる時に、一緒に遊ぶ時間を増やす事で納得してもらった
ただ、”アリサの恋人探しは、思いの外難しかった。なにせ私は恋に鈍感だったから
〇商店街
アリサの恋人を探すと言っても、私はちんぷんかんぷんだった
ただ男の人というだけでは駄目との事で、体型や顔立ちなど色々あるらしい。
それでも一緒にいる事が多かったので、なんとなーくは分かってきた
一緒に出かけた時には、見かける男性を次々に好みかそうでないか聴いて、楽しみながらアリサの好みを学んでいった
アリサ「でも結局は内面かな?私を理解してもらわないと・・・」
内面についてこそ、ちんぷんかんぷんだった
〇レトロ喫茶
マママスターにパパマスターとのことについて聴いてみた
マママスター「なんか運命を感じたのよね~。何でだろう」
どうやら見た目と内面、それに運命も必要なようだった
時々来る岡田さんにも聴いてみた。私がアリサの相手を探したいという事。でも人の内面が分からない事を
岡田さん「相手の嬉しい事や楽しい事を知っていて、悲しい時には一緒に悲しんでくれる人・・・って分かる?」
分かったような分からないような。でも何かを分かりかけたので、それ以上、人に聴くのは止めてみた
〇住宅街
ある日アリサと二人で歩いていると、遠くの方で猫が車に引かれていた
元猫の私としては、複雑な気分だった
私達とは逆から歩いてくる男性がいた
その男性は、その猫を抱えて道の脇にあった草むらの上にそっと置き、拝んでいた
〇住宅街
みあ「ねぇー何してるんですか」
私はその人が何を考えているのかを知りたくなった
男の人「え、猫が車に引かれていて。亡くなった後まで近くを車が通っていたら、可哀想だと思って」
男の人「拝んでいたのは、僕がやったんじゃないけどごめんねって謝ってたの」
〇キャンディ
私は絶対にこの人だと思い、アリサに大声で叫んだ
みあ「アリサ、この人と付き合いな。この人がいいよ」
何故か一瞬時が止まった
アリサ「バカ、何いきなり大声で~」
アリサ「すみません。この子ちょっと変わってるところがあって。本当にすみません」
その男の人は私達のやりとりに、少しおろおろしていた
みあ「えーだって絶対いい人だよ。昔誰かも言っていたもん、猫好きに悪い人はいないって」
アリサの顔は少し呆れていた
アリサ「あのね、相手の方もいきなり言われてビックリしてるでしょっ。それにお互いまったく知らないんだから」
〇住宅街
みあ「そっかー。恋人探すのも難しいんだね」
みあ「じゃあ、これから3人でご飯食べに行こう」
2人ともびっくりしていた
みあ「だってここで終わったら、私がとっても変な人みたいじゃん。あなたもこれから一緒にいいでしょ」
その人は、全然会話にも入っていなかったのに、食事にまで誘われて、とってもあたふたしていた
〇ファミリーレストランの店内
私達は近くのファミリーレストランに入った。本当は「春近し」が良いのだが、従業員の私同様、お店もお休みだから
ドリンクバーと軽食程度の注文をして、自己紹介から行った
みあ「私はみあ。音楽が大好きなの。2人の事も教えて」
アリサ「えっと私はアリサ。みあの友達。音楽も好きだけど映画の方が好きかな」
ケン「あっえーと。僕はケン。好きな事は散歩かな。音楽も好きですけど・・・」
音楽?
みあ「えっケンさんはどんな音楽が好きなの?」
ケン「えっ、あっはい、僕がよく聴いているのはビョークかな?映画に感動してね」
映画?
アリサ「ダンサー イン ザ ダーク?」
ケン「あっそうです、そうです。でも見ると悲しくなるから複雑な気持ちです」
アリサ「わっかるわ~。しばらく呆然としちゃうよね~あの映画は」
なんとなく気は合いそうだった
〇ファミリーレストランの店内
みあ「ところでケンさんは恋人いるの~?」
ケン「いえ・・・僕は・・・そういう機会がなくて」
ケン「うちの実家あんまりお金が無くて、お金を借りて大学に行ったんだよね」
ケン「通っている時はアルバイトで忙しかったし、働きはじめた今もまだ返済してるから・・・あんまり遊びにも行けなくて」
ケン「でも今頑張っておけば、数年先には幸せな生活が出来るんじゃないかって思っていて」
確かにお金が無ければCDも買えないし、外で美味しいものも食べれない。だけどケンさんは、もっと全然大変だったのだと思った
アリサ「ケンさん、私ね、実は「うつ病」なの。今はスーパーで働いているけど、数ヶ月前までは働くことすら出来なかったの」
ケンさんを元気にするために、アリサはわざと自分の事をケンさんに伝えたのだ
〇ファミリーレストランの店内
ケン「そうなんですか・・・いつも自分ばっかり辛いと思っていました。アリサさん、僕と友達になってくれませんか?」
ケン「なんか、どちらかが重荷になる関係より、どちらかが悩んでも一緒に支え合える友達っていいなぁと思って」
アリサ「えっ私で良かったら・・・全然、お願いしたいです」
ん?
みあ「あれ、ともだち~?」
みあ「♪ アレレ、アレレ、マミ、イァーイァー、オオゥ♪」
アリサ「何その変な歌」
みあ「ネリーの「E.I.」。本当の発音は違うけど、日本語だとこんな感じに聴こえるから」
みあ「♪ アレレ、アレレ、マミ、イァーイァー、オオゥ♪」
アリサ「絶対からかってるよね?ケンさんごめんね」
ケン「大丈夫です。多分」
みあ「そうだ、今度2人で「春近し」に来てよ。食事と音楽をおごるから」
なんだかんだ、その日は結局いい感じで終わった。そして翌日から、2人は連絡を取り合うようになった
〇レトロ喫茶
しばらくして2人から、「春近し」に予約が入った。私はマスター達やアリサとも話をして、閉店後に貸し切りで来てもらう事にした
一緒に食事をしたかった気持ちもあったけど、2人のためだけにオルガンを弾きたかったから
地域で一番美味しい喫茶店。2人はその味をとても楽しんでいた
私もオルガンで色んな曲を弾いた
一時間程経つ頃、パパマスターが厨房から出てきた
パパマスター「なんかおめでたい感じなんだって?みあちゃんのお友達だから特別にお酒をおごるよ」
アリサは薬の関係で飲めなかったが、ケンさんは久しぶりだからと喜んでいた
お酒・・・私はお店のお客様に出す事は何度もあったけど、飲んだ事は一度もなかった
みあ「マスター、私も飲んでみたい」
皆は何かを心配していたようで、私は小さいコップでビールをもらった
〇ポリゴン
ビールを一口、もう一口飲んだ。顔がぽーっとしてきて、なんか変な気分になった
私はもう一口ビールを飲むと、オルガンを弾きはじめた
飲む前に弾いていた、2人のための音楽ではなく、自己満足な気分で
いつもはオルガンだけなのだが、急に歌いたくなったのだ
弾いたのはビリー・ジョエルの「PIANO MAN」
多分かなり大きな声で歌っていたと思う
でも2人は喜んでくれたようで、拍手もくれた。そこまでが私の記憶。その後の事は覚えていなかった
〇女の子の一人部屋
目が覚めた。頭はボーッとし頭は少しズキズキ。お腹も何か変だった
そして頭の中では、今までの事がグルグル回っていた。この数ヶ月間の事について。
立つことも歩く事も出来なかった頃、言葉を覚える事にも苦労をした事など
改めて、昔は猫だった事をはっきりと思い出した。過去を振り返ったからか、お酒の力かは分からない
そうだ、私は一つの曲をもう一回聴きたかったのだ。猫だった私の最後の日の前夜、3人で聴いた曲を
私はそのメロディーを思い出し、キーボードで演奏をして、スマホのアプリに答えを求めた
〇水玉2
その歌はインディゴ・ガールズの「ghost」
私がずっと聴きたかった曲。今の私は昨日のお酒以上に酔っている。
そして自分の流れている涙に気がついた。この歌は恋人との過去の想いを歌っているが、どこか私にも似ている気がしたから