〇海
ミーア「お姉ちゃん、助けて・・・！」
リーナ「ミーア！」
リーナ「ミーア、飛んで！」
ミーア「ダメなの・・・！」
ミーア「きゃあっ！」
リーナ「やめろ！　ミーアに、手を出すなァ！」
宿利ユウ「リーナたちが危ない！ ヴィオ、離して！」
ヴィオ「あ、おい、暴れるな！」

〇水中
　　リーナが押されてる。
　　水の中ではうまく剣を振れないんだ。
宿利ユウ「今のうちにその子を連れて空へ！」
リーナ「・・・ありがとう！ ミーア、しっかり！」
「!?」
宿利ユウ「あれはなんだ!?」
リーナ「まさか・・・！」
宿利ユウ「うわっ！」
宿利ユウ「行って！　ここは、僕が・・・！」
ヴィオ「お前たち、無茶をするな！」

〇海辺
ヴィオ「無事であったか？」
宿利ユウ「・・・」
リーナ「ミーア！ お願い、返事をして！」
リーナ「ミーア！」
「いやああああ！」
騎士「魔王を殺せ！ 人質は使い尽くしてもかまわん！」
「助けて、お母さん！」
　　まるで地獄だ・・・
ヴィオ「我々が気づいたときには、もう手遅れだったのだ」
ヴィオ「戻らなかったフローレスたちの家族は、海に流されたのだろう」
ヴィオ「島に残された人質も、どれほど生き残っているか・・・」
宿利ユウ「どうして、こんな酷いことに・・・」
「!!」
アマデウス「伏せていろ！ 人間たちを、魚竜もろとも一掃する！」

〇黒

〇雷

〇黒

〇海辺
宿利ユウ「ッ──」
　　・・・
　　・・・静かになった。
　　敵がいなくなってる・・・！
宿利ユウ「リーナは!?」
リーナ「・・・少しだけ、２人きりにしてくれる？」
宿利ユウ「・・・」

〇海辺
　　私たちはこの小さな島で、
　　争うことなく暮らしていた。
リーナ「みんな、ただいま。 今日はいい獲物がとれたよ」
ミーア「お姉ちゃん、お帰り！」
ミーア「ねぇ、見て見て！ この腕輪、ミーアが作ったんだよ！」
リーナ「わぁ、きれい！　ひとりで作ったの？」
ミーア「うん！　お姉ちゃんへのプレゼント！」
リーナ「私に？」
ミーア「この腕輪ね、加護の魔法をかけてあるの。付けてると守りの力を高めてくれるんだよ」
ミーア「お姉ちゃんが狩りに行っても、怪我をしないようにって・・・」
リーナ「ミーア──」
リーナ「心配かけてごめんね」
リーナ「ありがとう！」
魚竜「邪魔するぜ」
リーナ「あ、魚竜の兄さん」
魚竜「おう。今日も魚を届けに来たぜ」
リーナ「ありがとう。こっちもいい獲物が取れたわ」
魚竜「助かるぜ」
リーナ「ミーア、怖がらなくても大丈夫よ」
魚竜「そうだぜ、お嬢ちゃん。俺たちは言葉の通じる奴を襲ったりはしねぇ」
ミーア「・・・ほんとう？」
魚竜「ああ。ただし、怪我をしたときには海に近づくんじゃねぇぞ」
魚竜「俺たちは血の臭いを嗅いだら、理性を失っちまうからな。ガハハハ」
ミーア「っ・・・」
リーナ「ミーア、気をつけていれば大丈夫よ」
ミーア「・・・うん」
魚竜「じゃあな」
ミーア「・・・優しいお兄さんだったね」
リーナ「そうよ。人は見かけによらないんだから」
ミーア「ふふ。あのお兄さんには、どんなお守りが似合うかな？」
ミーア「ミーア、大きくなったら魔導具の職人さんになる！」
ミーア「綺麗な魔導具を作って、みんなを守ってあげるの！」
　　あの子の夢が叶うことはなかった──

〇海辺
リーナ「翼を切られていたから飛べなかったのね」
リーナ「ミーア、痛かったでしょう・・・」
　　最初から、人質は殺すつもりだったんだ。
　　そのつもりで、魔族に魔族を狩らせた。
　　僕たちの情報を人間側に流した奴だって、きっと大切な家族を傷つけられて・・・。
宿利ユウ「これが、僕らと同じ人間のやることか!?」
ヴィオ「――人間だから、できるのだ」
宿利ユウ「ヴィオ・・・」
ヴィオ「人間は極端な種族だ」
ヴィオ「仲間に対しては深い慈愛を持ちながら、敵に対してはどこまでも残酷になれるのだから」
　　・・・そうだ。
　　僕たちの世界にも、同じ人間同士で争ってきた歴史がある。
　　それぞれが、大事な家族や友人をもちながら。
宿利ユウ「魔族は、人間ほど残酷じゃないの？」
ヴィオ「我々とて、同じ種族で殺し合うことはある」
ヴィオ「だが、異種族をすべて敵とみなして根絶やしにしようとするのは、人間だけだ」
宿利ユウ「僕たち、だけ・・・」
ヴィオ「そう暗い顔をするな」
ヴィオ「私たちがいち早く駆けつけたことで、助けられた命もある」
ヴィオ「ユウ、あの娘と話をつけた貴様の功績だ」
宿利ユウ「・・・うん」
　　僕にも成せたことはあると思っていいのだろうか。
リーナ「魔王様、ヴィオ様、ユウ」
宿利ユウ「リーナ・・・」
リーナ「見送りの準備ができました」

〇海辺
アマデウス「フローレスはこうして仲間を弔うのか」
リーナ「はい。私たちの命は、遥か昔に海から授かったもの」
リーナ「だから、失った命は海へ還すのです」

〇朝日
リーナ「お父さん、お母さん、ミーア」
リーナ「死者の安らかな眠りを祈って──」

〇朝日
リーナ「さよなら、ミーア」
リーナ「あなたの命が、いつかまた芽吹きますように」
　　潮の流れに乗って、まるであてのない旅に出て行くみたいだ。
宿利ユウ「僕も祈るよ、ミーア」
宿利ユウ「小さな君の魂が、どうか安らかに旅立ちますように」

〇海辺
リーナ「魔王アマデウス様。 私も共に戦わせてください」
リーナ「ミーアを殺した奴らを、絶対に許さない。 これ以上の悲劇を防ぐためにも──」
アマデウス「その申し出を受けよう」
アマデウス「我らは共に手を取り合う必要がある」
アマデウス「人間という、かつてない脅威を食い止めるために・・・」

〇西洋の城

〇貴族の応接間
賢者「勇者様、作戦は成功です！」
賢者「我が軍の犠牲を最小限に抑えながら、多くの魔物を抹殺できました！」
白崎蓮「ハッ。この程度の作戦、よく今まで誰も思いつかなかったな」
賢者「魔物は、仲間への思いやりなど持たぬ蛮族であると言われております」
賢者「まさか、魔物に肉親を思うような情があるとは思わず・・・」
賢者「しかし、平気で人を殺す魔物どもが同族に情を感じているなど、かえって腹立たしい！」
白崎蓮「・・・蛮族か」
白崎蓮「まるで歴史の教科書を振り返っているようだな」
賢者「勇者様、それはいったい・・・？」
白崎蓮「何でもない。 それより、宿利ユウは見つかったのか？」
賢者「いえ。しかし、召喚者が迷いこんだと思われる洞窟に、これが残されていました」
白崎蓮「アイツの本だ」
白崎蓮「踏みつけた足跡がある・・・」
白崎蓮「これは、ますます再会が楽しみになったな」