最低の始まり(脚本)
〇空
時間というのは薄情だと思う
どんなに幸せだった時間に戻りたいと願っても聞いてくれない
その癖全ての者に平等だ
ムカつくくらいに公平を期している
でもそれを俺は当たり前だと思っていた
その薄情さを気にもしていなかった
あの時までは・・・・・・
〇公園のベンチ
志藤 未恵「今日たくさん買い物しちゃったね いいの?こんないい物誕生日でもないのに貰っちゃって」
上原 博明「いいさ。去年はあんまり奮発できなかったからお詫びってわけじゃないけど」
志藤 未恵「そう?それならありがたく頂くわね ありがとう」
上原 博明「いえいえ、どういたしまして」
上原 博明「この辺りももう早くなってきたな 暗くなるの」
志藤 未恵「ね。なんか出てきそう」
上原 博明「なんかってなんだよ 猫とかか?」
志藤 未恵「猫だったら大歓迎 連れて帰りたいけど、怪物とかだったら怖くない?」
上原 博明「怪物?急に子どもみたいなこと言うな」
志藤 未恵「だって最近噂になってるんだよ? 夜な夜な突然出てきては人を攫う不気味な生き物がいるって」
上原 博明「はいはい。じゃあその怪物に襲われないように俺が今日も家の近くまで送っていくよ」
志藤 未恵「信じてないわねその態度・・・送ってくれるのは嬉しいけど」
〇中規模マンション
志藤 未恵「それじゃあまた今度ね 今日は久しぶりに会えて楽しかった」
上原 博明「俺もこうやってちゃんと未恵の顔を見れて嬉しかったよ おやすみ」
志藤 未恵「うん、おやすみ ヒロくんも帰り道気を付けて」
〇ゆるやかな坂道
上原 博明「未恵も変なの信じるんだな」
上原 博明「怪物なんて、そんなのドラマとか漫画の話だろ・・・」
ガサッ、ガサッ
上原 博明「何の音だ?誰か、いるのか?」
上原 博明「な!?なんだお前は!?」
ラーペクト「お前で最後の収穫だ」
上原 博明「何だと?」
上原 博明「うっ!?」
〇研究所の中枢
この二人で終わりだな
うっ・・・声?誰の声なんだ・・・
俺は一体・・・何が起きてるんだ?
二人とも改造手術は上手くいった
君の貢献に感謝するよ。ラーペクト
改造?一体・・・なんの話をしているんだ
おや、どうやら二人とも目が覚めたようだ
ウエハラ「うっ・・・どこだ?ここは・・・? 部屋の中?」
ドルケイド「くぅ、うう・・・ なんなんだ?俺はどうしてこんなところにいるんだぁ?」
ウエハラ「うわあ!?か、怪物!?」
ドルケイド「ああ?誰が怪物だって・・・ っておいおい、おめえその見た目で人を怪物呼ばわりかよ」
ウエハラ「え?・・・なん、なんだよこれ・・・ 体が・・・これ、俺の体なのか?」
ドルケイド「まさか気付いてなかったのか自分の姿に はっはっは!こいつは傑作だなぁ! ・・・ん?」
ドルケイド「なんだこりゃあ、俺もじゃねえか」
ドルケイド「誰だこんな笑えねえことしやがったのは!」
ご気分は如何かな?
ドルケイド「誰だ?」
その体は私からのささやかなプレゼントだ
気に入ってもらえたかな?
ウエハラ「プレゼント?何を言ってるんだ? 貴方は誰なんだ?何が理由でこんなこと──」
理由などどうでもいいだろう
それよりも生まれ変わったその体がどれほど素晴らしいものか試してみたくはないか?
ウエハラ「試す?さっきから何を言ってるんだ?」
今の君たちは普通の人間を遥かに超えた体と力を得た
その素晴らしさがどれほどのものか知りたいだろう
ドルケイド「・・・なあ、それって例えばよう 気に入らない奴らをぶっ潰したりとかできるのか?」
もちろん、そしておそらく君が考えている以上のことも容易くできるさ
もっとも君にその気があればの話だがね
ドルケイド「いちいち人を見下したような口はムカつくが確かにそうだなぁ この体は色々楽しめそうだ」
ウエハラ「な!?」
ではさっそく試してくるといい
ドルケイド「ああ、そうさせてもらうぜ!」
ウエハラ「おい!」
君も行ってくるといい
彼を止めたいのなら急ぐべきだが、あの様子だと何をしでかすかわからんぞ
ウエハラ「うっ、くそ!」
ラーペクト、わかっているな
はっ
〇川に架かる橋の下
ウエハラ「はぁ、はぁ、あいつどこに行ったんだ」
ウエハラ「まだそう遠くには行ってないはず どこにいるんだ!」
〇白いアパート
志藤 未恵「今日も家に帰って来てないなんて・・・」
志藤 未恵「もう一週間も連絡しても返事がないし・・・どこに行っちゃったのよヒロくん」
ドオオン!!
志藤 未恵「きゃ!?何今の音・・・」
〇公園通り
助けてくれえええ!!
ばけもの!怪物よ!
やめてくれ!死にたくない!
死にたくないよお!!
ドルケイド「そうだ怯えろ、怯えて逃げちまいな!」
ドルケイド「こいつはいい!最高だ!」
ドルケイド「勝手に体を弄られたのはムカつくがこうして実際に体感した今となってはこんな暴れられる体をくれた奴には感謝しねえとな!」
志藤 未恵「何あの生き物・・・人なの?」
ドルケイド「ん?」
志藤 未恵「ひっ!」
ドルケイド「おーおー、俺好みの可愛い女だな」
志藤 未恵「やめて・・・来ないで・・・」
ドルケイド「どうした?怖くて動けねえか まぁ、無理のない話だろうが俺にとっちゃあ都合がいい」
ドルケイド「へっへっへ、たっぷり可愛がってやるよ」
ウエハラ「いた!あそこにいるの、未恵!? くっ、あいつまさか!」
ウエハラ「やめろ!」
ドルケイド「うおぁ!?」
志藤 未恵「きゃあ!」
ウエハラ「大丈夫か!?怪我はないか未──」
志藤 未恵「触らないで!」
ウエハラ「みえ・・・?」
志藤 未恵「来ないで・・・」
そうか、今の俺は──
ドルケイド「誰だこの野郎 この俺の顔を横から殴りやがって」
ウエハラ「逃げろ」
志藤 未恵「今、なんて・・・?」
ウエハラ「逃げろ!いけよ早く!」
志藤 未恵「・・・っ!」
ドルケイド「お前さっき一緒にいた奴か」
ドルケイド「いってえじゃねえの 何してくれるんだ」
ウエハラ「どうしてこんなことをする? 同じ訳がわからずにこんな体にさせられたのにどうしてそんな嬉しそうにこんなことができるんだ」
ドルケイド「なんだまだ人間のつもりでいるのか?」
ドルケイド「やめとけ、この体と力を持った以上もう俺たちは人間じゃねえ 元の生活なんてできねえよ」
ウエハラ「わからないだろそんなの」
ドルケイド「それにこれだけ大きな力を持っておきながらそれを使わないなんて勿体なくて馬鹿らしいぜ」
ドルケイド「こんな風になぁ!!」
ドルケイド「見ろよこれを! これが人間のままでできるか?できねぇだろ!?」
ウエハラ「・・・どうしても暴れるつもりなんだな だったら──」
ウエハラ「俺がお前を止めてやる」
ドルケイド「そいつはつまり、戦うってのか? いいぜ?化物同士の戦いなんて刺激的な瞬間ってのも人間じゃ味わえないからな!」
ウエハラ「一緒にするな!」
〇開けた交差点
ウエハラ「うおおおっ!」
ドルケイド「ちぃ、図に乗るなよ!」
ウエハラ「うわぁ!くっ、このくらいで!」
〇川沿いの公園
ドルケイド「ぐわああああ!」
戦えてる?俺が、こんな姿の奴と・・・
手から火も、そうか・・・やっぱり俺はもう人間じゃ
ドルケイド「ば、馬鹿な!俺がこんな奴を相手に手も足も出ないなんて 俺は強い力と体を手に入れたんじゃなかったのか!?」
ウエハラ「これで終わりにする! おりゃああああああ!!」
ドルケイド「うおおおおおおおおお!!!?」
ドルケイド「う・・・ぁ、くっそがぁ・・・」
ウエハラ「勝った?」
ドルケイド「・・・・・・・・・」
ウエハラ「まだ生きてる 警察、には連れてけないよな。せめて人のいないところに運んで後のことはそれから」
ウエハラ「なに!!?」
ウエハラ「お前は・・・そうだ、俺を襲った奴か!」
ラーペクト「敗れた者にもう用はない」
ドルケイド「ぐぎゃあああああああああああ!!!」
ウエハラ「うっ・・・!」
ウエハラ「殺したのか?なんで!!」
ラーペクト「他人を心配している余裕はないぞ お前と似たような者はまだ大勢いる」
ラーペクト「生き残りたかったら強くあり続けることだ」
ウエハラ「待て!今の言葉はどういう意味だ!」
ウエハラ「逃げられたか。くそ!」
〇化学研究室
天上院 行人「早々に脱落者が出たか」
ラーペクト「申し訳ございません」
天上院 行人「いや改造実験は成功した 所詮はそこまでだったというだけの話だ」
天上院 行人「数はもう充分に揃っている 後は待つだけだ」
天上院 行人「私の求める最強の一体が現れるのを」
〇白いアパート
志藤 未恵「・・・・・・」
上原 博明「未恵・・・」
〇川沿いの公園
ラーペクト「お前と似たような者はまだ大勢いる 生き残りたかったら強くあり続けることだ」
〇白いアパート
あの時のあの言葉・・・俺やあいつの他にも同じように体を変えられた人がいるのは間違いない
もしその人たちも誰かを傷つけ悲しませようとするのなら
上原 博明「戦ってやる そして俺たちをこんな体にした奴らを徹底的に叩き潰す」
上原 博明「俺のこの体と命に賭けても必ず・・・!」
〇空
必ずだ!!
手間暇かけて怪人に改造するなら、元々心身が頑強な人間を選べばいいのに博明のような普通の男性を無作為に選んで改造したのには何か訳があるんでしょうか。最強の怪人を一人残すためにそれ以外を抹殺するというのも効率悪いような・・。組織の目的が早く知りたくなりました。
人の都合に勝手に付き合わされて…人ではないか…。
なんとも可愛そうなウエハラ。
なんとかここから逆転の道が出てきてほしいものです。
実際の上原君のような災難にあったら気が狂ってしまいそうなところですが、人間の心を持った怪人であれば鬼に金棒ですね。彼の精神力の高さにあこがれます。