音色を探して

72

親と子(脚本)

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〇児童養護施設
  アリサは杉の森学園で、ミモザさんと一緒にお掃除の仕事をする事になった
  本当はお給料が良いところで働きたいのだが、アリサは体調に波があり、週5日安定して働けるだけの体力がなかった
  これまでは自分を騙しながら働いていたのだが、自分の病気と向き合うこと、働くための練習から始める事を選んだのだ

〇一軒家
  帰ってくる時間もミモザさんと一緒。食事の時間も一緒になったので、ミモザさんへの演奏も、一緒に聴くようになった
  休日も私とアリサは一緒に過ごすことが多かった。
  時々ミモザさんが寂しそうにしていると、声をかけて仲間に入れていた
  アリサからスマホの使い方を教わって、声を文字にするアプリを入れたので、雪乃さんとの会話も楽しめるようになった
  雪乃さんはパソコンを使った事務のお仕事をしている。休日は同じ聴覚障がいの仲間と遊びに行ってる事が多い
  私とアリサとミモザさんは、雪乃さんからお話を聴いて、今流行っていることなどを教えてもらっている
  デコボコなようでバランスがとれている、不思議な関係だった

〇商店街
  「春近し」から初めての給料が出た。その週末、早速アリサと中古CD屋さんに行った
  初めての中古CD屋。たくさんのCD。私はかなりの時間を費やした
  アリサには迷惑をかけたと思ったが、アリサはDVDのコーナーで楽しんでいたのだとか
  アリサには変わった楽しみがあった
  ホラー映画が苦手で見ることが出来ないのに、DVDの裏に書かれているストーリーを見るのが好きなんだとか
アリサ「怖い思いを、少しだけ感じるくらいが調度いいんだよね」
  なので、もちろんそういう本も読めない。クールなようで、アリサは可愛いのだ
  ちなみに数日後、私は岡田さんに叱られた。理由は中古CDに一万円近く使ったから

〇女の子の一人部屋
  私は購入したCDをとっても気に入っていた。クイーンのベスト、小野リサ,ジャニス・イアンなど、12枚も一気に買ったのだ
  中でもT・レックスは良かった。だるい感じが、仕事日のお風呂上がりに調度良かった
  ただ割と皆好き嫌いが別れるようで、アリサは気に入ってくれたが、ミモザさんにはこの良さが伝わらなかった

〇レトロ喫茶
  働くとお金が貰えてCDが買える。この事を覚えてからは、仕事へのやりがいもかなり上がった
  ただし、お金が入るとCDに消えやすい
  ので、金銭管理のお手伝いも「社協」と呼ばれるところに入ってもらう事になった
  本来、給料は銀行振込なのだが、身元が不明な私。通帳が作れないため、封筒で直接支払われていたのだ
  3回目の給料が支払われると、私に生活保護というお金が入らなくなった。「春近し」の給料で生活出来るようになったからだ
  同じ頃、アリサはスーパーに就職した。アリサの夢は結婚をする事。結婚しても、子供が産まれても、働きやすいと考えたのだとか

〇レトロ喫茶
  「春近し」には、月に1回平日にお休みがある。
  それまでは私もお休みをしていたが、働き始めて4回目のお休みの日に、お店に出るように言われた
  そしてマママスターに、何曲かオルガンで弾けるよう練習してきて欲しいと言われ、CDを渡された

〇女の子の一人部屋
  カモミールに戻ると、そのCDを聴いてキーボードで練習をした
  少し疑問だったのが、パパマスターやマママスターが選ばないような曲もあったこと
  それでも仕事なので、綺麗に弾けるようにしっかり練習をした

〇レトロ喫茶
  その平日のお休みの日。私はお昼より少しも前に来るよう言われていた
  私が到着すると、パパマスターは料理の準備をしていた。マママスターは居なかった
  しばらくすると、マママスターが車で戻ってきた。誰かと一緒に

〇レトロ喫茶
マママスター「みあさん、紹介するわね。うちの娘の春子。杉の森学園から連れてきたの。月に1回、家族でお昼ご飯を食べる事にしているの」
みあ「こんにちは春子さん。私も杉の森学園にいたの。覚えてますか?」
春子「しってる~。音楽の人~」
  春子さんはあまりお話が得意ではないようだったが、表情から楽しそうな感じが読み取れた
  春子さんを見て、パパマスターの料理が急に進んだ
  前日から準備をしていた事もあり、テーブルにはすぐに料理が並んだ
  ハンバーグにパスタ、コーンスープなど、どれも美味しそうだった

〇レトロ喫茶
  皆で一緒にお昼ご飯を食べ始めた
  春子さんはパパマスターの作った料理を美味しそうに食べていた。杉の森学園の料理よりも断然美味しいので、当然だったけど
  春子さんを見ているパパマスターもマママスターもいつも以上にニコニコしていた
  料理がなくなってくると、マママスターがケーキを運んできた。ケーキはマママスターが作ったもの
  マママスターのケーキは初めて食べた。見た目も綺麗で味もとっても美味しかった
  今日は全然仕事をしていないなぁ。そう思った頃、マママスターからオルガンの演奏を頼まれた
  マママスターは部屋の奥からアコースティックギターを持ってきた
マママスター「今日は一緒に演奏させて。私はみあさんより下手だから、迷惑かけちゃうかもしれないけど」

〇花模様
  誰かと一緒に弾くのは初めてだったので、最初はとっても緊張した
  お互いが合わせるのに、ちょっとだけ時間もかかったが、慣れてくるととても楽しく感じた
  この日のために練習した曲。練習の時には私の好みとは違うと思ったりもしたが、2人で演奏するのはとっても面白かった
  春子さんもとっても楽しそうだった
  「春近し」にいる親子3人が、とても自然に見えていた

〇レトロ喫茶
  夕方になる少し前、春子さんが杉の森学園に戻るため、パパマスターが車で送っていった
  私とマママスターは、残って一緒に片付けや洗い物を行った
マママスター「あのオルガン、昔はね、私の母、あの子のお婆ちゃんが弾いていたの。それでね、私のギターと一緒に演奏もしたりしてね」
マママスター「春子もそれが大好きだったんだけど、数年前にお婆ちゃんが亡くなってね。それからみあさんが来るまでは、誰も弾かなかったの」
マママスター「今日は久しぶりに楽しかったぁ。ありがとう」
  マママスターは微笑んでいたけど、どこか悲しそうだった
マママスター「あの子も本当は、私達と一緒に暮らしたいと思ってるんだけど」
マママスター「でも、あの子が30歳になった時に、杉の森学園に入所させてもらう事にしたの」
マママスター「私とお父さんも年を重ねていくと、健康ではいられなくなるでしょ」
マママスター「あの子も年をとってから急に施設に入るより、少し若い年齢から入って、生活に慣れていった方が良いと思ってね」
  マママスターは、春子さんの事や昔の事を話してくれた

〇リンドウ
  春子さんは生まれた時から、知的に障がいがあった。
  パパマスターとマママスターはその事を悲しんだが、春子さんの笑顔を見て、自分達も癒されている事に気がついた。
  やがて春子さんに弟が生まれた。その子に障がいはなかったが、小学生に入ると、春子さんの事でイジメを受けるようになった
  当時お店では、マママスターの作るケーキも出していたが、家庭になるべく居ようと考え、お店に出ることをやめた
  お店はパパマスターとアルバイトさんとで行うようになった
  家庭で子供のために働くマママスターに対して、パパマスターは、美味しい料理を作る事に力を入れた
  「春近し」が地域で一番美味しい喫茶店になれば、子供達をイジメる人はいなくなると考えたのだ

〇レトロ喫茶
  そして「春近し」は地域で大評判の店となり、子供達へのイジメもなくなったのだ
  その頃からまた、マママスターはまた働き始めたが、ケーキ作りはやめてしまった。また元に戻るようで怖かったのだと
  その代わり、時々手伝いに来るお婆ちゃんと一緒に、演奏をするようになったのだ
  ちょっとハイカラなお婆ちゃん。2人はキャロル・キングの「NOW AND FOREVER」を、好んで演奏していたらしい

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