親と子(脚本)
〇児童養護施設
アリサは杉の森学園で、ミモザさんと一緒にお掃除の仕事をする事になった
本当はお給料が良いところで働きたいのだが、アリサは体調に波があり、週5日安定して働けるだけの体力がなかった
これまでは自分を騙しながら働いていたのだが、自分の病気と向き合うこと、働くための練習から始める事を選んだのだ
〇一軒家
帰ってくる時間もミモザさんと一緒。食事の時間も一緒になったので、ミモザさんへの演奏も、一緒に聴くようになった
休日も私とアリサは一緒に過ごすことが多かった。
時々ミモザさんが寂しそうにしていると、声をかけて仲間に入れていた
アリサからスマホの使い方を教わって、声を文字にするアプリを入れたので、雪乃さんとの会話も楽しめるようになった
雪乃さんはパソコンを使った事務のお仕事をしている。休日は同じ聴覚障がいの仲間と遊びに行ってる事が多い
私とアリサとミモザさんは、雪乃さんからお話を聴いて、今流行っていることなどを教えてもらっている
デコボコなようでバランスがとれている、不思議な関係だった
〇商店街
「春近し」から初めての給料が出た。その週末、早速アリサと中古CD屋さんに行った
初めての中古CD屋。たくさんのCD。私はかなりの時間を費やした
アリサには迷惑をかけたと思ったが、アリサはDVDのコーナーで楽しんでいたのだとか
アリサには変わった楽しみがあった
ホラー映画が苦手で見ることが出来ないのに、DVDの裏に書かれているストーリーを見るのが好きなんだとか
アリサ「怖い思いを、少しだけ感じるくらいが調度いいんだよね」
なので、もちろんそういう本も読めない。クールなようで、アリサは可愛いのだ
ちなみに数日後、私は岡田さんに叱られた。理由は中古CDに一万円近く使ったから
〇女の子の一人部屋
私は購入したCDをとっても気に入っていた。クイーンのベスト、小野リサ,ジャニス・イアンなど、12枚も一気に買ったのだ
中でもT・レックスは良かった。だるい感じが、仕事日のお風呂上がりに調度良かった
ただ割と皆好き嫌いが別れるようで、アリサは気に入ってくれたが、ミモザさんにはこの良さが伝わらなかった
〇レトロ喫茶
働くとお金が貰えてCDが買える。この事を覚えてからは、仕事へのやりがいもかなり上がった
ただし、お金が入るとCDに消えやすい
ので、金銭管理のお手伝いも「社協」と呼ばれるところに入ってもらう事になった
本来、給料は銀行振込なのだが、身元が不明な私。通帳が作れないため、封筒で直接支払われていたのだ
3回目の給料が支払われると、私に生活保護というお金が入らなくなった。「春近し」の給料で生活出来るようになったからだ
同じ頃、アリサはスーパーに就職した。アリサの夢は結婚をする事。結婚しても、子供が産まれても、働きやすいと考えたのだとか
〇レトロ喫茶
「春近し」には、月に1回平日にお休みがある。
それまでは私もお休みをしていたが、働き始めて4回目のお休みの日に、お店に出るように言われた
そしてマママスターに、何曲かオルガンで弾けるよう練習してきて欲しいと言われ、CDを渡された
〇女の子の一人部屋
カモミールに戻ると、そのCDを聴いてキーボードで練習をした
少し疑問だったのが、パパマスターやマママスターが選ばないような曲もあったこと
それでも仕事なので、綺麗に弾けるようにしっかり練習をした
〇レトロ喫茶
その平日のお休みの日。私はお昼より少しも前に来るよう言われていた
私が到着すると、パパマスターは料理の準備をしていた。マママスターは居なかった
しばらくすると、マママスターが車で戻ってきた。誰かと一緒に
〇レトロ喫茶
マママスター「みあさん、紹介するわね。うちの娘の春子。杉の森学園から連れてきたの。月に1回、家族でお昼ご飯を食べる事にしているの」
みあ「こんにちは春子さん。私も杉の森学園にいたの。覚えてますか?」
春子「しってる~。音楽の人~」
春子さんはあまりお話が得意ではないようだったが、表情から楽しそうな感じが読み取れた
春子さんを見て、パパマスターの料理が急に進んだ
前日から準備をしていた事もあり、テーブルにはすぐに料理が並んだ
ハンバーグにパスタ、コーンスープなど、どれも美味しそうだった
〇レトロ喫茶
皆で一緒にお昼ご飯を食べ始めた
春子さんはパパマスターの作った料理を美味しそうに食べていた。杉の森学園の料理よりも断然美味しいので、当然だったけど
春子さんを見ているパパマスターもマママスターもいつも以上にニコニコしていた
料理がなくなってくると、マママスターがケーキを運んできた。ケーキはマママスターが作ったもの
マママスターのケーキは初めて食べた。見た目も綺麗で味もとっても美味しかった
今日は全然仕事をしていないなぁ。そう思った頃、マママスターからオルガンの演奏を頼まれた
マママスターは部屋の奥からアコースティックギターを持ってきた
マママスター「今日は一緒に演奏させて。私はみあさんより下手だから、迷惑かけちゃうかもしれないけど」
〇花模様
誰かと一緒に弾くのは初めてだったので、最初はとっても緊張した
お互いが合わせるのに、ちょっとだけ時間もかかったが、慣れてくるととても楽しく感じた
この日のために練習した曲。練習の時には私の好みとは違うと思ったりもしたが、2人で演奏するのはとっても面白かった
春子さんもとっても楽しそうだった
「春近し」にいる親子3人が、とても自然に見えていた
〇レトロ喫茶
夕方になる少し前、春子さんが杉の森学園に戻るため、パパマスターが車で送っていった
私とマママスターは、残って一緒に片付けや洗い物を行った
マママスター「あのオルガン、昔はね、私の母、あの子のお婆ちゃんが弾いていたの。それでね、私のギターと一緒に演奏もしたりしてね」
マママスター「春子もそれが大好きだったんだけど、数年前にお婆ちゃんが亡くなってね。それからみあさんが来るまでは、誰も弾かなかったの」
マママスター「今日は久しぶりに楽しかったぁ。ありがとう」
マママスターは微笑んでいたけど、どこか悲しそうだった
マママスター「あの子も本当は、私達と一緒に暮らしたいと思ってるんだけど」
マママスター「でも、あの子が30歳になった時に、杉の森学園に入所させてもらう事にしたの」
マママスター「私とお父さんも年を重ねていくと、健康ではいられなくなるでしょ」
マママスター「あの子も年をとってから急に施設に入るより、少し若い年齢から入って、生活に慣れていった方が良いと思ってね」
マママスターは、春子さんの事や昔の事を話してくれた
〇リンドウ
春子さんは生まれた時から、知的に障がいがあった。
パパマスターとマママスターはその事を悲しんだが、春子さんの笑顔を見て、自分達も癒されている事に気がついた。
やがて春子さんに弟が生まれた。その子に障がいはなかったが、小学生に入ると、春子さんの事でイジメを受けるようになった
当時お店では、マママスターの作るケーキも出していたが、家庭になるべく居ようと考え、お店に出ることをやめた
お店はパパマスターとアルバイトさんとで行うようになった
家庭で子供のために働くマママスターに対して、パパマスターは、美味しい料理を作る事に力を入れた
「春近し」が地域で一番美味しい喫茶店になれば、子供達をイジメる人はいなくなると考えたのだ
〇レトロ喫茶
そして「春近し」は地域で大評判の店となり、子供達へのイジメもなくなったのだ
その頃からまた、マママスターはまた働き始めたが、ケーキ作りはやめてしまった。また元に戻るようで怖かったのだと
その代わり、時々手伝いに来るお婆ちゃんと一緒に、演奏をするようになったのだ
ちょっとハイカラなお婆ちゃん。2人はキャロル・キングの「NOW AND FOREVER」を、好んで演奏していたらしい