彼女が生贄に選ばれた日(脚本)
〇可愛らしいホテルの一室
タケル(ここは・・・さっきまでいた部屋か?)
目を開けると、見覚えのある部屋に俺はいた。
ユーヤ「タケル! 無事だったんだね、良かったぁ〜」
ユーヤが涙ぐみながら俺に抱きつく。
タケル「わわっ、ちょっ、ユーヤ! くすぐったい・・・」
照れながらユーヤを押し退けることもできず腕を回す。柔らかい感覚と、花のいい匂いに思わずドキッとした。
ユーヤ「ごめん、傷まだ痛む?」
タケル「まあ、ちょっとな・・・」
ユーヤ「もう一度、魔法かけてあげるね」
ユーヤ「かのものを癒やしたまえ・・・アマタイ」
ユーヤが魔法を唱えると、痛みがすっと引いていく。
タケル「ありがとう。・・・俺はどうしてここに?」
俺は広場で倒れていたはず。それに助けた男の子も無事か気がかりだった。
ユーヤ「村の人が運んでくれたんだ。男の子、無事だったって、お父さん喜んでたよ〜」
タケル「それはよかった・・・!」
タケル(ああ、俺の力で助けられたんだな・・・!)
ユーヤ「・・・タケルったら、1人で戦うなんて無理しちゃって。私を待ってくれたら良かったのに」
タケル「いてもたってもいられなくてな。俺らスルト倒すんだろ?」
タケル「あんな奴ら俺だけで倒せないとって思ったんだ〜」
ユーヤ「タケルはすぐ無理しちゃって。ダメだよ?」
タケル「今後は気をつける!」
タケル「・・・・・・」
ユーヤ「・・・・・・」
タケル「なあ、ユーヤ」
ユーヤ「な、何?」
タケル「・・・俺に黙ってること、あるんじゃねぇの?」
タケル「昨日の様子、やっぱ変だよ・・・」
ユーヤ「それは・・・」
タケル「正直に話して欲しい。お前が言われてた巫女ってなんなんだ?」
タケル「あと・・・スルトを封印するのは、倒すのと違うのか?」
ユーヤ「・・・・・・」
タケル「・・・・・・」
再び2人の間に沈黙が流れる。そして意を決したユーヤが口を開く。
ユーヤ「・・・実は私スルトを封印できるの」
ユーヤ「──ただし、自分の命と引き換えに、なんだけど・・・」
タケル「・・・! うそ、だろ・・・」
タケル「何でユーヤがそんなことを!」
ユーヤ「うん、その話、ずっと言わなきゃって思ってたの。少し長くなるけれど、大丈夫?」
タケル「ああ、もちろんだ。話してくれ」
ユーヤ「じゃあ私が生まれたところから話していくね」
タケル「・・・ああ」
それはとても悲しい、彼女の過去だった。
〇児童養護施設
私は生まれて直ぐに、腕輪と一緒に村に捨てられていたんだ。
だからお母さんもお父さんもいなくて。ずっとひとりぼっちだったの。
村長「なんだこの赤子は」
村人男性「昨日玄関前に捨てられているのを見つけまして・・・」
村長「・・・我々に、養う余裕はないのだが」
いやいや預かってくれることになったけど、村では誰も私に構ってくれなかったの。
〇児童養護施設
私ね、よその村の人間だったから、周りの人たちには冷たくされたんだ。
ユーヤ「ねえ! いっしょに遊ぼうよ?」
村人少女「えっと・・・ママがダメって言ってた」
ユーヤ「え・・・何で?」
村人少女「よその子だからダメなの、ごめんねっ」
ユーヤ「・・・遊びたいだけなのに」
大人にも、得体がしれないから関わらないって言われていたんだ。
村の人たちは、食事と寝る場所はくれたけれど、それだけしかしてくれなかった。
ユーヤ「ママ、パパ・・・私にはいないんだ」
ユーヤ「何でだろう・・・?」
暗い顔をしていると・・・
イェンティ「ブルルルルル・・・」
ユーヤ「イェンティ! こら~ 勝手に外に出ちゃダメじゃない」
イェンティ「ヒヒンッ!」
ユーヤ「ふふっ、イェンティは不真面目さんなんだから~」
子ども時代のころは嫌なことばっかりだったけど、イェンティが側にいてくれて頼りになったなあ。
〇武術の訓練場
・・・実はね、しらんぷりされるだけじゃなくて、意地悪されることもあったの。
村人少年「やーい、お前『ごくつぶし』なんだって?」
村人少年「役にたたねえのに、飯だけくってるもんな!」
ユーヤ「そ、そんなこと・・・」
無い、とは言いきれない。だって私が村の人に、何かしてあげれたこと無かったから。
村人少年「お前なんかあっちいけっ!」
男の子は私に向かって石を投げる。
ユーヤ「きゃっ!?」
ぶつかって怪我しちゃうかな――そう思ったとき。
ユーヤ「腕輪が光って──!」
村人少年「あだっ、何で石が・・・」
私に投げつけた石が跳ね返り、男の子は怪我をする。
ユーヤ「だ、大丈夫!?」
村人少年「わぁぁああん! 親父に言いつけてやる!」
ユーヤ「・・・何だったんだろう」
ユーヤ(腕輪が護ってくれたのかな?)
〇可愛らしいホテルの一室
タケル「不思議な腕輪なんだな」
ユーヤ「うん、私をいつも護ってくれてたの」
ユーヤ「お話し・・・続けるね」
〇児童養護施設
腕輪のおかげで嫌がらせも無くなってきたとき、私は村長に声をかけられたんだ。
村長「おい・・・お主」
ユーヤ「私、ですか?」
ユーヤ(村長から話しかけられるなんて!)
私はそのとき驚いたな。ずっと、大人に無視されてたから。
ユーヤ「何でしょう?」
村長「スルトを封印する巫女を探しておる。お主にその役を頼みたい」
ユーヤ「スルト・・・あの、炎の怪物ですか?」
村長「左様じゃ。お主にしか任せられん大役じゃ」
村長「封印できたら、おぬしを正式な村の一員として歓迎しよう」
ユーヤ(歓迎? これからはみんなに優しくしてもらえるのかな・・・?)
ユーヤ「分かりました! 私、頑張ります!」
この日から、私は魔法の勉強をすることにしたんだ。
〇武術の訓練場
ユーヤ「燃やし尽くせ・・・ニーナッ!」
あれから私は毎日魔法を練習したの。そうしたらね――。
村人男性「ああ、ユーヤちゃん! 今日も練習? えらいね~」
ユーヤ「えへへ、ありがとうございます!」
私のことを、ずっといないふりしてた村の人たちが、少しずつ話してきてくれたの。
村人男性「練習もほどほどにね? 大事な体なんだから」
ユーヤ「ありがとう、おじさん」
すっごく嬉しかったの。あのときまでは。
〇児童養護施設
ユーヤ「ふんふふーん♪」
その日も練習をして、家に帰ってきたとき。村長と村の人が話をしていたの。
ユーヤ(何話してるのかなあ? こっそり聞いてみよう)
そう思って、物陰で話を聞いているとね。
村人男性「いやぁ~、生贄が見つかって良かったですね」
村人女性「そうね、ユーヤは誰の子でもないし・・・ちょうど良かったわ」
ユーヤ(生贄? 何のことだろう?)
村長「ほっほっほっ、赤子を押しつけられたときは、そのまま捨て置こうとおもったのじゃが・・・」
村長「こうして役に立つこともあるのじゃな」
村人女性「村長も人が悪いわ。封印したら命を落とすって、教えないのだから」
村長「ほっほっほ。さあて、何の話かな?」
村人男性「おかげさまで、あの子がいれば我が村の犠牲も少なくなりそうですよ」
村人女性「娘が選ばれなくて安心したわ」
ユーヤ「そんな・・・私死んじゃうの?」
ユーヤ「やっぱり、いらない子だったのかな・・・」
〇可愛らしいホテルの一室
ユーヤ「そこで自分が騙されたのにようやく気づいたんだ・・・馬鹿だったなあ」
ユーヤは悲しい表情で自虐する。
タケル「何で、お前がそんな目に・・・スルトなんて、倒さなくても・・・」
ユーヤ「うん。逃げようって思ったこと、実はあったの。でも──」
ユーヤ「昨日のスルトを見て、このままにしたらたくさんの人が犠牲になるなって」
ユーヤ「私1人の犠牲で済むのなら、それが1番いい方法だって分かったの」
ユーヤ「だから私――スルトを封印する」
タケル「えっ・・・! そんなことしたらユーヤが!」
ユーヤ「・・・命なんて惜しくない」
タケル「俺だって戦う! 魔法だって使えるようになったんだぞ! だから──」
ユーヤ「・・・やっぱり、魔法使えるの思い出してたんだね」
タケル「あっ・・・」
ユーヤ「それ以上使っちゃダメだよ? 体がバラバラになっちゃうから・・・」
タケル「別に俺だってそれぐらい・・・」
ユーヤ「ありがとう、でも気持ちだけで大丈夫」
ユーヤ「スルトを封印するのは私の役目。タケルは気にしなくていいの」
タケル「嫌だッ! 協力したらきっと──」
ユーヤ「・・・かないっこないよ、あんなモンスター」
タケル「っ――!」
そんなことはない、そう言いたいのに言葉が続けられない。
タケル(えっ・・・体が――動かないっ!?)
俺は近くにあったベッドに倒れ込んでしまう。
ユーヤ「タケル、今までありがとう! すごく楽しかったよ!」
ユーヤ「今までのお礼に・・・この腕輪、あげるね。きっとタケルも助けてくれるから──」
タケル「ユーヤ! 待って――!」
ユーヤ「・・・さようなら」
タケル「うっ・・・」
俺は焦る心とは裏腹に、深い眠りについてしまった。
ユーヤから、ついに物語の核心部分が語られてしまいましたね。あまりにも悲しい過去が心に響いてしまいました。そして、悲しい決意を……