エピソード1(脚本)
〇洞窟の深部
私はマリーシア・・
この世界では勇者と呼ばれていた・・・
しかし、それは全く違う・・・
寧ろこの世界を破滅へと導き滅ぼそうと考えている・・・
そんな危うい考えは私しか知らない・・・
今日も世界を救うという名目で魔王討伐の冒険が始まる・・・
アナスター「ちょっと!待ってよ~置いていかないで・・・」
マリーシア「何をモタモタしているの!?」
アナスター「エルザがまだ来てないのよ!!待ってあげて!!」
エルザ「まって~!!」
マリーシア「まったく!!ダンジョン攻略だというのに気合が足らないわね・・・」
勇者のパーティーメンバーはこの3人だ・・・3人とも女性ではあるがバランスの取れた良いメンバーだった・・・
エルザ「ごめんなさい・・・洞窟の中でこんな物を見つけたの・・・」
マリーシア「何を見つけたの!?」
Gだった・・・
エルザ「じ、冗談よ・・・」
マリーシア「冗談じゃ済まさないわよ・・・」
エルザ「こ、これよ・・・これを見つけたの・・・」
それは私たちの世界では見かけないものだった・・・どのように使うのかも検討が付かない・・・
マリーシア「何なの・・・これは・・・」
アナスター「何か光ってるわね・・・」
エルザ「この光に導かれるように気が付いたの!!」
マリーシア「むやみに触らない方が良いわ・・・ダンジョンを出たら鑑定して貰いましょう・・・」
エルザ「じゃあ、私が預かりますね・・・」
アナスター「わかったわ!!」
〇洞窟の深部
モンスター1「キシャ~!!」
エルザ「ホーリーライト!!」
モンスター1「ギャー!!」
アナスター「旋風剣!!」
モンスター1「ギャギャー!!」
マリーシア「オメガクラッシュ~!!」
マリーシア「片付いたわね・・・」
アナスター「大したこと無かったわね・・・」
エルザ「余裕の勝利じゃ~」
マリーシア「待って・・・宝箱よ・・・」
アナスター「怪しいわね・・・」
エルザ「開けてみましょうよ・・・」
マリーシア「ま、待ちな・・・さい・・・」
エルザ「何だろぉ~これ・・・」
マリーシア「むやみに開けて・・・トラップだったらどうするの!?」
アナスター「このダンジョンさっきからおかしなモノばかり見つかるが・・・変じゃないか・・・?」
マリーシア「それも後で鑑定して貰いましょう・・・」
〇岩穴の出口
洞窟の最深部のはずが何故か光が差していた・・・
マリーシア「ここ・・・ダンジョンの奥深くよね・・・」
アナスター「やっぱりおかしいわよ・・・このダンジョン・・・」
エルザ「わははは・・・光だぁ~」
マリーシア「ちょっと!! 待ちな・・・さい・・・!!」
「あ~れ~!!」
アナスター「エルザ!?・・・エルザ!?」
マリーシア「気を付けて行くわよ!!」
アナスター「了解!!」
〇新橋駅前
私は会社員A・・・いつものようにオフィスに向かっていると奇抜な格好をした不思議な少女と出会った・・・
少女は何処かきょとんとした面持ちで通勤途中の大勢の中をひとり立ちすくんでいた・・・
大勢の人々はその奇抜な格好を横目で見ながら腫物の様に避けていく・・・
通勤のラッシュ時なのにその少女の周りだけぽっかりと広場ができていた・・・
エルザ「ここはどこ・・・? わたしはだぁれ?」
少女の事があまりにも気になり私は声を掛けてみることにした・・・
会社員A「きみのその変な恰好は・・・?」
少女はゲームに出てくる神官みたいな恰好をしていた・・・コスプレだろうか・・・?
しかし、通勤時のオフィス街の駅前でその恰好を披露してるのはかなり痛い子だ・・・
エルザ「誰だよ!お前は!!」
会社員A「どうして・・・神官みたいな恰好を・・・?」
エルザ「うぜぇんだよ・・・きめぇよ・・・」
会社員A「(きめぇって・・・神官じゃないの・・・?)」
エルザ「おっさん・・・ここはどこなのよ・・・?」
会社員A「オフィス街の駅前です・・・」
エルザ「おふぃすがい・・・?」
やはり少女はオフィス街の単語もわからない痛い子だった・・・私は無かった事にしてオフィスに向かうことにした・・・
エルザ「待てよ!おっさん・・・置いていくんじゃないわよ!!」
エルザ「事情を説明しやがれぇ!!」
事情を聴きたいのは寧ろ私の方だった・・・しかし少女の発言は堂々としている・・・
頭が少し弱い子なのだろうか・・・?
私は何も聞こえないふりをしてオフィスに向かう・・・
少女は困った事に私の後をいつまでも付いてくる・・・このままではその恰好の女の子とオフィスに御出勤だ・・・
エルザ「おっさん・・・事情をちゃんと説明しろ!!」
会社員A「あのね・・・事情を聴きたいのは寧ろ私の方なんだけど・・・」
エルザ「私の何の事情だよ・・・おっさんウケるぅ~」
私の発言に女の子はケタケタ笑っていた・・・私は女の子が哀れに思えてきた・・・
エルザ「私は勇者パーティーの一員だよ・・・この姿を見たらわかるでしょ?ハハハハハ・・・」
頭が痛くなってきた・・・うかつに声など掛けなければ良かった・・・・・・
女の子を警察に連れて行っても面倒な事になりそうなので出来ればひっそりフェードアウトをしたかった・・・
会社員A「あの~私トイレに行きたいのですが・・・」
エルザ「駄目だよ・・・逃げるつもりだろ・・・」
頭が弱いのに感だけは優れていた・・・
エルザ「どうしても行きたいなら私も付いていくぞ!ハハハハハ・・・」
駄目だ・・・こうなったらトイレの個室の窓から逃げるしかない・・・
〇公衆トイレ
女の子は言った通りトイレの中まで付いてきた・・・他の利用者は彼女の姿を見てギョッとしていた・・・
私まで白い目で見られている・・・しかもこのトイレの個室には窓は無かった・・・
エルザ「おっさん・・・早く済ませろ・・・」
私は個室に入っていったん落ちとこうとした・・・
「なっ!!」
驚いたことに女の子は個室にまで一緒に入ろうとした・・・これでは変質者だと思われてしまう・・・
会社員A「ま、待って下さい!! トイレに行きたいと言うのは嘘です!!」
エルザ「やっぱり嘘かよ~」
私は観念した・・・
今日はこの子を会社に連れて行こう・・・
〇おしゃれな受付
会社員A「おはよう・・・」
会社に着くと変な恰好をした女の子を連れた私は腫物の様な扱いを受けていた・・・
遠巻きにひそひそと噂されるが直接は聞いてこない・・・
しかし私に引っ付いて来て、この子は何をしたいんだろう・・・?
会社員A「君・・・私の会社までついて来て何をしたいんだい・・・?」
エルザ「かいしゃ・・・?なんだ・・・それ?」
エルザ「私はもと居た場所に戻りたいだけだわ・・・」
この子は自分が何処から来たのかもわからない迷子なのか?そんな設定で役を演じてるだけなのか?
後者であれば全く迷惑な話だった・・・
〇オフィスのフロア
「きゃー-----------っ!!」
社員A「ちきしょー!! 俺を首にしやがって!!」
あれは3日前に会社を首になった元社員だった・・・会社を首になった腹いせに来たのだろうか?
刃物を持っているし警察に連絡して対応してもらう以外無かった・・・気になるのは事務員の女子が人質になっていた・・・
エルザ「おっ!なんだぁ~」
女の子は興味津々で野次馬の一員に混ざった・・・この緊急時に呑気なものである・・・
エルザ「困っているなら助けてあげるけど・・・?」
女の子は呆然とする私の顔を覗き込んで言った・・・しかし今は付き合いきれる状況ではない・・・
私は適当に返事をした・・・
会社員A「ああ・・・」
エルザ「よっしゃ~!!」
エルザ「ホーリーライト!!」
社員A「うわぁ!!」
目の前の出来事に皆が唖然とした・・・あれは魔法なのか・・・?
会社がざわつき始めていた・・・私は急いで会社の外に女の子を連れだした・・・
〇オフィスビル前の道
会社員A「本当に神官だったんですか・・・?」
エルザ「アハハハハ・・・勇者パーティーの一員て言ったじゃん・・・」
会社員A「しかし、どうしてこの世界に?」
エルザ「そりゃ私が知りたいわさぁ・・・」
女の子の力が世間に知れると大変な事になる・・・しかし元の世界に帰る方法など私には見当もつかない・・・
彼女から話を聞き出し手掛かりがないか探ってみることにした・・・
会社員A「ここに来る直前はどんな所に居ました?」
エルザ「洞窟だよ・・・妙な洞窟・・・」
会社員A「ど、洞窟ですか・・・何か変わったものに触れたりとかありませんでしたか?」
エルザ「あっ!!そういえばこれに触った!!」
彼女が出したのは如何にも怪しげなものだった・・・何かのカメラだろうか・・・?
その奇妙な物体が怪しく光り始める・・・
エルザ「あっ・・・」
〇洞窟の深部
会社員A「何じゃここはぁ・・・」
エルザ「アハハハハ・・・戻ったぁ~戻ったぁ~」
彼女は喜んでいたが私は困惑していた・・・何故、私まで一緒に・・・?
エルザ「また、さっきので戻れんじゃない? あげるから使って帰りなよ・・・」
会社員A「あ、ああ・・・」
しかしそれは何の反応も示さなかった・・・ピクリとも反応しない様子を悲しげに見つめている・・・
エルザ「全然、動かないね・・・奥に行くと出口みたいなのがあって、そこでワープしたから行ってみようよ・・・」
会社員A「そうですね・・・」
魔物1「ぐわぁ~!!」
会社員A「ひっ、ひぃ~」
エルザ「フレアー!!」
魔物1「ぐわっ!!」
エルザ「命に係わるからぼーっとしてちゃ駄目よ・・・私から離れずについて来て!!」
会社員A「は、はい・・・」
〇岩穴の出口
エルザ「ついたわ・・・ここよ・・・」
洞窟の最深部なのに何故か光が差していた・・・彼女はここを通って現代に来たと言っていた・・・
エルザ「さあ、お行きなさい・・・」
会社員A「はい・・・」
私は彼女に言われた通り光の中に足を運んだ・・・
エルザ「上手くいったようね・・・」
エルザ「うわっ!」
会社員A「・・・・・・・・・」
エルザ「何なの!?戻ってきちゃったの!?」
会社員A「光を抜けたと思ったらここに居ました・・・」
エルザ「そんな馬鹿な・・・!? 一緒に行くわよ!!」
「あ~れ~!!」
会社員A「・・・・・・・・・」
そして・・・彼女はいなくなった・・・
〇洞窟の深部
あれから何日たつのだろうか?
光の差さない洞窟では昼も夜もわからない・・・
私はモンスターに出くわしてはいたが、その度に命からがら逃げ伸びていた・・・
ここでは水は何とかなっていたが、食べ物が確保できなかった・・・私はここで命尽きる事を覚悟していた・・・
アナスター「なんだ・・・お前は・・・変な恰好しゃがって・・・」
彼女の存在はまさに希望の光だった・・・
会社員A「食料を・・・食料をわけて下さい・・・」
アナスター「気味の悪いおっさんだな・・・そんな恰好でダンジョンを探索してたのか?」
彼女はそういうと持っていた干し肉を分け与えてくれた・・・私の命は何とか助かった・・・
そして帰るついでに私も街に連れて行って貰えるらしい・・・何とか生きながらえる事はできたようだ・・・
しかしここはモンスターが往来し魔法の使えるファンタジーな世界・・・私が生き延びていく事などできるのだろうか?
まずはあの神官を探し出し帰る方法を模索しなければならない・・・しかしあの神官はこの世界へ戻ってくることができるのか?
私の冒険は始まったばかりだ・・・
END
現代社会とダンジョン、二つの世界は様々な対極のメタファーだな〜と思って読みました。二国、男女、貧富、西洋東洋などなど。所変われば品変わる、郷に入れば郷に従えですが、異郷の地で最終的に最強なのはサバイバル術に長けているエルザなのか、運だけで乗り切りそうな会社員Aなのか。神のみぞ知るですね。読者は神の視点から見届けたいなあ。
なんて不運なおじさん…。
現実でも異世界でも、女の子と出会ってからろくなことがありませんね…。ここらかの大逆転劇、期待しています!
異世界へのシフトの際に望んだ人が望んだ世界へと行くいわば”ご都合主義”ではない物語も、当然あって然るべきですよね。シュールな場面には目を引かれます