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きせき

エピソード33-白色の刻-(脚本)

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〇レンガ造りの家
夕梨花「お客様に立ち話をさせるなんて失礼いたしました」
黒野すみれ「いえ・・・・・・」
夕梨花「明石朝刻からも黒野様には最上のおもてなしをいたすよう仰せつかっておりました」
夕梨花「どうぞ。こちらへ」
黒野すみれ「・・・・・・」
  いよいよ、始まる。
  いや、危険だったのは何も今に始まったことではない。

〇風流な庭園
  南田さん・・・・・・いや、喜田井譲治と対峙した時も。

〇配信部屋
  青刻さん・・・・・・いや、北石青慧と対峙した時も。

〇教会の控室
  それなりに生命の危機はあった。
  だが、彼らとは彼女は何かが違っているように感じた。
夕梨花「さぁ、どうぞ。我が主人もあと小一時間程で戻るそうで、食事でもと申しておりました」
  そう言うと、夕梨花さんはお茶を淹れてくれる。
黒野すみれ「日本茶なんですね」
夕梨花「えぇ、明石家の食事は洋食がメインなので、たまに朝刻様は和のものが良いと申すので」
夕梨花「まぁ、カステラは厳密には和菓子ではないんですけどね」
黒野すみれ「そう、ですね・・・・・・」
  スペインだったか、ポルトガルだったか、
  それらの国で作られたものが長崎に伝わってできた
  所謂、南蛮菓子。
黒野すみれ「(だから、本場のカステラと日本のカステラは別物らしい・・・・・・)」
  私は緊張感もなく思うと、
  お茶やカステラには手をつけずに話を切り出した。
黒野すみれ「実は、夕梨花さんに聞きたいことがあって、朝刻さんの帰ってくる前に来たんです」
夕梨花「私に、でございますか?」
黒野すみれ「大したことじゃないんですけど、私が明石家を訪れた理由って聞いていますか?」
夕梨花「えぇ、確か、春刻様に手紙をいただいて・・・・・・ということでしたよね」
黒野すみれ「はい。それで、お恥ずかしい話なのですが、私が春刻さんと出会ったのはまだ小さい頃で」
黒野すみれ「彼のことは本当に何も知らない状態なんです」
  私は夕梨花さんではなく、
  リエさんに話しかけるような感じで話をする。
  そうすれば、少しは緊張しなくてすむと思うから。
黒野すみれ「夕梨花さんは春刻さんとは会ったことはありますか?」
夕梨花「えぇ、それでも、ご兄弟で食事をとられる時くらいで、」
夕梨花「私も数回、お会いしたことがあると言う他ないのですが・・・・・・」
黒野すみれ「そうなんですね。彼ってどんな感じなんですか?」
夕梨花「どんな感じ・・・・・・でございますか?」
黒野すみれ「あ、好き嫌いが激しいとか、食べ方とか、兄弟の中ではよく話す方なのかとか?」
黒野すみれ「夕梨花さんから見てどんな人でしたか?」
  私は何でもないようなことを聞く。
  最初は些細なことで良い。些細なことから話を広げる。
黒野すみれ「(まぁ、どんな風に話を広げられるかは夕梨花さん次第だけど)」
夕梨花「そうですね。春刻様はいつもにこにこされていますね」
黒野すみれ「にこにこ・・・・・・」
  割と、そこは朝刻さんと似ているかも知れない。
黒野すみれ「(まぁ、半分は血が繋がった兄弟だし・・・・・・)」
黒野すみれ「(あ、でも、東刻さんには似てないかな。いや、笑わないまではいかないけど、)」
黒野すみれ「(クールで、神経質・・・・・・いや、生真面目そうな人だったし)」
夕梨花「あとはそうですね。好き嫌いとかはないようですけど、海鮮がお好きなようですね」
黒野すみれ「海老とか帆立とか?」
夕梨花「えぇ、あとは魚なんかも綺麗に召し上がっていたかと」
夕梨花「朝刻様も綺麗には召し上がるのですが、骨がある魚が苦手なのですよ」
黒野すみれ「そう、なんですね」
黒野すみれ「確かに、朝刻さんは肉の方が好きなのかなって昨日のメニューなんかを見ても思いました」
夕梨花「あぁ、東刻さんとメニューを作って、黒野様に選んでもらうんだと申してましたね」
夕梨花「えぇ、ビーフもお好きですし、ポークやチキン、兎や鹿、鴨なんかもお好きですね」
  当たり障りのない会話が続く。
黒野すみれ「(予想はしてたけど、一応、朝刻さんの家族だから悪し様に言うようなことはないか)」
  悪し様に言う・・・・・・までいかなくても、
  言い淀むような・・・・・・そんな場面があれば、
  そこから話を広げられると思うのに。
  なかなか上手くいかない。
黒野すみれ「(リエさんが言ってたっけ? 彼女は卒がない人だと)」
  手落ちがなく、隙もない。
  私は春刻のことから彼のことについて話すことにした。
黒野すみれ「そう言えば、胡蝶庵の庭は夏坂さんが剪定されていたとか?」
夕梨花「夏坂・・・・・・さん・・・・・・?」
黒野すみれ「あれ? 春刻さんのところの専属の人ってそんな名前じゃなかったですか?」
黒野すみれ「確か、春刻さんと同じように季節の名前がついていた、と思ってたんですが・・・・・・」
  私は適当に「秋山」さんやら「冬野」さんやら
  季節の入った名前を言っていく。
  すると、夕梨花さんは答えた。
夕梨花「あぁ、もしかして、秋川さんのことですか?」
黒野すみれ「あ、そう。そうです。秋川さん。秋川さんとはもしかして、面識があるのですか?」
夕梨花「えっ、どうして、ですか?」
黒野すみれ「いやぁ、だって、私ならあまり面識のない主人の兄弟のお世話をする方の名前なんて」
黒野すみれ「知らないだろうし、仮に知っても、忘れてしまうだろうなって・・・・・・」
  さっきまでとても和やかに流れていた雰囲気は
  一瞬にして消える。
  時間にして数秒のことなのに、もう何分も何十分も
  経ったような感覚がした。

〇教会の控室
夕梨花「確かに、私は秋川さんとは話をしたことがありました」
黒野すみれ「・・・・・・」
夕梨花「さらに言えば、ある意味、私にとって彼は特別な人間だった・・・・・・」
夕梨花「と言えるかも知れません」
  よく、これもミステリーのあるあるなのだが、
  今の夕梨花さんのように犯人があっさりと
  不利になる事実を認めるケースがある。
黒野すみれ「(確かに、調べて分かることを隠して、後で発覚したら、言い逃れしにくいしな)」
  私はいつだったか、考えていた父と架空の不倫相手の
  妄想を思い出した。
黒野すみれ「(って、今はそんなこと、考えているほど暇じゃない)」
黒野すみれ「(何だか、切り込みにくい言い方してくるし)」
黒野すみれ「(だったら、こっちも一気に行くか)」
黒野すみれ「それは秋川さんが貴方のお父さんになるかも知れなかったという意味で?」
夕梨花「えぇ、少なくとも、あの頃の私と母はそう思い描いていたのかも知れません」
黒野すみれ「ということは、貴方は秋川さんに対して複雑な思いを持っていたのでは?」
夕梨花「・・・・・・」
夕梨花「複雑・・・・・・?」
黒野すみれ「えぇ、例えば、彼を苦しめる為、春刻さんを亡き者にしようとしたとか?」
夕梨花「・・・・・・」
夕梨花「それは考えすぎですよ」
  彼女の笑顔に私はまるで、凍りついたか
  石になってしまったように固まってしまう。
  やはり、喜田井譲治や北石青慧と対峙するのとは違う
  恐怖や、こわさがあった。
夕梨花「貴方はおそらく、こうも考えたのでは?」
夕梨花「春刻様を死なせるか、ショックを与えるか、して、」
夕梨花「春刻様ではなく、朝刻様を当主にしようとした」
夕梨花「確かに、本心を言えば、自分の主人が当主になる」
夕梨花「色んな利がありそうですけどね。でも、この国では殺人は犯罪の筈です」
夕梨花「私はそんな愚かな真似はいたしませんよ」
黒野すみれ「・・・・・・」
  今まであまり表情に出さなかった分、笑顔を向けられる
  それだけで恐怖する。
  あとは、法を犯してしまった末路を彼女は知っている。
「ふーん、確かに、貴方は誰も殺していないみたいですね」
「誰?」
明石青刻「やぁ、一応、名乗るのなら明石青刻かな。一応、明石家の4男になりますかね」
夕梨花「・・・・・・」
黒野すみれ「・・・・・・」
明石青刻「・・・・・・」
  3人が3人とも黙る。
  すると、初めに話し出したのは夕梨花さんだった。
夕梨花「青刻様。何かご用でしょうか?」
  美しいが、温度があまり感じられない声。
  氷とまではいかないが、さながら包丁の刃のような
  冷たさと硬質さ、鋭さ。それに、美しさがあった。
明石青刻「僕の用はたった1つ。この動画を届けにきただけですよ」
  すると、青刻さんはタブレットを操作すると、
  ある一部始終が画面に映された。

〇風流な庭園
夕梨花「・・・・・・」
夕梨花「・・・・・・っ!!」

〇大きな日本家屋
物部トキ「あ、夕梨花さん!! 夕梨花さん、昂さん、知らない・・・・・・」
物部トキ「ですか・・・・・・って行っちゃった!! にしても、」
物部トキ「あんなに慌てた夕梨花さん、見るのは初めてだな」
物部トキ「あれ? 何か、落ちてる・・・・・・」
物部トキ「何かのUSBメモリー? 夕梨花さんのかな? それとも、春刻くんのか、昂さんの?」
「あれ? トキ様?」

次のエピソード:エピソード34-白色の刻-

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