〇走る列車
栄田　栞里（市役所にも確認をしてみたけど、 あの番地に人が住んでいた形跡はない）
栄田　栞里（三年前、確かにあの場所で 駿のご両親と会った）
栄田　栞里（私の記憶が間違いでなければ、 むしろこっちがおかしいのだ）
栄田　栞里（駄目・・・ 駿のご両親に連絡なんてできない）
栄田　栞里（駿やご両親が何か嘘をついているなんて 考えたくないし、とても考えられない）

〇空
栄田　栞里（こんな不安な気持ちになるのは 結婚して初めて）

〇繁華な通り
栄田　栞里（すっかり暗くなっちゃった）
栄田　栞里（ホテルに戻ろう。 明日も朝からフライトだし）
　　ドンッ
栄田　栞里「きゃっ！　すみません！」
岡本　七菜「およ？　しおりんではないか！」
栄田　栞里「七菜ちゃん！　ごめんなさい 考えごとしながら歩いてて・・・」
ちゃらそうな男「なにー？　七菜ちゃん。お友達？ かわいいじゃん」
岡本　七菜「あー、そういやアンタいたんだった もう帰っていいよ」
岡本　七菜「今、唐突に大事な用ができたから」
ちゃらそうな男「えー？　俺三人でもイケる口よ？」
岡本　七菜「あー、うっさいな！　お巡りさーん！ この客引きがしつこいんですー！」
警察官「大丈夫ですか？」
警察官「この通り、違法客引きが多くてね。 さ、君。署まで一緒に来てもらおうか」
ちゃらそうな男「あ、いや。俺はその・・・」
警察官「言いたいことあるだろうけど、 とりあえず、ね」
警察官「抵抗すると執行妨害つくよ？」
ちゃらそうな男「は、はあ・・・ （なんでこんなことに）」
「・・・・・・・・・・・・」
栄田　栞里「よ、良かったの？ お知り合いじゃ・・・」
岡本　七菜「いいのいいの。 あれは逆ナンで捕まえたホストだから」
岡本　七菜「飲み代払うよ～って言うから連れてただけ」
岡本　七菜「もう十分奢ってもらったしね」
栄田　栞里「あ、そうなの・・・」
栄田　栞里（七菜ちゃんって何気に凄いなぁ）
岡本　七菜「そんなことより、しおりん。 ここで会ったが百年目！　飲みにいこ？」
栄田　栞里「え？　えーと・・・」
岡本　七菜「ちなみに拒否権はなし！」
岡本　七菜「そんな顔した同僚を放置するほど 私は人間捨ててなぁい！」
栄田　栞里「あ、ありがとう」
岡本　七菜「うん」

〇シックなバー
岡本　七菜「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
岡本　七菜「なんだってーーーーーー!!」
栄田　栞里「な、七菜ちゃん！　声が大きいよ！」
岡本　七菜「これが驚かずにいられるかってぇの！ 酔いも覚めるわ！」
岡本　七菜「マスター！　 ウイスキーお代わり。ダブルで！」
マスター「はいよ、ウイスキーダブル」
岡本　七菜「すると何ですか。しおりんは盛大な詐欺に 巻き込まれた可能性があるってこと？」
栄田　栞里「そこまでは、まだ・・・」
栄田　栞里「それに子供達は確実に私から 生まれてるわけだし」
岡本　七菜「しおりん、結婚何年目だっけ」
栄田　栞里「じ、十年・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
岡本　七菜「詐欺にしては期間が長いな。 お金だって要求されてないし」
栄田　栞里「そうなのよ。ただ、ご両親の実家が 嘘だったってだけで・・・」
岡本　七菜「いや、それはダメよ。充分」
栄田　栞里「でも正直どうしたらいいのか。 夫に相談したいけどそれも怖くて・・・」
岡本　七菜「そうだよね。うーん、わかった」
　　ゴソゴソ
岡本　七菜「七菜の名刺たちー」
岡本　七菜「私、こんなこともあろうかと 便利な名刺をいっぱい持ってるんだ」
岡本　七菜「これ、しおりんにあげる」
栄田　栞里「これは・・・探偵事務所？」
岡本　七菜「そ！　直接聞けないなら 調べてもらえばいいのよ」
岡本　七菜「ちょっと待ってね。一応連絡しとく」
岡本　七菜「あ、もしもし？　わーたーし 七菜さまだぞー」
岡本　七菜「実はお仕事頼みたくって。 私じゃなくて、友達がね」
岡本　七菜「うんうん。 だからうーんと安くしてくれない？」
岡本　七菜「えー？　じゃあもう飲みに行かなーい」
岡本　七菜「いつでも来てくださいって 三千円くらいで調査してくれるってよ」
栄田　栞里（三千円・・・？　相場は知らないけど なんだかものすごく安い気がする）
栄田　栞里「だ、大丈夫なのかな？　 でもまだ行くと決まったわけじゃないけど」
岡本　七菜「大丈夫よ。一応最大手事務所の一つって ポッターは言ってたよ」
栄田　栞里「ポッター？」
岡本　七菜「うん、堀田晴臣だから。 某映画の主人公みたいじゃない？」
岡本　七菜「まあ、主人公顔してないんだけどさ」
栄田　栞里（探偵と知り合いだなんて・・・）
栄田　栞里（七菜ちゃんって普段どんな生活 してるんだろう？）
岡本　七菜「さ、方針も決まったことだし 飲もっか！」