ヒトでなくとも……

春島傑郎

ヒトでなくとも……(脚本)

ヒトでなくとも……

春島傑郎

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〇テレビスタジオ
キャスター「続いてのニュースです」
キャスター「A市配属の国家超人の通称”サン”が、またしてもお手柄です」
キャスター「強盗殺人の指名手配犯を取り押さえ、警察に引き渡された様です」
キャスター「これで住民の皆さんも安心して──」
キャスター「・・・」
キャスター「速報が入って参りました」
キャスター「先程の容疑者は移送中に殺害」
キャスター「襲撃犯は怪人27号。 これで2度目の犯行です」
キャスター「怪人27号は通称”ドッグフェイス”と呼ばれており、見掛けた方は速やかに非難行動を取って下さい」

〇明るいリビング
ユウキ(またドッグフェイスが・・・)
ニコ「お兄ちゃんどうしたの?」
ユウキ「あぁ、なんでもないよ」
ニコ「そういえば”サン”がまた悪いヤツ捕まえたんだって!!」
ユウキ「テレビでやってたね」
ニコ「また”サン”の写真取ってきてほしい。 お兄ちゃん仕事場同じなんでしょ」
ユウキ「本当に国家超人が好きだね」
ニコ「コッカなんとかじゃなくて、”サン”が好きなの。 ヒーローだもん」
ニコ「だからまた写真とってきて!!」
ユウキ「前撮ったこれじゃダメ?」
ニコ「お兄ちゃんとのツーショットがほしいの 皆に友達だって言っちゃったから」
ユウキ(ツーショットは無理だよ・・・参ったなぁ)
ユウキ「もしもし」
ユウキ「・・・・・・」
ユウキ「すぐ行きます」
ユウキ「ごめん。兄ちゃん仕事いってくる。 写真は機会があったらね」
ニコ「はぁい。 お仕事がんばってね」
ユウキ(父さん母さんが死んで、寂しいはずなのに泣き言も無くなったな)
ユウキ「夕飯までには帰るよ」

〇研究施設の廊下(曲がり角)
アイザワ室長「すぐに済む用事なんだが・・・」
カイ博士「ユウキ君が来るんだろ? 私も会いたいじゃないか」
カイ博士「改造手術を担当した子達は、自分の子供のようなもんだ」
アイザワ室長「まぁ構わないが」
カイ博士「体調管理もデータよりこの目で診る方が確かだからね」
ユウキ「あれ? カイ先生も来てたんですね」
アイザワ室長「非番に呼び出して悪い」
ユウキ「いえ、だいじょ──」
カイ博士「やー久しぶりだね! 元気だったかな?」
ユウキ「先週も会ったじゃないですか。 元気ですよ」
アイザワ室長「・・・・・・」
アイザワ室長「・・・話していいかな?」
ユウキ「あ、はい」
アイザワ室長「先日、君が逮捕した犯罪者をこれから移送する」
アイザワ室長「普段なら警察だけで対応するのだが、懸念があってね」
ユウキ「ドッグフェイスですね」
アイザワ室長「そうだ。 二度の失態で流石の警察も我々を頼ってきたよ」
ユウキ「いくら警察でも超人相手は危険です。 一度目の襲撃から護衛につくべきでした」
アイザワ室長「彼等にもプライドがあるからね」
アイザワ室長「それじゃ頼んだよ。 彼等に国家超人の有用性を十分に示してくれたまえ」
ユウキ「はい。 警察の方々と被告人は僕が守ります」
アイザワ室長「・・・・・・」
カイ博士「あんまり無理しちゃダメだよ?」
ユウキ「はい。 怪我したら治してくださいね」
カイ博士「・・・・・・」

〇ビルの屋上
  ユウキの護衛は空振りに終わった
ユウキ(今回は現れなかったか)
刑事「護衛ご苦労さん 君のような子供まで国家超人か」
刑事「世間ではヒーローなんて呼ばれてるが、どうだかな」
ユウキ(・・・・・・)
刑事「君が護衛に来た途端に何もないのは少しひっかかる」
刑事「俺達は国家超人様の有益性を知らしめる為に踊らされたのかな?」
ユウキ「たまたまですよ」
刑事「可能性の話さ。 気を悪くしたならごめんよ」
ユウキ「・・・・・・」
???「酷いもんだよなぁ」
ユウキ「・・・!!」
マサト「超人てだけで警察までもが色眼鏡で見やがる」
マサト「君は身を粉にしているのにね」
ユウキ(誰だ・・・異様な雰囲気だ)
マサト「君は悪人にも慈愛を持って接しているね」
マサト「彼等の所業を考えれば、そんな価値は無いと思わないのかい?」
ユウキ「あなた・・・・・・ドッグフェイスですか?」
マサト「質問を質問で返すなよ。 その問いには後で答えてあげるからさ」
ユウキ「・・・・・・」
マサト「それで?」
ユウキ「どんな悪人でも個人が裁くべきではないです」
マサト「法の裁きに委ねるのかい?」
ユウキ「そうです」
マサト「性善説に基づいたこのシステムは欠陥だらけとは思わないか?」
マサト「正しく機能しない裁判、悪党共の再犯」
マサト「君が捕まえた悪党が、刑期を終えた後、逆恨みで君の妹を襲ったら?」
マサト「君に責任はないのかな?」
ユウキ「・・・それは」
マサト「・・・・・・」
マサト「ははっ」
マサト「そこまで考えてなかったか?」
マサト「長くこんな活動をしていると、現実に起こり得る事態だぞ」
ユウキ「責任を持って最後までやりきるまでですよ」
マサト「勝手な責任を貫くのも良いが、俺の邪魔をするな」
マサト「悪はこの手で裁くのみ」
ドッグフェイス「邪魔をするお前もなっ!!」
サン(ドッグフェイス・・・ここで倒す!!)
サン「なっ・・・!?」
ドッグフェイス「今まで相手にしてきた怪人とは違うだろ?」
ドッグフェイス「俺の適合値はお前ら国家超人に劣らない」
サン(巨大な岩でも殴ったかのような感覚だった・・・)
  ユウキは構えなおし、細心の警戒態勢に入る

〇明るいリビング
ニコ「お兄ちゃん遅いな」
ニコ「・・・・・・」
ニコ「お仕事大変なんだから・・・」
ニコ「ガマンガマン」
ニコ「・・・・・・」

〇ビルの屋上
ドッグフェイス「雨か・・・」
ドッグフェイス「呆気なかったな」
  ドッグフェイスの右腕はユウキの胸部を貫いていた
  ユウキは数歩下がり、ズルりと腕を引き抜く
サン「ぐふっ・・・」
ドッグフェイス「その傷で倒れないのは大したもんだ」
ユウキ(ニコ・・・)
ユウキ「まだ僕は・・・死ね・・・・・・ない」
ドッグフェイス「血が白い・・・」
マサト「眉唾ではなかったか」

〇大樹の下
謎の少年「父さーーん!!」
謎の少年「どこまで行ってるんだよ」
カイ博士「いやー運動は苦手だから手加減してよイチ」
謎の少年「次はちゃんと取ってよね」
カイ博士「よしっこい!」

〇研究所の中
ユウキ「はっ!!」
カイ博士「気が付いたかい」
ユウキ「・・・ここは?」
カイ博士「私のラボだよ」
カイ博士「君の治療の為にここへ運んだんだ」
  ユウキは思い出したかのように胸元の傷を探す
ユウキ「傷が・・・治ってる?」
カイ博士「大した傷じゃなか──」
ユウキ「そんなハズないっ!!」
ユウキ「僕は胸を貫かれたんです。それにあの血の色は・・・」
カイ博士「・・・・・・」
カイ博士「・・・そうだね」
カイ博士「思ったより早かったけど、こうなったからには話そう」
カイ博士「君は普通の人間ではないんだ」
カイ博士「”人造人間”なんだ・・・」
ユウキ「人造て・・・」
カイ博士「落ち着きなさい。人間と同じだよ君は」
ユウキ「僕には両親がいる!!」
カイ博士「両親の記憶は人為的に植え付けられたものだ」
ユウキ「そんな・・・妹は?ニコは?」
カイ博士「彼女も君と同じだよ」
カイ博士「正しい心を持って欲しかったんだ。 だから妹という家族を生み出したんだ」
ユウキ(とても信じられない・・・ でもあの大怪我と血の色は・・・)
ユウキ(・・・なんだよそれ)
ユウキ「僕達は先生の作品てこと?」
カイ博士「君達は作品や兵器じゃない!! 実の子供のようにさえ思っている」
カイ博士「・・・信じて貰えないだろうが」
ユウキ「何の為に作ったんです?」
カイ博士「改造手術の適合率が著しく低いことは知っているね?」
カイ博士「適合する人間を探すのは大変な苦労なんだ」
カイ博士「ならば作ってしまえば良いというのがアイザワ君の考えさ」
カイ博士「私の研究内容と利害が一致する形で君が生まれた」
カイ博士「私が君を生んだのは──」

〇謎の部屋の扉
アイザワ室長「手荒ではあるが強引に制圧しよう」
アイザワ室長「助かったよマサト君」
アイザワ室長「君のお陰で、カイ博士のラボを特定できた」
マサト「お易い御用で」
アイザワ室長「もう一仕事頼みたい」
アイザワ室長「ニコを捕獲しておいて欲しい」
アイザワ室長「こちらは私1人で十分だろう」
マサト「見返りの方、期待していますよ」

〇研究所の中
ユウキ「今の音は?」
カイ博士「アイザワ君が強引に侵入してきたようだ」
カイ博士「狙いは私の研究記録と君だろう」
カイ博士「逃げなさい」
ユウキ「博士も一緒に。まだ聞きたいことが沢山あります」
カイ博士「私はこの施設を破棄しなければ・・・」
ユウキ「だったら待ちますよ」
カイ博士「ダメだ!! 彼も改造手術を受けているんだ」
カイ博士「超人強度でいえばドッグフェイスを超える数値なんだよ?」
ユウキ「博士は彼に何もされないんですか?」
カイ博士「彼が欲しがる技術を持っているし、手荒なことはされないだろう」
  博士は右手で後頭部をさする
ユウキ「ウソついてますよね?」
カイ博士「・・・・・・」
カイ博士「いいから早く行きなさい」
アイザワ室長「まぁそう慌てなくとも」
「アイザワ──」
アイザワ室長「はは・・・ 君達は息が合うね」
カイ博士「君とも合えば良かったが」
アイザワ室長「投降する気はないのかな?」
  博士は唐突に駆け出した
アイザワ室長「待てっ」
ユウキ「アイザワ室長」
アイザワ室長「邪魔はしないように」
ユウキ「僕はどうすれば?」
アイザワ室長「事が済むまで待機だ」
ユウキ「博士を殺すんですか?」
アイザワ室長「・・・はぁ」
アイザワ室長「少し黙ろうか」

〇古生物の研究室
カイ博士「はぁっ・・・はぁ・・・」
カイ博士「約束の時だ」

〇研究所の中
サン「はぁ・・・はぁ・・・」
アイザワ室長「防ぐので精一杯かな?」
アイザワ室長「やはり君はまだ成功例とは言えない」
アイザワ室長「最大の欠点はその心だよ」
アイザワ室長「超人強度は平均以上なのに、君は優しすぎるんだ」
アイザワ室長「だから力が引き出せんのだ」
アイザワ室長「攻撃というのは──」
アイザワ室長「こうするんだっ!!」
サン「ぐぅ・・・」
サン(強い・・・なんて重い攻撃だ)
アイザワ室長「優しいというのも誤りかな? 覚悟が足りんのだ」
アイザワ室長「甘っちょろい活動ばかりして」
アイザワ室長「私の求める戦士はもっと心が強くなくては」
アイザワ室長「さぁ終わらせようか 失敗作」
???「誰が失敗作かっ!!」
カイ博士「はぁっ・・・はぁっ」
サン「博士・・・」
カイ博士「在るべきを諦め、都合の良い方へ逃げるのが強さかっ?」
アイザワ室長「フフ・・・青臭いよ博士」
カイ博士「そうだね・・・君とは分かり合える筈もない」
カイ博士「でも一つ、君も興味深い事を教えるよ」
カイ博士「イチは弱くない・・・ 超人強度のスケールが違うのさ」
カイ博士「これを着けなさい」
サン「これは・・・」
カイ博士「男のロマンさ・・・」

〇大樹の下
謎の少年「父さんっ!! また失敗だよこれ」
カイ博士「コラっ!! 投げないっ」
謎の少年「だって光るだけだもん」
カイ博士「それでも普通は有り得ないんだけど・・・」
謎の少年「なにが?」
カイ博士「ああ、いやなんでもない」
謎の少年「ビームは男のロマンなんだよなぁ」
カイ博士(どこで覚えたんだそんな言葉)
カイ博士「いつか出せるのを作るよ」
謎の少年「言ったな!! 絶対だかんね!!」

〇研究所の中
サン「これって・・・」
カイ博士「・・・・・・うん」
カイ博士「悪者を倒せっ!!」
サン「・・・・・・っ!!」
サン「下がって博士っ!!」
アイザワ室長(・・・!?)
アイザワ室長(完璧に対応した・・・)
アイザワ室長「そのグローブはなんだっ!?」

〇大樹の下
謎の少年「だぁぁーー!!」
謎の少年「めちゃ光った」
謎の少年「カッコイイ?」
カイ博士「カッコイイぞ!!」

〇研究所の中
アイザワ室長(なんだこれは・・・)
アイザワ室長(肌で感じる・・・これはまずい・・・ 逃げねば)
サン「もう遅い」
サン「だぁぁーーーー!!!!」
アイザワ室長「うわぁぁ!!!!」
サン「はぁ・・・はぁ・・・」
ユウキ「ははっ」
ユウキ「カッコよかった?」
カイ博士「カッコ良かったぞ!!」

〇研究所の中
アイザワ室長「うぅ・・・」
アイザワ室長「素晴らしい」
アイザワ室長「とてつもないパワーだ」

〇研究所の中
カイ博士「次は私の番だね」
ユウキ「なにが?」
カイ博士「アイザワ君はまだ生きているだろう」
カイ博士「私がケジメをつける」
カイ博士「この施設と共に・・・私もろとも」
ユウキ「ちょっとまって・・・どういう意味?」
カイ博士「そのままの意味だよ。 私の業もろとも地獄に道連れさ」
カイ博士「カッコイイだろ?」
ユウキ「カッコ良くないよっ」
ユウキ「ここで終わりかよ」
ユウキ「ぼんやり思い出したんだ昔のこと」
ユウキ「これからじゃないのかよ」
カイ博士「ニコを助けてやりなさい」
カイ博士「私がいる限り彼等を引き寄せる」
ユウキ「イヤだよ・・・」
カイ博士「うまくやるからさ」
カイ博士「私、天才だし」
ユウキ「イヤだって」
カイ博士「ニコの所にも彼の部下が行っているかもしれない」
カイ博士「行きなさいイチっ!!!!」
ユウキ「死なないでよ・・・」
カイ博士「死なないでか・・・」
カイ博士「その言葉でもう十分だ・・・」

〇研究所の中
カイ博士「流石にもう動けなさそうだね」
アイザワ室長「やぁ博士」
アイザワ室長「私は考え直したよ」
アイザワ室長「君にもっと有利な契約になるよう──」
アイザワ室長「悪趣味なデザインだ」
カイ博士「おや、命乞いでもするかと思ったけど」
アイザワ室長「しても無駄だろう?」
アイザワ室長「やけに準備が良い。マサト君かな?」
カイ博士「・・・」
アイザワ室長「どこから知ってた?」
カイ博士「地獄で教えてあげるよ」
アイザワ室長「せめてもう少しセンスの良い起爆装置が良かったが」
カイ博士「つくづく君とは合わないねぇ」
  博士はボタンを押し、爆音が轟いた

〇明るいリビング
ユウキ「ニコっ!!」
ニコ「お兄ちゃんおかえり」
ユウキ「良かった無事で」
ユウキ「どうしたのこれ?」
ニコ「革ジャンのお兄ちゃんが渡せって」
???「やぁイチ」
ユウキ「その声は博士?」
???「正確には博士を再現したAIだ」
???「時間が無い。とりあえず準備しておいた秘密基地へ移動して欲しい」
ユウキ「行こうニコ」

〇ゆるやかな坂道
マサト「借りは返したぜ博士」

〇テレビスタジオ
キャスター「国家超人のサンが、怪人登録されました」
キャスター「カイ博士を殺害し──」

〇ビルの屋上
ユウキ「僕も怪人か・・・」
ユウキ「でもいいや」
ユウキ「これからは”イチ”として」
ユウキ「この街の悪を挫く」
ユウキ「ヒトでなくとも・・・」

〇黒
  終

コメント

  • 知らない間に人造人間にされていて、記憶も植え付けられていたものと知った時のショックは計り知れませんね…。
    でも大切なニコちゃんと無事に生き延びてほしいです。

  • 改造人間とそれを創り出した人間の関係がこれほど親愛に満ちているということが心に残りました。まるで本当の親子、いやそれ以上の想いがサンをこれほど勇敢にしたのでしょうね。

  • 博士とイチの掛け合いが良かったので、切なかったです😭
    読み切りとはいえ、これからどんな怪人になるのか、続きが気になりますね!

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