第五話 今度こそ、間違えない(脚本)
〇文化祭をしている学校
学園祭当日。朝から校内は大賑わい。生徒会のホストカフェも想像以上の人気ぶりだった。
〇装飾された生徒会室
由比一真「こんなにお客さんが来るなんて思わなかったよ」
樋渡花音「先輩、スーツ姿もステキです! 最高です!!」
由比一真「ありがとう」
樋渡花音(・・・相楽先輩とは、カフェのこと以外全然話せてないけど)
樋渡花音(でも、あんなに・・・ホスト系スーツが似合うなんて、想定外だった)
女子生徒1「あの、先輩。一緒に写真撮ってもらえますか?」
相楽宗吾「ああ、いいぜ」
女子生徒2「私もお願いします! やだ、ちょっと押さないで」
女子生徒3「先輩、紅茶のお替りお願いします!」
樋渡花音(女の子たちにもキャーキャー言われちゃって・・・)
ふと、相楽先輩と目が合った。
相楽宗吾「樋渡・・・」
相楽先輩の視線を、つい振り切ってしまう。
樋渡花音(う、今のってかなり感じ悪かったよね)
樋渡花音(でもまだ、今は向き合う勇気が出ない・・・)
結局、私は一日中相楽先輩を避け続けてしまった。
〇学校の屋上
樋渡花音「は~、疲れた」
樋渡花音(学園祭は大盛況で、生徒会のカフェも大人気)
樋渡花音(先生たちにも褒められたし、実行委員としての役目はしっかり果たせたよね・・・)
樋渡花音「でも、なんかスッキリしないのよね」
???「何が?」
樋渡花音「!」
ひとりだと思っていたのに、誰か潜んでいたらしい。
樋渡花音「だ、誰!?」
由比一真「僕だよ、樋渡さん」
樋渡花音「一真先輩!? どうしてこんなところに・・・!?」
由比一真「色々疲れちゃうとよくここに逃げてくるんだ。他の子たちには内緒だよ?」
樋渡花音「はい、もちろんですっ! でも、生徒会長の仕事は・・・?」
由比一真「まあ、実質ほとんど宗吾がまわしてくれてるからね」
一真先輩が、じっと私を見つめてくる。
由比一真「ねえ、樋渡さん。ホントに気づいてないの?」
樋渡花音「え? 何のことですか?」
姿勢を崩し、前髪を降ろした一真先輩がぐっと近づいてきた。
樋渡花音「か、一真先輩・・・!?」
由比カズキ「意外と鈍感だよね、かのんちゃん」
樋渡花音「え・・・?」
樋渡花音「ええええっ!?」
樋渡花音(一真先輩が、カズキくん!? え、どういうこと?)
由比カズキ「昔ね、父親の期待に応えようと頑張りすぎて、精神的に追い詰められたんだ」
由比カズキ「で、バランスを取るためにカズキがいる」
樋渡花音「一真先輩がカズキくんってこと・・・ですか?」
由比カズキ「うん。この秘密を知ってるのは、宗吾とかのんちゃんだけだよ」
樋渡花音「だ、誰にもいいませんっ!」
カズキくんはふっと笑うと、髪を整え、一真先輩に戻った。
由比一真「ふう。学校ではやっぱりこっちが落ち着く」
樋渡花音(・・・ぜんっぜん気づかなかった。ていうか、髪色も変わってるような・・・)
由比一真「昨日の女性のことで、宗吾とケンカしたの?」
樋渡花音「ケンカとかじゃないです」
樋渡花音(先輩は重大な秘密を明かしてくれたんだから、私も黙ってるわけにはいかないよね)
樋渡花音「あの・・・私、一真先輩に告白するはずだったんです」
由比一真「ふふ、で、間違えて宗吾に告白したんでしょ?」
樋渡花音「知ってたんですか!?」
由比一真「うん。宗吾もはじめから知ってたよ」
樋渡花音「やっぱり・・・」
由比一真「でも、それってただのきっかけでしょ?」
樋渡花音「え・・・?」
由比一真「樋渡さん、今は僕のこと別に好きじゃないんじゃない?」
樋渡花音「いえ、大好きです!」
由比一真「あはは、ありがとう。でもその好きって、恋愛の好き?」
樋渡花音「え? それは、その・・・」
今ならわかる。一真先輩への好きは、『推し』への好きと同じだ。
憧れの対象であって、恋人になりたいわけじゃない。
由比一真「そろそろ来るかな?」
樋渡花音「え? 誰かとお約束ですか?」
勢いよく、屋上のドアが開いた。
相楽宗吾「一真っ! テメエ・・・」
樋渡花音「相楽先輩・・・?」
何故か相楽先輩は、一真先輩からかばう様に私の前に立った。
相楽宗吾「樋渡もらうってどういうことだ!?」
由比一真「さすが、早かったね」
相楽宗吾「・・・くそっ、カマかけやがったな」
樋渡花音「さ、相楽先輩、落ち着いてください」
由比一真「ちゃんと話した方がいいよ、ふたりでさ」
相楽宗吾「・・・・・・」
その時、今度はゆっくりと屋上のドアが開いた。
???「もう、なんでカフェにいないのよ?」
由比一真「奈々子さん」
???「わざわざ来てあげたのに」
入ってきたのは、あの美女だった。近くで見るとより一層美しい。
樋渡花音(学園祭にも呼んでたんだ・・・)
胸がぎゅっと押しつぶられるように苦しくなる。
???「あっ、昨日も会ったわね。相楽奈々子で~す。よろしく」
樋渡花音(相楽!? 相楽ってことは・・・)
樋渡花音「・・・相楽先輩、け、結婚してたんですか!?」
相楽宗吾「んなわけあるか! なんでオマエはそんなに阿呆なんだ!」
樋渡花音「え? え?」
相楽宗吾「母親だよ! こんなナリでも、とっくに40超えてる」
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