〇黒背景
　　『消し去りたい過去』ほど
　　執拗に自分を苦しめてくるものだ。

〇アパレルショップ
　　ヒメコは何を着せても可愛いわねぇ〜！
　　お母さん、私が可愛いと嬉しい？

〇綺麗なコンサートホール
　　ヒメコ、また金賞取ったな〜！
　　イチバン目立つ絵だったぞ〜！
　　お父さん、私が金賞取ったら嬉しい？

〇豪華なリビングダイニング
　　ヒメコはすごいな！
　　教えた事、何でも覚えるし！
　　ホント天才だよ！
　　きっと将来大物になるんでしょうね！
　　お母さん、お父さん、喜んでくれた？
　　私が『出来る子』だと嬉しい？
　　なぁ、ヒメコ？
　　ねぇ、ヒメコ？
　　将来の夢はなぁに？
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)「え？」

〇黒背景
　　────あれ？
　　私が、私の為にやりたい事って
　　ナニカあったっけ？

〇水中
　　過去は決して消せない、が
　　シガラミを断ち切る方法は、ある

〇黒背景
【V】灰冠 ヒメ「何もかも」
【V】灰冠 ヒメ「ブッ壊れちまえ」

〇総合病院
　　11月２日

〇病院の診察室
精神科医「改めて、一昨日に遭われた強姦事件」
精神科医「周囲には『秘密』にしたいと？」
「はい」
「職場がプロダクション系なので、 評判にキズが付く可能性は極力控えたくて」
精神科医「・・・薊さんがそう考えるのなら、 私からも警察にはそう説明しておきます」
精神科医「性被害に遭われた方へのプライバシーは 何より大切に扱っていただかないと」
「助かります」
精神科医「ですが」
精神科医「警察の捜査が 打ち切られる訳ではありません」
精神科医「『事情聴取』『実況見分での立ち会い』」
精神科医「トラウマに向き合う時間が 今後何度かあるでしょう」
「・・・」
精神科医「でも、辛い時は、 いつでも病院を頼って下さい」
精神科医「『気軽に相談出来る人間』は 多いに越したことはないですから」
「はい、ありがとうございました」
看護師「先生、あの方っ」
精神科医「うん、ワタシも初めて見た」
精神科医「非道な事件に遭って間もないハズなのに」

〇オフィスビル前の道

〇個別オフィス
風見 闘莉(かざみ とうり)「薊、本当に大丈夫か!?」
風見 闘莉(かざみ とうり)「『階段から落ちて救急搬送されてた』って！」
風見 闘莉(かざみ とうり)「退院出来たなら良かったけどさ！」
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)「大丈夫です、今度診断書持ってきますので」
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)「でも、配信に穴空けてしまって──」
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)「申し訳ありません」
風見 闘莉(かざみ とうり)「配信の事はいいから！ 病み上がりは、あんまり無理するなよ！」
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)「・・・はい」

〇黒背景
　　あっ

〇車内

〇オフィスの廊下
「よォ」
莢蒾 ナゴミ(がまずみ なごみ)「”身体大丈夫なのかよ？”」
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)「”お陰様で大丈夫です”」
莢蒾 ナゴミ(がまずみ なごみ)（・・・）
莢蒾 ナゴミ(がまずみ なごみ)「やる」
莢蒾 ナゴミ(がまずみ なごみ)「ちゃんと自己管理、しとけよ？」
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)「先輩」
「一昨日の、『頼まれ事』の件」
莢蒾 ナゴミ(がまずみ なごみ)「・・・」
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)「あの時渡せなかったので これ、お詫びの品です」
莢蒾 ナゴミ(がまずみ なごみ)「蜂蜜レモン飴、ありがとな」
「『教えてもらった店』で買いました」
「あそこにマヌカハニー飴なんて 売ってませんでしたよ？」
莢蒾 ナゴミ(がまずみ なごみ)「!?」
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)「普段からお供にしてる飴、」
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)「いつもどこで買ってるんですか？」
「・・・ネットで、買ってたから」
「間違えたわ 今度から切らさねーようにする」
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)（やっぱり『そう』なんですね）
　　あの店には蜂蜜レモンもマヌカハニーも
　　どっちも売ってましたよ？
　　あっ、まただ

〇病院の診察室
精神科医「『動悸』『吐き気』『フラッシュバック』」
精神科医「恐らくは 『PTSD（心的外傷後ストレス障害）』 の症状だと思われます」
精神科医「身体と心は繋がってますから、 あまり無理なさらないようにして───」

〇オフィスの廊下
　　男の人と話すだけで
　　先輩と顔合わせるだけで
　　吐きそう

〇黒背景
　　でも、いい
　　せっかく、みつけた
　　私の───

〇オフィスのフロア
　　瀬羽洲 千秋 27歳
　　Vクラスタ所属マネージャー
　　担当：灰冠ヒメ、癒野ぷりす
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)「これ、復帰後のスケジュールね」
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)「セバスさん、助かります」
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)「『病欠』の説明はSNSでしといたし アレで別に炎上してないから、安心して」
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)「次の配信は明後日の11月４日」
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)「一応、冒頭で謝罪するのが 差し支え無い対応かなって思う」
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)「分かりました」
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)「まずは気持ちと身体を優先してね」
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)「今月は週４で雑談枠とゲーム実況してく いつものスタイルに加えて──」
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)「来週の11月11日は 『ぷりすの新衣装お披露目会』に参加」
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)「11月24日には 『ぷりすの生誕祭』に参加」
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)「月末には『TV収録』の予定があるかな これも、ぷりすとのセット案件」
「今月はコラボ系の企画多めだから頑張ろうね」
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)（・・・）
薊 ヒメコ(あざみ ひめこ)「あの、ちょっと良いですか？」

〇立ち食い蕎麦屋の店内
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)「ヒメコちゃん、 明後日の企画上げてきたんですけど」
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)「雑談配信枠の中で『NG無し質問コーナー』やりたいんですって！」
風見 闘莉(かざみ とうり)「視聴数伸びそうだから許可した👍」
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)「え〜！大丈夫です!?」
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)「元々場回し苦手なタイプなのに・・・ 負担ヤバいんじゃ？」
風見 闘莉(かざみ とうり)「そこで裏方のサポートが必要な訳よ」
風見 闘莉(かざみ とうり)「ウチで一番場数踏んでる 『マネちゃん』の腕の見せ所さ」
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)（タレントも裏方も兼任で補わせてっ）
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)（実力でマンパワーで埋められるなら こんなに苦労しないのに・・・）
風見 闘莉(かざみ とうり)「お前が良いところ見せれば、 薊と『いい関係』築けるかもよ？」
風見 闘莉(かざみ とうり)「『童貞脱出』のチャンスじゃねーか！」
風見 闘莉(かざみ とうり)「頑張れっ！」
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)（ヒメコちゃん、退院したばっかだし）
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)（手助けは絶対に必要だよな・・・）

〇幻想空間
　　でも、病み上がりの女の子に
　　なんて声をかけてあげたらいいんだろう？

〇女の子の一人部屋

〇大きいショッピングモール
　　へぇ
　　ここでこう振って

〇仮想空間
　　誰も傷つけない言い方
　　なるほどなぁ

〇荒廃した街
　　視聴者目線だとちゃんと仲良く見えるなぁ
　　やっぱり『使える』かも

〇女の子の一人部屋
　　う゛
　　う゛ぇ゛ぇっ
　　はぁっ、はぁ
　　・・・先輩、
　　ほんとうに、配信、上手なんですね

〇仮想空間
　　11月４日
【V】灰冠 ヒメ「この度、ハロウィン配信で病欠してしまい」
【V】灰冠 ヒメ「視聴者さん、関係者様各位に 迷惑をかけたこと」
【V】灰冠 ヒメ「この場で謝罪します」
　　ヒメが無事でよかった！
　　心配したんだからねっ！
【V】灰冠 ヒメ「・・・温かいコメで泣きそう」
【V】灰冠 ヒメ「みんな、本当に大好きっ」
　　［￥1000］
　　【警報】脳ミソとろけさせる声帯兵器の帰還
【V】灰冠 ヒメ「ごめん、嬉しいけど兵器扱いは流石に草だわ」

〇オフィスのフロア
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)（生まれ変わったみたいに スラスラ回すな今日はっ！）
瀬羽州 千秋(せばす ちあき)（オレのサポート無くても全然出来てるし！ どうしちゃったんだろ？）

〇仮想空間
【V】灰冠 ヒメ「それじゃあ次の質問！ドンドンいこうか！」
　　初体験は何歳ですか？
【V】灰冠 ヒメ「『まだ』に決まってんじゃんッ！」