エピソード7(脚本)
〇墓石
9月に入った頃、僕は木﨑さんと一緒に出掛けた、お墓参りだ
木﨑瑠璃「今日が兄の命日なんです」
遠藤浩一「そっか・・・」
木﨑さんのお兄さんは、夏休みが終わった直後に死んでしまったらしい
遠藤浩一「どんな人だったの?」
木﨑瑠璃「うーん、思い出はいろいろありますけど・・・」
木﨑瑠璃「そう言えば、兄が自殺する少し前に、二人で出掛けましたね」
〇廃ビルのフロア
夏休みの最後に、兄に誘われて出掛けたんです
都会の真ん中に廃墟があって、それを見にいこうって・・・
私はそんなの興味なかったんですけど、兄は一学期の頃からどこか様子がおかしかったから、少し心配で・・・
だから付いて行くことにしました
でもその廃墟の最寄駅に付く前に、兄は急にやっぱりやめようって言い出したんです
それで遊園地に行って、閉園間際まで遊んで、夜遅くに電車で帰って、暗かったから親に駅まで迎えに来てもらって・・・
凄く怒られて・・・でも楽しかった・・・
あの時は、なんてことのない1日だと思っていたけど・・・
兄さんはもう死ぬつもりで、最後の思い出を作ろうとしていたのでしょうか?
〇墓石
木﨑瑠璃「・・・帰りましょうか」
遠藤浩一「そうだね」
僕たちは木﨑家の墓を後にした
誰かとすれ違った
そして後ろから声が聞こえた
「なんだ? 生意気に花なんか供えられやがって・・・」
振り替えると、木﨑家の墓を蹴飛ばしている男がいた、花は踏み潰されてグチャグチャだ
木﨑瑠璃「何してるんですか!」
藤山「は? 何だお前、何か文句あんのか?」
木﨑瑠璃「人の家のお墓を蹴飛ばさないでください」
藤山「はあ? 俺には蹴飛ばす権利があるんだよ!」
いや、どんな法律にも、そんな権利は認められてないだろ・・・
藤山「そもそも、こいつが勝手に死んだせいで面倒なことになったんだろうが!」
木﨑瑠璃「何を言って・・・」
藤山「ん? お前の顔、どこかで見たことがあるな」
藤山「あ、そうか、お前が木﨑の妹か!」
木﨑瑠璃「えっ?」
知り合いだろうか?
いや、この顔はどこかで見たような気が
遠藤浩一「パンフレットだ! 藤山コインのパンフレットに写真があった!」
木﨑瑠璃「藤山!」
木﨑さんは肩を怒らせ、つかつかと歩み寄る
木﨑瑠璃「前から聞きたかったことがあります! どうして兄をいじめたんですか」
藤山「ああん? ありゃあいつが悪いんだよ」
木﨑瑠璃「どれぐらい悪いんですか? 死ななきゃいけないほど悪いことをしたんですか?」
藤山「俺が殺したんじゃねぇよ、あいつが勝手に死んだんだろ?」
木﨑瑠璃「同じことです」
藤山「ったく・・・なぁ? 約束を守らないやつって最悪だと思わないか?」
木﨑瑠璃「えっ?」
藤山「あれは6月、いや7月ぐらいだったかな 木﨑に妹がいるって聞いたからさ、写真持ってこさせたのよ」
藤山「そしたらガキにしては可愛かったから、一緒に遊んであげてもいいかなって思ったわけ」
木﨑瑠璃「な、何の話ですか?」
藤山「木﨑は相変わらずブツブツわけのわからないことを言ってて、それを皆で説得してさ、8月も終わるかと思ったわ」
藤山「木﨑は絶対に連れてくるって言ってたくせに、当日に約束をすっぽかして・・・ それからは呼び出しにも応じないし・・・」
藤山「本当にしょうがないやつだよな・・・ だから新学期が始まったらキツく絞めてやったんだ、当然だよな?」
藤山「そしたら急に飛び降りだよ ったく・・・これだから社会常識のないやつは嫌いだぜ」
木﨑瑠璃「・・・」
藤山「ふん、あれから六年か、こうして会ってみると、木﨑の妹なんかにしておくのがもったいない」
藤山「今夜は暇か? 一緒にディナーでもどうだい?」
木﨑瑠璃「・・・」
藤山「何だよ、その目は? せっかくこっちから誘ってやったのに」
木﨑瑠璃「お前は、兄さんの仇!」
藤山「違うって言ってるじゃないか 一晩を共にすれば、誤解も解けると思うんだけどね」
藤山は下卑た笑いを浮かべながら、木﨑さんの腕をつかむ
木﨑瑠璃「嫌っ! 離して!」
遠藤浩一「やめろ! 木﨑さんに近づくな!」
藤山「誰だてめえ?」
遠藤浩一「誰でもいいだろ、離せよ!」
藤山「うぜぇ!」
遠藤浩一「うわっ?」
木﨑瑠璃「え、遠藤さん!」
遠藤浩一「木﨑さんを、離せ・・・」
参拝客「んんん?」
参拝客「何じゃ? ケンカか? 警察呼ぶか?」
藤山「ちっ・・・」
〇シックなリビング
僕たちは木﨑さんのマンションに戻ってきた
失敗したな、さっきのやり取りを録画できていれば、一発で警察沙汰にできたかもしれないのに
木﨑さんはどこか様子がおかしい
ずっと何かを考え込んでいる
遠藤浩一「木﨑さん、大丈夫?」
木﨑瑠璃「私のせい、なの?」
遠藤浩一「え?」
木﨑瑠璃「私が藤山の言う通りにしていれば、兄さんは死なずに済んだかもしれないの?」
遠藤浩一「木﨑さん?」
木﨑瑠璃「私が藤山と・・・藤山と? あんな男と?」
木﨑瑠璃「う、ううううう・・・」
遠藤浩一「木﨑さん、しっかりして!」
木﨑瑠璃「はぁ、はぁ・・・」
遠藤浩一「そんなこと考えちゃダメだ! あいつらが約束を守るわけがない!」
木﨑瑠璃「でも、でも・・・」
遠藤浩一「僕はイジメられていた頃、万引きをさせられたことがある」
木﨑瑠璃「え、遠藤さん?」
遠藤浩一「うまくやったら、もういじめないって言われて・・・ちょっと考えれば、そんなの嘘だってわかったのに」
遠藤浩一「あいつらは、言われた通りに万引きして店を出た僕を、そのまま店に付き出したんだ スマホで一部始終を録画して・・・」
木﨑瑠璃「そんな・・・」
遠藤浩一「もう、誰も僕の言うことを信じてくれなかった、あの時は生きていてもしょうがないって思ったよ」
イジメを受けていると、正常な判断力がなくなっていく
人間ではない物に堕ちていく
それを見て楽しんで笑う
それがイジメの本当の目的なんだ
あいつらの暇潰しのために、僕は人間を辞めさせられた・・・
遠藤浩一「君のお兄さんは、木﨑さんを守りたかったんだ」
遠藤浩一「自分の命よりも、木﨑さんの幸せを願ったんだ」
遠藤浩一「凄い勇気が必要だったと思う・・・」
木﨑瑠璃「遠藤さん、ありがとう もう大丈夫です」
遠藤浩一「そう、ならいいけど・・・」
木﨑瑠璃「いえ、やっぱり大丈夫じゃないかもしれません 今日はもう少し一緒にいてください」
遠藤浩一「うん・・・」
〇シックなリビング
「遠藤さん・・・」
「私は藤山を絶対に許しません」
木﨑さんはそう言って、僕の手を握る
「うん・・・」
僕もその手を握り返した