エピソード32-白色の刻-(脚本)
〇貴族の部屋
黒野すみれ「・・・・・・」
私は結局、夏坂昂と書かれた封筒と
秋川昂と書かれた封筒をこの部屋で開けた。
夏坂昂と秋川昂は同一人物で、明石刻世の3番目の夫。
明石春刻の実父にして、専属使用人。
白城百合香の母・桃香とも面識があったことが分かった。
黒野すみれ「(確かに夕梨花さん・・・・・・白城百合香には色んな意味で動機もある)」
黒野すみれ「(春刻を殺害しても、朝刻さんを当主にできるし、)」
黒野すみれ「(秋川さんにも苦痛を与えることができる)」
黒野すみれ「(秋川さんを殺害しても、桃香さんの無念を晴らせるし)」
黒野すみれ「(春刻に苦痛を与えて、あわよくば、当主の座を朝刻さんへなんてこともあるかも)」
黒野すみれ「(あとは毒物もそう・・・・・・朝刻さんと出会う前に樹海で服毒自殺を考えていた)」
黒野すみれ「(その毒をまだ白城百合香が持っていたら・・・・・・)」
〇大きな日本家屋
夕梨花「・・・・・・」
〇貴族の部屋
黒野すみれ「(でも、これって実行が可能ってだけで、実行したって証明ができないんだよな)」
そう・・・・・・やはり秋川さんの命を奪った
凶器の実物が欲しい。
黒野すみれ「(あ、でも、警察の捜査では特に怪しい人物は上がってこなかった筈)」
黒野すみれ「(なら、少なくとも誰の指紋もついていなかったということになる)」
〇黒
白城百合香の指紋も・・・・・・
〇貴族の部屋
黒野すみれ「(彼女が犯人である、または犯人ではないと確認するにはどうしたら良い・・・・・・)」
黒野すみれ「(もう1度、胡蝶庵に行って、相打ち覚悟で彼女と対峙するか)」
〇風流な庭園
おそらく、私が1番最初に庭を調べた時、
私を殴って気絶させ、蔵に運び、蔵に火を放ったのは
彼女だろう。
彼女に意識がない私を運ぶなんて芸当ができるか
分からないが、ここは普通の家ではない。
車椅子くらいあってもおかしくないし、
なければ荷台やシーツのワゴンに私を載せても良い
〇古民家の蔵
火を恐れ、この屋敷を大切に思っていた人物
火は恐れていないが、この屋敷を大切に思っていた人物
あとは、その時間、一緒にいたであろう人物達
黒野すみれ「(まぁ、彼らが共犯ならお手上げだけどさ。多分、違う)」
正確にはそう思いたい。
あとはこの2人もいるが、多分、違うだろう。
朝刻さんは次期当主につけるかも知れないのに
こんなリスクを冒すとは思えないし、
玄人さんは実行は可能だが、私を消したいのなら
わざわざ殴って気絶させて蔵に運んで火をつけるなんて
しなくとも良いと思う。
〇露天風呂
それこそ、言葉巧みに露天風呂やら
〇銀閣寺
月見櫓に行くように仕向けて、突き落とすこともでき、
万が一、上手くいかなくても、私を気絶させ、
高いところから突き落とすことも可能だろう。
〇貴族の部屋
私は少し気が滅入りそうになりながら、ベルを手にとる。
すると、リエさんはすぐにかけつけてくれた。
リエ「お呼びですか? 黒野様」
黒野すみれ「はい。これから、ある人と話したいと思ってるんですけど、」
黒野すみれ「どう話すべきか悩んでいて、相談に乗っていただけないかと」
リエ「どう話すべき?」
黒野すみれ「えぇ、今までは怪しいものがあったので、それで話を切り出していたんですが」
そう、例えば・・・・・・
〇風流な庭園
彼なら懐中時計のチェーン。
〇屋敷の書斎
彼なら天使のオルゴール。
〇貴族の部屋
リエ「確かに、消去法で貴方が犯人ですって言われても納得できないですよね」
リエ「犯人からしてみると・・・・・・」
黒野すみれ「えぇ、それにその人は私をいとも簡単に消せると思います」
黒野すみれ「何回も殺されかかっているので」
私が今も生きているのは春刻が時間を止めて、
私が死にかけた事実を確定する前に私を過去に戻し、
私が死にかけた事実をなかったことにしたからだ。
逆に言えば、もし、私が死んだ事実が確定したまま
時間を止めない。または、もう2度、
私が生きていた時間からやり直されなかったら
私の死は動かしようのないものになる。
それこそ、
〇銀閣寺
彼らのように・・・・・・
〇貴族の部屋
リエ「黒野様?」
黒野すみれ「あ・・・・・・すみません。少し関係ないことを考えてしまってました」
リエ「関係ないこと?」
黒野すみれ「あ、えーと・・・・・・上手く言えないんですけど、春刻ってどんな人なのかなって」
つい、色んなことがあり、見落としていたのだが、
春刻は異父兄弟が亡くなったとしても、
時間を戻さなかった。
ある意味、自分や私の生命を狙う可能性がある彼らを
わざわざ生き返らせるような真似はしないだろう。
ただ、彼らのことを殺したまま、この先、春刻は
平気で生きていられるのか、と。
リエ「黒野様・・・・・・」
黒野すみれ「すみません、今はこんなことを考えている場合ではないんですけど」
黒野すみれ「少し春刻が分からなくなりました。殆ど彼とは話したことはなくて」
黒野すみれ「私はある人を助けたいと思って、彼に協力していたんですけど、」
黒野すみれ「それは正しいことだったのかって・・・・・・」
リエ「黒野様・・・・・・は春刻様のこと、どう思われていたんですか?」
黒野すみれ「え?」
思いがけなくリエさんに質問され、
私は間抜けな声を出す。
黒野すみれ「春刻。彼はのらりくらりしていて、本気なのか、冗談なのか、分かりにくくて」
黒野すみれ「でも、秋川さんのことを大事に思っていて・・・・・・」
黒野すみれ「多分、私も大事に思ってくれている」
でなければ、
私の死が確定した後で時間を止めても良い筈で
私の生死を盾に私を無理矢理、過去へ送ることだって
可能な筈だ。
リエ「えぇ、春刻様は黒野様の言われる通りの方だと私も思います」
黒野すみれ「リエさん・・・・・・」
リエ「春刻様には黒野様が必要です」
リエ「もし、黒野様さえよろしければ、彼を助けてあげてください」
〇車内
黒野すみれ「・・・・・・」
リエ「本当によろしいんですか? 朝刻様はまだお帰りではないようですが・・・・・・」
黒野すみれ「はい、馬を射んと欲すれば先ず将を射よ作戦も良かったですけどね」
そう、正しくは将を射んと欲すれば先ず馬を射よだが、
〇レンガ造りの家
彼女を討つには
〇山の展望台
彼の協力を得るというものだ。
〇車内
黒野すみれ「ただ、もし、彼らがグルだった場合、かなり危険なことになりそうで」
そう、まだ同性の白城百合香だけなら何とか
勝ち目はあるだろう。
〇山の展望台
黒野すみれ「・・・・・・という訳なんです」
明石朝刻「そんな、まさか・・・・・・夕梨花さんが秋川さんや春刻を?」
黒野すみれ「えぇ・・・・・・」
明石朝刻「さて、どうしたものか。彼女」
夕梨花「そうですね。今は胡蝶庵での捜査がされているので、屋敷外で始末した方がよろしいかと」
明石朝刻「そうだな。明石家はまずいかもな。じゃあ、日が落ちてから海にでも沈めるか」
夕梨花「はい」
夕梨花「幸い、まだ未使用のトランクもありますしね」
夕梨花「あとは重りも一緒に入れておけば彼女は助からないでしょう」
明石朝刻「そうだな。流石、夕梨花さん。じゃあ、それで行こう」
夕梨花「かしこまりました。朝刻様」
〇車内
リエ「・・・・・・」
黒野すみれ「まぁ、そんな風には考えたくないんですけどね」
でも、考えざるをえない。
リエ「分かりました。ですが、秋川さんのことを単刀直入に聞くのも危険なのでは?」
黒野すみれ「ええ、確かにあまり安全ではないかも知れませんし、」
黒野すみれ「危険な割に何も話さない場合もあるかも知れません」
よく犯人を怒らせたり、動揺させたりして、
犯人に自供してもらうみたいなことはあるが、
よくあんなに上手くいくなと感心することがある。
黒野すみれ「ちなみに、夕梨花さんってリエさんから見てどんな感じの方ですか?」
リエ「そう、ですね・・・・・・。彼女と私は同時期に明石家に入ったので、一時期、」
リエ「彼女と私は同じ研修を受けてました。彼女は一言で言えば、卒がありません」
リエ「十分にお気をつけてください。ダメだと思ったら、引いてください」
リエさんは珍しく重々しく言うと、私もはいと返す。
どうやら、彼女の仕える屋敷に着いたようだ。
〇レンガ造りの家
明石朝刻の屋敷。通称・有明荘。
黒野すみれ「(胡蝶庵と言い、蒼帝城と言い、通称って・・・・・・)」
ちなみに、本邸はグレートハウス。
今は亡き東刻さんの住居は明石蝋燭株式会社本部棟。
と呼ばれているらしい。
黒野すみれ「(まぁ、今更、この家に普通を求めてもなぁ)」
私はリエさんの車が見えなくなると、有明荘に近づく。
すると、私は声をかけられた。
「黒野様ですね」
夕梨花「先程はお電話をいただき、ありがとうございます。主人に代わり、お待ちしておりました」
彼女は有明荘の庭先へ静かに佇んでいた。