真打ち登場!

射貫 心蔵

真打ち登場!(脚本)

真打ち登場!

射貫 心蔵

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〇黒
  これは、私の友人の物語です

〇病院の入口
  彼女が虫垂炎を患い
  私は病院へお見舞いに行きました
  友人のAも誘いましたが
  「バイトで来れぬ」とのこと

〇綺麗な病室
彼女「いやぁ、痛いのなんのって」
彼女「お腹の中を銛でつっつかれた気分!」
  私を気遣っているのか
  彼女は気丈に振る舞っていました
  手術は無事に終わり、後は退院を待つばかり
私「あんまり騒ぐと傷に障るよ?」
彼女「そうね 実はちょっとズキズキしてたんだ」
彼女「せっかく来てくれたのに 気弱な所を見せられないでしょう?」
私「コイツゥ!」
  アホみたいにノロケていますと
  どこからか我々を覗く視線を感じました

〇病室
  向かいのベッドの病人です
  見たところ二人は兄弟で
  兄が弟の面倒を見ているようでした

〇綺麗な病室
「・・・・・・」
私「坊や、調子どうだい?」

〇病室
アンちゃん「サイアク」
タロウ「・・・・・・」
  弟の頬はやせこけ、目はくぼみ、顔は青白い
  お世辞にも健康体とはいえません
  兄も看護に疲れ果てた様子

〇綺麗な病室
私「そっか」
私「パパとママは?」

〇病室
アンちゃん「二人とも仕事に出かけてるよ」
アンちゃん「俺がいなくちゃ、弟はひとりぼっちさ」
タロウ「アンちゃん、遊んでおいでよ」
タロウ「どうせ僕は助からないんだ」
アンちゃん「バカいうな!」
アンちゃん「タロウは助かる! 絶対助かるよ!」
タロウ「・・・・・・ごめん」

〇綺麗な病室
私(兄の負担になっていることに 弟は責任を感じている)
彼女「ねぇタロウくん、好きなテレビ番組は?」
彼女「アニメとか、特撮とかさ」
私「このお姉さん、特撮にとっても詳しいんだ!」
彼女「ハカセと呼んでちょーだい!」

〇病室
アンちゃん「ケッ!」
アンちゃん「いい歳して何が特撮だよ!」
アンちゃん「なぁタロウ?」
タロウ「ハカセ、かっこいい」

〇綺麗な病室
彼女「エヘヘ、かっこいいだって!」
彼女「イツツ!」
私(騒ぐなっちゅーに)
私「タロウくんは、何のヒーローが好き?」

〇病室
タロウ「メタルウィング!」

〇惑星
  説明しよう!
  メタルウィングとは
  四十年以上続く『鋼鉄戦士』シリーズ
  最新作の、三人組のヒーローである!
  因みに私の世代は
  デビルスラッシュという侍戦士でした

〇綺麗な病室
彼女「ねぇ聞いた? メタルウィングですって」
私「あぁ」
私「これも何かの縁かもしれないな」
私「ちょっと待ってて!」

〇病室
アンちゃん「彼、どこ行ったの?」

〇綺麗な病室
彼女「呼びに行ったのよ、メタルウィングを」
彼女「彼、ヒーローと友達なの!」

〇病院の入口
私(A、出番だぞ)
  RRRRRR!!
  ガチャ!
  はい
私「やぁA」
私「いま時間、大丈夫かい?」
  あぁ
  ちょうどバイトが終わった所さ
私「君の力を借りたい 悪いがコッチに来てくれないか? メタルウィングとして!」
  今からか!?
私「頼むよ 一人の男の子の運命がかかってるんだ」
私「彼はメタルウィングに会いたがってる 君と会うことで 生きる希望を取り戻せるかもしれない」
私「頼む!」
  そういうことなら
私「ありがとう! 恩に着るよ!!」
  病院へ行けばいいのか?
私「あぁ、彼女と同じ病室だ」
  二〇一号室か
  んで、男の子の名前は?
私「タロウくん」
  俺の弟と同じ名前だ
  すまない、独り言だ
  とりあえず、上の人に掛け合ってみるよ
  メタルウィングとして行けるかどうか
  約束はできないぜ?
私「無茶は承知の上さ」
  ふふ、あつかましい奴
  大船とはいわんが
  小舟に乗った気でいてくれ
私「わかった、ありがとうA!」
  プツン!

〇大きいデパート
  Aのアルバイト先は、大型デパート

〇デパートの屋上
  屋上で行われるヒーローショーの
  スーツアクターをしています
  タロウくんが憧れる、メタルウィングの
  彼が来てくれれば
  タロウくんはどんなに喜ぶことでしょう
A「主任さん、ちょっとお話が」

〇店の事務室
主任「--なるほど 病気の男の子がメタルウィングに会いたいと」
A「はい」
A「私が元気づけることで その子にパワーを与えられると思うのです」
A「どうかお見舞いの許可を」
主任「事情はよくわかった」
主任「しかし、許可を与えることはできん」
A「なぜです?」
主任「規則だよ」
主任「いかなる理由があろうと スーツの私用は厳禁だ」
A「子供の命がかかってるんですよ?」
主任「気の毒だとは思う」
主任「だが例外は認められん」
主任「いいかい? 君は本物のメタルウィングじゃない」
主任「ヒーローショーの役者に過ぎん」
主任「個人的な理由で ノコノコお見舞いに行ってみろ」
主任「その時は美談で済まされるが 後が大変だぞ?」
主任「「ウチの病院にも来て下さい」 「私の所にも」 この手の依頼が、後を絶たなくなる」
主任「スルーしようものなら苦情が来るだろう 「ウチには来なかった、薄情者!」」
主任「罵詈雑言が巡り巡って 本家大元の名声に傷をつける 「メタルウィングは冷たい偽善者だ!!」」
主任「我々のポカのせいで メタルウィングの人気は失墜 視聴者は離れ、四十余年の伝統が潰える」
主任「君にその責任が取れるかね?」
A「・・・・・・」
主任「ヒーローの影響力は計り知れない 軽はずみな行動が、重大なトラブルに繋がる」
主任「メタルウィングの顔に 泥を塗りたくないだろう?」
主任「自重してくれるね?」
A「私はしがない役者ですが--」
A「子供を想う気持ちは 本物にも負けないつもりです」
A「私のクビでよければ 喜んでお譲りしましょう」
主任「いうじゃないか」
A「世界の平和を救う者が たった一人の少年の心も救えずに どうしろというのです?」
主任「世迷い言を!」
主任「これは慈善事業じゃない、ビジネスなんだ!」
A「お金の問題じゃないでしょう」
A「ヒーローは子供の模範であるべきだ」
A「人を助けるのは、人として当然のこと」
A「違いますか?」
主任「・・・・・・」
主任「・・・・・・」
主任「いいだろう」
主任「それぐらい青臭い方がヒーローらしい」
A「主任さん」
主任「偉くなると、人間の尊厳より 損得勘定を優先してしまってイカン」
主任「行きたまえ、責任は私が持つ」
A「あ、ありがとうございます!」
主任「・・・・・・」

〇大きいデパート
A(タロウくん、今いくぞ!)
  ピューン!

〇歴史
  Aには弟がいました
  三つ年下のタロウくん

〇病室のベッド
A「おいタロウ、しっかりしろ!」
タロウ「ぼく、一度でいいから デビルスラッシュに会いたいなぁ」

〇基地の広場(瓦礫あり)
  彼が来てくれれば、病気なんか--

〇病室のベッド
A「ヒーローなんかいなくても 俺がなんとかしてやる! 病気を蹴散らしてやるよ!!」
タロウ「無理だよお兄ちゃんじゃ」
タロウ「お医者さんでも僕を治せない」
タロウ「デビルスラッシュじゃなきゃ」
A「・・・・・・」
A「くるよ」
A「デビルスラッシュはきっとくる」
タロウ「本当?」
A「本当さ!」
A「でも、お前がクヨクヨしてちゃ 彼はやってこないぞ?」
A「お客さんは元気よく出迎えないと そうだろう?」
タロウ「そうだね!」
A「ホラ、もう寝ろ。寝る子は育つってね!」
タロウ「わかった、おやすみ!」
A(この世に奇跡があるなら、一度でいい)

〇田舎の総合病院
  弟をヒーローに会わせてやってくれ!!

〇田舎の総合病院
  願い叶わず、タロウくんは天に召されました

〇歴史
  Aが正義の道を志すようになったのは
  当時の無力さを克服するためなのかも
  しれません

〇病院の入口
  キキーッ!!
A(はぁ、はぁ、ここか)

〇綺麗な病室
  コンコン!

〇病室
アンちゃん「ホントにきた!!」
A「やぁ、待たせたな」
A「君がタロウくんかい?」
タロウ「はい!」

〇綺麗な病室
彼女「カッコいい~!!」
彼女「いっつー!!」

〇病室
アンちゃん「ありがとう!」
アンちゃん「本当にありがとう!!」
アンちゃん「弟はアナタの大ファンなんです!」
アンちゃん「俺、何度も弟を励ましたけど 最後まで元気づけることはできなかった」
アンちゃん「俺じゃダメなんだ、アナタじゃなきゃ」
タロウ「アンちゃん」

〇綺麗な病室
「お兄ちゃん」

〇病室
アンちゃん「ヒック! ウック!」
A「・・・・・・」
A「ゴメンなタロウ、俺が弱いばっかりに!」
A「俺が、俺がもっと強かったら--」
A「よく頑張ったな、偉いぞ!」
A「最後まで諦めなかった君の頑張りが 私をここまで来させたのだ」
A「その思いやりを忘れないでくれ」
アンちゃん「はい!」
A(タロウ)
A(もう俺は、誰も悲しませない!)
A「あの技を使うしかないようだな」
A「危ないから下がっていてくれ!」

〇綺麗な病室
アンちゃん「あの構えは!」
私「一体なにがはじまるんだ?」
彼女「天を割き、地を割り、悪を砕く メタルウィング・グリーンの最終奥義!!」

〇病室
A「烈風火山!!!!」

〇綺麗な病室
私「な、なにが起こったの?」
彼女「病気の元を切り取ったのよ!」
アンちゃん「病気の元を切り取ったんだよ!」

〇病室
A「病気の元を切り取ったのさ!」
A「これでもう安心だ!」
アンちゃん「よかったなぁタロウ! もう病気が治ったってさ!!」
タロウ「・・・・・・」
アンちゃん「タロウ?」
タロウ「レッドとパープルは?」
A「へ?」
タロウ「烈風火山は三人のエネルギーを 合わせないと真の力を出せないハズ グリーンだけじゃ病気を治せないよ」

〇綺麗な病室
私「そーなの?」
彼女「あったわね、そんな設定 烈風火山は使い勝手が悪かったのか 一回コッキリしか使われなかったの」
私「いわゆる死に設定か」
私「TV局め、いらん縛りを」

〇病室
A「だ、大丈夫。私の技に狂いはなかった! タロウくんはきっと--」
タロウ「こないだもそう言って 悪者が生きてたじゃないか!」
タロウ「三人いなくちゃ止めを刺せないよ!」

〇綺麗な病室
私「そーなの?」
彼女「第十八話ね グリーンが止めを刺し損ねて 怪人が逃げ延び、パワーアップを」
彼女「驚いた タロウくん、相当なガチ勢だわ!」
私「ま、負けるなグリーン!」

〇病室
アンちゃん「おいタロウ、ワガママいうな」
アンちゃん「グリーンは忙しい中 お前のために駆けつけてくれたんだぞ」
A「いや、タロウくんのいう通りだ」
A「私の--」

〇モヤモヤ
タロウ「無理だよお兄ちゃんじゃ」

〇病室
A「--私の力が及ばなかったのだ」
  そいつぁ違うぜ

〇綺麗な病室
デビルスラッシュ「自分自身に負けちゃヤーよ」
私「デビルスラッシュ!?」
彼女「スゴいサプライズ!」

〇病室
タロウ「アナタは?」
デビルスラッシュ「メタルちゃんの先輩」
デビルスラッシュ「よぅ緑、力が欲しいのかい?」
デビルスラッシュ「受け取んな!」
A「ち、力が・・・・・・」
デビルスラッシュ「見せてみな、真の力を」
A「よ、よし!」
A「いくぞタロウくん!!」
A「烈風火山!!!!」
タロウ「か、体が軽い」
タロウ「まるで羽が生えたみたいだ!」
アンちゃん「タ、タロウ! 今度こそ!!」
タロウ「うん!」
タロウ「ありがとうグリーン!」
タロウ「それと--」
A「彼はデビルスラッシュ、侍戦士だ」

〇綺麗な病室
私「デビルさん、握手してください!」
私「TV観てました 実物の方がずっとハンサムですね!」
彼女「何度倒れても立ち上がるアナタの勇姿を見て イジメに立ち向かうことができました!」
彼女「私にとって アナタは最高のヒーローですわ!」
デビルスラッシュ「いえいえ」
デビルスラッシュ「ウチのメタルがいつもお世話になってます」
デビルスラッシュ「今後とも彼をよろしく」
デビルスラッシュ「では!」

〇病室
A「ま、待ってくれ!」

〇病院の廊下

〇階段の踊り場

〇病院の入口
  デビルさん!!
A「アナタは何者なのです?」
デビルスラッシュ「ヒーローに正体を聞くのはタブーだよ」
A「それはそうだが、聞かずにはいられない」
A「アナタはタロウくんを本当に治癒した」
A「まるで魔法だ」
デビルスラッシュ「魔法じゃない、君の力だ」
デビルスラッシュ「タロウくんを治したいという強い意思が 奇跡を起こしたのさ」
A「奇跡だって?」
A「奇跡は起こらない」
A「ここぞという時、一番大切な人を見捨てる」
A「まやかしだ」
デビルスラッシュ「たまにはいいんじゃない?」
  おーい!
私「どうだろう? 記念に一枚」
デビルスラッシュ「そら、友達のお呼びだ」
タロウ(お兄ちゃんこそ僕の永遠のヒーローだよ!)
A「デビルさん?」
私「やったな、タロウくん大喜びだ!」
私「しかしながら、君の人脈には恐れ入ったよ」
私「まさかデビルスラッシュが来てくれるとは!」
A「君が呼んだんじゃないのか?」
私「違うけど」
A「それじゃあ彼は--」
私「・・・・・・」
私「こんなのはどうだろう?」
私「君の頑張りに感心した神様が 天から使者をつかわした」
私「僕らの世代のヒーローに姿を変えて」
A「ヒネリが足りないよ、作家志望さん」
私「そっかな?」
A「そうとも」
私「こんな言葉もあるぜ? シンプル・イズ・ザ・ベスト!」
A「ふっ」
私「ふふ」
「ふははははははは!!」

〇空
  それから三日後、彼女は退院しました
  劇的な回復を果たしたタロウくんも
  後を追うように退院
  Aは優れた運動能力を買われ
  プロのスーツアクターに転身
  善玉・悪玉を問わず--
  様々な怪人を演じています

〇基地の広場(瓦礫あり)
  今日もまた

コメント

  • 変身して悪人を倒すのだけがヒーローじゃないですね。バイト先から自転車で子どものところに駆けつけるのが真のヒーローなんだ。デビルさんの正体は私も主任さんかと思ったけど、スーツにお腹が入らんじゃろがい、と思ってたら、コメント欄の作者さんの返答を読んで亡き弟くんで納得しました。

  • ふいに現れたデビルはAの弟たろう君だという設定みたいですが、私は主任でもよかったなあと思いました。Aの気持ちを最終的に受け入れ、責任は自分がとるといったところ、とても胸に響きました。彼も隠れたヒーローだったと思います。

  • 素敵なお話でした!メタルウィングカッコいい!

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