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きせき

エピソード31-白色の刻-(脚本)

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〇レンガ造りの家
明石朝刻「♪〜」
「朝刻様」
明石朝刻「あ、着替えたんだ」
夕梨花「変、ですよね・・・・・・私が着ているのは・・・・・・」
明石朝刻「ううん、とっても似合ってる」
夕梨花「ありがとう・・・・・・ございます・・・・・・」
明石朝刻「でも、本当に良かったの? 俺の専属使用人なんてなって・・・・・・」
明石朝刻「前の専属使用人の小夜子(さよこ)さんが結婚して遠くへ行ったから枠は空いてるけど」
明石朝刻「君は大学でも優秀な成績だったんだろう」
明石朝刻「大学自体に居づらくなったのなら違う大学へ行くのもできるんじゃあ・・・・・・」
夕梨花「・・・・・・優秀だったとは思わないけど、別の大学には確かに行けますね」
夕梨花「でも、色々、面倒な世界だったし、貴方には数日間、お世話になりました」
夕梨花「まぁ、貴方が私を必要ないと言うのなら出ていきますけど」
明石朝刻「それはまた樹海に行くってこと?」
夕梨花「・・・・・・分かりません。ただ、時間をおいて考えると、」
夕梨花「不思議なんですが、生きているのも悪くないように思えてきたんです」
夕梨花「多分、色々、自分でも分からないうちに追い詰められていたんですね」
夕梨花「もう何もかも終わりにしたいと思っていた」
夕梨花「まぁ、それでも、状況が劇的に良くなったという訳ではありませんが・・・・・・」
明石朝刻「ううん、今は悪くない・・・・・・でも十分だよ」
明石朝刻「生きていれば素敵なことが起こるなんて保証や約束はできないけど、」
明石朝刻「生きていたらという前提があってのことなんだろうから」
夕梨花「えぇ・・・・・・」
???「にゃーん」
明石朝刻「あ、お前!! 随分、久し振りだな」
夕梨花「朝刻様、その子は?」
明石朝刻「ああ、一応、うちで飼ってるネコになるのかな?」
明石朝刻「それこそ小夜子さんが可愛がっていたんだけど、小夜子さんがいなくなったら」
明石朝刻「パッタリ来なくてね。夕梨花さんはどう? ネコとか嫌いじゃない?」
夕梨花「いえ・・・・・・」
夕梨花「動物は苦手じゃないです。家が貧しかったので、飼ったりはしてませんでしたけど」
明石朝刻「そう・・・・・・じゃあ、ここに来た時は面倒を見てやってくれないか?」
明石朝刻「小夜子さんはヌーンって呼んでいたけど」
夕梨花「ヌーン。正午のことですね」
明石朝刻「うん、朝刻と小夜子だから昼にちなんだ名前が良いかなって」
明石朝刻「あ、別の名前でも良いよ。君の好きな名前で・・・・・・」
明石朝刻「でも、覚えやすい名前なら嬉しいかな? 俺は・・・・・・」
夕梨花「気を悪くしないでくれると。ちょっと人の名前を覚えるの、苦手でさ。でしたね?」
明石朝刻「うん。流石だね、夕梨花さん」
明石朝刻「そう多分、あまり長い名前だと忘れちゃう」
夕梨花「私はヌーンちゃんでも良いですよ。だって、私も夕梨花なのだから」

〇安アパートの台所
  あの頃とは違い、

〇レンガ造りの家
  非常に穏やかな日々が続く。

〇山の展望台
  少しいい加減なところもあるけれど、何だか、
  悩んでいるのが馬鹿らしくなってくる・・・・・・
  それが彼に対する心情だった。

〇黒
  だからって・・・・・・という訳ではないのだが、
  彼が当主になれないと分かった時は複雑だった。

〇城の会議室
夕梨花「あの、朝刻様・・・・・・」
明石朝刻「ん? もう遺言の開示は終わったみたいだから食事にでも行こうって言ったんだけど」
夕梨花「あ、はい・・・・・・本日はどうしましょうか?」
明石朝刻「うーん、ジビエも良いけど、今日は寿司の気分かな? 新当主誕生を祝って」
明石朝刻「あ、どうせなら海岸線をドライブはどうだろう」
明石朝刻「車は乗らないと乗れなくなるしね。あ、俺が運転席で、夕梨花さんは助手席!!」
夕梨花「・・・・・・かしこまりました」

〇黒
  自分が当主になれなくて、
  気落ちするようなタイプではないものの、
  当主になりたいと言っていたことを思うと、
  やはり少し当事者らしかぬ態度の彼。
  それに、彼の態度をおいておいても、
  私は知ってしまったのだ。
  知ってしまったことは果たして、幸せだったのか。
  不幸だったのか。分からないけど・・・・・・
  私は思いもかけず、あの人の名前を聞いたのだ。
  あの人の名前・・・・・・それは・・・・・・

〇貴族の部屋
黒野すみれ「夏坂昂って・・・・・・」
  苗字は違うが、「昂」という名前には心当たりがある。
黒野すみれ「確か、秋川さんも「昂」だった」
  「すばる」ではなく、「のぼる」という名前だった。
黒野すみれ「偶然・・・・・・なのか? しかも、「夏坂」という名前もどこかで見た・・・・・・」
  私は資料の山から「夏坂昂」の名前の書かれている
  資料を探し出す。
黒野すみれ「(なんで、こんなに資料があるんだろう)」
  マリさん曰く、私が必要するだけの資料がここにはある
  とのことだったが、なかなか資料が多い。
黒野すみれ「(確かに、ミステリーのように資料は膨大で整理なんてされてないし、)」
黒野すみれ「(幾つもの情報があって、複雑。でも、それが本当は普通なのかも)」
黒野すみれ「(現実は虚構よりもずっと地味だし、複雑・・・・・・なのだから)」
黒野すみれ「でも・・・・・・」

〇風流な庭園
  時に現実は思いもがけない偶然でできていることもある。
秋川「貴方は確か・・・・・・」
夕梨花「現在、朝刻様の専属使用人を務めております夕梨花と申します」
秋川「あ、そうでした。すみません、前は小夜子さんという方が長くいらっしゃったので」
秋川「改めまして、夕梨花さん。私は秋川昂。一応、春刻様の専属使用人をしています」
夕梨花「・・・・・・秋川さん、ですか」
秋川「えぇ・・・・・・秋は季節の秋に、川は小川とか川の字とかの川ですよ」
夕梨花「そうですか・・・・・・それでは、秋川さん」
夕梨花「実は、私は貴方にお聞きしたいことがあったんです」
秋川「私に、ですか? 私に答えられることなら良いのですが・・・・・・」
夕梨花「・・・・・・。貴方は白城桃香という人を知っていませんか?」
秋川「白城・・・・・・桃香・・・・・・さんですか?」
夕梨花「はい。白城桃香・・・・・・貴方をとても好いていた女性なのですが、」
夕梨花「貴方に連絡が取れなくなってしまったのです」
  厳密に言えば、彼女が薬物を投与されてしまったのは
  夏坂昂のせいではない。
  だが、もし、彼女が夏坂昂に連絡をとれていたら
  現在とは違う未来がやってきていたのではないか、と
  そんな風に思ってしまう。
秋川「・・・・・・すみません。少し心当たりがないですね」
秋川「彼女は今、どうしているのですか?」
夕梨花「・・・・・・知らない、と言いながら、彼女の現在には興味が?」
秋川「・・・・・・すみません。何故か、それを確認しておかないといけない気がして」
夕梨花「・・・・・・彼女は元気ですよ」
  牢獄の中で・・・・・・と毒づくと、
  夕梨花は秋川に礼と詫び、それに会釈をして去る。
夕梨花「さよなら、夏坂さん」
秋川「・・・・・・」

〇黒
夕梨花「(あの人が悪い訳じゃない)」
夕梨花「(でも、この差は何だと言うの・・・・・・)」
夕梨花「(明石家の当主になる者となれぬ者)」
夕梨花「(夏坂昂に愛された者と愛されずとも愛した者)」
夕梨花「(それに、素晴らしい人生を送れる者と惨めな人生しか歩めない者も・・・・・・)」
夕梨花「(私が、私達が何をしたというのだろう・・・・・・)」
夕梨花「(明石春刻だって特別、何かをした訳じゃない)」
夕梨花「(秋川・・・・・・いや、夏坂昂も経緯は分からないけど、夏坂昂である自分を殺して)」
夕梨花「(秋川昂として生きて、幸せになっただけ・・・・・・)」
夕梨花「でも、正直、やり切れない。そんなの・・・・・・」

〇貴族の部屋
黒野すみれ「あっ、これが夏坂昂さんの資料で、こっちが秋川昂さんの資料」
  探すこと、数分。私は2つの資料を見つける。
黒野すみれ「(どうしよう。資料は車で読んだ方が良いかな。それとも、ここで読んでいくか)」

〇車内
夕梨花「何度も何度も確認してしまい、すみませんが、本当に間違いないんですね」
マリ「えぇ、Mr. 夏坂昂はMr. 秋川昂で間違いありません」
夕梨花「そうですか・・・・・・すみません、これも確認なのですが、」
夕梨花「あの7ページ目の記載も真理なのですよね?」
マリ「えぇ、刻世様の1番目の旦那様、Mr. 蛭田が生きていたことにより」
マリ「明石家でのMr. 夏坂の立場は危うくなりました」
マリ「そして、彼は夏坂昂というPersonをこの世から消したのです」
マリ「そして、使用人・秋川昂として新しい人生をRestartさせた」
夕梨花「そんなに私にペラペラと話してくださるのはもうこの世に蛭田様も刻世様もいないから?」
マリ「それはNotですよ。私は真理しか口にできません」

〇新緑
マリ「いつでも」

〇けもの道
マリ「どこでも」

〇車内
マリ「誰にでも」

次のエピソード:エピソード32-白色の刻-

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