1.可愛い子には旅をさせよ(脚本)
〇オフィスのフロア
ミネ「吉野さん、そろそろお迎えの時間じゃない? あとはやるから」
吉野「いけない、お迎えだわ!」
「ごめん、お先ー!!」
ミネ「まったく・・・大変なのはわかるけど」
ミネ「仕事仕事、っと」
〇川に架かる橋
私、こと吉野静香はワーキングマザーだ。
子供は園に預けて時短で仕事をしている。
吉野(早くしないと延長料金が・・・)
〇幼稚園
吉野「すいませ・・・ん、遅れ」
保育士「吉野さん、大丈夫ですよ~。延長はかからないので、安心してください」
保育士「光くんもいい子にしてましたよ」
光「ママ!」
吉野「ありがとうございます。光、帰るよー」
吉野「さようならは?」
光「・・・さよなら」
吉野「もっとちゃんと大きい声で」
保育士「光くんは人見知りだからねえ」
保育士「はいはい、さようなら。また明日ね」
吉野「さ、スーパーよって帰ろうか。今日の夕ご飯は何がいい?」
光「カレー!」
〇スーパーマーケット
シキミズ「あら、光君ママ! 会社帰り? それとも園の帰り?」
吉野「両方。ゆめのちゃんママは一人でお買い物?」
シキミズ「ゆめのなら、お友達と遊びに行ったから一人でお買い物よ。光くん、こんにちは」
光「・・・」
吉野「こーら光! ちゃんとあいさつ!」
シキミズ「あらあら、あいかわらず恥ずかしがり屋さんね」
シキミズ「そういえば光君ママ、帽子の女って聞いたことある?」
シキミズ「最近ママ会で聞くんだけど、光君ママはなかなか来ないからさ」
吉野「聞いたことないな」
シキミズ「一言で言っちゃえば不審者なんだけどね。 格好は白いワンピースに帽子、ちょっと年増」
シキミズ「道端とか、スーパーとかでじーっと子供を見つめてんの。見てるだけなんだけど、気味が悪いから、噂で持ち切り」
シキミズ「正直、年は私とあんまり変わらないくらいかな。一回だけスーパーで見たことが、あ・・・」
シキミズ「光君は!?」
吉野「光!?」
吉野「うそ、いない! どこに行っちゃったの」
シキミズ「私、呼び出しかけてもらいに行ってくるから光君ママはこの辺りをさがして!」
シキミズ「見つかったらスマホに連絡ちょうだい!」
吉野「ごめん! ありがと!」
吉野「光ー!」
吉野「一人でいなくなるような子じゃないのに・・・」
〇駐車車両
吉野「光ー!」
吉野「あっ、いた・・・!」
〇ゆるやかな坂道
吉野「光ー!」
吉野「すみません、うちの子が」
吉野「もう、勝手にいなくならない!」
帽子の女「ここでお話ししていただけだし、べつにいいですよ」
帽子の女「また近いうちにね、光くん」
光「またねー!」
吉野「もーう。帰るわよ、光」
吉野「ゆめのちゃんママにも連絡しなきゃ」
〇スーパーマーケット
シキミズ「あー、いたいた。よかったね」
シキミズ「スーパーにも見つかったって言っておいたから」
吉野「勝手に駐車場の外の道まで出て・・・子供から目を離すもんじゃないわね」
吉野「親切な人が足止めしてくれていたからよかったわ」
吉野「ありがとう、ゆめのちゃんママ。 たすかったよ」
シキミズ「いいっていいって、こういうのはお互いさまでしょ」
シキミズ「うちのゆめのも、目をはなしたすきに帽子の女に連れてかれちゃうかもしれないし」
吉野「ああ、さっき言ってた不審者ね。白い服に、大きな帽子・・・」
吉野「光と話してた、あの人!?」
シキミズ「連れ去りみたいなことをしてるみたいだから注意しないとね、っていう話をしようと思ってたんだけど」
シキミズ「実物が先に来ちゃったか」
シキミズ「スーパーにも出たって、ママ友グループに共有しとくわ」
シキミズ「光くんママ、これから買い物?」
シキミズ「帰りに警備室に寄って、巡回強化してもらうように言った方がいいかもね。お礼もかねてさ」
吉野「そうする・・・って、光!?」
吉野「またいない!」
〇ゆるやかな坂道
吉野「いない・・・!」
〇街中の交番
吉野「すみません、子供が迷子で」
吉野「4歳位の男の子で、赤と白のジャンパーを・・・」
警察官「子供ね。どこで見失いました?」
吉野「そこのスーパーの駐車場で、ほんの数秒だったんですけど」
警察官「なるほどね・・・じゃああれかな」
警察官「奥さん、すぐに照会をかけるんで中で休んでいて下さい」
警察官「すぐに見つかりますから」
吉野「そ、そうですか・・・?」
〇交番の中
警察官2「お母さん、見つかりましたよ」
吉野「光、心配したのよ!」
光「・・・ママ」
警察官2「ありゃあ、隠れちまったか」
警察官2「まあ、今回はあんまりお子さんを叱らないであげて下さい。叱るんだったらこっちだ」
警察官2「ほら、こっちへ来なさい」
吉野「さっきの──!」
警察官2「有名人でね。ちょうどそれくらいの子供の連れ去りを何件か起こしている」
警察官2「もっとも何かするではなし、ただ子供をかわいがりたいだけなんだとは思うが・・・」
帽子の女「・・・」
吉野「何だって人の子供を。自分の子をかわいがりなさいよ」
吉野「見たと私と同じ位の年ですよね? 何で、」
帽子の女「・・・くせに」
吉野「ちゃんと言いなさいよ」
警察官2「お母さん、この人には別室できつく言っておきますから」
警察官2「独り身で、何か事情はあるんでしょうが。警察としても、何か実害があるわけではないので注意するくらいしかできないんですよ」
警察官2「あやしい行動を見かけたらすぐに110番して頂ければ、警戒は強化しますので」
吉野「えっ、それだけ?」
警察官2「今のところそれだけですよ。本人が謝罪したいって言うならまだやりようもあるんですが」
〇黒
その日から光の失踪が始まった
〇川に架かる橋
吉野「光ー!」
〇駐車車両
吉野「光ー!」
〇住宅街
吉野「光ーっ!」
〇交番の中
警察官「お子さん、見つかりましたよ」
光「・・・」
吉野「光、勝手にいなくならないでって何度言ったらわかるの」
吉野「またあの人?」
光「・・・」
光「おばさん、悪い人じゃないもん」
警察官「もう遅いので、気をつけて帰って下さいね。署からは明日、連絡を入れますので」
吉野「いつもすみません」
吉野「光、帰るよ」
〇ゆるやかな坂道
吉野(歩きながら寝ちゃってるわ、この子)
夜中の二時すぎだから、船をこぎながら歩くのも無理はない
吉野(何か食べさせてから寝かした方がいいのかな)
吉野(あれ、起きてる?)
虚空に向かって手を振る息子の視線の先を何の気なしに眺め見て、背筋に悪寒が走った。
吉野「いた!」
〇ゆるやかな坂道
暗い夜道の中に、帽子をかぶった女が一人、物陰に隠れるようにして立っている。
〇ゆるやかな坂道
思わず固く握った手を、思い直して緩める。
吉野(警察からは、あの女の住所も何も教えてもらっていないし)
吉野(ここは何も気付かなかったふりをして)
子供の足音が遠のくのが判る
〇ゆるやかな坂道
帽子の女「・・・」
〇ゆるやかな坂道
吉野「追跡開始!」
〇マンションの共用廊下
「待ちなさいよ」
帽子の女「光くん、先に入ってて」
光「うん」
吉野「返してよ。私の子なんだから」
帽子の女「あなたも上がっていく? 中で話しましょう」
吉野「ちっ、」
〇ファンシーな部屋
帽子の女「せっかく来たんだから、お茶でも飲んで行って。光くんも遊びたいでしょうし」
吉野「光、帰るよ」
「やだ!」
帽子の女「一度こうしてゆっくり話をしてみたいと思っていたの」
吉野「勝手に子供を連れて行かないでよ」
帽子の女「無理強いはしてないわ。来るのを決めたのは、光くんよ」
帽子の女「やっぱり甘やかしてかわいがってくれる人の方がいいわよね」
吉野「そうやって犬猫をかわいがるみたいに・・・」
帽子の女「あら、何が違うの?」
帽子の女「あなただってそうよ。 食って寝て生んで、雌犬から生まれればみんな犬の子」
帽子の女「みんな犬の子なら、みんなでかわいがらないと」
吉野「子を持つ親なら言えないようなセリフをいけしゃあしゃあと」
吉野「私の子供なの。光の人生についてあなたは責任を負わなくてもいいけれど、私にはあるから」
あら、と笑った帽子の女の口元がゆがんだ。
帽子の女「光くんの人生に責任があるからって、人に責任を投げつけておいて言うのはそれ?」
〇ファンシーな部屋
帽子の女「一体どこが違うというの」
帽子の女「同じ性別、同じ年齢、違うのは子供の有無だけで」
帽子の女「あなたは私と違うというけど、子があるから違うというけれど、」
帽子の女「子があるからと言って何もかも奪っていくじゃない」
〇オフィスのフロア
〇オフィスのフロア
帽子の女「私が何の責任も負っていないとでも?」
〇オフィスのフロア
〇ファンシーな部屋
帽子の女「みんなの子供だから、ね?」
吉野「馬鹿らしい」
吉野「光! 帰るわよ!」
「えー?」
吉野「えーじゃない! いま何時だと思ってるの!」
帽子の女「そうねえ。今日は遅いし、お母さんのところに帰ったら?」
光「はーい・・・」
帽子の女「また来ていいからね」
吉野「もう来なくていい! 光、帰るよ。 玄関で靴はいてなさい」
吉野「ところであんたさ、」
吉野「光が言うことを聞かなかったり、よくないことをしたときはどうするつもりだった?」
帽子の女「光くんはいい子よ?」
吉野「そうじゃなくて、もしもの話よ」
そうねえと女は宙を見て、そうして歌うようにつぶやいた
帽子の女「かわいい子には旅をさせよというから」
帽子の女「煙草を買いに広島へ、お使いに行ってもらおうかしら」
吉野「な・・・!!」
「光! 帰るよ!!」
「いいから早く! 靴は、じゃない!!」
「はやく!」
広島にゆかりがあるのでおもわず言葉の意味をすぐにググりました。忌み言葉なんですね。めちゃくちゃびっくりしました😯
こんばんは!
子供をさらう不審者かと思いきやなぜか子供に好かれていてなんだか不穏な感じがそそられました!
子供がいなくなるたびにドキドキしてら毎回見つかるたびにほっとしていました😂👍
「広島にタバコを買いに行く」こんな意味があったとは...思わずゾクっとしました😫