〇可愛らしいホテルの一室
　　──翌朝。
　　以龍は出発に備えて、ベッドの上でバスタードソードの手入れをしていた。
　　一方イリアは、必要なアイテムが取り出しやすいように、背負い袋の中身を整理している。
「兄ちゃんたち、起きてる？ もうそろそろ時間だよ？」
　　部屋の外からラビッシュの声が聞こえてくる。
　　──扉をノックし、ラビッシュが部屋に入ってくる。
ラビッシュ「お。 もう準備の方は出来ているみたいだね」
ラビッシュ「兄ちゃん、これをつけてみてよ」
以龍 渚「これはなんだ？」
ラビッシュ「おいらからのプレゼント。 開けてみてよ」
　　紙袋の中から出てきたのは、なにかを入れるポケットのついた黒い革ベルトだった。
以龍 渚「ベルト、か？ なんでまた、これを俺に？」
ラビッシュ「その反応── やっぱり『ホルダー』は持ってなかったんだね」
以龍 渚「ホルダー？ ・・・いったいこれはなんなんだ？」
イリア「それは具現化魔法のカードを携帯するためのホルダーですよ」
イリア「具現化魔法のカードは基本、使い捨てですからね」
イリア「その都度生成できれば問題はないんですが、戦闘中だとそういうわけにもいかない場合がありますからね」
ラビッシュ「魔法使いを仲間にしているアドベントには欠かせないモノだよ？」
　　以龍はホルダーのベルトを腰に装着する。
以龍 渚「なんかちょっと恥ずかしいな・・・ 似合ってるか、俺に？」
イリア「ええ。 よく似合ってますよ、渚さん」
ラビッシュ「そこのポケットに具現化魔法のカードがストックできるようになってるんだ」
ラビッシュ「──あと、ベルトに直接カードが差せる溝があるでしょ？ そこにはすぐに使用する魔法をセットしておくと便利だよ」
　　以龍はホルダー部分のポケットやベルトのカードスロットをいじってみる。
以龍 渚「たしかに便利そうだな？ ──イリア、試しになにか魔法をもらえるか？」
イリア「ちょっと待ってくださいね。 今──」
ラビッシュ「姉ちゃん、ストップっ」
ラビッシュ「今、魔法を生成したら少しずつ威力が弱くなっていっちゃうよ。 魔法の生成はフォルクスに近づいてからにしようよ」
以龍 渚「そういうものなのか？」
イリア「具現化魔法は便利ですけど、カードの状態でも魔力を少しずつ消耗してしまいますからね」
ラビッシュ「じゃあ、準備は出来ているみたいだし、ここをチェックアウトして出発しようか」