第14話 エターニア(脚本)
〇レトロ
──セピア色の光景が広がっている。
これは現実の光景ではなく、夢の光景を見ているという事はすぐに理解できた。
これが夢の光景と自覚するのと同時に、色のない世界が、色づいた世界へと変わり始めた。
〇黒背景
真っ暗な空間の中、その空間にいる二人の男の姿だけがはっきりと見えていた。
二人の男の視線の先には、宙に浮く光の魔法陣があった。
──その魔法陣の中に、以龍 渚の姿があった。
「本当に以龍の封印を解くのか、『シフラス』?」
「『リネク』さん、あなたもわかっているのでしょう? 今の私たちには、どうしても渚さんの力が必要だってことは」
「だが、以龍は── 以龍は、前の螺旋で世界を滅ぼしたんだぞ?」
「前回の螺旋、『血の色の堕天使』ではなく、以龍が世界を滅ぼした。 ──血の色の堕天使が滅ぼすはずだった世界を、以龍が」
「以龍は、もはや血の色の堕天使と同様か、それ以上の脅威になるってことぐらい、わかるだろ?」
「それは充分承知しております。 ですが、我々『時人』にとって渚さんは欠かせない存在だってこともお分かりでしょう?」
「──暴走した以龍は俺ですら手に負えない。 前回のように以龍が堕天使に惹かれて、堕天使を抹消した後に暴走したらどうする?」
「今度はこうやって以龍を魔法陣の中に封印することすら出来ないかもしれないんだぞ?」
「──渚さんからは、前回の螺旋の記憶を全て消します」
「そんなことをしたら、以龍が俺たちに手を貸す理由すらなくなるぞ?」
「ですから、代わりの記憶を植え付けます」
「渚さんは我々の仲間として、世界を滅ぼす存在からこの世界を守るために活動しているという記憶を」
「だが、時が来れば以龍は血の色の堕天使と出会うことになるだろう?」
「その時また、以龍が堕天使に惹かれ、堕天使を守るために俺たちと対峙することになったらどうするつもりだ?」
「そうなってしまえば、前回の螺旋の時と同じ結末になってしまうぞ?」
「──渚さんが血の色の堕天使と接触した時、今度は渚さんの全ての記憶を消去します」
「その時が、渚さんの新たなる螺旋の始まりと認識してください。 ──渚さんの、贖罪の螺旋の始まりです」
「つまりは、以龍の協力が得られるのは、以龍が堕天使と遭遇するまでの期限付きってことなんだな?」
「そういうことです。 さて。渚さんの記憶を消す以上、我々が時人を名乗るのは控えた方がいいでしょう」
「新しい我々の名称が必要ですね。 ──『エターニア』というのはどうでしょう? 異国の言葉で『悠久』という意味があります」
「なるほど。 永遠ともいえる時間を生きる俺たち時人にはふさわしい名前だな?」
「『元』時人ですよ、リネクさん。 これからは我々はエターニアです」
「では、これから始まる新しい螺旋の世界もそのように修正していきましょう」
「可能な限り、時間も巻き戻していきましょう」
「可能な限りってことは──暗黒竜の螺旋の直後か?」
「本来、渚さんが存在していない時間ですが、いろいろと世界をいじる以上、このくらいのことをするのは構わないですよね?」
「俺がどうこう言える問題じゃねぇだろ?」
「──では、渚さんの封印を解くことにしましょうか」